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Google Prompting Essentials から学ぶ、生成AI時代のプロンプト設計術

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はじめに

生成AIを使いこなす鍵は、 「どんな入力を与えるか」 にあります。 AIは人間の指示(=プロンプト)に応じて出力を変えるため、プロンプト設計は AI 時代の新しいリテラシーであるとも言えるでしょう。

私は先日、Googleが提供する講座「Prompting Essentials」のカリキュラムを修了しました。
Prompting Essentials は、この新しいリテラシーを体系的に学べる内容で、単なる“使い方”ではなく、思考のフレームワーク・マルチモーダル思考・責任あるAI利用まで踏み込んで解説されています。

本記事では、受講を通して得た知見をもとに、以下のテーマを整理します。

  1. プロンプティングの基本原則(T.C.R.E.I.)
  2. モダリティ
  3. マルチモーダル・プロンプティングの応用
  4. 責任あるAI利用

想定読者:

  • これからプロンプト・エンジニアリングを学ぼうとしている方
  • プロンプト・エンジニアリングの基礎を復習したい方

1️⃣ T.C.R.E.I. フレームワーク:良いプロンプトのための思考法

Googleは、生成AIを最大限に活用するための基本原則を「Thoughtfully Create Really Excellent Inputs(思慮深く、優れたインプットを作ろう)」というフレーズにまとめています。
この頭文字が、プロンプト設計のフレームワークを構成する5つの要素を示しています。

🧭 フレームワーク全体の構造

項目 意味 目的
Task タスク AIに何をしてほしいかを明確に伝える
Context コンテキスト 背景や目的を共有し、意図を正しく理解させる
References リファレンス 具体的な例や資料を与え、出力の方向を導く
Evaluate 評価 出力を検証し、意図通りかを見極める
Iterate 反復 改善のためにプロンプトを繰り返し調整する

Task:AIに「何をしてほしいか」を明確にする

プロンプト設計の出発点は、AIに頼むタスクを定義することです。
「書いて」「リストを作って」「要約して」など、まずは行動を明確に指示します。

さらに重要なのが ペルソナフォーマット の指定です。

✳️ 例

あなたはIT企業の採用担当者です。
新卒向けの会社説明資料の冒頭メッセージを作成してください。
トーンはフレンドリーで、会社のカルチャーを前向きに伝えてください。
出力は200文字以内にまとめてください。

こうした指定により、AIは「誰として書くのか」と「どんな形式で出力するのか」を理解できます。


Context:背景情報を与える

タスクだけでなく、なぜその出力が必要なのかどんな条件があるのかを伝えます。
文脈(Context)を丁寧に与えることで、AIの出力精度は飛躍的に向上します。

✳️ 例

この資料は、大学で開催される新卒向けキャリアフェアで使用します。
学生の関心を引くようなメッセージで、成長・挑戦・社会貢献の3つのテーマを伝えたいです。

AIはこの背景を理解することで、より自然で目的に沿った文章を生成します。


References:例を提示して方向づける

リファレンス(References) とは、AIに「どんなスタイル・トーン・構造で出力すべきか」を伝えるための手がかりです。
単に資料を貼るのではなく、「この例を参考にしてください」と明示的に伝えるのがポイントです。

次の文体を参考にしてください。
<example> 「未来をつくる力は、あなたの中にあります。 新しいアイデアを形にする挑戦を、私たちは全力で応援します。」 </example>
このように、短く、ポジティブで、鼓舞するようなトーンで書いてください。

💡 構造化の方法

  • トランジショナル・フレーズ
    「次の例を参考にしてください」などを明示する
  • 見出しやタグで囲む
    <example01> ... </example01> のように開始と終了を明示する
  • Markdown形式の活用
    **太字**_斜体_ などで参照部分を視覚的に区切る

これらを使うことで、AIが「どこからどこまでを参照すべきか」を正確に理解します。


Evaluate:出力を評価する

AIが返した内容を鵜呑みにせず、以下の観点で検証することが重要です。

  • 正確性(Accuracy)
  • 🔁 一貫性(Consistency)
  • 🎯 適切さ(Relevance)
  • ⚖️ 公平性・偏りの有無(Bias Check)

