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DeepTechスタートアップを3年間やってみて。

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自己紹介

現在、DeepFlow株式会社の代表取締役社長。慶應義塾大学で理論物理で博士を取得したあと、国内外の企業、研究所、大学で研究者をしてた。2015年8月から2019年3月までの間に携わった国プロ革新的燃焼エンジンでの大規模シミュレーションの研究成果を社会実装するべく、九州大学の任期中の2018年7月にDeepFlow株式会社を設立した。2019年4月からDeepFlowの事業に専念し、現在に至る。DeepFlow株式会社では、HPCクラウドを使った大規模シミュレーションを行っており、AIとシミュレーションを組み合わせた高度な設計技術の提供を行っている。

起業に至った背景は、こちらをご覧ください。
塾員来往 186回 深川宏樹

DeepTechとは?

DeepTechとは「科学的な発見や革新的な技術に基づいて、世の中の生活スタイルを大きく変えたり、社会の大きな課題を解決する取り組み」のことを言う。DeepFlow株式会社は、まさに大学・研究機関でのシミュレーション技術を元に生まれたので、DeepTechスタートアップといえる。

多くの歴史ある世界的な会社が何かしらの技術革新を元に誕生したことを考えれば、DeepTechスタートアップは目新しいことではない。しかし、近年のスタートアップは既存のIT技術を使ったビジネスモデルの改良といったものが少なくない。DeepTechという言葉が注目されるようになった背景には、そういったビジネスモデルの改良が一巡し、改めて技術革新に立脚したスタートアップが再評価されるようになったことがあると思える。

ディープテックで注目される分野は多岐に渡り、例えば、以下の9項目はDeepTechと言える。

  • 医療/医薬
  • 製造業のデジタル化
  • AI/ハードウェア
  • 航空宇宙
  • 食品/農業
  • ナノテクノロジー
  • 量子コンピュータ
  • エネルギー・環境
  • バイオ / 素材

DeepFlow株式会社とは?

高機能・高性能な製品開発に必要なシミュレーションを使った設計技術を提供している。従来の開発プロセスでは、設計と試作を繰り返しての品質改善が行われてきた。しかし、試作はとても手間がかかるし、データ取得も容易ではない。現在では、設計にCADソフトが使われ、設計がデジタル化されているので、これを元にデジタル空間上で物理シミュレーションを行えば、試作してデータを取得する手間が省ける。DeepFlowはこの設計に関連するシミュレーション技術を提供している。

設計・シミュレーションがデジタル化されると、基本的にはコンピューターの中で事が済み、開発そのもののプロセスを自働化することができる。沢山の設計をコンピューター上で素早く試せれば、良い設計に早く辿り着ける。

技術的な詳細はこちらをご覧ください。(英語)
DeepFlow Technichal Report

会社ホームページ
DeepFlow, Inc.

DeepTechを阻む三つの関門

基礎研究からスタートして、それが商品化され、市場に受けいられるまでには、魔の川、死の谷、ダーウィンの海と呼ばれる障壁を乗り越えなくてはならない。

魔の川(研究→開発)

魔の川は、研究ステージと製品化に向けた開発ステージの間に存在する障壁。この関門を乗り越えられずに、単に研究で終わって終結を迎えるプロジェクトも実際には多い。

死の谷(開発→事業化)

死の谷は、開発ステージと事業化ステージの間に存在する障壁。事業化には、それまでの開発段階と比べて資源投入の規模は一ケタ以上大きくなる。

ダーウィンの海(事業化→産業化)

ダーウィンの海は、事業化ステージと産業化ステージの間に存在する障壁。先の二つの関門を乗り越えて市場に出された製品やサービスが、競合他社との競争や顧客の反応にもまれて自然淘汰を生き残れるかどうかの関門で、プロジェクトの最終的な成否がここで決まる。

フェーズ 出来事
技術を育てる 研究開始→魔の川→開発本格化
製品を出す 開発本格化→死の谷→市場投入
社会を動かす 市場投入→ダーウィンの海→イノベーション成就

参考:イノベーション経営を阻む三つの関門 伊丹 敬之、宮永 博史

100万分の1のバラ

リチウムイオン電池の事業化をし、2019年にノーベル化学賞受賞したを吉野彰さんは、ひらめきから3つの関門を乗り越えて事業化するまでの過程を「100万分の1のバラ」と例えている。

ノーベル化学賞 吉野彰さん 開発秘話と未来への思い

研究を始めて、本当に成功するまでの確率というのは、ひらめきなんかも含めまして、恐らく確率的に100万分の1ぐらいなんです。100万分の1といったら、当たりくじを引くのも不可能だと思われるじゃないですか。そうじゃなくて、100万分の1って10のマイナス6乗ですから、10分の1を6回かければ、100万分の1なんですよ。ですから、各ステップごとに10分の1の確率。だから、10%の確率を確実に当てて、それを6回当たりくじを引いたら、結果的に100万分の1の宝くじを当てると。

10分の1を6回繰り返すには根気がいるが、確実にやっていけば、不可能な話ではない。技術を育てるのに100分の1、市場への出口を作るのに100分の1、社会を動かすのに100分の1とみることができる。

技術革新を起こすには、どれくらい頑張ればよいのか?

