企業が雇用契約ではなく、あえて業務委託契約にしたい理由
弊社はメンバー全員が業務委託なのですが、転職のお誘いをする際に「今は正社員に絞って探していて...」と言われることが結構多いので、業務委託契約をあえて選択している企業側の観点をどこかにまとめておいたら今後のエンジニアのキャリア選択に役立ててもらえるのではないか? と考えつつ、もしかしたら読んでくれた人が興味を持って応募してくれるかも、という下心も込めてキーボードを叩いています。
ただ大前提として、人や会社によって最適な契約形態はそれぞれ異なるので、今回はあくまでプラハという会社にとってなぜ業務委託契約が適しているのか、という観点に絞って話していくので「そういう考え方の会社もあるんだ」ぐらいに留めていただけたら幸いです。決して業務委託契約が全ての状況で雇用契約を回るバラ色の契約形態だと言いたいわけではないよ!
社風や理念との合致度
プラハが最も大事にしているポリシーは「社員を大人として扱うこと」です。
人間が仕事にモチベーションを感じるためには一定の自律性(自分で物事の進め方を決められること)が不可欠である、といくつかの書籍に書かれていたり、僕自身も過剰に管理されると「こんなに子供扱いして...信頼されてないんだろうな」と感じて仕事に興味を失うタイプだったこともあり、過剰な管理は避けたいと創業当時から考えていました。
弊社は新規事業やスタートアップに特化してソフトウェアをデザイン・開発する集団なのですが、そもそもクライアントが我々に求めているのは8時間働くことではなく価値を生み出すソフトウェア・デザインを作ることです。成果を出せていないのに「でも私は毎日8時間も働いたんですよ!」と主張するのもおかしいし、逆に十分な成果を出せているのに「毎日きっかり8時間働け!」「この機能を作ってから退勤しろ!」と管理するのも生産性を高めるインセンティブが失われてしまうので、同様におかしいことだと思うんですよね。
ちょっと話はそれますが、エンジニアに対して「今はテストを書かないで機能を作れ」とPMが指示するのも僕は正直あまり好きではなくて。事業上の事情をエンジニアに伝えて、同じ情報を持った上でチームとして判断していくのは大歓迎なのですが、エンジニアが「テストを書いたほうが速く作れて早く成果を出せる」と判断したのであれば、それはプロとして任せるべきだと思うので...
求めるのは成果だけで、その実現方法は全て任せるのがプロに対しての適切な接し方だと僕は考えているため、プラハというものづくりのプロ集団には成果だけを求める業務委託契約が理念的に合致していると考えました。
もちろん成果主義は責任と表裏一体なので成功も失敗も自分に責任があります。「俺にまかせろ!」と言う以上、失敗した時は全ての責任を負う必要があるので、限りなく成功率を高めるためにプロとして日々研鑽を積む義務が付随しますが、その先には周囲から尊敬と信頼を得て自律的に働けるプロフェッショナルとしての未来が待っているので、決して辛いだけの道ではないと僕は考えています。
どこにお金をかけるか
プラハは会社としてシンプルな経営を特に意識していて、例えば営業担当が居ません。
弊社が特化しているスタートアップ界隈は非常に狭く、良い評判も悪い評判もあっという間に広がるので、質の高いものづくりを心がけていればインバウンドやリファラルだけで十分お仕事を頂けます。仲介サイトの費用などの営業コストが一切かからないぶんメンバーの報酬に多く還元できるので、採用母集団が広がる→優秀な方と出会える確率が上がる→良い仕事の評判が広がる→次の仕事に繋がる...という中間コストの少ないシンプルな経営を目指しています。
会社をできるだけシンプルに保ちたいと考えたとき、雇用契約は管理や手続きが複雑なため中間的なコストが増えがちです。業務委託であれば必要なのはクラウドサインの利用料ぐらいなのでめちゃくちゃシンプル。事務処理能力の低さに定評のある僕ですら100人ぐらいまでは問題なく契約周りを管理できる気がする。
中間コストにお金をかけるよりメンバーの報酬に回したい。なぜならメンバーの質が会社の生存に直結するから。という非常にシンプルな仕組みで成り立っている会社なので、できるだけ管理コストがかからない業務委託契約が自然と選択されました。
給料をあげやすい
雇用契約では減給幅が前年の1割までと決まっているので、雇用契約だとそこまで急激に社員の給料を下げられません。と書いてしまうと「おいおいこの社長下げる前提で考えてるやん」と思われるかもしれませんが、いつでも下げられるからこそ気軽に上げられるわけで、下げられないと逆に上げられないんですよね。
(僕は日本の低賃金問題は中小企業比率と同じぐらい、解雇と減給のしづらさゆえに採用も昇給も阻んでいる雇用契約に原因があると考えていますが、これは長くなるので割愛して...)