同じプロンプトでも、AIモデルや再実行によって結果が異なることがあります。
評価はプロンプト設計の重要なステップのひとつです。

✳️ 例:AIが生成した出力

「未来は、挑戦する人の手の中にあります。
私たちは新しい技術で社会を変える仲間を求めています。
一歩を踏み出す勇気が、あなたの未来を動かします。」

🔍 評価(Evaluate)のプロセス例

観点 評価 コメント
🎯 意図の一致 ⭕️ キャリアフェア向けの前向きなメッセージになっている
💬 トーンの適切さ ⭕️ リファレンスと同じく短く・前向きなトーンで表現されている
📐 構成と分量 ⭕️ 約120文字。条件(200字以内)を満たしている
⚖️ 改善点 「社会を変える仲間」よりも、「成長」「挑戦」「貢献」の3テーマを直接的に入れるとさらに良い

💡 改善プロンプト(評価結果を反映)

もう一度書き直してください。
「成長」「挑戦」「社会貢献」の3つのキーワードを含めて、
学生に「自分も挑戦したい」と思わせるメッセージにしてください。


Iterate:反復して改善する(Always Be Iterating)

Googleはプロンプト設計の核心として、

ABI:Always Be Iterating(常に反復せよ)
という考え方を強調しています。

一度で完璧なプロンプトを作ることはできません。
出力を見ながら、条件や言葉を少しずつ調整し続けることで、理想の結果に近づけます。

🔄 反復の4つの方法

方法 説明
① フレームワークを見直す Task / Context / Reference が十分か確認する
② プロンプトを分割する 長すぎる指示を複数の小さなタスクに分ける
③ 言い回しを変える・類似タスクに置き換える 別表現で再プロンプトしてみる
④ 制約を導入する 長さ・範囲・フォーマットなど条件を具体的にする

🧠 改善前のプロンプト

あなたはIT企業の採用担当者です。
新卒向けの会社説明資料の冒頭メッセージを作成してください。
トーンはフレンドリーで、会社のカルチャーを前向きに伝えてください。
出力は200文字以内にまとめてください。

✍️ 改善後のプロンプト(Iteration後)

あなたはIT企業の採用担当者です。
新卒向けの会社説明資料の冒頭メッセージを作成してください。
「成長」「挑戦」「社会貢献」の3つのテーマを必ず含めてください。
トーンはリファレンス例のように、短く・ポジティブで・鼓舞するスタイルにしてください。
出力は200文字以内にまとめてください。

✅ AIの新しい出力(Iteration結果)

「挑戦を楽しむことで成長し、社会に貢献する。
私たちは、そんな未来を共につくる仲間を求めています。
小さな一歩が、大きな変化を生み出します。」

このように Task → Context → References → Evaluate → Iterate の5ステップを順に踏むことで、AIとのやり取りが単なる「質問と回答」ではなく、人とAIの協働による創造的プロセスへと変わります。


2️⃣ モダリティ(Modality)を理解する

モダリティ(Modality)」とは、AIツールが受け取るまたは生成する情報の形式のことを指します。
たとえば、次のような形式があります。

  • 📝 テキスト
  • 🖼️ 画像
  • 🔊 音声
  • 🎥 動画
  • 💻 コード

各AIモデルには得意なモダリティがあります。
どのモダリティを扱えるかを把握することが、プロンプト設計の第一歩となります。


🖼️ 画像生成プロンプティングの基本

画像を生成する場合も、「Thoughtfully Create Really Excellent Inputs」 のフレームワークを使います。
ただし、ここで特に重要になるのが言葉の描写力です。

つまり、AIが視覚的に理解できるように「見た目のディテール」を明確に指定する必要があります。


🎵 例:ポスター制作のケース

あなたはミュージシャンで、東京/渋谷でのコンサートを宣伝したい。
AIツールでポスターを作りたいとき、次のようにプロンプトを設計します。

ポスター用のエレキギターの画像を作成してください。
写真風で、ギターをキラキラさせてワクワク感を演出してください。
ギターが前景にあり、空に浮かんでいるような構図でお願いします。

これによりAIは、

  • 被写体(エレキギター)
  • 雰囲気(ワクワク感)
  • 構図(前景・空中)

といった視覚的要素まで理解して生成します。

さらに、反復(Iteration)によって洗練することが可能です。

空を嵐にして、ギターに稲妻が落ちているようにしてください。

このように、評価(Evaluate)→反復(Iterate) のサイクルを回すことで、
よりクリエイティブで完成度の高い結果を得ることができます。


3️⃣ マルチモーダル・プロンプティング:テキストを超える指示の仕方

“If you are an artist, you can paint with one color —
but with more colors, you can create a masterpiece.”
(一色でも絵は描けるが、多くの色を使えば傑作が生まれる)

