Chrome Enterprise Premium のブラウザ制御機能
第1章 はじめに
DSK (株式会社電算システム) アドベントカレンダー2025 始まります!!
そして、DSKアドベントカレンダー第一日目 を務めさせていただきます!SKYこと関谷です。
アドベントカレンダーということで、まず今年の振り返りからですが、
今年は様々な種類の活動を経験でき、結果、下記のような受賞や役割を拝命することが出来ました。
すでにおなか一杯ではあるのですが、折角拝命した呼称に追いつくように来年も役割を全うするつもりです!!
- Google Cloud Partner Top Engineer 2026 Fellow 受賞
- Google Cloud Ambassador ※上記受賞で自動エントリーらしいです
- Google Cloud Partner Tech Influencer Challenge 2025:個人賞 Deep Dive Security 受賞
- Google Cloud Partner All Certification Holders 2025 受賞
はい、それでは、本題です。
内容的には書ききっていなかったものを完成させた形になりましたが、ご了承ください。
みなさんが仕事で一番長い時間使っているツール(アプリ)は何でしょうか?
チャットツール? メールソフト?
おそらく 「ブラウザ」 ではないでしょうか。
SaaSの普及やリモートワークの定着により、今やブラウザは単なる「Webページを見るソフト」ではなく、企業の機密データが行き交う 「業務OS」 とも呼べる重要なプラットフォームになりました。
しかし、一番使うツールなのに、ウイルス対策ソフトやファイアウォールに比べて、ブラウザ自体のセキュリティは見落とされがちです。
ブラウザの中でも Chrome ブラウザは過半数の大きなシェアを獲得していますが、
世界で最も使われている Chrome ブラウザそのものを、強力なセキュリティガードレールに進化させるソリューションとして企業(組織)向けに登場させたのが、 「Chrome Enterprise Premium」 です。
「名前は聞くけど、具体的に何ができるの?」
「普通の Chrome と何が違うの?」
そんな疑問にお答えするために、今回は Chrome Enterprise Premium が持つ すべての主要機能 を徹底解説します。
第2章 情報漏洩防止 (DLP) うっかりミスも水際で防ぐ!
企業のセキュリティ担当者が一番頭を抱えていること。それはハッカーの侵入よりも、社員による 「情報の持ち出し(うっかり&故意)」 です。
DLP(Data Loss Prevention)機能は、ブラウザでのデータのやり取りを監視し、危険な操作をその場でブロックします。
2.1 コンテンツ アップロード検査
「社外秘のファイルを、個人の Google ドライブにアップロードして持ち帰ろうとした」
そんな時、Chrome はファイルをアップロードする直前に中身をスキャンします。もしファイル内に「社外秘」という言葉や、マイナンバー、クレジットカード番号などが含まれていれば、アップロード自体を禁止(ブロック)します。
2.2 貼り付け(ペースト)保護 ~対・生成AIの切り札~
一番活用される機能かもしれません。
「プログラミングのコードを ChatGPT に貼り付けて修正してもらった」
「顧客メールを翻訳サイトに貼り付けた」
これらは便利ですが、情報漏洩のリスクがあります。Chrome Enterprise Premium は、許可されていないサイトへの 「貼り付け操作」そのものを制御 できます。機密情報が含まれる場合、AIチャットへの送信ボタンを押す前にブロックできるのです。
2.3 コンテンツ ダウンロード検査
出口だけでなく、入口も守ります。
会社が認めていないストレージからのダウンロードを禁止したり、機密度の高いカテゴリのファイルがローカルPC(特に私物PCなど)に保存されるのを防いだりします。これにより、マルウェアの侵入と情報の拡散を同時に防ぎます。
2.4 印刷の制御 & ウォーターマーク(透かし)
「データで持ち出せないなら、画面をスマホで撮ればいいや」
そんなアナログな手口への対抗策もあります。
- 印刷の制御: 機密ページを表示中は、印刷機能を無効化します。
- ウォーターマーク(透かし): 顧客リストなどを表示している間、画面全体にうっすらと「ユーザー名」や「日時」を表示させます。万が一スマホで撮影されて流出しても、「誰が漏らしたか」が一発でバレるため、強力な抑止力になります 。
【図解】DLPはどうやって情報を守っているの?
