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DXとAI:“AI”って本当に必要なのか?

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最近は「AIがなんでも解決する」かのようなベンダーのCMや提案が目立つ。
しかし冷静に考えてほしい。AIは万能でも魔法でもない。
むしろ「AI」と言いながら、中身はただの固定ロジックに毛が生えた程度のものも少なくない。

例えば、会計ソフトにAI搭載と聞けば先進的に見えるかもしれない。
だが仕訳ルールが明確な会計処理にAIは不要で、固定ロジックで十分に事足りる。
そもそも社内データだけで学習するには量も質も限られており、AIらしい効果すら出ないケースも多い。

👉 ベンダーがつける「AI」というラベルに惑わされる前に、まずはAIの正体と限界を整理しておきたい。


1. プログラムとAIの正体

  • プログラムは「こう動いてほしい」という人間の命令の集まりにすぎない
  • 意味を理解せず、命令通りに正確に処理を実行するだけ

AIもその延長線上にある。
AIとは「大量のデータからパターンを学び、次に起こりそうなことを確率的に予測するプログラム」にすぎない。

ChatGPTのような生成AIも、意味を理解しているわけではなく「もっとも自然に続きそうな単語」を統計的に並べているだけ。

👉 AIはパターン予測マシンであり、正しさも責任も持たない。


2. AIが「すごそう」に見える理由と限界

AIが人を惹きつけるのは、人間の言葉で自然に答えるから。
だがそれは「理解しているように見える」だけ。

すごそうに見える理由

  • 自然な言葉で答えるため、理解していると錯覚する
  • 人間の反応を模倣できる
  • 出力が一見正しいことが多い
  • 同じ問いでも答えが変わるため「考えている」と錯覚する

実際の限界

  • 意味を理解していない(なぜ答えが出たか説明できない)
  • 判断根拠が不透明(ブラックボックス)
  • 学習データの偏りに引っ張られる
  • 苦手分野が多い(抽象的判断、計画立案など)

👉 結論:AIをどう使うかは人間の力量にかかっている。


3. なぜAIは毎回同じ答えを返さないのか

生成AIは、確率に基づいて次の単語や出力を選ぶため、同じ質問でも毎回同じ答えになるとは限らない。

仕組み

  • 「次に来る単語の候補」に確率を割り当てる
  • この分布からランダムに選ぶため、結果に揺らぎが生じる

ランダム性の理由

  • 常に同じ答えだと「テンプレ反応」になり人間らしさがなくなる
  • 多様性を持たせることで表現の幅が広がり、自然さが増す

👉 言い換えれば、答えが毎回違うのは欠点ではなく 自然さを出すための設計思想
ただし裏を返せば、一貫性や正確性が求められる場面では不安定さを内包する ということでもある。


4. AIの使い方には2つのレベルがある

AI活用には「ちょっと試す」と「業務に責任を持たせる」では大きな違いがある。

1. ツール利用(個人レベル)

  • 例:メール文案作成、要約、アイデア出し
  • 個人が補助的に使い、判断責任も本人にある
  • 効率化はできても 業務フローそのものは変わらない
    👉 イメージは電卓や翻訳アプリ

2. 業務活用(組織レベル)

  • 例:問い合わせ分類、原価分析、異常検知など
  • プロセスの一部として正式に組み込み、組織が責任を持つ
  • 設計・検証・改善サイクル が必須
    👉 インフラの一部として業務を支える

👉 「試しに使った」=効率化の小道具
👉 「業務に組み込んだ」=プロセスを変える仕組み


5. DX推進におけるAIの位置づけ

DXとは「AIを導入すること」ではない。
戦略と改革を実現するための手段群 の一部にすぎず、AIはそのさらに一部だ。

経営階層の整理

  1. 経営目的:利益拡大、競争優位、企業価値最大化
  2. 戦略:どこで戦うか、どこを捨てるか
  3. 改革:業務・組織・文化を変える
  4. 手段群:DX(AI活用、システム刷新)、人材育成、組織設計、制度設計

👉 AIが登場するのは「手段群」の領域に入ってから。
経営目的や戦略を定める段階ではAIは関係なく、改革の方向性が決まった後に「必要なら選ばれる手段」として登場する。


6. AI活用の前に明確にすべき課題

多くの企業は「土台」を飛ばしてAIに飛びつく。
結果、効果の薄い業務にAIを当てて「デジタルごっこ」で終わる。

本当に必要なのは:

  • 全体を見通したデータモデル設計
  • 業務フローの熟知と改善意識の底上げ
  • 自社で小規模改善を回せる体制

👉 AI以前に、業務理解と基盤整備が欠かせない。


7. AI活用構想(事例ベース)

製造業の例:

  • 顧客対応文の自動ドラフト生成
  • 類似品からの原価推定
  • CAD図面からの自動BOM生成
  • 生産計画・出荷計画の最適化
  • 原価データの自動診断と改善提案
  • 利益や費用のシミュレーション予測

ただし、いずれも 業務理解・データ基盤・運用体制 が揃って初めて実現できる。


8. 結論:AIは“最後に選ばれる手段”

AIは目的ではない。課題を解決するための選択肢のひとつにすぎない。

  • シンプルな業務は固定ロジックで十分
  • 複雑すぎてルール化できない領域にのみAIが有効
  • AIは業務理解・データ整備・運用力という 土台が整ってから 活きる

👉 「AIを使うこと」が目的化してはいけない。
AIは“最適手段を比較した結果、最後に選ばれるもの”である。


まとめ

  • ベンダーの言う「AI」は、実態が固定ロジックであることが多い
  • 社内データが少ないならAIは不要で、固定プログラムの方が正確
  • 本当にAIが必要なのは「固定ロジックでは対応できない複雑領域」だけ
  • DXにおけるAIは 手段のひとつ にすぎず、主役ではない

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