データエンジニア向けSnowflakeプライバシー保護機能まとめと実践④不具合事例と改善リクエスト
はじめに
プライバシー保護を十分に実施しつつ、データ活用を推進する上で、Snowflakeのプライバシー保護機能は非常に強力な支えとなります。
これらのプライバシー保護機能についてに、以前に私の知見を以下の記事でまとめさせていただきました。
本記事では、これらの有力な機能を活用するにおいて、いくつか課題と思われるケースが明らかになっています。Snowflakeの実際のサポートケースから得られた知見をもとにそれらのケースについて、どのように対策をすべきか、またSnowflake社に対し、どのようなアプローチをしているか共有させていただければと思います。
投影ポリシーにおけるエラーメッセージによるプライバシー情報漏洩問題(改善対応中 9.2でリリース予定らしいが・・)
投影ポリシーを適用したテーブルでは、顧客IDなどの機密情報が出力されないように制御されるはずですが、特定のSQLエラー発生時に該当項目の値がエラーメッセージに出力されてしまう問題が起きていました。
投影ポリシーにおけるSQLエラーの再現
1.検証データの作成
以下のSQLを使用して、投影ポリシーのテスト用データとエラー再現環境を作成できます。
※全体的な権限設計や環境は以前の記事①をベースにしています。
USE ROLE PRIVACY_HO_ADMIN;
USE WAREHOUSE ADMIN_XS;
USE DATABASE PRIVACY_HO_DB;
USE SCHEMA PRIVACY;
-- テーブルの作成
USE ROLE PRIVACY_HO_ADMIN;
CREATE OR REPLACE TABLE PRIVACY_CUSTOMER_DATA (
CUSTOMER_ID NUMBER(19,0),
SEX STRING,
BIRTH_YEAR INT,
AREA STRING,
EMAIL STRING,
PHONE_NUMBER STRING,
CREDIT_CARD_NUMBER STRING,
ANNUAL_INCOME FLOAT,
CUSTOMER_RANK INT,
SMARTPHONE_TYPE STRING,
CAR_OWNERSHIP STRING,
DEPENDENTS INT,
HOBBY STRING,
CONSENT STRING
);
-- テストデータの挿入
INSERT INTO PRIVACY_CUSTOMER_DATA VALUES
(1234567890123456789, 'MALE', 2000, 'North', 'john.doe@email.com', '123-456-7890', '1234-5678-9012-3456', 75000.00, 3, 'iOS', '1', 2, 'Movies', '1'),
(2345678901234567890, 'FEMALE', 2000, 'South', 'jane.smith@email.com', '234-567-8901', '2345-6789-0123-4567', 82000.00, 4, 'Android', '1', 1, 'Sports', '1'),
(3456789012345678901, 'MALE', 2000, 'East', 'bob.johnson@email.com', '345-678-9012', '3456-7890-1234-5678', 68000.00, 2, 'iOS', '0', 0, 'Reading', '0'),
(4567890123456789012, 'FEMALE', 2000, 'West', 'alice.williams@email.com', '456-789-0123', '4567-8901-2345-6789', 91000.00, 5, 'Android', '1', 3, 'Travel', '1'),
(5678901234567890123, 'MALE', 2000, 'North', 'charlie.brown@email.com', '567-890-1234', '5678-9012-3456-7890', 78000.00, 3, 'iOS', '0', 1, 'Gaming', '1'),
(6789012345678901234, 'FEMALE', 1995, 'South', 'emma.davis@email.com', '678-901-2345', '6789-0123-4567-8901', 85000.00, 4, 'Android', '1', 2, 'Reading', '1'),
(7890123456789012345, 'MALE', 1998, 'East', 'james.wilson@email.com', '789-012-3456', '7890-1234-5678-9012', 72000.00, 3, 'iOS', '0', 1, 'Sports', '0'),