ユーザーが「送信」しようとした瞬間、ブラウザの裏側で起きている連携プレーを図にしました。
第3章 高度な脅威対策 ウイルスやフィッシングを秒で検知
「怪しいサイトは見ないから大丈夫」と思っていても、最近の攻撃は巧妙です。
Chrome Enterprise Premium は、Google が持つ世界規模の脅威データ(インテリジェンス)を使って、リアルタイムであなたを守ります。
3.1 リアルタイム URL フィルタリング
通常の Chrome にも「セーフブラウジング」という機能がありますが、Premium 版はさらに強力です。
管理者が設定したポリシー(「アダルト」「ギャンブル」など)に基づき、アクセスしようとした URL をリアルタイムで Google のデータベースと照合します。作られたばかりの危険なサイトも即座に警告・ブロックします。
3.2 マルウェア ディープスキャン
「業務マニュアル.exe」のようなファイル名でウイルスをダウンロードさせようとする攻撃があります。
Chrome は、ダウンロードされたファイルが怪しいと判断すると、クラウド上の 「サンドボックス(隔離された仮想の部屋)」へ転送 します。そこで実際にファイルを実行してみて、 「変な通信をしないか?」「勝手にファイルを書き換えないか?」といった挙動を確認 します。これにより、 まだ世に知られていない未知のウイルス(ゼロデイ攻撃) も見抜くことができます 。
3.3 パスワード アラート
フィッシング詐欺対策の切り札です。
もし社員が、会社の Google アカウントのパスワードを、偽物のサイト(フィッシングサイト)に入力しようとしたら、その瞬間に検知して警告を出します。「だまされて入力してしまった!」という事故を未然に防ぎ、もし入力してしまった場合でもすぐにパスワード変更を促します。
【図解】未知のウイルスを見抜く「多段階チェック」
すべてのファイルを詳しく検査すると遅くなるので、怪しいものだけを選別する効率的なフローになっています。
第4章 アクセス制御 (ゼロトラスト) IDとパスワードだけじゃ信用しない
「IDとパスワードさえ合っていればログインさせる」
これはもう古い考え方です。パスワードが漏れたら終わりだからです。
今の主流は 「ゼロトラスト(何も信用しない)」 。Chrome Enterprise Premium は、ログインしようとしている 「デバイスの状態」 まで厳しくチェックします 。
4.1 デバイス シグナルの送信
社内システムにアクセスする際、Chrome は「健康診断書(デバイスシグナル)」を提出します。
- OS は最新か?
- ディスクは暗号化されているか?
- 会社支給の端末か?
