📈 コード90％削減。Salesforceが「Data Cloud」で実践するデータドリブン革命の裏側

💡 はじめに

YouTubeでもData Cloudを活用するための有益な動画がアップロードされています。この記事では、Salesforceが社内で取り組む 「Salesforce on Salesforce」 というSalesforce自身がSalesforceを活用する事例として、具体的な使い方や成果、その裏にある技術や考え方をご紹介します。

「うちの会社にもデータはあるはずなのに、宝の持ち腐れになっている…」
「『顧客第一』と言いながら、部署の壁が厚くて、本当の意味で顧客を理解できていない…」

日々の業務でこんなもどかしさを感じているなら、この記事はきっとお役に立てるはずです。Salesforceでさえ、ほんの数年前まで同じ悩みを抱えていました。Salesforceはその巨大な「データの壁」を自らの手で打ち破り、今では驚くような成果を次々と生み出しています。

全編（プレイリスト全体）はこちらのリンクからご覧いただけます。

• Salesforce on Salesforce: Data Cloud and AI

🛠️ 課題：巨大企業Salesforceも苦しんだ「データの壁」とその突破口

グローバル企業として成長を続けるSalesforce。その裏側では、M&Aなどを繰り返した結果、顧客データが自社のSalesforce製品はもちろん、Snowflake、Google Cloud、AWSといった様々なシステムに点在。まるで、各部署が自分たちの「引き出し」にだけデータをしまい込み、隣の部署からは中身が見えない、そんな「データの分断」が深刻化していました。

会社として信頼できる唯一の顧客情報（SSOT：Single Source of Truth）を持つことができず、部門間の連携はちぐはぐになり、最高の顧客体験を提供する上での大きな足かせとなっていたのです。
この根深い課題を解決するため、Salesforceは自社製品「Data Cloud」を心臓部に据え、全社的なデータ基盤をもう一度作り直す決断をしました。その成功の裏には、これまでの常識を覆す複数のアプローチがありました。

突破口1: ゼロコピー： 「データを動かさない」という逆転の発想

一般的に、データを活用するには、あちこちからデータを一箇所に「コピー」して集める必要があります（ETL）。しかし、ETLには膨大な手間と時間がかかります。Salesforceがとったのは、その常識を覆す「ゼロコピー」というアプローチでした。
ゼロコピーは、データをわざわざ移動させるのではなく、SnowflakeやBigQueryなどデータが元々ある場所を直接、仮想的につなぐ技術です。これにより、常に最新のデータをリアルタイムにかつ安全に活用できるだけでなく、データ基盤の構築や運用にかかるコストと時間を劇的に減らすことができました。

突破口2: 調和 & 統合： 「ただのデータ」を「意味のある情報」へ

点在するデータを繋いだだけでは、まだ宝の持ち腐れです。そこで不可欠なのがデータを「使える資産」に変えるための、地道な「整理整頓」のプロセスです。

• 調和: Webのアクセス履歴、システムの顧客情報など、フォーマットがバラバラのデータを、共通の物差しで揃え、意味付けをしていきます。「このデータは顧客名、これは購入日」といった具合です。
• 統合: バラバラの名刺を一つにまとめるように、複数のメールアドレスや電話番号で登録されている顧客情報を「同一人物」として紐付けます。実際にSalesforceでは、このプロセスを経て2億6,700万件以上あったプロファイルを、1億4,200万件の「統合プロファイル」 へと磨き上げました。

こうした丁寧なプロセスこそが、あらゆるデータ活用の土台を支えています。

✨ 変革：データが起こした「4つの革命」と驚きの成果

こうして整えられたデータ基盤の上で、Salesforceはビジネスのあらゆる場面で「革命」と呼ぶべき変化を次々と起こしています。

革命1: 営業プロセスの革命："勘と根性"から"科学"へ

最も劇的だったのが、見込み顧客へのアプローチ方法の変革です。

これまで:

• 見込み顧客の評価や担当への割り振りは、もはや誰も全容を把握できない250万行のカスタムコード頼み。
• ルールを少し変えるにも開発者が必要で、情報が営業担当者に届くまで平均25分もかかっていた。

現在:

1. 顧客のあらゆる動き（シグナル）をData Cloudでリアルタイムにキャッチ。
2. 機械学習（Amazon SageMakerなどと連携）が、その顧客がどれくらい有望かを瞬時に1〜5でスコアリング。驚くことに、成約の90%がスコア3〜5の顧客から生まれることが分かりました。
3. 有望な顧客は、Salesforce Flow（自動化ツール）が即座に最適な営業担当者へ繋ぎます。
4. スコアが低い顧客には、AI（Agentforce）がその人に合わせた育成メールを自動送信し、関係を温めます。

この結果、カスタムコードを90%も削減し、ビジネスの変化にすぐ対応できる軽やかな組織へと変貌。営業担当者は「本当に会うべき顧客」に集中できるようになり、リードあたりの年間契約額（ACV）が60%も向上しました。

革命2: マーケティングの革命："バラマキ"から"一人ひとり"へ

顧客を深く理解できるようになったことで、マーケティング活動も劇的に変わりました。

• 広告最適化: 精緻な顧客リストをGoogleやLinkedInと連携させることで、広告の投資収益率（ROI）は5倍に。クリック率（CTR）も2倍になり、無駄な広告費がなくなりました。
• イベント集客: 顧客一人ひとりの興味に合ったイベントへ招待することで、イベントから生まれる商談の価値が2〜3倍に膨らみました。

革命3: 顧客サポートの革命："待たせる"から"先回り"へ

• AIによる自己解決: WebサイトのAIエージェントが、社内の知識をフル活用し、顧客の質問の85%をその場で解決。これにより年間で35,000時間ものサポート業務を削減できました。
• 営業への先回り通知: 担当顧客が料金ページを見た、といった購買意欲のサインを検知すると、即座にSlackで営業担当者へ通知。「助けてほしい」と言われる前に、こちらから手を差し伸べられるようになりました。

革命4: 意思決定の革命："個人の感覚"から"全員のデータ"へ

BtoBの取引では、多くの人が関わるため、どの施策が本当に成果に繋がったのか分かりにくいものです。Salesforceは、Tableauを使い、Webサイト訪問から商談まで、顧客との全ての接点がどれだけ貢献したかを可視化。これにより、個人の感覚に頼らない、データに基づいた的確な意思決定が可能になりました。

🔑 成功の鍵を握る「3つの原則」

これら全ての成功は、テクノロジーだけで成し遂げられたわけではありません。その根底には、誰でも真似できる、普遍的な3つの原則がありました。

1. データを「製品」として扱う
   「このデータは、誰の、どんな課題を解決するためにあるのか？」という目的を常に考える、ということです。価値ある製品を企画するように、データ活用を設計します。
2. 小さく始め、大きなインパクトを狙う
   完璧な計画を立てるより、まずは一つの課題を解決する「小さな成功」を目指しましょう。それが次の大きな変革への一番の近道です。（例：ライセンス上限通知の自動化だけで年間2,000万ドルの収益に）
3. 「量」より「質」を優先する
   全てのデータを集めようとするのではなく、ビジネスに最も影響のある「価値の高いデータ」に集中すること。それが、最速で成果を出すための賢い選択です。

🚀 チームで明日からできること

まずは小さな一歩から始めてみましょう。

• 一枚の付箋に「カスタマージャーニー」を書いてみる: 顧客があなたの会社と出会い、ファンになるまでの道のりを書き出す。そして、「どんな情報があれば、もっと顧客を喜ばせられるだろう？」とチームで話し合ってみましょう。
• チームの「あの面倒な作業」を特定する: あなたの周りにある、非効率で、複雑で、誰もが「どうにかならないかな」と思っている業務はありませんか？それこそが、データ活用の最初のターゲットかもしれません。
• 「顧客」に話を聞いてみる: データを見るだけでなく、実際に「なぜ私たちを選んでくれたのですか？」と聞いてみましょう。最高のヒントは、いつだって顧客自身が持っています。

✅ まとめ

Salesforceの事例が教えてくれるのは、データ活用が単なるツール導入プロジェクトではない、ということです。それは、ビジネスのあり方そのものを変える、壮大な冒険なのかもしれません。
そして、その冒険は、「顧客を深く理解したい」という強い想いと、それを実現するための賢いアプローチ、そして何より小さな一歩を踏み出す勇気から始まります。
この記事が、あなたの会社のデータ活用のジャーニーを後押しするきっかけとなれば幸いです。

参考文献

本記事は、以下のYouTubeプレイリストの内容を参考に、構成・解説しました。

• Salesforce on Salesforce: Data Cloud and AI

※本記事は、私が所属する会社とは一切関係のない事柄です。