例えばプラハでは創業以来毎年200%成長を続けているため、過去2年で毎月の最低報酬が全員一律で16万円増えていますが、もし雇用契約だったら正直ここまで大幅に上げるのは躊躇していたと思います。会社の規模が小さいとちょっとしたことで業績が大きく影響を受けるので、翌年も同じペースが維持できるか分からないのに、一度あげたら下げられない従業員の賃金を一気に上げるのは流石に勇気が要ります。歩合制という手段もありますが、完全歩合制は雇用契約では違法なので結局業務委託契約を締結することになります。
創業初期メンバーのモチベーションは会社の社風や文化に大きく影響するため、できるだけ業績連動型の報酬体系を実現したいと考えた時、弊社にとっては業務委託契約が自然な選択でした。
必要な制度は自分たちで作れる
雇用契約と業務委託契約で一番大きな違いが出るのは福利厚生の面ではないでしょうか。例えば産休中は国の制度を使うことで給料の66%を受け取れますが、業務委託契約を締結しているフリーランスはこうした制度の対象外なので、手取り自体は増えるものの日頃から自分たちで積み立てながら備える必要が生じます。
ただ、こうした制度は自分たちである程度調整できます。例えばプラハでは出産を控えたメンバーの増加を受けて、育児休暇中のメンバーには業務委託契約であっても2ヶ月間報酬の33%を支給する制度を独自に作りました。国という巨大な母体が運用している制度ほど充実しているわけではないのですが、組織の工夫次第で業務委託契約と雇用契約の折衷案を模索することは十分可能だと感じています。
雇用契約は国によって定められているガチガチのプロトコル、業務委託契約は自分たちである程度自由に拡張可能なプロトコルと考えた時、後者の方が創意工夫の余地があるのではないか?と考えて現在は業務委託契約に落ち着いています。
時々業務委託について言われることに対して思うこと
契約形態が帰属意識に影響を与えるとは考えていない
時々「正社員の方が帰属意識が高い!」と言われますが、イヤな会社なら正社員でもガンガン辞めるし良い会社なら業務委託でも残ると思うので、あまり帰属意識で契約形態を考えたことはありません。
クビにする気だな!
時々「業務委託契約の方が簡単に切れるからだろう!」と言われますが、ずっと居てほしい人なら多少会社が傾いても会社自体が潰れるまで一緒に居るし、結局は人次第だと思います。弊社のメンバーが家庭の事情で2ヶ月ほど働けなくなってしまったことがあるのですが、その際も1か月は満額で業務委託報酬を支払い続けて、2ヶ月後に復帰していただけたので...一緒に働きたいと周りに思ってもらえるような人なら、困った時には契約形態を問わず周りが助けてくれると思うんですよね。
まとめ
色々と理由をあげてみましたが、弊社が業務委託契約を採用している理由としてはこんな感じです:
- 管理しない、という理念に合致している
- 管理にかかるコストを削減して当人に還元できる
- 報酬を下げやすく、ゆえに上げやすい
- 必要に応じて拡張できる
- 帰属意識には正直あまり影響ないと思う
- クビになるかはその人次第じゃない?
労働基準法にせよ職業安定法にせよ、こうした法律は人権もへったくれもない環境で搾取されないよう労働者を守る側面もあるため、決してこれらの取り組みを軽んじているわけではありませんが、これらが誕生した昭和22年頃の社会事情と今の社会事情はだいぶ異なり、働き方・生き方によっては制度摩耗が起きている可能性もあります。全員が同じ行動をとる集団というのはハマれば強いですが総じて変化には弱いので、社会的なリスクヘッジの意味も込めて今後は業務委託という働き方を選択する会社があっても良いのではないか?と考える次第です。
ちなみに似たようなことを弊社のpodcastでも話しているので、もし興味があれば聞いてみてね!
そして「業務委託、ちょっとええやん」と思った方、保守性も考慮された変更容易なソフトウェア開発を通してスタートアップや新規事業を支援したい方がいたら、ぜひご連絡ください!