もし、「OSが古かったり」「ストレージ暗号化されていなかったり」「私物PC」からのアクセスなら、たとえ社長のIDでもログイン画面すら見せません。
4.2 サードパーティ シグナル連携
Chrome だけの判断だけでなく、他のセキュリティ製品(CrowdStrike など)とも連携します。
「IDは正しいけど、セキュリティソフトが『ウイルス感染の疑いあり』と判定している」
そんな場合も、即座にアクセスを遮断する連携プレーが可能です 。
4.3 プライベート アプリ アクセス (IAP連携)
「社外から社内システムにつなぐために、毎回 VPN を起動するのが面倒...」
そんな現場の不満を解消します。Google Cloud の機能(Identity-Aware Proxy)と連携することで、VPN なしでインターネット経由で安全に社内システムへアクセスできます。ユーザーはただブラウザを開くだけ。裏側で厳密な認証が行われます 。
【図解】入館ゲートでの「ダブルチェック」
「チケット(ID)」と「健康状態(デバイス)」の両方をチェックする流れです。
第5章 可視化と調査 見えない脅威を「見える化」する
最後は、管理者にとって一番ありがたい機能です。
「社員がどんなサイトを見ているのか」「どんな拡張機能を入れているのか」
見えないものは守れません。Chrome Enterprise Premium は、ブラウザ内でのあらゆる出来事を記録し、報告してくれます 。
5.1 拡張機能のリスク評価
「便利な拡張機能だと思ったら、実は情報を抜き取るスパイウェアだった」
これは情シスの悩みの種です。Premium では、組織内で使われている全拡張機能を一覧化し、それぞれの「権限(何ができるか)」や「リスクスコア」を可視化します。危ないものは一括で禁止することもできます 。
5.2 セキュリティ イベント レポート & SIEM連携
これまで紹介した「DLP違反」「マルウェアブロック」「危険サイトへのアクセス」などのイベントは、すべて詳細なログとして記録されます。
さらに、これらのログを Google の分析ツール(Google Security Operations)や、Splunk などの外部ツール(SIEM)にリアルタイムで送ることができます。これにより、PC全体のログと突き合わせて高度な分析が可能になります 。
5.3 クラッシュ レポート
セキュリティだけでなく、業務の安定性も大事です。
「特定のWebアプリを開くとブラウザが落ちる」といった情報を収集し、バージョンアップの影響などを分析できます。安定した業務環境を守るための重要な機能です。
【図解】ブラウザからセキュリティセンターへの報告フロー
ブラウザが「監視カメラ」となり、セキュリティチームへ情報を送り続けます。
第6章 まとめ
いかがでしたでしょうか?
Chrome Enterprise Premium は、「有料版ブラウザ」ではなく、以下のような包括的なセキュリティソリューションであることがお分かりいただけたかと思います。
| カテゴリ | 具体的な機能(まとめ) |
|---|---|
| 情報漏洩防止 (DLP) | アップロード検査、ペースト保護、ダウンロード検査、印刷制御、透かし |
| 高度な脅威対策 | リアルタイムURL検査、マルウェア詳細スキャン、パスワードアラート |
| アクセス制御 | デバイス状態チェック、他社製品連携、VPN不要アクセス(IAP) |
| 可視化・調査 | 拡張機能リスク評価、イベントログ転送(SIEM)、クラッシュレポート |
これらすべてを、 「ユーザーが毎日使うブラウザの中」 で完結させている点が画期的なのです。
専用のエージェントソフトを何個も入れる必要はなく、今使っている Chrome にポリシーを適用するだけで、世界最高レベルのセキュリティ環境が手に入ります。
「まずは生成AIへの貼り付けを止めたい」
「ゼロトラストの第一歩としてデバイス状態を見たい」
そんな具体的な課題をお持ちの方は、ぜひ Chrome Enterprise Premium の導入を検討してみてはいかがでしょうか。
参照情報
- Check out Chrome Enterprise Premium's latest innovations | Google Cloud Blog, accessed November 21, 2025, https://cloud.google.com/blog/products/identity-security/check-out-chrome-enterprise-premiums-latest-innovations
- Introducing Chrome Enterprise Premium, the future of endpoint security | Google Cloud Blog, accessed November 21, 2025, https://cloud.google.com/blog/products/identity-security/introducing-chrome-enterprise-premium
- Context-Aware Access examples for Advanced mode - Google Workspace Admin Help, accessed November 21, 2025, https://support.google.com/a/answer/11368990?hl=en
- Browser Management - Chrome Enterprise Core, accessed November 21, 2025, https://chromeenterprise.google/products/chrome-enterprise-core/
- Collect Chrome Enterprise data | Google Security Operations, accessed November 21, 2025, https://docs.cloud.google.com/chronicle/docs/ingestion/default-parsers/chrome-management
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