(8901234567890123456, 'FEMALE', 1990, 'West', 'olivia.jones@email.com', '890-123-4567', '8901-2345-6789-0123', 95000.00, 5, 'Android', '1', 0, 'Travel', '1');
次に、投影ポリシーを作成して適用します
-- 投影ポリシーの作成
CREATE OR REPLACE PROJECTION POLICY customer_id_projection_policy
AS () RETURNS PROJECTION_CONSTRAINT ->
CASE
WHEN CURRENT_ROLE() = 'PRIVACY_USER_ADMIN'
THEN PROJECTION_CONSTRAINT(ALLOW => true)
ELSE PROJECTION_CONSTRAINT(ALLOW => false)
END;
-- 投影ポリシーの適用
ALTER TABLE PRIVACY_CUSTOMER_DATA MODIFY COLUMN CUSTOMER_ID SET PROJECTION POLICY customer_id_projection_policy;
2.問題の確認
これで、以下のクエリを実行すると、以下のエラーが発生します
-- エラーが発生するクエリ
USE ROLE PRIVACY_ANALYST;
select
C.SEX,
C.BIRTH_YEAR,
C.AREA,
count(distinct C.CUSTOMER_ID) as UU
from
PRIVACY_CUSTOMER_DATA C
where
C.BIRTH_YEAR = 2000
and to_char(C.CUSTOMER_ID)
group by
C.SEX,
C.BIRTH_YEAR,
C.AREA;
このクエリを実行すると、以下のようなエラーが発生するはずです:
英語:Boolean value '1234567890123456789' is not recognized
日本語:ブール値「1234567890123456789」は認識されません
このエラーは、投影ポリシーが適用されているCUSTOMER_IDカラムに対し、WHERE句のto_char(C.CUSTOMER_ID)
が単独で使用されているため、ブール値として解釈しようとしてエラーが発生する状況も再現できます。
本事象のまとめ
この問題は、文字列をWhere句に単独で書いた際にBooleanに変換して解釈しようとする仕様があり、その際にエラーメッセージ上でハッシュ化された値が参考情報として出力されることが原因です。これは投影ポリシーの秘匿性を損なう重大な欠陥といえます。
Snowflake側でこの問題を認識し、V9.2のリリースで修正が実装される予定と伺っていましたが、現時点でもまだ解消はされておらず、解決していません。(早くリリースして)
集計ポリシーのK-匿名性における課題(改善リクエスト中)
集計ポリシーの制御はレコード数に対して適用されていますが、特定のレコードのユニーク数が考慮されておらず、プライバシー保護機能として欠点がある事が分かりました。
以下のSQLを使用して、集計ポリシーのK-匿名性問題を再現するためのテストデータと環境を作成できます。
集計ポリシーにおけるK-匿名性問題の再現
1.検証データの作成
-- 環境設定
USE ROLE PRIVACY_HO_ADMIN;
USE WAREHOUSE ADMIN_XS;
USE DATABASE PRIVACY_HO_DB;
USE SCHEMA PRIVACY;
-- トランザクションデータマートの作成
CREATE OR REPLACE TABLE TRAN_DATAMART (
TRANSACTION_ID NUMBER,
KAIIN_I NUMBER, -- 会員ID
SEX VARCHAR(10), -- 性別
BIRTH NUMBER, -- 生年
QTY NUMBER, -- 数量
AMOUNT NUMBER -- 金額
);
-- テストデータの挿入
-- 会員ID=1の人が5件のトランザクションを持つケース
INSERT INTO TRAN_DATAMART VALUES
(1001, 1, 'MALE', 1990, 1, 20),
(1002, 1, 'MALE', 1990, 1, 20),
(1003, 1, 'MALE', 1990, 1, 20),
(1004, 1, 'MALE', 1990, 1, 20),
(1005, 1, 'MALE', 1990, 1, 20);
-- 会員ID=2の人が1件のトランザクションを持つケース
