iOSDC Japan 2025の参加レポート
はじめに
iOSDC Japan 2025 (9.19〜9.21)に3日間、オフラインで参加してきました!
参加したセッションや企業ブース、会場の様子などレポートしていきます!
レギュラーセッション
金融サービスの成長を支える "本人確認フロー" の改善と取り巻く環境の変化
オンラインでの本人確認フローについてのセッションに参加しました。。
本人確認のフローについて、法改正により2027年4月に「本人確認書類+顔写真撮影方式」が原則廃止され、マイナンバー等のICチップ読み取りの方式(JPKI方式)に1本化されていくとのことで、それにあたっての開発エピソードを聞くことができました。
顔写真撮影でのGoogleのMLKitからiOSのVision Frameworkへの移行や、スムーズな写真撮影を可能にするための撮影条件のユーザーテストなど、開発者の試行錯誤を垣間見ることができました。
また離脱率を下げるための取り組みのなかでも語られていましたが、セキュリティ観点での不正防止と利便性の両立を目指す努力が続けられている様子がよく分かりました。
自社でも、本人確認を取り入れているプロダクトがあるため、引き続きこの分野についても注目していきたいです。
ハイパフォーマンスなGIFアニメ再生を実現する工夫
登壇者であるnoppeさんが開発されたアプリ(DAWN for Mastodon)の紹介から、GIFアニメ再生の秘訣についてのセッションでした。
このアプリでは、画面上に数十個もの絵文字アニメーションが同時に表示されることがありますが、標準的な方法で大量のGIFを表示すると、メモリやCPUが急増し、スクロールがカクつきユーザ体験を損なってしまいます。この問題を解決するため、独自の画像再生ライブラリ「AnimatedImage」を開発。セッションでは、フレーム数の最適化、画像のサイズ変更、キャッシュ、CoreGraphicsを活用した描画処理など、そのノウハウが紹介されていました。
これらの改善により、1画面に50個以上のGIFアニメを同時に表示しても、メモリ使用量を100MB以下に抑え、スムーズな動きを実現したとのことです。
また、パフォーマンスチューニングの目的を整理する考え方についても言及され、非常に参考になりました。アプリのCore Value(核となる価値)やユーザー体験として何が困るかなどの視点から考えることの重要性を学びました。
作って学ぶWebP入門
担当プロダクトでも高速な画像表示を実現できれば、ユーザー体験の向上につながると感じ、本セッションやWebPのフォーマット仕様などから繰り返し学習したい意欲が強まりました。
セッションから得た主な学び
- WebPの基本: ウェブサイトやアプリ向けにデータ容量を小さくすることを目的とした画像形式で、Lossy(非可逆)とLossless(可逆)の両方をサポートしているのが最大の特徴です。
- iOSでのサポート: iOS 14以降で標準対応していますが、デコード(読み込み)は可能でも、エンコード(作成)は標準ではサポートされていません。
- ロスレス圧縮の仕組み: ハフマン符号化、LZ77、予測変換など、複数の技術を何段階かで組み合わせ、効率的な圧縮とエンコード・デコードを実現していることが解説されました。
- 実装アプローチ: 複雑な仕組みを理解するために、最小限の機能から段階的に実装を積み重ねていくという実践的なアプローチが提案されました。
カスタムUIを作る覚悟
このセッションを通して、iOSの標準UIコンポーネントを使わない場合、OS側で提供されるアクセシビリティ機能が大きく損なわれてしまう可能性があることを改めて認識しました。
セッションでは、登壇者の開発中アプリ内でナビゲーションや、シートをカスタムUIとして実装した事例が紹介されました。これらはユーザーが違和感なく使えるよう、標準UIと同様の動作やアニメーション、そしてアクセシビリティへの配慮が徹底されていました。
一方で、日付・時刻ピッカーのような複雑なUIでは、地域ごとの表示差異やキーボード操作など、考慮すべき点が多すぎたため、カスタム実装を断念し、標準APIを利用したという話が印象的でした。
カスタムUIを安易に採用してはいけない理由として、「すべて自分で面倒を見る覚悟」が必要だと強調されました。アクセシビリティやアニメーションへの対応など、本来OSが面倒を見てくれる部分をすべて自前で実装しなければなりません。
そして、UIデザイナーとエンジニアが今まで以上に密に協力する覚悟も必要だと語られました。静的なデザインだけでは伝わらない部分を共有し、同じクリエイターとして対話することが求められます。さらに、「作ったUIの終わりが突然来る」という事実を受け入れなければならない、その覚悟も求められます。
iOS26/Xcode26からはLiquid Designが標準UIにも適用されます。これを自社のデザインとどう整合させるか、このセッションから学んだ事も踏まえてデザイナーと調整しながら進めていく必要があると感じました。
ゼロタップの世界へ - UWBとNearby Interactionが拓く未来
このセッションの後半では、iPhoneとサードパーティ製のチップがUWB(超広帯域無線)通信で連携し、距離や向きを計測するデモが行われ、ハードウェアの性能を最大限に引き出す、非常にワクワクする内容でした!
