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JuliaのLaTeX形式でのUnicode入力完全ガイド：π、θから演算子まで

2025/12/12に公開

この記事は以下のAdvent Calendarの12月12日の記事です：

はじめに

Juliaでは、数学記号をLaTeX形式で簡単に入力できます。例えば、\pi<tab>と入力するとπに、\theta<tab>と入力するとθに変換されます。この機能は、Julia REPL、VSCodeのJupyter Notebook（.ipynb）、その他のエディタで利用できます。

本記事では、Juliaで使えるLaTeX形式のUnicode入力を網羅的に紹介し、さらに定数や演算子として予約されているものについても解説します。

LaTeX形式の入力方法

基本的な使い方

バックスラッシュ \ に続いてLaTeXコマンドを入力
Tabキーを押して変換
Unicode文字が入力される

例：

\pi<tab>      # π
\theta<tab>   # θ
\alpha<tab>   # α
\sum<tab>     # ∑
\int<tab>     # ∫

VSCodeでの利用

VSCodeでJuliaの拡張機能をインストールすれば、Julia REPLと同様にLaTeX形式での入力が可能です。

Jupyter Notebookでの利用

JuliaカーネルがインストールされたJupyter Notebookでも、同様にLaTeX形式での入力が可能です。

入力コードの調べ方

既存のUnicode文字の入力方法を調べたい場合は、Julia REPLで ? を入力してヘルプモードに入り、その文字をペーストすると入力方法が表示されます。

julia> ?
help?> π
"π" can be typed by \pi<tab>

ギリシャ文字

小文字のギリシャ文字

LaTeXコマンド	文字	名前
`\alpha`	α	アルファ
`\beta`	β	ベータ
`\gamma`	γ	ガンマ
`\delta`	δ	デルタ
`\epsilon`	ε	イプシロン
`\zeta`	ζ	ゼータ
`\eta`	η	イータ
`\theta`	θ	シータ
`\iota`	ι	イオタ
`\kappa`	κ	カッパ
`\lambda`	λ	ラムダ
`\mu`	μ	ミュー
`\nu`	ν	ニュー
`\xi`	ξ	クサイ
`\pi`	π	パイ
`\rho`	ρ	ロー
`\sigma`	σ	シグマ
`\tau`	τ	タウ
`\upsilon`	υ	ウプシロン
`\phi`	φ	ファイ
`\chi`	χ	カイ
`\psi`	ψ	プサイ
`\omega`	ω	オメガ

大文字のギリシャ文字

LaTeXコマンド	文字	名前
`\Alpha`	Α	アルファ
`\Beta`	Β	ベータ
`\Gamma`	Γ	ガンマ
`\Delta`	Δ	デルタ
`\Epsilon`	Ε	イプシロン
`\Theta`	Θ	シータ
`\Lambda`	Λ	ラムダ
`\Pi`	Π	パイ
`\Sigma`	Σ	シグマ
`\Upsilon`	Υ	ウプシロン
`\Phi`	Φ	ファイ
`\Psi`	Ψ	プサイ
`\Omega`	Ω	オメガ

数学演算子と記号

基本的な演算子

LaTeXコマンド	文字	意味
`\pm`	±	プラスマイナス
`\times`	×	乗算
`\div`	÷	除算（整数除算）
`\cdot`	⋅	ドット積
`\ast`	∗	アスタリスク

Juliaでの演算子利用例：

julia> 5 ÷ 2  # 整数除算（\div<tab>で入力）
2

julia> [1, 2, 3] ⋅ [4, 5, 6]  # ドット積は定義によっては使用可能

比較・関係演算子

LaTeXコマンド	文字	意味
`\ne`	≠	等しくない
`\le`	≤	以下
`\ge`	≥	以上
`\approx`	≈	近似
`\sim`	∼	同等
`\equiv`	≡	合同
`\propto`	∝	比例
`\ll`	≪	非常に小さい
`\gg`	≫	非常に大きい

使用例：

julia> 5 ≠ 3  # \ne<tab>
true

julia> 5 ≤ 10  # \le<tab>
true

julia> 5 ≥ 3  # \ge<tab>
true

集合論の記号

LaTeXコマンド	文字	意味
`\in`	∈	属する
`\notin`	∉	属さない
`\ni`	∋	含む
`\subset`	⊂	真部分集合
`\supset`	⊃	真部分集合（逆）
`\subseteq`	⊆	部分集合
`\supseteq`	⊇	部分集合（逆）
`\cup`	∪	和集合
`\cap`	∩	積集合
`\emptyset`	∅	空集合

使用例：

julia> 3 ∈ [1, 2, 3, 4]  # \in<tab>
true

論理演算子

LaTeXコマンド	文字	意味	Juliaの関数
`\neg`	¬	否定	`!`
`\wedge`	∧	論理積（AND）	`&`
`\vee`	∨	論理和（OR）	`
`\oplus`	⊕	XOR	`xor`
`\barwedge`	⊼	NAND	-
`\veebar`	⊻	XOR（ビット演算）	`⊻`