Googleはこのように、モダリティを組み合わせる重要性を強調しています。
テキスト1つでも多くのことができますが、複数のモダリティ(テキスト+画像など) を組み合わせることで、AIの創造力は飛躍的に広がります。


💡 マルチモーダル・プロンプティングの定義

マルチモーダル・プロンプティング(Multimodal Prompting) とは、1つのプロンプトの中で複数の情報形式(テキスト・画像・音声など)を同時に使うこと です。


🧠 具体例:画像+テキストの組み合わせ

📸 例①:商品プロモーション

あなたがネイルアートブランドのオーナーで、Instagram用の投稿を作りたいとします。

(ネイルアートの写真を添付)
この画像を使ったソーシャルメディア用の投稿を作成してください。
投稿は楽しく、短く、私が販売する新しいデザインのコレクションであることを強調してください。

ここでは、画像(参照)テキスト(指示) という構成で、AIは画像の内容を理解し、ブランドトーンに合ったキャプションを生成します。


🗓️ 例②:画像からデータ抽出

ビジネスシーンでは、画像→テキスト変換も非常に実用的です。

(カンファレンスのスケジュール画像を添付)
このスケジュールから基調講演と2つのパネルディスカッションの時間を抽出して表にしてください。

出力例:

イベント 時間 場所
基調講演 10:00〜11:00 ホールA
パネル1 13:00〜14:00 ホールC
パネル2 15:30〜16:30 ホールB

続けて、次のように指示すれば:

これらのイベントのリマインダーメールの下書きを作成してください。

AIは画像 → テキスト → アクション という流れを自動化できます。


🚀 マルチモーダル・プロンプティングのメリット

  • 👀 視覚+言語の両面から意図を伝えられる
  • 🧭 現実の作業フロー(資料・画像・会話)をそのままAIに反映できる
  • 🎨 テキストだけでは伝わりにくいニュアンスを補える

🌍 たとえば、こんな活用も

入力(モダリティ) AIへの指示 出力(結果)
冷蔵庫の中の写真 この材料で作れるレシピを提案して 3品のレシピ+栄養情報
2つのブランドロゴ コラボイベントのポスターを生成して 広告用ビジュアル
森の環境音 この音の雰囲気を基に短い小説を書いて ナラティブなテキスト

⚠️ 注意点と限界

  • 🧩 すべてのAIツールがすべてのモダリティに対応しているわけではない
  • 🎭 抽象的なテーマや複雑な組み合わせでは、出力が不安定になりやすい
  • 🧮 現時点では「数値的な正確さ」よりも「創造的応答」に向いている

🧠 フレームワークをマルチモーダルに適用する

マルチモーダルでも、基本は同じフレームワークに沿って設計します。

ステップ マルチモーダル適用例
Task どのモダリティを使うか・なぜ必要かを明確にする
Context 画像・音声などのどの要素に注目させたいかを伝える
References 参考となる画像や音声を明示的に指定する
Evaluate 出力が目的に沿っているかを多角的に確認する
Iterate 言葉や制約を変えて再実行する

✳️ モダリティごとの特性

モダリティ 得意な出力 プロンプトで意識すべきこと
テキスト 論理構成・文脈表現 タスク+目的+制約を明確に
画像 空間・構図・色彩 見た目・構図・雰囲気を具体化
音声 感情・トーン 感情表現やペースを指定
コード 構造化・正確性 明確な要件と例を提示

4️⃣ 責任あるAI利用(Responsible Prompting)

生成AIは強力なツールですが、誤用すれば誤情報・偏見・倫理問題を引き起こします。
講座では、AIリテラシーの要として「責任あるプロンプティング」が強調されていました。

💬 AI利用の原則

  1. 目的の整合性
    • AI利用が顧客・同僚・組織の目的と一致しているか確認する
  2. プライバシーとセキュリティ
    • 機密情報や個人情報を入力しない
    • 会社の機密データなどを AI ツールに取り込む前には、会社の規則や方針を確認する
  3. ヒューマン・イン・ザ・ループ(人間参加型)
    • AI出力は必ず人間が確認し、誤りや偏りを修正する
  4. 透明性
    • AIの支援を受けたことをチーム・顧客に開示する

⚠️ ハルシネーション(AIの“幻覚”)

ハルシネーションとは、現実と一致しないAIの出力のこと。

AIが実際の事実と異なる内容を「それらしく」生成してしまう現象を指します。

AIは大量のデータからパターンを学習し、文脈上もっとも自然に見える文章を作り出します。
しかし、それが「正しい」かどうかを自分で判断する力はありません。

💡 ハルシネーションの例

  • AIが「トロントはカナダの首都」と説明してしまう
  • 実在しない文献や人物を引用する
  • グラフの説明を誤って要約する
  • 「ロケットに乗った猫たちの画像」を生成させたら、猫がロケットの上に乗っていた

AIは比喩的な表現曖昧な指示を理解できず、字義通りに処理してしまうことがあります。
つまり、AIは「嘘をつく」わけではなく、「分からないまま答えようとする」のです。

🧠 なぜハルシネーションが起きるのか?

