衛星データの戦国時代が来た!!(、、、気がする)
今日は個人的に衝撃を受けるニュースがありました。それは…
「スカパーJSATとPlanet Labs PBC 230百万ドルの低軌道衛星コンステレーション構築に向けて協業~自社保有による低軌道観測衛星事業に本格参入~」
いやー、予想外の展開すぎて、本当にびっくりしました。
最近では、天地人が地表面温度を観測する自社衛星を打ち上げるというニュースもあり、「ついに衛星データの解析をやっている会社が、自社で衛星を持つ時代が来たのか…!」と心が震えました。
こうした驚きや興奮を共有しつつも、同時に、衛星データ市場全体のビジネスモデルがある意味で変わってきているという印象を受けています。
とはいえ、この話をし始めると長くなりそうなので、今日はスカパーJSATのニュースを受け、今後の展開を想像したので、それを書いてみたいと思います。
スカパーJSATがいま光学コンステレーションを構築する理由
第一の理由として挙げられるのは、NTTデータが設立したMarble Visionへの対抗です。
Marble Visionは、光学コンステレーションを構築する目的で突如設立されたNTT系列の会社ですが、2024年度のJAXA基金に採択されており、40cm級分解能の小型衛星コンステレーションを保有することがほぼ確定しています。用途としてはデジタルツインなど、3次元空間の構築が強調されています。
こうした展開に対抗するため、スカパーJSATが本格的に動き出したと考えられます。
一方、Marble Visionへの単なる対抗としての動機だけでは弱いです。世界的に見ても最も大きな市場規模を持つのは、やはり安全保障分野。この分野を無視した事業戦略は考えにくいでしょう。
ここで注目すべきなのが、防衛省の令和7年度宇宙関連概算要求です。
要求の内容を見てみると、「衛星コンステレーション」構築に関する項目が盛り込まれています。SAR衛星を中心に組み立てる計画ですが、光学衛星も組み合わせる計画が示されています。これは当然で、SAR衛星では「何があるか」を把握しやすい一方、対象物の種別を特定するには光学衛星の方が優れている場合が多いからです。
こうした状況を踏まえると、日本の光学衛星を保有していて、そのニーズを満たせる企業としては、Marble Visionが最有力となるでしょう。防衛省の予算にも記載されていることから、光学を含む衛星コンステレーションのニーズは明確に顕在化していると言えます。
こうした中、衛星データビジネスに力を入れたいスカパーJSATとしては、当然ながらこの状況を見過ごすわけにはいきません。そこで、Planet Labsが登場することになります。
Planet Labsの次世代衛星Pelicanの解像度は30cmと言われ、Marble Visionがこれから開発する予定の40cm級衛星よりも高解像度です。安全保障の観点から見れば、より高い解像度の画像の方が役に立つのは言うまでもありません。順当にいけば、防衛省はスカパーJSATを採用する可能性が高いでしょう。
これはもちろん、スカパーJSATだけでなく、Planet Labsにとっても売り上げ以外のメリットがあります。
これは私の推測ですが、Planet Labsは自社資金や調達資金を使って衛星を開発するリスクを低減したいと考えている可能性があります。そうであれば、スカパーJSATが代わりに衛星を打ち上げて共同コンステレーションを構築してくれるのは、大きなメリットとなります。
スカパーJSATがMarble Visionに対抗意識を持っている(はず)のと同様に、Planet LabsもMaxarという大きな競合が存在します。Maxarは直近でWorldView Legionという高解像度衛星コンステレーションを完成させ、今後は解析事業にも展開していく計画のようです。
そのような状況下、高解像度衛星で後れを取っており、自前資金での打ち上げを積極的に行いたくないPlanet Labsにとって、スカパーJSATの存在は非常に大きいといえます。
こうした各社の思惑や利害関係がうまくかみ合い、どちらから声をかけたのかは定かではありませんが、今回の協業が成立したのだろうと想像しています。