使用例：

julia> true ∧ false  # カスタム演算子として定義可能
# 標準では & を使用
julia> true & false
false

julia> 2 ⊻ 11  # \veebar<tab> でXOR（Julia標準）
9

julia> xor(2, 11)  # 同じ結果
9

微積分の記号

LaTeXコマンド	文字	意味
`\partial`	∂	偏微分
`\nabla`	∇	ナブラ
`\int`	∫	積分
`\iint`	∬	二重積分
`\oint`	∮	周回積分
`\sum`	∑	総和
`\prod`	∏	総乗
`\infty`	∞	無限大
`\surd`	√	平方根

ルート記号

LaTeXコマンド	文字	意味
`\sqrt`	√	平方根
`\cbrt`	∛	三乗根
`\fourthroot`	∜	四乗根

使用例：

julia> √4  # \sqrt<tab>
2.0

julia> ∛8  # \cbrt<tab>
2.0

julia> ∜16  # \fourthroot<tab>
2.0

矢印記号

LaTeXコマンド	文字	意味
`\leftarrow`	←	左矢印
`\rightarrow`	→	右矢印
`\leftrightarrow`	↔	両矢印
`\Leftarrow`	⇐	左二重矢印
`\Rightarrow`	⇒	右二重矢印
`\Leftrightarrow`	⇔	両二重矢印
`\mapsto`	↦	写像
`\uparrow`	↑	上矢印
`\downarrow`	↓	下矢印

デリミタ（括弧類）

LaTeXコマンド	文字	意味
`\langle`	⟨	左山括弧
`\rangle`	⟩	右山括弧
`\lceil`	⌈	左天井
`\rceil`	⌉	右天井
`\lfloor`	⌊	左床
`\rfloor`	⌋	右床

上付き文字と下付き文字

上付き文字（Superscripts）

LaTeXコマンド	文字
`\^0`	⁰
`\^1`	¹
`\^2`	²
`\^3`	³
`\^4`	⁴
`\^5`	⁵
`\^6`	⁶
`\^7`	⁷
`\^8`	⁸
`\^9`	⁹

下付き文字（Subscripts）

LaTeXコマンド	文字
`\_0`	₀
`\_1`	₁
`\_2`	₂
`\_3`	₃
`\_4`	₄
`\_5`	₅
`\_6`	₆
`\_7`	₇
`\_8`	₈
`\_9`	₉

使用例：

julia> x₁ = 10  # \_1<tab>
10

julia> x₂ = 20  # \_2<tab>
20

julia> x₁ + x₂
30

Juliaで定義済みの定数

以下の記号は、Juliaで定数として予約されています。

記号	LaTeXコマンド	値	説明
π	`\pi`	3.14159...	円周率
ℯ	`\euler`	2.71828...	自然対数の底（e）
γ	`\gamma`	0.57721...	オイラー定数
φ	`\varphi`	1.61803...	黄金比
catalan	-	0.91596...	カタラン定数

確認例：

julia> π
π = 3.1415926535897...

julia> ℯ  # \euler<tab>
ℯ = 2.7182818284590...

julia> π = 3.14  # エラー！
ERROR: cannot assign a value to variable MathConstants.π from module Main

無限大とNaN

記号	意味
`Inf`	正の無限大
`-Inf`	負の無限大
`NaN`	Not-a-Number（非数）

julia> 1/0
Inf

julia> -1/0
-Inf

julia> 0/0
NaN

julia> NaN == NaN  # NaNは自分自身とも等しくない
false

Unicode演算子の定義

Juliaでは、Unicode記号を使ってカスタム演算子を定義できます。

ユーザー定義演算子の例

# クロネッカー積を ⊗ で定義
⊗(A, B) = kron(A, B)

julia> [1 2; 3 4] ⊗ [5 6; 7 8]
4×4 Matrix{Int64}:
  5   6  10  12
  7   8  14  16
 15  18  20  24
 21  24  28  32

ドット演算子の自動適用

Juliaでは、ユーザー定義のUnicode演算子にもドット演算子（ブロードキャスト）が自動的に適用されます。

julia> f ⊗ g = (x) -> f(x) * g(x)  # 関数の合成例

julia> [1, 2, 3] .⊗ [4, 5, 6]  # ドット演算子で要素ごとの演算

特殊な文字の正規化

Juliaでは、一部のUnicode文字が自動的に正規化されます。

入力文字	Unicode	正規化後
ɛ (Latin small letter open e)	U+025B	ε (Greek epsilon)
µ (Micro sign)	U+00B5	μ (Greek mu)
· (Middle dot)	U+00B7	⋅ (Dot operator)
− (Minus sign)	U+2212	- (Hyphen-minus)

julia> ɛ = 0.001  # Latin small letter open e
0.001

julia> ε  # Greek epsilon（同じ変数）
0.001

Unicode文字の完全なリスト

Juliaで利用可能なすべてのLaTeX→Unicode変換の完全なリストは、以下で確認できます：

公式ドキュメント： Julia Unicode Input
ソースコード： latex_symbols.jl

また、Julia REPLで以下のコマンドを実行すると、すべてのLaTeX記号を取得できます：

julia> Base.REPLCompletions.latex_symbols
Dict{String, String} with 1000+ entries:
  "\\pi"    => "π"
  "\\theta" => "θ"
  ...

