参考文献: ペレス 「量子論の概念と手法」
以下,ペレスの四章のメモです.ちょくちょく追加していきます.
無限次元のヒルベルト空間における,新たな概念について扱っていく.
ヒルベルト空間 \mathcal{H} は,以下の三つの性質(i)~(iii)を満たす必要がある.
(i) 線形性
u,v\in\mathcal{H} とする.\alpha,\beta を複素数としたとき, \alpha u+\beta v\in\mathcal{H} を満たす必要がある.
(ii) 内積
u,v\in\mathcal{H} とする.これらの対に対して,複素数 \langle u|v\rangle を対応させる.これを内積と呼び,以下の性質を満たすとする.
- \langle u|v\rangle=\langle v|u\rangle^\ast
-
vに関して線形, uに関して反線形
-
\langle u|u\rangle\geq0 (等号はu=0の時のみ)
ここで, \mathcal{H} の元が x の関数とすると,内積の定義として,
\langle u|v\rangle=\int u^\ast(x)v(x) dx
とすると,上記の性質を満たす形になっている.ただし,
\langle u|u\rangle<\inftyを満たすような,二乗可積分な関数のみを考える.
(iii) 完全性
m,n\rightarrow \infty で ||u_m-u_n||\rightarrow0 ならば, ||u_m-u||\rightarrow0 となるような u\in\mathcal{H} が一意に存在する.(強収束)
ヒルベルト空間に関する多くの定理の証明では何らかの極限を必要とし,その極限もヒルベルト空間に属する必要があるため,この完全性の条件は本質的である.この意味で,連続関数はヒルベルト空間を形成しない.なぜなら,連続関数の数列の極限が不連続関数となりうるからである.
以上より,次のような一見不思議なことも可能になる.例えば初期状態として至る所で連続で微分可能な二乗可積分な状態を準備し,有限時間後に不連続となる状態を作ることも可能である.この不連続な状態は,もちろん二乗可積分である.
以下,可分ヒルベルト空間を考える.これは,任意の v\in\mathcal{H} に対し,
v=\sum_{m=1}^\infty v_m \mathrm{e}_m,\quad \langle \mathrm{e}_m,\mathrm{e}_n\rangle=\delta_{nm},\quad \sum_m |v_m|^2<\infty
となる可算個のベクトルの組
\{\mathrm{e}_m\} が存在することを言う.
このような離散和は,連続変数の関数に対しても定義できる.例えば, \mathcal{H} が x\in[0,2\pi] 上の全ての二乗可積分な関数 v(x) から成り立ち,内積が
\int_0^{2\pi}u^\ast(x) v(x)dx
で定義されているとする.ディリクレの定理より,高々有限個の不連続点を持つ
v(x) は,孤立点をのぞいて
v(x)=(2\pi)^{-1/2}\sum_m v_m e^{imx}
と表せる.
ここまで状態について考えてきたが,次は状態間の写像,線形演算子について考える.有限次元の行列と同じように, A_{mn}=\delta_{1m}+\delta_{1n} を考え,状態 v=Auを考える:
v_1=\sum_{n}A_{1n}u_n=u_1+\sum_n u_n,\quad v_m=u_1\ (m\neq1)
ここで,
u が二乗可積分でも,
v_1 に含まれる
\sum_n u_n は発散する可能性がある.つまり,
Au はいかなる状態
u に対しても定義できるわけではない.
このような考察から,演算子 A には,定義域があるということがわかる.つまり,作用した後の状態もヒルベルト空間に属するような定義域である.ヒルベルト空間全体が定義域となる演算子 A は,任意の規格化された u\in\mathcal{H} に対し,
が有界であるという性質を満たし,逆もまた成立する.
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