DevinとSentryで実現するSaaSアプリの効率的なエラー対応
SaaSアプリケーションの運用において、エラー対応は避けて通れない重要な業務です。本番環境で発生するエラーを迅速かつ正確に修正することは、サービス品質の維持とユーザー満足度の向上に直結します。しかし、エラーの検知から原因特定、修正、デプロイまでの一連の作業は、多くの時間とリソースを必要とします。
本記事では、エラー監視プラットフォームのSentryと、AI開発支援ツールのDevinを組み合わせることで、この保守対応プロセスを大幅に効率化する方法を紹介します。実際の画面キャプチャとともに、具体的な手順を詳しく解説していきます。
なぜDevinとSentryの組み合わせが有効なのか
Sentryは本番環境で発生したエラーをリアルタイムで収集し、スタックトレース、発生環境、ユーザー情報といった詳細なコンテキストを提供します。一方、Devinはコードベースの分析からバグの特定、修正案の作成、プルリクエストの生成まで、開発作業の自動化を支援するAIツールです。
この2つのツールを連携させる鍵となるのが、MCP(Model Context Protocol)です。Sentry MCPを利用することで、DevinはSentryが収集したエラー情報に直接アクセスし、エラーの詳細を理解した上でコードベースの分析を行えます。これにより、開発者は手動でエラーログをコピーしてAIに説明する必要がなくなり、Devinは文脈を正確に把握した状態で作業を開始できます。
事前準備
本記事で紹介する手順を実践するには、以下の環境が整っている必要があります。
まず、Sentryプロジェクトへのアクセス権限が必要です。組織のSentryアカウントで対象となるプロジェクトを閲覧できることを確認してください。次に、Devinアカウントを作成し、対象のGitHubリポジトリへのアクセスを設定します。DevinがコードベースとSentryのデータの両方にアクセスできる状態にしておくことが重要です。また、GitHubアカウントで対象リポジトリへの書き込み権限があることも確認してください。プルリクエストの作成とマージには、この権限が必要になります。
エラー対応の全体フロー
保守対応は次のような流れで進めていきます。まずSentryのダッシュボードで優先度の高いエラーを特定し、そのエラー詳細ページのURLを取得します。次に、そのURLをDevinに渡して調査を依頼します。Devinが分析結果を提示したら、その内容を確認して対応方針を決定し、修正作業を指示します。Devinが生成したプルリクエストをレビューし、問題がなければマージしてデプロイします。
それでは、各ステップを詳しく見ていきましょう。
ステップ1: 調査対象エラーの選定
まずSentryのプロジェクトダッシュボードにアクセスします。Issuesページには、過去14日間に発生したエラーが一覧表示されています。各エラーには、エラーメッセージ、発生件数、影響を受けたユーザー数、最終発生日時、エラーの状態といった情報が表示されます。

エラーの優先順位を判断する際は、複数の観点を総合的に考慮する必要があります。発生頻度は最も分かりやすい指標です。同じエラーが繰り返し発生している場合、多くのユーザーに影響を与えている可能性が高く、優先的に対応すべきです。ただし、発生件数だけでなく影響範囲も重要です。特定の1人のユーザーで100回発生しているエラーと、100人のユーザーで1回ずつ発生しているエラーでは、対応の緊急度が異なります。
エラーの種類による分類も有効です。サービス停止につながるクリティカルなエラー、一部機能が使えなくなる機能障害、ユーザー体験への影響が少ない軽微なエラーといった分類で、対応の優先度を判断します。対応するエラーを選択したら、そのエラー行をクリックして詳細ページに移動してください。
ステップ2: Sentryエラー詳細URLの取得
エラー詳細ページには、そのエラーに関する包括的な情報が表示されます。スタックトレース、発生環境、ユーザーのアクション履歴などを確認できますが、ここでは単純にブラウザのアドレスバーに表示されているURLをコピーします。

URLの形式は以下のようになります。
https://xxxxx.sentry.io/issues/123457789/?project=987654&query=is%3Aunresolved&referrer=issue-stream
このURLには、エラーを一意に識別するID(この例では123457789)が含まれています。Devinはこの情報を使ってSentry APIから詳細データを取得し、エラーの全容を理解します。
ステップ3: Devinへの調査依頼
次に、Devinを使ってエラーの原因調査と修正案の作成を依頼します。Devinのアプリケーション(https://app.devin.ai/)を開き、新しいチャットを開始してください。
コピーしたSentryのURLをチャット欄にペーストし、続けて以下の指示文を入力します。
上記URLにあるSentryのエラーについて、Sentry MCPを利用して調査しなさい。その後調査結果の説明と改善計画の作成をお願いします。
この時点で、調査対象となるGitHubリポジトリを選択します。Devinは選択されたリポジトリのコードベースにアクセスし、Sentryのエラー情報と照合しながら原因を特定していきます。
チャットを送信すると、Devinが作業を開始します。

ステップ4: 分析結果の確認と対応方針の決定
DevinはSentry MCPを通じてエラーの詳細情報を取得し、コードベースを分析して原因を特定します。分析が完了すると、エラーの原因と推奨される対策を提示します。

Devinが提示した原因と対策の内容を詳しく読み、技術的な妥当性を確認してください。複数の対策案が提示される場合もあるため、チームで議論して最適な対応方針を決定します。
対応方針が決まったら、その内容をDevinに伝えて修正作業を指示します。

ステップ5: プルリクエストのレビューとマージ
Devinは指示された修正内容に基づいてコードを変更し、GitHubにプルリクエストを作成します。作成が完了すると、プルリクエストへのリンクがチャットに表示されます。

リンクをクリックしてGitHubに移動し、プルリクエストの内容を確認します。コードの変更内容、テストの追加や修正、コミットメッセージなど、通常のコードレビューと同様の観点でチェックしてください。
内容に問題がなければ、プルリクエストをマージしてデプロイします。これでエラー対応のサイクルが完了です。
実践のポイントと注意事項
DevinとSentryの連携を効果的に活用するには、いくつかのポイントに注意する必要があります。
まず、Devinへの指示は明確かつ具体的にすることが重要です。調査範囲や優先事項があれば、最初の指示に含めることで、より的確な分析結果が得られます。また、Devinの分析結果は必ず人間が確認し、技術的な妥当性を判断してください。AIの提案をそのまま採用するのではなく、プロジェクトの文脈や設計方針に照らして適切かどうかを検討することが大切です。
プルリクエストのレビューも通常のコードレビューと同じ基準で行います。Devinが生成したコードであっても、テストの充実度、エッジケースへの対応、コードの可読性など、品質基準を満たしているかを確認してください。
エラーの優先順位付けも継続的に見直すことが推奨されます。Sentryのダッシュボードを定期的にチェックし、新たに発生したエラーや、発生頻度が増加しているエラーを早期に発見することで、問題が大きくなる前に対処できます。
まとめ
SentryとDevinを組み合わせることで、SaaSアプリケーションのエラー対応プロセスを大幅に効率化できます。エラーの検知から原因特定、修正案の作成、プルリクエストの生成までを自動化することで、開発者はより戦略的な意思決定やコードレビューに時間を使えるようになります。
Sentry MCPによる連携は、単にツールを併用する以上の価値を提供します。AIが正確なコンテキストを持って作業できることで、分析の精度が向上し、修正案の質も高まります。保守業務の効率化を検討している方は、ぜひこの手法を試してみてください。
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