INSERT INTO TRAN_DATAMART VALUES
(2001, 2, 'FEMALE', 1985, 2, 50);
-- 会員ID=3の人が2件のトランザクションを持つケース
INSERT INTO TRAN_DATAMART VALUES
(3001, 3, 'MALE', 1995, 3, 75),
(3002, 3, 'MALE', 1995, 2, 50);
-- 集計ポリシーの作成(5件以上のレコードのみ表示)
CREATE OR REPLACE AGGREGATION POLICY tran_min_count_policy
AS () RETURNS AGGREGATION_CONSTRAINT ->
CASE
WHEN CURRENT_ROLE() = 'PRIVACY_USER_ADMIN'
THEN NO_AGGREGATION_CONSTRAINT()
ELSE AGGREGATION_CONSTRAINT(MIN_GROUP_SIZE => 5)
END;
-- ビューの作成と集計ポリシーの適用
CREATE OR REPLACE VIEW TRAN_DATAMART_AGGREGATE AS
SELECT * FROM TRAN_DATAMART;
ALTER VIEW TRAN_DATAMART_AGGREGATE SET AGGREGATION POLICY tran_min_count_policy;
-- 権限付与
GRANT SELECT ON VIEW TRAN_DATAMART_AGGREGATE TO ROLE PRIVACY_USER_ADMIN;
GRANT SELECT ON VIEW TRAN_DATAMART_AGGREGATE TO ROLE PRIVACY_ANALYST;
2.問題の確認
管理者ロールでの確認(制限なし)
-- 管理者ロールでの確認
USE ROLE PRIVACY_USER_ADMIN;
-- 元テーブルの全データ確認
SELECT * FROM TRAN_DATAMART;
-- 集計クエリの実行
SELECT
COUNT(DISTINCT KAIIN_I) AS UU,
SEX,
BIRTH,
SUM(QTY) AS QTY_SUM,
SUM(AMOUNT) AS AMOUNT_SUM
FROM TRAN_DATAMART
GROUP BY SEX, BIRTH;
結果:
UU SEX BIRTH QTY_SUM AMOUNT_SUM
1 FEMALE 1985 2 50
2 MALE 1990 5 100
1 MALE 1995 5 125
アナリストロールでの確認(制限あり)
-- アナリストロールでの確認
USE ROLE PRIVACY_ANALYST;
-- 集計クエリの実行
SELECT
COUNT(DISTINCT KAIIN_I) AS UU,
SEX,
BIRTH,
SUM(QTY) AS QTY_SUM,
SUM(AMOUNT) AS AMOUNT_SUM
FROM TRAN_DATAMART_AGGREGATE
GROUP BY SEX, BIRTH;
結果:
UU SEX BIRTH QTY_SUM AMOUNT_SUM
1 MALE 1990 5 100
問題の説明
上記の結果から、以下の問題点が確認できます。
-
集計ポリシーは「5件以上のレコード」という条件を満たしていますが、それは単一の会員(KAIIN_I=1)の5件のトランザクションによるものです。
-
結果として、UU(ユニークユーザー数)が1であるにもかかわらず、その会員の性別(MALE)、生年(1990)、購入数量合計(5)、購入金額合計(100)が表示されてしまいます。
-
これはK-匿名性の実現性観点から非常に問題があります。通常、K-匿名性では「少なくともK人の個人が区別できない状態」を目指しますが、この場合は1人の個人に関する情報が特定できてしまいます。
この問題を解決するためには、集計ポリシーがレコード数だけでなく、ユニークユーザー数(DISTINCT KAIIN_I)も考慮できるように拡張する必要があります。現状のSnowflakeの集計ポリシーではこの機能が不足しているため、改善要望として挙げられています。(ほんと早く対応して欲しい。)
改善提案
集計ポリシーに対し、テーブル全体での閾値とは別に特定のカラムに対してもユニーク数が同閾値、もしくは別の閾値を設定し、制御できるようにすべきです。
例えばこのような実装になるのではないかと考えています。
-- 集計ポリシー実装案(変更なし)
CREATE OR REPLACE AGGREGATION POLICY improved_min_count_policy
AS () RETURNS AGGREGATION_CONSTRAINT ->
CASE
