DXで人を動かす──「定常業務で十分」という空気を変える方法
1. 「定常業務で十分」という空気の正体
多くの職場では、サボっているわけでも、意識が低いわけでもない。
みんな、今の仕組みの中で精一杯やっている。
ただ、こう思っている人は多い。
「新しいことをやっても評価されない」
「どうせ変えてもシステムには反映されない」
「結局、上が決めないから、考えても無駄」
つまり、「定常業務で十分」というのは“諦め”ではなく、
“これまで報われなかった経験に基づく合理的判断”。
だからまず変えるべきは“人の意識”ではなく、“組織の構造”になる。
2. 「意識改革」ではなく、「動ける構造設計」から始める
DXの出発点は“意識を変える”ことではない。
「動けるように設計する」こと。
たとえば:
- 定常業務の中に“改善を考える時間”を制度として組み込む
- 改善内容を共有するフォーマットを統一し、“称賛”で終わるサイクルを設ける
- 改善事例がシステムや業務設計に還元される流れを明確化する
人は、やる気ではなく“構造”で動く。
動ける構造があれば、意識は自然についてくる。
3. 中途半端な意識改革は、組織を壊す
「変えてみよう」という意識だけが先に立つと、
現場では次のような現象が起きる。
- 各自が自分流でRPAやExcelマクロを作り出す
- 部署ごとに異なるテンプレートやデータが乱立
- 結果、誰も全体を把握できなくなる
つまり、構造を定義しないまま“意識”を動かすのは、むしろマイナス。
DXでは、「変える範囲」と「変えてはいけない範囲」を先に明示することが欠かせない。
4. Excelマクロのような“個人最適”は改善か?
Excelマクロで自動化する──一見よさそうだが、DX的には“負債”になりやすい。
理由は以下。
- 個人が作ると属人化し、誰もメンテできない
- データがシステム外に逃げ、構造が分断される
- 業務の全体最適が見えなくなる
つまり、「楽になった」は改善ではない。
**“構造に戻せる形で改善したかどうか”**が評価の基準であるべき。
唯一評価されるのは、
システム部門に相談し、暫定的にマクロを採用したケース。
設計書を共有し、将来の統合計画がある場合。
そうでなければ、“部分最適”に過ぎない。
5. インセンティブは「お金」ではなく「構造的な報い」
DXを進めようとすると、「インセンティブをつけた方がいいのでは」という声も上がる。
しかし、報酬で動くDXは長続きしない。
なぜなら、「改善をどう評価するか」が定義できないから。
金銭よりも効果的なのは、「改善が仕組みに反映される」こと。
たとえば:
- 改善が採用された人が次の会議の司会を務める
- 改善内容が社内ポータルに掲載され、他部署に展開される
- 改善が正式にシステム仕様に組み込まれる
つまり、“改善が組織構造に還元される”こと自体が、最大のインセンティブになる。
報酬ではなく、“自分の改善が次の仕組みになる”という実感が人を動かす。
6. 研修は“教える”ではなく、“現場で一緒に再設計する”
外部講師を呼ぶような座学研修は、あまり意味がない。
現場を知らない人に“意識を変えろ”と言われても、誰も腹落ちしないから。
効果的なのは、OJT型の「業務再設計ワークショップ」。
たとえば:
- 各部署で属人的に行っている業務を1つ持ち寄る
- 現場とシステム担当が一緒に、業務の“本来の流れ”を再設計する
- それを実務に反映し、再評価する
つまり、研修の目的は“スキル習得”ではなく、
**「現場で考え方を再構築する体験」**となる。
7. 改善を評価するのは“人”ではなく“仕組み”
「改善を正しく評価できる人が少ない」──これは事実。
だからこそ、DXでは“評価者”を増やすのではなく、“評価できる構造”を作る。
たとえば:
- Before/Afterをテンプレートで残す
- 定量化できない改善も「何を減らしたか」「何をやめたか」で可視化する
- 改善がシステムや業務に還元されたら自動的に評価される
改善を裁くのは上司ではなく、“構造の透明性”。
仕組みで見えるようにすれば、誰でも評価できる。
8. 結論:DXで人を動かすとは、「意識を変えること」ではなく「構造を設計すること」
DXは“技術の導入”でも、“モチベーション施策”でもない。
それは、「変わる必然をつくる構造改革」だ。
・動かなくても済む構造を壊し、
・動いた人が報われる仕組みを整え、
・属人化ではなく再利用される改善を残す。
この3つを揃えれば、意識はあとから変わってくる。
DXとは、“人を変えること”ではなく、
“人が変わらざるを得ない構造を正しく設計すること”である。
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