Sentryを活用したSaaSアプリのエラー分析プロセス
SaaSアプリケーションの運用において、エラーの早期発見と迅速な対応は品質維持の要です。本記事では、エラー監視ツールであるSentryと、そのAI機能を活用した実践的なエラー調査フローを紹介します。
Sentryによるエラー監視の基礎
Sentryはアプリケーションで発生したエラーを自動的に収集・記録するツールです。アプリケーションで問題が発生すると、その詳細情報がSentryに送信され、エラーの内容、発生した場所、発生頻度などを一元的に確認できます。

Sentryを理解する上で重要な概念が三つあります。一つ目は「Issue(イシュー)」で、これは同じ種類のエラーをまとめたものです。例えば「ユーザー登録時のバリデーションエラー」という一つのIssueに、複数回発生したエラーが含まれます。二つ目は「Event(イベント)」で、Issueに含まれる個々のエラー発生記録を指します。同じIssueでも、発生した時刻やユーザーが異なる複数のEventが存在します。三つ目は「Seer」で、これはSentryのAI機能であり、エラーの原因分析や解決策の提案を自動的に行います。
調査対象エラーの選定
エラー調査を効率的に進めるには、まず優先順位を適切に判断することが重要です。プロジェクトのIssuesページにアクセスすると、画面に表示されるエラー一覧から調査対象を選定できます。

優先順位の判断には三つの基準があります。第一に発生件数です。画面右側の「EVENTS」列に表示される数字が大きいものは、多くのユーザーに影響を与えている可能性があります。第二に発生頻度で、「GRAPH」列のグラフが右肩上がりになっているものは、問題が悪化している可能性があります。第三に発生時期で、最近のデプロイやコード変更後に発生し始めたエラーは、変更内容に問題がある可能性が高いです。
調査したいエラーのタイトル部分をクリックすると、詳細画面に進むことができます。
AI機能を活用したエラー分析
エラーの詳細画面では、エラーに関する様々な情報を確認できます。

まず確認すべき基本情報として、エラーメッセージ、スタックトレース、発生環境、影響を受けたユーザー数などが画面左側に表示されています。これらを確認することで、エラーの概要を把握できます。
エラーの概要把握
SentryのAI機能であるSeerを使用すると、エラーの概要を自動的に把握できます。画面右側のパネルにある「Find Root Cause」ボタンをクリックしましょう。

続けて「Summarize current event」ボタンをクリックします。このボタンが表示されない場合は、このステップをスキップして次の手順に進んでください。

数秒後、エラーの概要が英語で表示されます。この概要には「何が起きたのか」「どこで起きたのか」「なぜ起きたのか」といった情報が含まれています。2025年10月時点では、Seerの分析結果は英語でのみ表示されるため、ブラウザの翻訳機能、Google翻訳やDeepLなどの翻訳ツール、あるいはClaude、ChatGPT、Cursorなどのツールを活用して内容を確認します。
根本原因の詳細調査

概要を把握したら、次はエラーが発生した根本原因を詳しく調査します。「Start Root Cause Analysis」ボタンをクリックすると、分析が開始されます。Seerは自動的にコードの実行フローの追跡、関連する他のエラーとの比較、データベースクエリやAPI呼び出しの確認、エラー発生パターンの分析を行います。
この処理には10から15分程度かかります。分析中は他の作業を行って待つことができ、ブラウザのタブを閉じても分析は継続されるため、後で戻ってきても問題ありません。

分析が完了すると、「Root Cause」セクションに詳細な分析結果が表示されます。分析結果にはエラーの発生経路、原因となったコード、関連する要因、発生条件などの情報が含まれます。これらの情報をブラウザの翻訳機能を使いながら確認することで、エラーの原因を理解できます。この段階で原因が明確になれば、開発者に具体的な修正依頼を出すことができます。
解決策の導出
原因が判明したら、次は具体的な解決方法を確認します。「Find Solution」ボタンをクリックすると、SeerがSentryに蓄積された情報を基に、考えられる解決策を複数提案します。提案内容は英語で表示されます。

提案された解決策は、実現可能性、影響範囲、緊急度との適合という三つの観点から評価します。実現可能性では、その解決策を実際に適用できるか、必要なリソースや時間は確保できるかを検討します。影響範囲では、解決策を適用することで他の機能に悪影響が出ないかを確認します。緊急度との適合では、一時的な回避策が必要か、根本的な修正が必要かを判断します。
複数の解決策が提案された場合は、まず影響範囲が小さく実装が簡単なものから試すことが推奨されます。
まとめ
SentryのAI機能を活用することで、エラーの概要把握から根本原因の特定、解決策の提案まで、一連のエラー調査プロセスを効率的に進めることができます。特にSeerによる自動分析は、コードの実行フローやエラーパターンの分析を人手で行う負担を大幅に軽減します。エラー監視ツールの価値を最大限に引き出すには、単なるログ収集にとどまらず、このようなAI機能を積極的に活用することが重要です。
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