WHEN CURRENT_ROLE() = 'PRIVACY_USER_ADMIN'
THEN NO_AGGREGATION_CONSTRAINT()
ELSE AGGREGATION_CONSTRAINT(
MIN_GROUP_SIZE => 5
)
END;
-- 集計ポリシー適用(ユニーク数をカウントする対象カラムを明示的に指定)
ALTER VIEW TRAN_DATAMART_AGGREGATE
SET AGGREGATION POLICY improved_min_count_policy
COLUMN(KAIIN_ID, CUSTOMER_ID);
改善提案のまとめ
この方法により、テーブル全体でのレコード数だけでなく、特定のカラムのユニーク数も考慮した集計ポリシーが実現できます。例えば、会員ID=1の人が5件のトランザクションを持っていても、ユニークな会員IDが5未満の場合は結果が表示されなくなります。
これはK-匿名性の実現観点から重要な改善であり、個人の特定リスクを大幅に軽減することができると期待しています。
現実的な対応策
現状では、アプリケーション層でユニーク数をチェックするロジックを実装するか、ビューを作成して事前にユニーク数でフィルタリングする、もしくはノイズ関数を作り、簡易な差分プライバシー制御を追加するなどの対応が必要です。
ただいずれも制御するための対応やクエリパフォーマンスなどの影響を鑑みると推奨するのは難しく、改善を早く進めて欲しいと考えています。
DynamicTableにおけるマスキングポリシーとロール設計の課題(回避可能)
DynamicTableを活用したデータパイプラインにおいて、マスキングポリシーの適用に関する不具合的な事象が見つかりました。ただ、この問題は単なる技術的な非対応というよりはロール設計と適用方法に関する考え方の見直しを促すものです。
問題の発見
当初、2つのDynamicTableの参照元テーブルに同じマスキングポリシーを指定したにもかかわらず、一方のダイナミックテーブルの自動更新が成功し、もう一方が失敗するという現象が発生しました。調査の結果、この問題はIS_DATABASE_ROLE_IN_SESSIONを使用したMasking Policyが、Dynamic TableのINCREMENTALリフレッシュモードをサポートしていないことが原因でした。
IS_DATABASE_ROLE_IN_SESSIONの位置づけと課題
IS_DATABASE_ROLE_IN_SESSIONを使用したマスキングポリシーには、以下のような利点があります
- ロール管理の柔軟性 - マスキングポリシーの条件設定に追加するロールを、マスキング条件の対象となるロールに継承させることで、マスキングポリシー自体を変更せずに制御できる
- フラグとしての役割 - 特に権限付与をせず、マスキング条件の対象となるロールにフラグとして継承するだけなので、管理が容易になる
- マスキングポリシーの一元管理 - 同じポリシーを複数のテーブルやカラムに適用できるため、管理が容易になる
一方で、以下のような重要な制約や課題も存在します
- 同一データベース制約 - マスキングポリシーとDBロールは同一データベースで管理する必要があるという制約がある
- Dynamic Tableとの互換性問題 - IS_DATABASE_ROLE_IN_SESSIONを使用したMasking Policyは、Dynamic TableのINCREMENTALリフレッシュモードをサポートしていない
- ロール階層の複雑化 - IS_DATABASE_ROLE_IN_SESSIONは階層構造で継承される全てのロールにマスキング設定が適用されるため、意図しないロールに設定が反映される可能性がある
ロール設計の見直し
この問題から学んだ教訓として、以下のようなロール設計の改善アプローチが考えられます
- 目的別のロール設計 - データアクセスの目的に応じたロール設計を行い、IS_DATABASE_ROLE_IN_SESSIONの代わりにCURRENT_ROLE()を使用したシンプルな条件設定を検討する
CREATE OR REPLACE MASKING POLICY user_id_mask_alt AS (val VARCHAR)
RETURNS VARCHAR ->
CASE
WHEN CURRENT_ROLE() IN ('PRIVACY_MASK_ROLE', 'PRIVACY_HO_ADMIN') THEN val
ELSE '********'
END;
-
環境変化に強いポリシー設計 - データパイプラインの変更や拡張に対応できるよう、マスキングポリシーの実装方法を柔軟に設計する
-
ポリシーの定期的な検証 - システム変更やアップグレード時に、マスキングポリシーが正しく機能しているかを検証するプロセスを確立する
IS_DATABASE_ROLE_IN_SESSIONの適切な使用場面
