レコメンドシステム—— FM(Factorization Machine)の理論
シリーズの目次
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FM(Factorization Machine)とは?
Factorization Machine(FM)は、スパースな特徴量を持つ大規模データセットに対して高い予測精度を実現する革新的な機械学習モデルです。特に推薦システムの分野において、その効果的なアプローチが高く評価され、幅広く採用されています。
レコメンデーションシステムの重要指標
推薦システムの性能評価において、以下の2つの指標が特に重要視されています:
- CTR(Click-through Rate:クリック率)
- CVR(Conversion Rate:コンバージョン率)
これらの指標を精密に予測することは、以下の観点から重要です:
- トラフィック価値の最大化
- レコメンデーション精度の向上
- ユーザー体験の改善
予測手法の種類
CTR/CVRの予測には、以下のような手法が一般的に用いられています:
- 特徴量エンジニアリング + ロジスティック回帰(LR)
- GBDT(Gradient Boosting Decision Tree)+ LR
- FM(Factorization Machine)
- ディープラーニングベースのアプローチ
本記事では、FMモデルの基本原理と実装方法について、理論的な観点から詳しく解説していきます。
FMの公式
Factorization Machine(FM)は、2010年にKonstanz大学のSteffen Rendle氏(現Google)によって開発された、スパースデータにおける特徴量の組み合わせ問題を効率的に解決するアルゴリズムです。その概念を広告クリック予測の例を用いて説明します。この問題では、ユーザーと広告スペースの特徴を基に、広告クリックの可能性を予測します。
サンプルデータは以下の通りです:
このデータでは:
- Clicked:目的変数(ラベル)
- Country、Day、Ad_type:説明変数(特徴量)
これらのカテゴリカル変数はOne-hotエンコーディングによって数値化する必要があります:
データのスパース性について
One-hotエンコーディング後のデータには、顕著なスパース性が見られます。例えば:
- 7次元の特徴空間において、各サンプルで実際に値を持つのは平均3次元のみ
- これは特殊なケースではなく、実務では一般的な現象
実際のCTR/CVR予測では、以下のような特徴量でスパース性が発生します:
- ユーザー属性(性別、職業、学歴など)
- 商品カテゴリー(約550種類のサブカテゴリー)
- 550次元の特徴ベクトルが生成
- 各サンプルで有効な値は1つのみ
特徴空間の拡大
One-hotエンコーディングによって特徴空間が急激に拡大する課題があります。例えば:
- 単一のカテゴリカル変数(商品カテゴリー)が550次元の数値特徴量に変換
- 結果として、処理すべき特徴空間が大幅に増大
特徴量間の相関性
データ分析から、特徴量の組み合わせが予測精度に重要な影響を与えることが判明しています:
地域・季節性の相関:
- 「USA」×「Thanksgiving」
- 「China」×「Chinese New Year」
商品・属性の相関:
- 化粧品×女性ユーザー
- スポーツ用品×男性ユーザー
- 映画チケット×映画愛好家
これらの相関関係を適切にモデル化することが、予測精度向上の鍵となります。
多項式モデルの基本構造
多項式モデルは、特徴量の組み合わせを自然な形で表現できる直感的なモデルです。このモデルでは、2つの特徴量
モデルの数式表現
公式1:
ここで:
- n:特徴量の総数
-
:i番目の特徴量の値X_i -
、W_0 、W_i :モデルパラメータW_{ij}
モデルの課題
パラメータ数の問題
- 特徴量の組み合わせに関するパラメータ数は
個n(n-1)/2 - 各パラメータは独立して学習する必要がある
スパースデータにおける学習の困難さ
- パラメータ
の学習には、w_{ij} とx_i が同時に非ゼロとなるサンプルが十分に必要x_j - データのスパース性により、この条件を満たすサンプルは極めて少数
- 学習サンプルの不足は以下の問題を引き起こす:
- パラメータ
の推定精度の低下W_{ij} - モデル全体の性能劣化
- パラメータ
これらの課題は、実際のアプリケーションにおいて深刻な制約となる可能性があります。
FMの解法導出
行列分解による解決アプローチ
二次項パラメータの学習問題に対して、行列分解(Matrix Factorization)は効果的な解決策を提供します。この手法は協調フィルタリングの考え方に基づいており、評価行列をユーザー行列とアイテム行列に分解することで、各要素の潜在的なベクトル表現を獲得します。
具体的な例として、以下の図では:
モデルの数学的定式化
すべての二次項パラメータ
- V の各列は特徴の潜在ベクトルを表現
- すべてのパラメータは
=⟨W_{ij} ,V_i ⟩ として表現可能V_j
これがFMモデルの核心的なアイデアとなります。
公式2:
この式において:
-
は特徴iの潜在ベクトルV_i - ⟨⋅,⋅⟩ はベクトルの内積
- k は潜在次元数(k<<n)で、各特徴を表現するための因子数
パラメータ学習の効率化
この手法により:
- パラメータ数が kn に大幅削減
-
とx_hx_i のパラメータ間に相互依存関係が生まれx_ix_j - スパースデータでも安定した学習が可能に
モデルの汎用性と最適化
FMモデルは様々な問題に適用可能:
- 回帰問題:MSE損失関数を使用
- 分類問題:Hinge損失やCross-Entropy損失を使用
- バイナリ分類:シグモイド関数による変換
計算効率の最適化:
公式3:
確率的勾配降下法による効率的な学習
SGDによるパラメータ更新:
最適化のポイント:
-
は潜在ベクトルV_{j,f} の第f成分V_j -
の効率的な計算Σ^n_{j=1}V_{j,f}X_j - 全体の計算量をO(
)に抑制kn
この実装により、FMは線形時間での学習と予測を実現する、極めて効率的なモデルとなっています。
おわりに
FMモデルの柔軟性と汎用性
Factorization Machine(FM)は、その柔軟な設計思想により、以下のような様々な機械学習モデルの特性を包含することができます:
- SVMの二次多項式カーネル
- Matrix Factorization(MF)
- SVD++モデル
既存モデルとの比較
SVMとの比較
FMは以下の点でSVMの二次多項式カーネルを上回ります:
- スパースデータへの適応力が高い
- 学習・予測の計算量が線形時間で済む
- 大規模データセットでの実用性が高い
Matrix Factorizationとの比較
FMはMFの拡張として以下の利点を持ちます:
- 特徴量の種類に制限がない
- ユーザー特徴
- アイテム特徴
- その他任意の補助特徴(購買履歴の平均値など)
- より豊富な特徴表現が可能
- より柔軟なモデリングが可能
このような特性により、FMは実務上の推薦システムにおいて、より効果的かつ実用的なソリューションを提供することができます。
Discussion