実用例：数式をそのままコードに

Juliaの強力なUnicode対応により、数学の教科書に書かれている数式をそのままコードにできます。

例1：二次方程式の解の公式

function solve_quadratic(a, b, c)
    Δ = b^2 - 4*a*c  # 判別式（\Delta<tab>）
    if Δ < 0
        return nothing  # 実数解なし
    end
    x₁ = (-b + √Δ) / (2a)  # \sqrt<tab>, \_1<tab>
    x₂ = (-b - √Δ) / (2a)  # \_2<tab>
    return (x₁, x₂)
end

julia> solve_quadratic(1, -3, 2)
(2.0, 1.0)

例2：正規分布の確率密度関数

function normal_pdf(x, μ, σ)  # \mu<tab>, \sigma<tab>
    return 1/(σ*√(2π)) * exp(-(x-μ)^2 / (2σ^2))  # \pi<tab>
end

julia> normal_pdf(0, 0, 1)  # 標準正規分布のx=0での値
0.3989422804014327

例3：内積の定義

# ドット積演算子の定義
⋅(u, v) = sum(u .* v)  # \cdot<tab>

julia> [1, 2, 3] ⋅ [4, 5, 6]
32

例4：論理演算

# 論理積（AND）
∧(a, b) = a && b  # \wedge<tab>

# 論理和（OR）
∨(a, b) = a || b  # \vee<tab>

julia> true ∧ false
false

julia> true ∨ false
true

例5：Handcalcs.jlで美しい計算書を作成

Handcalcs.jlを使えば、Unicode記号を含む計算式を自動的にLaTeX形式の計算書として出力できます。

using Handcalcs

# 梁のたわみ計算
@handcalcs begin
    L = 5000  # 梁の長さ [mm]
    E = 205000  # ヤング率 [N/mm²]（\cdot<tab>で⋅が入力可能）
    I = 1.2e7  # 断面二次モーメント [mm⁴]
    w = 10  # 等分布荷重 [N/mm]

    # 最大たわみ（\delta<tab>）
    δ_max = (5 * w * L^4) / (384 * E * I)
end

上記のコードは、以下のような美しい計算書を出力します：

\begin{aligned} L &= 5000 \text{ [mm]}\\ E &= 205000 \text{ [N/mm²]}\\ I &= 1.2 \times 10^{7} \text{ [mm⁴]}\\ w &= 10 \text{ [N/mm]}\\ \delta_{\text{max}} &= \frac{5 \cdot w \cdot L^{4}}{384 \cdot E \cdot I} = \frac{5 \cdot 10 \cdot 5000^{4}}{384 \cdot 205000 \cdot 1.2 \times 10^{7}} = 6.65 \text{ [mm]} \end{aligned}

ギリシャ文字を使った例：

using Handcalcs

# 正規分布の確率密度関数
@handcalcs begin
    μ = 0  # 平均（\mu<tab>）
    σ = 1  # 標準偏差（\sigma<tab>）
    x = 1.5

    # 確率密度
    f_x = 1/(σ*√(2π)) * exp(-(x-μ)^2 / (2σ^2))
end

これにより、数式をコードで書きながら、自動的に読みやすい計算書が生成されます。

Tips: フォントの対応状況

記事や環境によっては、一部のUnicode文字が正しく表示されない場合があります。

まとめ

Juliaの強力なUnicode対応により、以下のことが可能です：

数学記号をそのまま変数名や演算子として使用できる
LaTeX形式でTab補完により、簡単に入力できる
定数（π、ℯなど）が予約されており、そのまま利用可能
カスタム演算子を定義して、数式をより読みやすく記述できる

数学的なコードを書く際に、Juliaのこの機能を活用することで、可読性が大幅に向上します。

参考資料

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はじめに

LaTeX形式の入力方法

基本的な使い方

VSCodeでの利用

Jupyter Notebookでの利用

入力コードの調べ方

ギリシャ文字

小文字のギリシャ文字

大文字のギリシャ文字

数学演算子と記号

基本的な演算子

比較・関係演算子

集合論の記号

論理演算子

微積分の記号

ルート記号

矢印記号

デリミタ（括弧類）

上付き文字と下付き文字

上付き文字（Superscripts）

下付き文字（Subscripts）

Juliaで定義済みの定数

無限大とNaN

Unicode演算子の定義

ユーザー定義演算子の例

ドット演算子の自動適用

特殊な文字の正規化

Unicode文字の完全なリスト

実用例：数式をそのままコードに

例1：二次方程式の解の公式

例2：正規分布の確率密度関数

例3：内積の定義

例4：論理演算

例5：Handcalcs.jlで美しい計算書を作成

Tips: フォントの対応状況

まとめ

参考資料

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