AIのハルシネーションは、主に次のような理由で発生します。

原因 説明
曖昧なプロンプト 指示が抽象的・不明確なため、AIが推測で補う
学習データの偏り 不正確または古い情報に基づいて生成される
過剰な一般化 文脈から「ありそうな」内容を作ってしまう
比喩や抽象表現の誤解 言葉を文字通り解釈してしまう

⚙️ ハルシネーションへの心構え

Googleの講座では、AIユーザーが持つべき心構えを次のように整理しています。

1. AIの出力は常に検証する

AIが出した内容が「現実と一致しているか」を確認するのは、人間の責任です。
クリエイティブな文章では構いませんが、事実に基づくタスク(分析・報告など) では必ず確認が必要です。

2. ファクトチェックを徹底する

AIツールの中には、出力内容を自動で検証できる機能があります。
たとえば、Geminiには ファクトチェック機能 があり、出力の根拠を検索でクロスリファレンスできます。

ファクトチェックの方法:

  • 検索で裏取りを行う
  • 自分の知識で照らし合わせる
  • 同僚・コミュニティと共有して検証する
3. 曖昧な指示を避ける

AIは曖昧な言葉を「推測」で補います。
「ざっくり」「なんとなく」「それっぽく」ではなく、具体的な構成・目的・条件を与えることで誤りを減らせます。

例:

❌ ロケットに乗った猫の画像を生成して
✅ ロケットの内部に乗った猫たちの画像を生成してください。猫は安全そうに見えるようにしてください。

4. 反復して改善する(Iterate)

一度で完璧な出力は得られません。
AIが誤った内容を出したら、「なぜそうなったか」を観察し、プロンプトを再設計(Iterate) して改善していきましょう。

対策
  • 明確な指示を書く(曖昧な質問を避ける)
  • ファクトチェックする(クロスリファレンス)
  • AIの引用元や検索機能を活用する
  • 複数のAIを比較して整合性を確認する

🧩 バイアスとステレオタイプの回避

AIは学習データに含まれる偏見をそのまま再現します。
ジェンダー、国籍、年齢、文化的背景などへの配慮が不可欠です。

実践のポイント

  • 言葉を中立的にする
    例:「サービスマン」→「サービスパーソン」

  • イメージの描写を広げる
    例:「食事の画像」→「世界各地の料理が並ぶ食卓」

  • 出力に偏りを感じたら指摘して、もう一度生成させる


🏁 まとめ:プロンプティングは「AIとの対話設計」である

Googleの Prompting Essentials が教えてくれるのは、
AIを動かすための単なる「コマンド入力技術」ではなく、思考を言語化して伝える力です。

生成AIは、適切なプロンプトを与えることによって、本来の力を発揮します。
T.C.R.E.I. フレームワークを軸に、目的を明確にし、文脈を与え、例を示し、評価と反復を重ねることで、AIは単なるツールから 創造のパートナー へと変わります。
AIの出力を鵜呑みにするのではなく、そのプロセスを観察し、改善し続ける姿勢こそが重要だと学びました。


🧭 本記事のポイント再整理

項目 概要 キーアクション
T.C.R.E.I. Thoughtfully Create Really Excellent Inputs(Task, Context, References, Evaluate, Iterate)良質な入力設計の原則 タスク・文脈・例示・評価・反復を明確に行う
モダリティ テキスト・画像・音声・コードなど、AIが扱う情報形式 モデルの得意分野を理解し、適切な形式で指示する
マルチモーダル 複数のモダリティを組み合わせたプロンプティング テキスト+画像などで意図を多角的に伝える
Responsible Prompting 倫理・プライバシー・バイアス・透明性を意識したAI利用 ファクトチェックと人間の判断を必ず介在させる
ハルシネーション対策 AIの出力を検証・修正しながら精度を高める 「明確化・検証・反復」を徹底する

📚 参考

dotD Tech Blog

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