吉野さんの年表をみると、技術を育てるのに5年、市場への出口を作るのに5年、社会を動かすのに5年の月日がかかっている。

試練 年次 辛苦
魔の川 1981-1985年 リチウムイオン電池に至る基礎研究の辛苦
死の谷 1986-1990年 次々現れる課題の解決に追われる辛苦
ダーウィンの海 1991-1995年 市場が立ち上がるまでの辛苦

「ダーウィンの海」についての一考察 リチウムイオン電池発明から市場形成まで

これは一例であるが、DeepTechに携わるということは、10年から20年を捧げなくてはならないものだと分かる。

DeepFlowは今どこにいるのか?

私がシミュレーションをし始めたのが、2012年4月であり、もうすぐ10年経つ。
魔の川と死の谷は超えた。DeepFlowで開発する大規模シミュレーターは、HPCクラウド上で動いており、市場投入されている。あとは、ダーウィンの海を生き残り、市場に受けいられるかどうかである。

シミュレーションと製造業の未来

シミュレーションによる試作の削減が開発効率を上げるというのは、ほぼ自明である。実際にシミュレーションは製造業に活用されているのであろうか?

商用シミュレーターの市場は、世界でおよそ50億米ドルほどあり、年10%弱の成長分野である。市場は、アジア、欧州、北米で3分割されている。この数字を多いとみるか、それとも少ないとみるべきだろうか?

全世界のGDPの総額はおよそ100兆米ドルあり、およそ15兆米ドルが製造業の市場である。そのうち、研究開発費は1兆米ドルである。つまり、研究開発費のうち200分の1がシミュレーション関係に使われている。シミュレーションが研究開発に役にたつのなら、研究開発費用の20分の1の500億米ドルが使われてもおかしくはない。これが意味するのは、シミュレーションは、まだまだ使われてないということである。

実際の製品開発にシミュレーションを使ってみると、様々な制限がある事がわかる。それは、ひとえに「思ったより小さなモデルでしかシミュレーションができない」ということにある。もちろん、シミュレーションの研究では大規模な計算をしたという例があるが、一般的には、設計データからシミュレーションできる商用シミュレーターは大規模計算が苦手である。

その理由は商用シミュレーターは並列計算が苦手だということに尽きる。スマートフォンのCPUの性能向上がコアと呼ばれる計算ユニットの数で表現されることからもわかるように、現在のコンピューターの性能は計算ユニットの数で決まる。計算ユニットは、それぞれが協調しながらも基本的には独立して動く。つまり、商用シミュレーターが大規模計算が苦手なのは、沢山ある計算ユニットを協調させて動かせないからである。多くの商用シミュレーターが40年前に開発されたものの延長上にあり、計算ユニットの増えたハードウェアの変化に取り残されている。

もちろん、研究フェーズでは、大規模計算できるシミュレーターが開発されているが、実際の設計で求められる要件(計算とデータの多様性)を満たせず、製品開発に使われてない。

DeepFlowの革新的シミュレーター

我々は、設計者の使いやすさ(計算とデータの多様性)と並列計算の両立ができるシミュレーターの開発に成功し、シミュレーションの可能性を大いに広げた。我々は、このソフトウェアをElkurageと命名した。この研究成果は応用数理学会に論文として発表済みである。

応用数理31巻 (2021) 1 号/離散微分形式による大規模シミュレーション: 深川 宏樹

Elkurageの開発は、まさに死の谷を超えていく作業であった。膨大な開発費をつぎ込み、全てが整合しなければ、シミュレーターは正しく動かない。完成するまでは自分たちが正しく歩んでいるかもわからないのは辛く、それでも、マイルストーンを設けては、一歩一歩、自分たちの道を信じて登っていった。

DeepFlowのシミュレーションが変える設計のあり方

シミュレーションはもっと使われるべきというのが、私の意見である。現実は、商用シミュレーターが大規模計算に対応してないため、できることが限られていた。Elkurageの成功により、様々な計算ができるようになった。CADで作られた設計データが1000コアのHPCクラウドでシミュレーションにかけられているのは、驚きですらある。

今までは大規模な流体や音の解析ができなかったが、それができるようになった。レーザーや5Gの電波だって解析できる。今まで経験や感覚で設計していたことが、シミュレーションを通じて系統的に設計できるようになる。これは、設計を一段上のレベルにあげ、ひいては人々の生活までを変える。

「創造性を飛躍させる」、これは私が会社のミッションとした言葉だ。シミュレーションを通じて、設計者や開発者が、自分たちの想いを実現し、世に製品を出してほしいと願う。

DeepFlowのサービスについて

DeepFlowでは、シミュレーション技術の移譲を行っている。それは、設計者や開発者が自由にシミュレーションを使いこなしてこそ、設計開発工程が改善できると考えているからである。具体的には、各々の案件にあった設計の自働化ツールの作成を行う。これを使ってもらうことで、迅速な設計とシミュレーションのイテレーションを実現し、設計工程の加速を実現する。

各種ご依頼、お問い合わせ等については、以下の問い合わせからご連絡ください。

問い合わせ

どんな人がDeepTechスタートアップに向いているか?

スタートアップは未来の仕事をしている。そして、DeepTechを実現するには、魔の川、死の谷、ダーウィンの海と呼ばれる障壁を乗り越えなくてはならない。これは本当に辛い。任される仕事は誰もが為してない未踏の領域である。まさに100万分の1のバラを求めて、未開の地を進む探検家のようである。成功を信じる強い気持ちと、自分の持ち場をこなす強い責任感、仲間を気遣い励ましていくチームワークが重要である。

考え方によっては、大変で割りに合わないかもしれない。それでも、未来を創っていく感覚を持てることに幸せを感じられるのであれば、きっと楽しい仕事だ。

我々は、今ダーウィンの海にいる。きっと、この海も超えられる。

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