Dreamforce 2025 Data Cloud Keynoteまとめ - Data360で実現する信頼できるデータ活用の未来
はじめに
Dreamforce 2025のData Cloud Keynoteでは、SalesforceのData CloudがData 360として進化し、断片化されたデータの課題を解決する新しいビジョンが発表されました。本記事では、基調講演の内容を詳しく解説しつつ、実際の企業事例やライブデモを通じて、Data360がもたらす価値を掘り下げていきます。
Data360とは? - Data Cloudの進化形
データの断片化という課題
多くの企業が直面している課題、それはデータの断片化です。
- 顧客情報が16の異なるシステムに散在
- システム間の連携がない
- 顧客とのタッチポイントでコンテキストが失われる
Rahul Aradkar氏(EVP & GM of Data Cloud)は、自身の娘と車を購入した後も、同じ車の広告を受け取り続けた実体験を例に挙げました。これは、購入データと広告システムが連携していないために起こる典型的な問題です。

Data360の3つのコアコンセプト
Data360は、以下の3つの柱で構成されています:
1. パーソナライズされたリアルタイム体験
全てのタッチポイントで、適切なタイミングで適切なメッセージを届ける
2. コンテキストを持つAIエージェント
断片化されたデータ全体にわたって、意味のあるコンテキストを提供
3. 統合されたCustomer360体験
販売、サービス、マーケティング、コマース全体での一貫した体験

驚異的な成長実績
Data Cloudコミュニティは1年で7万人に成長しました。その成果も目覚ましいものがあります:
- あらゆる地域・業界・セグメントで成功
- 中小企業から大企業まで幅広い導入
- 数週間で150万ドル以上の節約を実現した事例も

事例1: Metaの挑戦 - B2Bマーケティングの変革
課題: 2つの異なるMarTechスタック
Meta社のNick Harris氏とCorbin Tho氏が登壇し、Data360導入前の課題を共有しました:
- 中小企業チームと大企業チームで別々のツールセット
- マーケティング、製品、販売部門での断片化
- 顧客が別のセグメントに移行する際にコンテキストが失われる
- 広告主にとって非一貫な体験
Data360による解決
Data360の導入により、以下を実現:
統合前: 6つのMarTechプラットフォーム
↓
統合後: 3つのプラットフォーム
ビジネスインパクト
- 運用コストとライセンス費用の削減
- 四半期ごとに20〜30以上のキャンペーンを実施可能に
- より具体的なオーディエンスターゲティングによる収益増
- 初めて中堅市場の視聴者に収益を帰属させることに成功

Data360の技術アーキテクチャ
接続性 - あらゆるデータソースから
Data360がNo.1 CDPである理由は、その接続性にあります:
- どこからでもあらゆるデータに接続
- データ取り込み or ゼロコピーでの連携
- リアルタイムでの統合と調整
ガバナンスとセキュリティの中核
メタデータの管理体系:
- タグ付け
- 分類
- 統合ポリシーフレームワーク
- アクセスポリシー
- セキュリティポリシー
- マスキングポリシー
- 保持ポリシー
画期的な新機能: Data360 Clean Rooms
Clean Roomsとは?
従来のクリーンルームソリューションとの違い:
| 従来のソリューション | Data360 Clean Rooms |
|---|---|
| 生のテーブルを移動 | 調和された統合コンテキスト |
| データベースベンダー依存 | ゼロコピー基盤 |
| 限定的な相互運用性 | 複数クラウド間で相互運用可能 |
実践デモ: 航空会社とホテルの連携
基調講演では、架空の「Astro Airlines」と「Polonia Hotel」の連携デモが披露されました:
シナリオ
- ホテルのマーケティング担当者(April)が、高価値顧客セグメントを持ち込む
- 航空会社のメディア担当者(David)の匿名化セグメントとマッチング
- 安全なクリーンルーム環境で重複セグメントを作成
- 新しく発見されたオーディエンスをターゲティング
メリット
- ホテル側: 新規オーディエンスの発見とターゲティング
- 航空会社側: 広告収入の獲得
- 顧客側: シームレスな連携体験(個別のロイヤリティ追跡が不要)

AIエージェントとの統合 - コンテキストが鍵
95%のAIパイロットが失敗する理由
MIT調査によると、第1世代AIパイロットの約95%が失敗しています。
理由: エージェントにコンテキストが不足しているから

非構造化データの処理
Data360の進化した機能:
- PDF、画像、ビデオの処理
-
複雑なドキュメントの解析
- フローチャート
- 表
- グラフを含むドキュメント
従来のRAGモデルや大規模言語モデルでは、これらの精度は30〜40%程度でした。

医療分野での実践デモ
Cumulus Healthの事例:
シナリオ
糖尿病患者のHarperが臨床試験の対象かどうかを確認したい
従来の方法
- 複雑な医療文書を手動で解析
- 患者の年齢、検査結果、医療記録を確認
- 数時間〜1日かかる作業
Data360 + Agentforceの方法
- PDFをアップロード
- エージェントがデフォルト設定で自動処理
- ドキュメント全体をチャンク化
- "Tier 1の資格を得るには?"と質問
- 数秒で回答: "Harperは条件付きでTier 2の資格あり"