セッションから得た主な学び
- Nearby Interactionの進化: UWBチップにアクセスして、デバイス間の距離や方向を測定するiOSのフレームワーク。WWDC 2021以降、サードパーティ製のチップとの連携が可能になり、WWDC 2022では、バックグラウンドでの距離取得にも対応したことが紹介されました。
- UWBの特性と日本の事情: 信号到達時間(ToA)と到達角度(AoA)から高精度な位置情報を取得する無線通信規格。日本国内では総務省の定める周波数制限がある。
- iPhone 15以降のU2チップでは、より遠い距離でも高精度な測定が可能に。
- ARKitとの連携: ARKitと組み合わせると、距離・方向の精度を向上されるといった効果がデモのなかでもしめされていました。
- 課題: デモでは方向取得が難しいことなど、課題があることも示されていました。
Apple Vision Proでの立体動画アプリの実装と40の工夫
Apple Vision Pro向けの没入型動画視聴アプリ「ZELVISION XR」の開発事例についてのセッションを拝聴しました。100人以上のユーザーテストから得た知見や、40項目にわたる細やかな工夫は、まさにApple Vision Proアプリ開発の「虎の巻」とも言える内容でした。
(セッションを聴いていたら、AVP触ってみたくなりました。)
UI/UX設計
- 「初めてApple Vision Proを使うユーザー」を意識したUIデザインを目指されていたとのこと。不要な演出を避け、シンプルさを優先する考え方は、複雑になりがちな空間UIにおいて重要に思えました。
- 操作の簡素化: ゲストモードやキャリブレーションを省略し、誰でもすぐに体験できるように設計。
- ジェスチャーの限定: 「戻る」操作を右手ピンチに統一し、カスタムジェスチャーは「いいね」の1種類のみに。複数のジェスチャーでユーザーを迷わせない工夫が凝らされていました。
- 実機での検証: シミュレータだけでは不十分で、実際に動かして初めて気づくことが多かったとのこと。
運用と開発時の工夫
- 運用面: オペレーター用のリセットジェスチャーや、BGMと効果音で操作状態を感知できるようにするなど、スムーズな運用を支えるアイデアが満載でした。
- 開発面: 動画ファイル選択や画面切り替え、カスタムコンポーネント実装等の開発ノウハウが惜しみなく共有されました。
スポンサーセッション
テストコードすら書けなかったレガシーアプリがAIと上手に協働できるようになるまでの奇跡
スポンサーセッションでは、弊社から吉田誠さんが登壇されました。プロジェクトの苦労から学び、最終的に成功へと導くまでの道のりを熱く語ってくれました!
吉田さんが取り組んだのは、バイトルNEXTというサービスのモバイルアプリリニューアルです。テストコードすら書けないほど複雑な依存関係を持つレガシーな状態からのスタートで、開発コストの増加やチームの疲弊といった多くの課題を抱える中、アーキテクチャ改善に乗り出します。
Googleが推奨する3層のレイヤードアーキテクチャを採用し、AndroidとiOSの両プラットフォームに同じアーキテクチャを適用。まず 「とにかくテストが書ける状態にすること」 を目標に、DI(依存性注入)ライブラリを活用しながら、既存の機能を新しいアーキテクチャに合わせて整理・再実装していったそうです。
次第にアーキテクチャが整理され、ソフトウェアの構造が明確になったことで、Cursor/Devin等のAIツールの効果を発揮できるようになったとのこと。
最終的に、AIにコーディングの約6割を任せられるようになり、特にデータレイヤーの開発では高い精度で活用できたそうです。
約1年間にわたるリニューアルプロジェクトを経て、チームは大きな成長を遂げました。レガシーからの脱却は、開発効率だけでなく、メンバーのモチベーション向上にもつながったようです。
また、AndroidとiOSとのプラットフォームの境界を越え、共通の課題について知見を共有したことで、チームの連携がさらに強固になったそうです。
きっとレガシー解消により、チーム内での活動にも余裕が生まれ、開発者間のコミュニケーションの活性化にもつながったのだろうと想像もできました。
吉田さんのプレゼンから、技術的な挑戦がチームの絆を深め、より高いパフォーマンスを発揮させることにつながっていることが伝わってきました!
スポンサーブース
約1週間前に開催されたDroidKaigiに引き続き、iOSDCでもスポンサーブースを出展しました!
今回もアンケートボード・弊社開催のLTイベントの告知を行いました。
私自身もブースに立ち、多くの方々とお話することができ、大変刺激にもなりました。
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「Good Job」アンケートボード技術的な成功体験や、思わず「Good job!」と声を上げたくなるような出来事を付箋に書いて共有するボードです。
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LT登壇者募集弊社開催のLTイベント登壇者を、カンファレンス会場で直接スカウトするという試みです。
会場の様子
会場で用意されていた美味しい食べ物・飲み物の数々。
懇親会では、他社のエンジニアの方々との交流の機会も持てて貴重な経験になりました!
スタッフの皆様、快適なWiFi環境や会場の設営等さまざまな準備をありがとうございました!
まとめ
「ブログを書くまでがiOSDC」――イベント主催者の方からいただいたこの言葉通り、iOSDCで得た学びを発信してみました。
iOSという枠組みの中でも、多岐にわたるテーマのセッションがあり、アプリ開発の奥深さを改めて感じました。また、Apple Vision ProやUWBといった最新技術に関するセッションは、今後のUI/UXが持つ大きな可能性を感じ、ワクワク感に包まれました。
ここで得た学びを自社プロダクトに活かし、その結果をまたアウトプットにつなげたいです。
来年もこの素晴らしいイベントが開催されるよう、微力ながら広報を通じて貢献できれば幸いです。
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