IS_DATABASE_ROLE_IN_SESSIONが特に有効なケースは以下の通りです
- 単一データベース内でのアクセス制御 - 完全に一つのデータベース内に閉じたオブジェクトへのアクセス制御を行う場合
- データ共有シナリオ - 複数のSnowflakeアカウント間でデータを共有する際のきめ細かいアクセス制御
- マスキングポリシーの柔軟な管理 - マスキング対象のデータの表示有無をロールで制御する際に、対象となるロールが増減する場合
一方で、DynamicTableを使用する場合や複数データベースにまたがる設計では、CURRENT_ROLE()やCURRENT_AVAILABLE_ROLES()などの代替関数の使用を検討すべきと考えています。
ロール設計がしっかりしていれば起きなかった問題?というところではあるのですが、検証環境などで様々な検証していく中でロールを色々変えていった際に見つかった事象であり、DBを複数持たないシステムなどでは簡易に設計しても問題はない部分もあるので、備忘録的な内容としてまとめておきました。
本事象のまとめ
DynamicTableにおけるマスキングポリシーの問題は、単なる技術的な非対応ではなく、プライバシー保護のためのロール設計と適用方法に関する重要な示唆を与えてくれました。効果的なプライバシー保護を実現するためには、技術的な制約を理解した上で、目的に応じた適切なロール設計とポリシー適用が不可欠です。
特に、DynamicTableを使用する環境では、以下の点に注意が必要です
- リフレッシュモードの明示的な指定 - DynamicTableを作成する際は、リフレッシュモードを明示的に指定する
- マスキングポリシーの実装方法の選択 - IS_DATABASE_ROLE_IN_SESSIONの代わりにCURRENT_ROLE()を使用するなど、環境に適した実装方法を選択する
- 定期的な検証と監視 - マスキングポリシーが正しく機能しているか定期的に検証し、問題が発生した場合に迅速に対応できる体制を整える
マスキングポリシー適用時の内部エラー(回避可能)
マスキングポリシーを適用したテーブルに対するクエリで以下のようなエラーが発生するようになる場合があります。
SQL実行の内部エラー: エラー 300010のため、処理は中止されました:391167117。インシデント 3992370。
原因分析
この問題の主な原因は、マスキングポリシーの返却値のデータ型サイズとポリシーを適用するカラムのデータ型サイズが一致していないことにあります。一般的に合致しているようにも思いますが、汎用的なマスキングポリシーを複数の項目や複数のテーブルに適用している場合、それぞれの項目が必ず合致しているとは限らない場合があります。
- 顧客IDとは別のIDがあり、両方に適用したい
- 設計上、テーブルによって桁数が異なる場合がある
それらに対し、例えば、マスキングポリシーがVARCHAR(16777216)を返すのに対し、テーブルのカラムがVARCHAR(16)やVARCHAR(32)として定義されている場合に発生します。
具体的な例を示したいと思います。
create or replace masking policy PRV_MASK_00 as (VAL VARCHAR(16777216))
returns VARCHAR(16777216) ->
CASE
WHEN IS_DATABASE_ROLE_IN_SESSION('PRV_MASK_00') then SHA2(val || 'CUSTOMER_ID')
ELSE val
END
;
一方、マスキングポリシーが設定されている各テーブルのカラム「CUSTOMER_ID」は、以下のように異なるサイズで定義されていました:
create or replace TABLE PRIVACY_HO_DB.PRIVACY.CUSTOMER_PERMISSION (
CUSTOMER_ID VARCHAR(16), --> *
PERMISSION_CODE VARCHAR(255)
);
create or replace TABLE PRIVACY_HO_DB.PRIVACY.CUSTOMER_DEVICE_MAPPING (
DEVICE_ID VARCHAR(72),
CUSTOMER_ID VARCHAR(32), --> *
OS_TYPE VARCHAR(2)
);
create or replace TABLE PRIVACY_HO_DB.PRIVACY.CUSTOMER_STORE_ACTIVITY (
STORE_TYPE VARCHAR(8) ,
STORE_ID VARCHAR(13) ,
CUSTOMER_ID VARCHAR(16) , --> *
REGISTRATION_TYPE VARCHAR(20) ,
....