Salesforce自身の活用事例
カスタマーゼロとしてのSalesforce
Michael Andrew氏(Chief Data Officer)が、Salesforce自身のData360活用を紹介:
導入前の課題
- 断片化されたプロファイル(数億件)
- 数百ペタバイトのデータ
- Amazon、Snowflake上の巨大なデータレイク
- 数十万のアプリケーション
Data360導入後の成果
プロファイル統合状況:
- 1億5,300万の統合プロファイル
- 680億の信号が添付
- 46%のプロファイルが統合完了
ベクトルインデックス: 700,000件以上のドキュメント
具体的なビジネスインパクト
| 領域 | 成果 |
|---|---|
| セールス | 25,000人の販売者に適切にリード配信 |
| サービス | 180万人以上の顧客にサービス提供 |
| エージェント | 毎日23,000人の営業担当者がSlackで活用 |
| コスト削減 | 約1億ドルの節約(Help Agentによる) |

ゼロコピーの威力
節約額: 1,000万ドル以上のエンジニアリングコスト
理由: データを移動せずにアクセス可能
データ規模
- Snowflake: 90〜95兆レコード
- Amazon: 数百ペタバイト

SnowflakeとのパートナーシップDEEP DIVE
Christian Kleinerman氏(EVP of Product, Snowflake)が登壇し、パートナーシップの詳細を解説:
双方向データフロー
Salesforce → Snowflake
- 顧客データを製品データと結合
- 機械学習での予測生成
- リード生成
Snowflake → Salesforce
- 洞察をゼロコピーでSalesforceに戻す
- ユーザーの前に即座に提示
オープンエコシステムへのコミットメント
技術スタック:
- Apache Icebergベースのオープンデータ
- オープンカタログ
- セマンティックデータの相互運用性
- Open Semantic Interchange
- セマンティックデータの相互運用性
- オープンカタログ
ゼロコピーネットワークの拡大
新発表:
- IBM Zero Copy File Federation
- 108以上の新しいソース(ベータ版)

Informaticaの買収
規制当局の承認待ちですが、以下の相乗効果が期待されます:
- エンドツーエンドのデータ管理
- データ処理の流動性向上
- カタログ、統合、ガバナンス、MDMの強化
CPOのKrish氏とCTOのBala氏が会場に同席し、コミュニティからも歓迎されました。

Data Blazerコミュニティの力
コミュニティリーダー: Mehmet Ozkaya氏
Mehmet氏は、Data Cloudの長年のユーザーでありData Blazerコミュニティのリーダーです。
実績紹介
HubSpot → Salesforce CRM移行
- 期間: 3週間
- チーム: 4人のパートタイム
- 達成内容:
- Data Cloudに履歴データ統合
- 重複顧客の特定
- マーケティング活動の最適化
営業エージェントの立ち上げ
- 期間: 4週間
- チーム: 3人のパートタイムDreamer
- 内容:
- 過去のデータ活用
- Sales CloudとService Cloudのトランザクションデータ統合

コミュニティの成長
開始: 1年前
現在: 70,000人
1時間のプレゼンテーション
↓
1日間のワークショップ
↓
グローバルグループでの相互支援

2026年1月の新機能プレビュー
Mehmet氏が実際にベータ版を使用してデモを実施:
1. Simple Start(シンプルスタート)
特徴:
- CRMオブジェクトの自動取り込み
- 自動マッピング
- 組織でData Cloudをオンにしてから数分で準備完了
2. マッピングエージェント
従来の方法:
- ヘルプとトレーニングを確認
- スキーマを確認
- スプレッドシートを作成
- ターゲットオブジェクトを検索
- ドラッグ&ドロップでマッピング
→ 約1週間の作業
Data360マッピングエージェント:
- エージェントに依頼
- マッピング推奨事項が自動生成
- レビューして適用
→ 数分で完了
3. セグメンテーションエージェント
コンセプト:
- やりたいことを自然言語で入力
- 結果をテスト
- 微調整して実装
Mehmet氏の言葉:
「週は日になり、日は時間になります。いつか誰かが私たちの記録を破るでしょう」

4. アクティベーションエージェント
すべてのエージェントが2026年1月に一般提供開始予定です!
まとめ: Data360がもたらす未来
キーポイント
- Data Cloud → Data360: 名称変更と機能強化
- 断片化の解消: 信頼できるデータをどこでもアクティブ化
- Clean Rooms: 安全なパートナー連携
- AIエージェント統合: コンテキストを持つインテリジェントな体験
- ゼロコピー: データ移動なしでコスト削減
- 2025年1月の新機能: エージェント駆動のワークフロー
Data360が解決する3つの課題
データの断片化 → Data360 → 統合されたデータ
コンテキストの欠如 → Data360 → リッチなコンテキスト
複雑な統合 → Data360 → ゼロコピー連携
実績からわかる成功の秘訣
- 明確なユースケース: 何を解決したいか明確に
- 適切なパートナー: エコシステムを活用
- コミュニティの力: 70,000人のData Blazerから学ぶ
- 段階的実装: 3週間、4週間での成果が可能
- 継続的な学習: プラットフォームの進化に合わせて成長
Data360は、単なるデータ統合ツールではありません。顧客とのあらゆるタッチポイントで、適切なコンテキストを持って、リアルタイムに価値を提供するためのプラットフォームです。
2025年は、Data360とAIエージェントによって、真の意味での「Customer360」が実現する年になるでしょう。
参考リンク
本記事は私が所属する組織とは一切関係のない事象です。
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