これにより、Maxar・Umbra連合体 vs Planet・スカパーJSAT連合体という構図が出来上がります。
まさに、衛星データの戦国時代!!今後の動きが非常に楽しみですね。
今後の展開
スカパーJSATとPlanet Labsの今後の展開については、Planet Labsがすでにプラットフォームを構築し、AI向けの画像を提供できる状況にあるため、データの販売から解析までを一貫して行う形になると考えられます。
ただ、これまでの話には抜けているものがあります。それはSARです。安全保障を念頭に垂直統合を進めるのであればSARは不可欠です。
この点、スカパーJSATはQPSに出資しているため、QPSのSAR衛星をコンステレーションの一部に組み込み、光学とSARの両方を揃えて防衛省にサービスを提供することは自然な流れでしょう。
ただし、QPSの衛星開発は現時点で順調とは言いがたく、その状況をスカパーJSATも把握しているはずです。
そうなると、SARが不足する可能性を補うために、Umbra、Capella、ICEYE、Syns、QPSの5社のうちから新たにパートナーを選ぶ必要があります。が、UmbraはMaxarとの連携が進んでおり、Synsは現時点であまり動きが見られない、QPSにはすでに出資済みとなれば、残る候補はCapellaかICEYEになります。
どちらを巻き込むのかは難しい判断ですが、日本市場への実績や日本人社員の存在を踏まえると、ICEYEを採用する可能性がやや高い(40対60程度)と考えられます。
また、小型SAR衛星は寿命が3年から5年と短めのため、QPSの衛星と併用する形で、より安定した運用を狙うリスクヘッジにもなります。
こうして最終的にはPlanet Labs、スカパーJSAT、QPS、ICEYEが連携し、日本の安全保障市場を席巻していくシナリオも考えられます(これはICEYEではなくCapellaであっても変わらない)。
一方、衛星データの流れを上流のデータ取得、中流の解析、下流のプラットフォームで捉えた場合、これまでは上流と下流の話が中心でしたが、中流の解析機能も重要なテーマとなります。
スカパーJSATはもともとデータ解析に力を入れており、SARの解析手法の一つである干渉解析を使った「LIANAメッシュ」の提供、光学衛星関連でPenetratorとの連携を発表していて、光学とSARの両方のデータ解析に対応できる姿勢を示しています。
さらに、ICEYEも船舶検知や浸水検知、Dwell Useを活用した森の中の建物検知や船舶の移動方向の把握などの解析サービスを展開しています。
このため、その連合体のデータ解析の体制は、すでに一定整備されていると言えます。
こうした各社の強みを組み合わせることで、防衛省へのサービス提供をデータから解析まで一貫して行えるようになり、他社が入り込む余地はほとんどなくなるでしょう。結果として、安全保障が大きな市場とされる衛星データ分野において、衛星データ解析企業は非常に厳しい状況に追い込まれると予想されます(toB向けもより厳しくなるでしょう)。
なので、これからの衛星データ解析企業の動き方としては、上記の連合体が提供する解析アルゴリズムを上回る技術を開発しつつ、防衛省からも強い支持を獲得する必要があります。または、特定の分野に特化した高度なアルゴリズムを持つなど、差別化を明確にしなければ生き残りは難しくなるでしょう。
当然ながら、安全保障に元々期待をしていない衛星データ解析企業にとっては状況は変わらないでしょう。
終わりに
今回のスカパーJSATのニュースを受けて、これまでに個人的に調査・考察してきた情報をつなぎ合わせながら、ニュースの意図や今後の展開を想像してみました。
皆さんはいかがお考えでしょうか。
ここでお伝えした内容は、衛星データについてまだまだ未熟な個人の見解にすぎませんので、信憑性はまったくありません。
ぜひ皆さんのご意見やご考察をお聞かせいただければ嬉しいです。
今後も衛星データに関する情報を発信していければと思いますので、よろしくお願いします。
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