Apple が Mac Studio に M4 Ultra ではなく M3 Ultra を採用した理由

(Apple unveils new Mac Studio, the most powerful Mac ever - Apple)

新しい Mac Studio は異なる世代のチップである M4 Max（左）と M3 Ultra（右）を搭載するイレギュラーな構成となった (Apple Explains Why the New Mac Studio Doesn't Have an M4 Ultra Chip - MacRumors) (M4 Max vs M3 Ultra : l'étrange choix d'Apple avec le Mac Studio - Numerama)

Apple の公式発表・コメント

Apple は 2025 年 3 月、新型 Mac Studio を発表し「M4 Max と新しい M3 Ultra チップ」を搭載した史上最強の Mac と位置づけた (Apple unveils new Mac Studio, the most powerful Mac ever - Apple)。しかしハイエンド構成に最新の M4 Ultra を用意しなかった点について一部メディアから疑問が投げかけられている。これに対し Apple の広報担当者は「すべてのチップ世代で Ultra チップが登場するとは限らない」と説明した (Apple Explains Why the New Mac Studio Doesn't Have an M4 Ultra Chip - MacRumors)

実際 Apple はフランスの技術メディア Numerama に対して M4 Max チップに UltraFusion コネクター（2 つの SoC を繋ぎ合わせるためのインターフェース）が搭載されておらず M4 世代で 2 枚のチップを融合した Ultra を構成することは不可能だと認めている (M4 Max vs M3 Ultra : l'étrange choix d'Apple avec le Mac Studio - Numerama)。このように Apple 自身が公式に「M4 世代では Ultra クラスのチップを用意しない」方針を示した事が M3 Ultra 採用の直接的な理由と言える

技術的な制約と開発スケジュール

M4 Ultra を投入できなかった技術的背景として前述の通り M4 Max に物理的な UltraFusion 接続が無い点が挙げられる (M4 Max vs M3 Ultra : l'étrange choix d'Apple avec le Mac Studio - Numerama)。これは設計上 M4 世代で 2 ダイ構成の Ultra チップを作らない決断であり、技術的制約となった。またチップ製造プロセスの問題も大きな要因である。M3 シリーズは Apple シリコンとして初めて 3nm プロセスを採用したが、当初 TSMC の 3nm プロセス (N3) は歩留まりが低く生産効率に課題を抱えていた (TSMC Struggling to Make Enough 3-Nanometer Chips for Apple - MacRumors)

Apple はこれを受けて僅か半年余りで次世代の M4 シリーズへ移行し、改良版の第 2 世代 3nm (N3E) プロセスを採用する戦略を取りった (M4 already? Here’s why Apple is abandoning the M3 chip so fast - 9to5Mac)。M4 チップでは製造上の効率や良品率が大幅に改善された一方、巨大な 2 ダイチップである M3 Ultra の開発・量産には時間が掛かり M3（2023 年 10 月発表）から約 1 年半遅れて M3 Ultra を投入するスケジュールとなった (M4 already? Here’s why Apple is abandoning the M3 chip so fast - 9to5Mac)。以上のようにプロセス技術の成熟タイミングと製品投入サイクルのズレにより M4 世代での Ultra チップ投入が見送られたと考えられる

市場戦略とコスト面での要因

Apple の市場戦略としてはプロ向けデスクトップ製品で定期的な性能向上を提供し続ける必要がある。M3 Ultra を Mac Studio に搭載することで前世代の M2 Ultra 搭載機種に比べ CPU 性能は最大 1.5 倍、GPU 性能は最大 2 倍という大幅な向上を実現し（最大 512GB メモリーの新型「Mac Studio」。M4 Max / 新チップの M3 Ultra 搭載 - PC Watch)、現時点で「最もパワフルな Mac」を提供出来てる (Apple unveils new Mac Studio, the most powerful Mac ever - Apple)。もし M4 Ultra の完成を待っていた場合、ハイエンド Mac の刷新が遅れ競争力を損なう恐れがあった。そこで既存アーキテクチャーの最強チップ (M3 Ultra) を投入してでもラインナップを強化する判断が成されたと見られる。Apple 自身も「M4 Max と M3 Ultra の組み合わせで従来以上の極限のパフォーマンスを実現した」とアピールしており (Apple unveils new Mac Studio, the most powerful Mac ever - Apple) 最新世代の効率性と前世代の最大性能を組み合わせてユーザーの要求に応えている