Discussion
こんにちは、非常に興味深い記事ですね! 私自身、過去に経営者をしていた時期があり、日本の現在の雇用契約に柔軟性が不足していて、「代替として業務委託契約をカスタマイズした方が対応しやすく実利がある場合も存在する」という事に概ね同意します。
その上で一点気になったのが、
「成果は何を以って定義されるのか?」
という事でした。
例えば、請負のような契約形態であれば、成果物が明確に定まっていてわかりやすいと思います。しかし、一般に正社員が担当するような業務の場合、内容によっては事前に納めるべき成果物/成果を定義するという事が難しいように思いました。そこで、私が経験したケースの場合は準委任的な時間精算の契約形態を採用することが多かったのですが、その場合は結局のところ
という部分について、本質的な対策にならないように感じていました。 (そのため、私の場合は、「でも私は毎日8時間も働いたんですよ!」に類するケースについては経営者/業務委託者が成果を"後で"総合的に判断して、例えばその後の契約を継続するか否か/条件を変更するか否かといった事で、時間に対する支払はした上で次回を調整するという対応をしていました。)
そこで、成果というものをどう捉え、またどう評価/妥当であるかを判断されているのかな?という事が気になりました。
もしよろしければ、ご教示頂けますとありがたいのですが、いかがでしょうか。
追記:特に、契約形態として時間精算なのかそうでは無いのか、時間精算でない場合の成果とはこの業務委託契約においてどのように定義されるのか、(場合によっては、法的にどれぐらいの妥当性があるのか?)という事が気になった事でした。
15年くらい、SESの委任でフリーランスやっていて、エンジニアみんながこの契約形態になれば幸せだろうにと思っていましたが、そういう仕事形態が少し広がってきたみたいですね。
去年秋に面談した他社さんでも同じように業務委託でエンジニア/プログラマーを揃えていらっしゃるところがありました。
とってもよい傾向で素晴らしい取り組みだと思います。
日本の従業員は過剰に守られすぎで、特に不真面目な労働者であればあるほど、周りの人に迷惑をかけてでも自分だけが収入面で得をしようとして、制度を悪用して会社から金を取るという、ことが横行するので、全く日本の会社は大変だと思います。
プロジェクトが頓挫したとしても、メンバーを手放せない、メンバーに落ち度がないから雇用しつづければならない、とかなると経営に苦しみしかなく、プロジェクトに失敗も許されなくなってしまいます。そんなのフェアじゃないです。
私は、エージェント経由ですが、企業さんと契約するときに、不要だったら全然契約終わってくれてよいですよ、という姿勢にしています。(業界の通例で1ヶ月前通知はして欲しいが)
まあ、フリーランスなのでそういうのは当たり前なのですが自分自身がそういう事があっても動揺しないような心構えはします。
理由なんて納得いかなかろうがなんだろうが、メンバーに働いてもらわなくてよいと思う会社側の人の判断はとても重要で尊重されるべきです。解雇規制とかほんとおかしな制度です。そんな仕組みがあるから日本のITは非効率な足かせになっていると思います。
逆に自分の都合で契約を終わる権利が自分にもあるので、そういう契約関係こそがフェアだと思うので、
経営側とか会社側もエンジニア側もとてもフェアな契約が広がってほしいなと思います。
あと、帰属意識は、雇用契約と委任契約がわかれているから差が生じたりしますが、ヒエラルキーというか階級社会になるとそのようになります。基本全員委任契約なら帰属意識の差は個人により契約形態での差がなくなります。重要な要素だと思います。
年俸 564円〜になってるのがちょっと面白かった🤣
こんにちは!私も似たようなことをnoteに書いたので興味深かったです!
帰属意識の点ですが、(本来正社員、非正規という言い方が私は嫌い派ですが)正社員かどうかというより自社株をもっているかどうかが、私の中で帰属意識を高めるポイントかなと思っています。つまり「この会社の売上を上げたり、大きくするインセンティブがあるかどうか」が、会社の一員として頑張りに違いがでてくるのかなと。
ボーナスでもいいですが、日本だと一律○ヶ月分と決まっててそこまで業績に直結しないイメージですし、他方で給与アップについては「頑張っても上司や社長のさじ加減で変わる」という条件があるのでこれもフェアじゃないと思っています。生株であればダイレクトに頑張りの価値をお金に変換できるので、(手続きの煩雑さを無視すれば)やはり良いのかなと。
ただ日本の法律だと正社員はクビを切れない=採用も簡単にできないからこそ、「今の安定した収入を守るために会社に貢献する」というマイナス?守り?のインセンティブが働きやすいので、正社員は帰属意識が高くなりがちなのかなとも思っています。