このデータ型サイズの不一致により、以前は動作していたクエリが突然エラーを返すようになりました。
対応策
1. データ型サイズの統一
最も根本的な解決策は、マスキングポリシーとテーブルカラムのデータ型サイズを一致させることです。
-- マスキングポリシーの定義時にデータ型サイズを適切に指定
CREATE OR REPLACE MASKING POLICY PRV_MASK_00 AS (VAL VARCHAR(32))
RETURNS VARCHAR(32) ->
CASE
WHEN IS_DATABASE_ROLE_IN_SESSION('PRV_MASK_00') THEN SHA2(val || 'CUSTOMER_ID')
ELSE val
END;
-- テーブルのカラム定義を調整
ALTER TABLE CUSTOMER_PERMISSION MODIFY COLUMN CUSTOMER_ID VARCHAR(32);
ALTER TABLE CUSTOMER_DEVICE_MAPPING MODIFY COLUMN CUSTOMER_ID VARCHAR(32);
ALTER TABLE CUSTOMER_STORE_ACTIVITY MODIFY COLUMN CUSTOMER_ID VARCHAR(32);
2. 汎用的なマスキングポリシーの設計改善
汎用的なマスキングポリシーを複数のテーブルに適用する場合、以下の点に注意して設計することが重要です
-
最大サイズの考慮: 適用するすべてのカラムの中で最大のサイズに合わせてポリシーを設計する
-- すべてのカラムに対応できる適切なサイズを選択 CREATE OR REPLACE MASKING POLICY generic_mask AS (VAL VARCHAR(256)) RETURNS VARCHAR(256) -> CASE WHEN IS_DATABASE_ROLE_IN_SESSION('MASK_ROLE') THEN SHA2(val || 'SALT') ELSE val END;
-
データ型変換の活用: 返却値のサイズを動的に調整する
CREATE OR REPLACE MASKING POLICY adaptive_mask AS (VAL VARCHAR) RETURNS VARCHAR -> CASE WHEN IS_DATABASE_ROLE_IN_SESSION('MASK_ROLE') THEN SUBSTRING(SHA2(val || 'SALT'), 1, LEAST(LENGTH(val), 32)) ELSE val END;
-
タグベースのアプローチ: カラムごとに異なるマスキング方法を適用
-- タグの作成 CREATE TAG mask_type; -- テーブルにタグを適用 ALTER TABLE CUSTOMER_DATA MODIFY COLUMN CUSTOMER_ID SET TAG mask_type = 'hash32'; -- タグに基づくマスキングポリシー CREATE OR REPLACE MASKING POLICY tag_based_mask AS (VAL VARCHAR, mask_type STRING) RETURNS VARCHAR -> CASE WHEN mask_type = 'hash32' THEN SUBSTRING(SHA2(val || 'SALT'), 1, 32) WHEN mask_type = 'hash16' THEN SUBSTRING(SHA2(val || 'SALT'), 1, 16) ELSE val END;
3. データ型チェックの自動化
いずれのケースでも、マスキングポリシー適用前にデータ型の互換性をチェックすることで、問題を事前に検出できます。
本事象のまとめ
当たり前のことではありますが、日常的なデータマネジメント品質を高める活動が重要です。
-
標準化されたデータモデル: 同じ種類のデータ(顧客ID、メールアドレスなど)には一貫したデータ型とサイズを使用する
-
マスキングポリシーのテスト: 新しいマスキングポリシーを本番環境に適用する前に、テスト環境で十分にテストする
-
段階的な展開: 大規模なシステムでは、一度にすべてのテーブルにポリシーを適用するのではなく、段階的に展開する
-
変更管理プロセス: マスキングポリシーの変更は、適切な変更管理プロセスを経て実施する
