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レコメンドシステム—— FM(Factorization Machine)の実践応用(候補アイテム抽出)

2023/09/27に公開

シリーズの目次

レコメンドシステムのシリーズをここにまとめています。
https://zenn.dev/datasciencekun/articles/dc0f61c0ca7f8d

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レコメンデーションシステムの基本アーキテクチャ

システムの主要フェーズ

レコメンデーションシステムは、主に以下の3つのフェーズで構成されています。各フェーズは独自の役割を持ち、システム全体の性能と効率性を支えています:

  1. リコールフェーズ(Recall)

    • 膨大なアイテムプールから候補を1,000件程度まで絞り込む初期フィルタリング段階です
    • 数百万から数千万規模のアイテムに対して、ミリ秒単位での高速な処理が求められます
    • 軽量なアルゴリズムと効率的なインデックスを活用し、スケーラブルな処理を実現します
    • ユーザーの基本的な興味や行動履歴に基づく粗い絞り込みを行います
  2. ランキングフェーズ(Ranking)

    • リコールフェーズで抽出された候補に対して、より精密な順位付けを行います
    • ディープラーニングなどの複雑なアルゴリズムを用いて、各アイテムの適合度を詳細に評価します
    • ユーザーの詳細な特徴や行動パターン、アイテムの属性情報など、多様な特徴量を考慮します
    • 計算コストの高い処理も、候補数が限定されているため実用的な時間で完了できます
  3. 再ランキングフェーズ(Re-ranking)

    • ビジネス要件やユーザー体験の観点から最終的な調整を行います
    • システムは以下の重要な要素を考慮して推薦リストを最適化します:
      • 既読アイテムや重複コンテンツの除外による新鮮さの確保
      • カテゴリーや話題の多様性を考慮した推薦リストの構築
      • 収益性を考慮した広告やスポンサードコンテンツの戦略的な配置

各フェーズの特徴と要件

リコールフェーズの最適化

処理速度の最適化は、リコールフェーズの核となる要件です。大規模なデータセットに対して高速な処理を実現するために、以下のアプローチが採用されています:

  • 処理速度の重視

    • 分散処理やインメモリキャッシュを活用した大規模データの効率的な処理
    • 計算複雑性の低いシンプルなモデルの採用(線形モデルやFMなど)
    • ベクトルデータベースやLSHなどの近似最近傍探索技術の活用
    • バッチ処理とストリーム処理の適切な使い分け
  • 限定的な特徴量の使用

    • オーバーフィッティングを防ぎ、汎化性能を確保するための特徴量の慎重な選択
    • ユーザーの本質的な興味を捉えるための重要特徴量の抽出
    • 更新頻度と計算コストを考慮した特徴量の設計

ランキングフェーズの精度向上

ランキングフェーズでは、高精度な予測と効率的な処理の両立が求められます。以下の戦略により、これらの要件を満たしています:

  • 高精度な予測の実現

    • ユーザーの人口統計学的特徴、行動履歴、コンテキスト情報など、豊富な特徴量の活用
    • ディープラーニングや勾配ブースティングなど、複雑なモデルの適切な選択と調整
    • A/Bテストを通じた継続的なモデル改善とパラメータ最適化
  • 処理対象の絞り込みによる効率化

    • リコールフェーズで抽出された候補のみを対象とすることによる計算負荷の制御
    • バッチ処理とリアルタイム処理の適切な組み合わせ
    • モデルの量子化やプルーニングによる推論速度の最適化

Factorization Machine(FM)の位置づけ

FMモデルは、以下の優れた特長を併せ持つことから、特にリコールフェーズでの活用が推奨されます:

  • 予測精度の高さ

    • 特徴間の相互作用を効率的にモデル化
    • スパースなデータに対する高い適応性
    • 線形モデルと比較して豊かな表現力を持つ
  • モデルの解釈可能性

    • 特徴の重要度や相互作用の強さを定量的に評価可能
    • モデルの挙動を理解し、改善点を特定しやすい
    • ビジネス要件との整合性の確認が容易
  • 迅速な開発・デプロイメント

    • シンプルな実装による開発サイクルの短縮
    • 計算効率の高さによる迅速なモデル更新
    • スケーラビリティの確保が容易

FM公式の基礎理論

基本式の解説

FMの基本式は以下のように表現されます:

FM:y=w_0+\sum_{i=1}^{n}w_ix_i+\sum_{i=1}^{n}\sum_{j=i+1}^{n}<v_i,v_j>x_ix_j

この式は、線形項と特徴間の相互作用を効率的に表現しています。第一項のw_0はグローバルバイアスを、第二項の\sum_{i=1}^{n}w_ix_iは各特徴の直接的な影響を、第三項の\sum_{i=1}^{n}\sum_{j=i+1}^{n}<v_i,v_j>x_ix_jは特徴間の相互作用を表現しています。この構造により、従来の線形モデルでは捉えきれなかった特徴間の複雑な関係性を効率的にモデル化することが可能となります。

実務適用での簡略化

実際のオンライン推薦システムでは、多くの場合、以下のような二値特徴量を主に扱います:

  • ユーザーの性別フラグ(男性=1、女性=0など)
  • 特定の興味カテゴリーの有無(スポーツ好き=1、それ以外=0など)
  • プロフィール情報の保持状況(入力済み=1、未入力=0など)
  • 購買履歴の有無(購入実績あり=1、なし=0など)
  • アイテムカテゴリーの所属フラグ(特定カテゴリーに属する=1、属さない=0など)

このような二値特徴量(0-1特徴量)のみを扱う場合、式は以下のように大幅に簡略化できます:

FM:y=w_0+\sum_{i=1}^{n}w_i+\sum_{i=1}^{n}\sum_{j=i+1}^{n}<v_i,v_j>

この簡略化により、計算量が大幅に削減され、リアルタイム推論の実現が容易になります。

計算の効率化

実装上の重要なポイントとして、以下の最適化戦略が挙げられます:

  • 値が1である特徴のみを考慮することで、不要な乗算を回避
  • 特徴ベクトルのスパース性を活用した効率的なメモリ管理
  • バッチ処理による計算の並列化と高速化

これらの最適化により、実用システムでの計算効率が大幅に向上し、ミリ秒オーダーでの応答が可能となります。また、メモリ使用量も最適化され、大規模なユーザー基盤に対しても安定したサービス提供が可能となります。

公式の理論展開

リコールメカニズムの基本設計

FMモデルを用いたリコールプロセスは、主にUser-to-Item(U2I)方式で実装されます。この方式は、ユーザーとアイテムの潜在的な関係性を効率的に捉えることができます。基本的なワークフローは以下の通りです:

  1. オフラインプロセス

    • 定期的なバッチ処理によるアイテムのembedding計算
    • ANN(Approximate Nearest Neighbor)インデックスの構築による検索の効率化
    • 特徴量の前処理と正規化
  2. オンラインプロセス

    • ユーザーの最新の行動データに基づくembeddingのリアルタイム計算
    • 高速なベクトルデータベースを用いた近似最近傍探索
    • 100万規模のアイテムに対してもミリ秒オーダーの応答を実現

特徴量の階層的分類

FMモデルで使用される特徴量は、その性質と役割に応じて以下の3つのカテゴリーに分類されます:

  1. ユーザー特徴(User Features)

    • 行動履歴データ:閲覧履歴、購買履歴、検索履歴など
    • プロフィール情報:年齢、性別、居住地域など
    • その他のユーザー固有情報:サービス利用期間、会員ランクなど
    • セッション内行動:直近の閲覧アイテム、クリック系列など
  2. アイテム特徴(Item Features)

    • コンテンツ特性:タイトル、説明文、画像特徴量など
    • 消費パターンデータ:閲覧頻度、購買率、人気度など
    • 商品属性情報:カテゴリー、価格帯、ブランドなど
  3. コンテキスト特徴(Context Features)

    • 時間情報:時刻、曜日、季節、特別なイベント期間など
    • 位置情報:ユーザーの現在地、配送地域、店舗位置など
    • デバイス情報:使用端末、アプリ/ブラウザの種類など

数理モデルの最適化

特徴ベクトルの効率的な再構成のため、以下のように表現を整理します:

v_i\{i=0......n\}=[v_u\{i=1.....m\},v_k\{k=m+1....n\}]

これにより、FMの基本式を以下の6つの意味のあるコンポーネントに分解することができます:

FM:y=w_0+\sum w1+\sum w2+\sum\sum<u_i,u_j>+\sum\sum<v_i,v_j>+\sum\sum<u_i,v_j>

各項の詳細な意味と役割は以下の通りです:

  1. バイアス項:w_0

    • モデル全体のベースラインとなるグローバルバイアス
    • データセット全体の平均的な傾向を表現
  2. ユーザー特徴の重み:\sum w1

    • 各ユーザー特徴の直接的な影響度
    • ユーザーの基本的な選好性を表現
  3. アイテム特徴の重み:\sum w2

    • 各アイテム特徴の直接的な影響度
    • アイテムの基本的な特性を表現
  4. ユーザー特徴間の相互作用:\sum\sum<u_i,u_j>

    • ユーザーの異なる特徴間の関係性
    • 複合的な興味や行動パターンのモデル化
  5. アイテム特徴間の相互作用:\sum\sum<v_i,v_j>

    • アイテムの異なる特徴間の関係性
    • 商品特性の複合的な効果のモデル化
  6. ユーザー・アイテム間の相互作用:\sum\sum<u_i,v_j>

    • ユーザーとアイテム特徴の適合性
    • パーソナライズされた推薦スコアの核となる部分

この分解により、モデルの各コンポーネントの役割が明確になり、効率的な計算と解釈が可能となります。また、各コンポーネントの重要度を個別に評価し、モデルの改善につなげることができます。

オンラインリコールの最適化戦略

効率的なスコアリング手法

リコメンデーションのリコールフェーズでは、数百万規模のアイテムプールから、各ユーザーに最適なアイテム候補を効率的に抽出する必要があります。このプロセスを効率化するため、スコアリングは以下の要素を組み合わせて実行されます:

マッチングスコアの構成要素

  1. アイテムの基本重み

    • アイテム自体の一般的な人気度や品質を表す基本スコア
    • カテゴリーや属性に基づく静的な重み付け
    • 時間経過による減衰を考慮した調整係数
  2. アイテム特徴間の相互作用

    • 異なるアイテム属性間の相乗効果を捉える
    • カテゴリー間の関連性や補完性を考慮
    • 価格帯と品質の関係性など、複合的な要因の評価
  3. ユーザー・アイテム特徴間の相互作用

    • ユーザーの興味プロファイルとアイテム特性のマッチング
    • 過去の行動履歴に基づく選好性の反映
    • コンテキスト情報を考慮した適合度の評価

計算の効率化

特徴ベクトルの内積計算において、数学的な性質を活用することで大幅な効率化が可能です。特に注目すべき性質として:

\sum\sum<u_i,v_j><\sum u_i, \sum v_j> として計算可能という点があります。

具体例を用いて説明すると:
(a+b+c)*(x+y+z)=ax+ay+az+bx+by+bz+cx+cy+cz

この性質を活用することで:

  • 個別の内積計算を1回の計算にまとめることが可能
  • メモリアクセスの回数を大幅に削減
  • キャッシュの効率的な活用が可能

最終的なマッチングスコアの算出

効率化された計算式を用いて、最終的なマッチングスコアは以下のように算出されます:

マッチングスコア=item侧のスコア+dot<itemベクトルの和,ユーザベクトルの和>

このアプローチにより:

  • 計算複雑性を大幅に削減
  • リアルタイム処理の実現
  • スケーラブルな処理の実現

実装のための埋め込み表現

効率的な計算を実現するため、以下の形式でembeddingを定義します:

ユーザー embedding:

E_{user}=[1,ユーザベクトルの和]

アイテム embedding:

E_{item}=[item侧のスコア,itemベクトルの和]

この表現形式により:

  • 次元削減による効率的なメモリ使用
  • 高速な類似度計算の実現
  • 効率的なインデックス構築

システム実装の利点

  1. オフライン処理

    • アイテムembeddingの事前計算による負荷分散
    • バッチ処理による効率的なリソース利用
    • 定期的なインデックス更新による鮮度確保
    • モデルパラメータの定期的な最適化
  2. オンライン処理

    • ユーザーembeddingのリアルタイム計算
    • 最新の行動データの即時反映
    • 高速なベクトル検索による候補抽出
    • 動的なスコア調整の適用

この方式により、FMモデルを用いた効率的なembeddingベースのリコールが実現可能となります。特に以下の利点が得られます:

  • 高速なレスポンス:ミリ秒オーダーでの推薦生成
  • スケーラビリティ:数百万規模のアイテムに対応可能
  • 柔軟性:新規アイテムやユーザーへの即時対応
  • 保守性:シンプルな実装による運用コストの低減

このアーキテクチャは、大規模なオンラインサービスにおける推薦システムの実装に広く採用されており、その有効性が実証されています。継続的な改善と最適化により、さらなるパフォーマンスの向上が期待できます。

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