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Embulk v0.11 でなにが変わるのか: ユーザーの皆様へ

2021/05/02に公開

プラグイン型バルク・データ・ローダーの Embulk をメンテナンスしている @dmikurube です。

前に Embulk v0.10 に関するアナウンス (英語版) を出してからおよそ一年が経ち、ついに v0.11 のリリースが視界に入ってきました。

その Embulk v0.11 と、それに続く v1.0 は、今までの安定版の v0.9 とは大きく変わります。本記事では、その v0.11 での変更について、ユーザー向けの概要をまとめました。 (ユーザーではなくプラグイン開発者向けのまとめはこちら)

(Embulk 公式サイトにある英語版 の翻訳ですが、同一人物が書いているので、おそらく同じ内容になっていると思います。もし違いがありましたら、英語版の方を一次情報として解釈しつつ、ぜひ筆者までご連絡ください)

Embulk System Properties とディレクトリ

Embulk v0.11 では、システム全体の設定を行っていた "System Config" の代わりに "Embulk System Properties" が導入されました。旧 System Config が Embulk の ConfigSource をベースにしていたのと違って Embulk System Properties は Java の Properties をベースにしています。

実は Java の Properties は JSON と同等の表現力があった ConfigSource より表現力が弱いです。それでも Properties を使うことにしたのは、プロセスの一番最初から、外部ライブラリを追加することなく Properties をロードできるからです。

旧 System Config は ConfigSource の高い表現力を特に活用していませんでした。 System Config を設定するコマンドライン・オプションの -X は文字列のキーに文字列の値を設定するだけのもので、それは Properties でもできることでした。いくつかの System Config では内部的にリストのような複雑な構造を使っていましたが、どれも単純な文字列に置き換えられるものでした。 ConfigSource ほどの表現力は、実は必要なかったのです。

なので、ユーザー視点では旧 System Config からなにか悪くなったようには見えないでしょう。一方 Properties のおかげで、以下で説明していくようなメリットを実現できました。

Embulk home

Embulk v0.11 では "Embulk home" ディレクトリという新しいコンセプトを導入しました。これは v0.9 までハードコードされていた ~/.embulk/ とほぼ同等のものです。

Embulk v0.11 では、特別な設定や特別なファイルを用意しない限り v0.9 と同様に ~/.embulk/ を Embulk home として動作します。 Embulk home ディレクトリは、以下のルールで選ばれます。

  1. コマンドラインからオプション -X で Embulk System Properties embulk_home を設定すると Embulk home ディレクトリを設定できます。これは最高優先度で、絶対パスか、またはカレント・ディレクトリ (Java user.dir) からの相対パスです。
  2. 環境変数 EMBULK_HOME が設定されていたら、そこから Embulk home ディレクトリを設定できます。これは二番目の優先度で、絶対パスのみです。
  3. 1 と 2 のどちらも設定されていなければ、カレント・ディレクトリ (Java user.dir) から親ディレクトリに向かって、順に移動しながら『.embulk/ という名前で、かつ embulk.properties という名前の通常ファイルを直下に含むディレクトリ』を探します。そのようなディレクトリが見つかれば、そのディレクトリが Embulk home ディレクトリとして選ばれます。
    • もしカレント・ディレクトリがユーザーのホーム・ディレクトリ (Java user.home) 以下であれば、探索はホーム・ディレクトリで止まります。そうでなければ、探索はルート・ディレクトリまで続きます。
  4. もし上記のいずれにも当たらなければ、今までどおりの ~/.embulk を Embulk home ディレクトリとして設定します。

そして Embulk home ディレクトリ直下にある embulk.properties ファイル (Java の .properties フォーマット) が、自動的に Embulk System Properties としてロードされます。

最後に Embulk System Property embulk_home は、見つかった Embulk home ディレクトリの絶対パスで強制的に上書きされます。

m2_repo, gem_home, and gem_path

次に重要なディレクトリの設定が、どこから Embulk プラグインをロードするかです。それも Embulk System Properties m2_repo, gem_home, gem_path と Embulk home ディレクトリから設定されます。

まず JRuby の Gem をEmbulk System Properties の gem_homegem_path から設定できます。この設定には、内部的に Gem.use_paths が使われます。ここで、環境変数の GEM_HOMEGEM_PATH は変更されないことに注意してください。どこかで Gem.clear_paths が呼ばれると Gem の設定は環境変数でリセットされてしまいます。

Maven アーティファクトのための m2_repo も含め、これらは以下のルールで設定されます。

  1. コマンドラインからオプション -X で Embulk System Properties m2_repo, gem_home, gem_path を設定できます。これらは最高優先度で、絶対パスか、またはカレント・ディレクトリ (Java user.dir) からの相対パスです。その後、これらの Embulk System Properties は絶対パスにリセットされます。
  2. embulk.properties ファイルから Embulk System Properties m2_repo, gem_home, gem_path を設定できます。これらを二番目の優先度で、絶対パスか、または Embulk home ディレクトリからの相対パスです。その後、これらの Embulk System Properties は絶対パスにリセットされます。
  3. 環境変数 M2_REPO, GEM_HOME, GEM_PATH が設定されていたら、それぞれ対応する Embulk System Properties が設定されます。これは三番目の優先度で、絶対パスのみです。
  4. もし上記のいずれにも当たらなければ m2_repo${embulk_home}/lib/m2/repository に、また gem_home${embulk_home}/lib/gems に設定され、最後に gem_path は空に設定されます。