-
定期的な監査: 定期的にマスキングポリシーとテーブル定義の整合性を確認する
このような対策を講じることで、マスキングポリシー適用時の内部エラーを防ぎ、より堅牢なプライバシー保護機能を実現することができます。
対策のまとめ
マスキングポリシー適用時の内部エラーは、主にデータ型サイズの不一致によって発生します。この問題を解決するためには、マスキングポリシーとテーブルカラムのデータ型サイズを一致させることが最も効果的です。また、汎用的なマスキングポリシーを設計する際には、適用するすべてのカラムのデータ型とサイズを考慮し、互換性のあるポリシーを作成することが重要です。
適切なデータモデリングと事前チェックを組み合わせることで、このような問題を未然に防ぎ、安定したプライバシー保護機能を提供することができます。
まとめ
Snowflakeは強力なプライバシー保護機能を提供していますが、実運用に行う上では、公式ドキュメントだけでは分からない、実際に実装を進めることで判明する課題がある事も分かりました。本記事では、弊社内での検証や実装段階において、実際のサポートケースから得られた知見をもとに、主要な課題とその対応策を詳細に解説しました。
投影ポリシーにおけるエラーメッセージの情報漏洩問題は、プライバシー保護の根幹に関わる重大な課題です。この問題はSnowflake V9.2で修正が予定されていると報告を受けていますが、どうも伸びているようで、現時点でも解決していません。
集計ポリシーのK-匿名性における課題は、レコード数のみを考慮し、ユニーク数を考慮していない現在の実装の限界を示しています。僭越ながら、私がSnowflake社へ提案した改善案では、特定のカラムに対するユニーク数の閾値設定が可能になり、より堅牢なプライバシー保護が実現できるでしょう。
DynamicTableにおけるマスキングポリシーの問題は、IS_DATABASE_ROLE_IN_SESSIONの使用に関連する技術的制約を明らかにしました。この課題はロール設計の見直しによって回避可能であり、CURRENT_ROLE()などの代替関数の活用が推奨されます。
マスキングポリシー適用時の内部エラーは、データ型サイズの不一致によって発生する問題です。標準化されたデータモデルの採用や事前のデータ型チェックにより、この問題を未然に防ぐことができます。
今回は昨年よりいくつか機能検証を続けるなかで検出したいくつかの事象のうち、共有価値のありそうなものを取りまとめたものです。
また私だけでなく、私のチームの期待のデータエンジニアが見つけてくれたものもあり、チームとしてプライバシー保護のフェーズが進んできたことを嬉しく思ったりもします。
これらの課題に適切な対応をすることで、Snowflakeのプライバシー保護機能をより効果的に活用し、データの安全性と有用性のバランスを取りながら、組織のデータ戦略を強化することができるでしょう。プライバシー保護は単なる技術的な問題ではなく、ビジネスの信頼性と法令遵守に直結する重要な課題です。継続的な改善と適切な運用管理が、持続可能なデータ活用の鍵となります。
改善要望をリクエストする事について
またこのような具体的なユースケースや要望をSnowflake社へ伝える事は、また一般的な地味な印象のあるプライバシー保護機能の開発に携わるSnowflakeの開発エンジニアに対し、機能を活用していること、もっと活用したいと思っていること、またさらに良くなって欲しいという期待を伝えることになると考えています。
彼らが我々と直接対話する事は少ないと思いますので、サポートケースを通じた機能改善のリクエストに感謝の言葉も合わせて伝えたいと思います。
そして彼らのやる気がさらに刺激され、より一層強固な機能をリリースしてくれると良いなと、純粋で邪な気持ちを乗せながら、今日も検証結果とリクエストを仕事の合間にサポートへ投げるのでした。
最後に。
今回はかなりマニアックな記事になってしまったなと思っていますが、コミュニティの一員として、ともにより良いサービスを作り上げるパートナーの一人として、今以上に良い製品になってくれることへの期待を込めつつ、またプライバシー保護に関する要望をSnowflake社へ伝えてくれるデータエンジニアが一人でも多く増えると良いなと思い、自分の体験も含めて共有させていただきました。

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