コスト面でも今回の構成には合理性がある。先述のように 3nm 初期世代 (N3) の歩留まり問題は製造コスト高騰に繋がった (TSMC Struggling to Make Enough 3-Nanometer Chips for Apple - MacRumors)。Apple はより歩留まりが良い N3E プロセスの M4 チップを主力製品（MacBook や iPad など高出荷モデル）に充当する一方 N3 プロセスを用いた M3 Ultra は高価格なプロ向け機種に限定投入してコストを吸収する戦略を取ったと推測出来る (M4 already? Here’s why Apple is abandoning the M3 chip so fast - 9to5Mac)。デスクトップ用途では省電力性よりも絶対性能やメモリー容量が重視されるため効率改善が中心の M4 より大規模な M3 Ultra + 最大 512GB メモリーの方がユーザー価値が高い側面もある (Mac Studio M4 Max or M3 Ultra Preorder? : r/MacStudio) (Apple unveils new Mac Studio, the most powerful Mac ever - Apple)。つまり Apple は技術状況に応じてコストと性能のバランスを考慮した製品戦略を採ったと言える

M4 チップの開発・量産状況とその影響

M4 チップは M3 世代から異例の速さで登場した。2024 年前半には iPad Pro に世界初の M4 チップを搭載するサプライズがあり、当初は「なぜこんなに早く M3 から M4 へ移行するのか」と注目された (M4 already? Here’s why Apple is abandoning the M3 chip so fast - 9to5Mac)。背景には上述した製造プロセスの刷新 (N3→N3E) があり Apple としては歩留まり問題を抱えた M3 よりも早期に改良版プロセスの M4 へ移行する方が得策だったとされている (M4 already? Here’s why Apple is abandoning the M3 chip so fast - 9to5Mac)

一方でハイエンド向けの M4 Pro / Max / Ultra 開発には時間が必要であり、2024 年末から 2025 年初頭にかけて徐々に M4 Pro / Max が投入された（例 : MacBook Pro や Mac Studio での M4 Max 採用）（アップル、M4 MacBook Air と M4 Max / M3 Ultra 搭載の Mac Studio を発表 | テクノエッジ TechnoEdge)。しかし前述の通り M4 Max 自体に Ultra 融合機能がないため M4 Ultra は開発されておらず M4 世代では Ultra 級チップそのものが存在しない (Apple breaks its silence on the missing M4 Ultra chip)。この影響で 2025 年時点で Mac Studio は M3 Ultra どまりとなり、最上位 Mac Pro も依然 M2 Ultra のまま据え置かれるという特殊な世代ずれが発生している（アップル、M4 MacBook Air と M4 Max / M3 Ultra 搭載の Mac Studio を発表 | テクノエッジ TechnoEdge）

今後について Apple は「M4 Ultra が絶対に登場しないとは言い切れない」と含みも残しているが (Apple breaks its silence on the missing M4 Ultra chip) 業界では Apple が M5 世代（おそらく 2nm プロセス世代）で UltraFusion を復活させ M5 Ultra で高性能路線を再開するとの見方が出ている (M4 Max vs M3 Ultra : l'étrange choix d'Apple avec le Mac Studio - Numerama)。いずれにせよ M4 世代で Ultra をスキップするという決断は開発・製造上の制約と戦略判断によるものであり、その影響として Mac の製品サイクルは一時的にイレギュラーな形となった。しかし Apple はこれを通じて現時点で最高性能を発揮できる Mac Studio を提供しつつ次世代への開発リソースを確保する狙いがあったと考えられる

参考資料・出典

Apple 公式発表 (Apple unveils new Mac Studio, the most powerful Mac ever - Apple) (Apple unveils new Mac Studio, the most powerful Mac ever - Apple)

Apple 関係者のコメント (Apple Explains Why the New Mac Studio Doesn't Have an M4 Ultra Chip - MacRumors) (Apple breaks its silence on the missing M4 Ultra chip)

専門メディア報道 (M4 Max vs M3 Ultra : l'étrange choix d'Apple avec le Mac Studio - Numerama) (M4 already? Here’s why Apple is abandoning the M3 chip so fast - 9to5Mac) (TSMC Struggling to Make Enough 3-Nanometer Chips for Apple - MacRumors) (最大 512GB メモリーの新型「Mac Studio」。M4 Max / 新チップの M3 Ultra 搭載 - PC Watch)など