JRuby

Embulk v0.11 以降の実行可能バイナリには JRuby がバンドルされません。 JRuby を Embulk とともに使いたい場合 (現時点ではほとんどの場合) JRuby の Complete jar ファイルを JRuby Downloads からダウンロードし、その .jar ファイルへのパスを file: URL 形式で Embulk System Properties jruby に指定する必要があります。例えば -X jruby=file:///your/path/to/jruby-complete-9.1.15.0.jar のようになります。 (今のところ file: 形式しか動きません)

これは一見すると面倒くさいかもしれません。しかしこのいい点として、好きな JRuby のバージョンを自分で指定できることには注目する価値があるでしょう。 Embulk の開発チームではまだ JRuby 9.1.15.0 でしかテストしていませんが、よくコントリビュートしてくれる佐藤さんが JRuby 9.2.14.0 でも動いたことを確認してくれています

他方、開発チームとしては、これからの v0.11 やそのあとのバージョンを通して Maven 形式の pure-Java プラグインを推進していく予定です。

embulk.gem と msgpack.gem

jruby の設定に加えて、本体と同じバージョンの embulk.gem をインストールする必要があります。この embulk.gem (v0.10.24 以降) は、昔の v0.8 系の embulk.gem とまったく違うものであることに注意してください。新しい方には、本体と Ruby Gem 形式のプラグインをつなぐ .rb ファイルしか入っていません。

さらに msgpack.gem も明示的にインストールしなければなりません。開発チームでは msgpack:1.1.0-javaでのみテストしていますが、基本的には 1.1.0 より新しいバージョン (Java 版) でなら動くと思います。

embulk gem install msgpack -v 1.1.0
embulk gem install embulk -v X.Y.Z  # Embulk 本体と同じバージョン

Bundler と Liquid

BundlerLiquid も Embulk にバンドルされません。これらを使いたい場合は自分でインストールする必要があります。

開発チームではそれぞれ Bundler 1.16.0 と Liquid 4.0.0 でのみテストしていますが、それより新しいバージョンならおそらく動くでしょう。動くことを確認した (または動かなかった) フィードバックをお待ちしております。

embulk gem install bundler -v 1.16.0
embulk gem install liquid -v 4.0.0

Embulk System Properties の例

Embulk v0.9 とほぼ同様に v0.11 を 使いたい場合、必要なのは JRuby 9.1.15.0 をダウンロードして、以下のように ~/.embulk/embulk.properties を設定することです。

jruby=file:///your/path/to/jruby-complete-9.1.15.0.jar

または、たとえばディレクトリごとに違う Embulk プラグインのセットを使いたい場合、以下のように設定できます。ここで set1/ 以下で Embulk を動かせば (またはコマンドラインから -X embulk_home=.../embulk_working/set1/ と設定すれば) set1/.embulk 以下にインストールされたプラグインが使われます。

+ embulk_working/
  + set1/
    + .embulk/
      + embulk.properties
  + set2/
    + .embulk/
      + embulk.properties
  + set3/
    + .embulk/
      + embulk.properties

Embulk System Properties と Embulk home ディレクトリを使えば、より柔軟な構成が可能になると思います。いろいろ試して、いい構成を探してみてください。

プラグインの互換性

昨年アナウンスしたとおり、プラグインの互換性は v0.11 で大きく失われます。旧来のプラグインの多くが、そのままでは Embulk v0.11 では動かないでしょう。 Embulk 開発チームでも https://github.com/embulk 以下のプラグインのメンテナンスを進めます。

https://github.com/embulk 以外で開発されているその他のプラグインについても試してみて、そのプラグインの開発者にこちらの記事について伝えてください: 「Embulk v0.11 / v1.0 に向けて: プラグイン開発者の皆様へ

プレ・リリース

プレ・リリース版となる v0.11.0-ALPHA.1 を GitHub Releases にアップロードしてあります。これを使うには、同じくアップロードしてある embulk-0.11.0.alpha.1-java.gem--local でインストールする必要があります。

これはあくまでプレ・リリース版だということに気をつけてください。ここに含まれるコードは、完全にテストされているわけでも、レビューされているわけでもありません。正式リリースの前にさらに変更を加えるかもしれません。しかしこのプレ・リリース版で、少なくとも次の v0.11 がどれだけ大きく変わるかは伝わると考えています。ぜひ試してみてください。

v0.11 の間には何をするの?

Embulk v0.11.0 がリリースされたあと、開発チームでは v1.0 に向けて以下のような項目について作業する予定です。

  • フィードバックに基づくバグ修正
  • プラグイン開発者の v0.11 対応をサポート
  • Maven 形式のプラグインに対するサポートの改善、特にインストールについて
  • Bunlder の代わりになる方法、特に Maven 形式のプラグインのサポートについて
    • 新しい Gradle プラグインを提供して、プラグインのセットや embulk.properties を特定のディレクトリに配置するのを、簡単にすることを考えています
  • プラグイン用の新しいテスト・フレームワークの開発、おそらく JUnit 5 を使って
  • 新しい Java に対するサポートの改善、おそらく Java 11 (または 17) に向けて
  • コードのリファクタリングと整理

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