DXは業務改革の手段の一つにすぎない
「DXをやれ」と言われても、どこから手をつけるべきか分からない。
多くの会社は「DX=改革そのもの」と捉えて迷走する。
実際にはDXは経営階層の中で “最下層にある手段” にすぎない。
1. 経営を階層で整理するとこうなる
経営の議論は、階層を意識しないとすぐに混乱する。
上位の概念から下位にブレークダウンして考えると、DXの位置づけがクリアになる。
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経営目的
- 利益拡大、競争優位の確立、企業価値最大化
- 例:営業利益率を10%に引き上げる、株式市場での評価を高める
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戦略(Strategy)
- どこで戦うか、どこを捨てるか
- 新市場参入、シェア拡大、不採算事業の撤退
- 例:海外市場での展開強化、既存商品の高付加価値化
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改革(Transformation)
- 戦略を実現するために、業務・組織・文化を変える
- プロセス刷新、ビジネスモデルの変更、組織再設計
- 例:受注から出荷までのリードタイム短縮、直販モデルへの移行
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手段群(Reform Tools)
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DX(デジタルによる改革手段)
データ統合、AI活用、システム刷新 - 人材育成(リスキリング、スキル転換)
- 組織設計(権限移譲、フラット化)
- 制度設計(評価制度刷新、働き方改革)
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DX(デジタルによる改革手段)
👉 DXはここにしか出てこない。
つまり「DXから考える」のではなく、**「戦略と改革の下でDXを位置づける」**ほうが考えやすい。
2. なぜDXを全部に押し込むと迷走するのか
最近よくあるのが、「DX=あらゆる改革」という誤解。
- コンサル資料では「DXの要素」として 組織設計 や 人材育成 まで含めて描かれる
- そのせいで「DX=全部まとめて改革」に見えて、議論が発散する
- 範囲が広すぎて優先順位もつけられず、結局は RPA導入やクラウド化といった小規模改善レベル で終わる
👉 本来は「DXと組織改革・人材育成は並列の手段」。
DXはあくまで “デジタルによる改革の補助線” にすぎず、万能の切り札ではない。
さらに厄介なのは、システム部門のトップが「DX全体を仕切ろう」としてしまうケース。
- 組織設計や人材育成といった領域に踏み込めば、必ず詰む
- 事業構造や業務改革まで抱え込めば、ユーザ部門の協力を得られずに破綻する
システム部門の役割は「改革を支えるデジタル手段を提供すること」であって、経営や組織の根幹を背負うことではない。
3. 正しい順序
経営を動かすときの順序を誤ってはいけない。
- 目的 → 戦略 → 改革 → 手段
- この順序で進めて初めて「DXで効果が出る」状態になる
- 逆に、手段から考えると「とりあえずAI」「とりあえずクラウド」といった 場当たり的な投資 に陥り、迷走する
👉 DXは 最後に出てくる“道具箱のひとつ”。
まずは「何を実現したいのか」を決めるのが先。
まとめ
DXは改革の代名詞ではない。
「戦略と改革の下にある手段のひとつ」 にすぎない。
👉 だから 「DXから考えないこと」。
考えるべきは、経営目的と戦略。
その上で「どんな改革が必要か」を定めてから、ようやくDXの出番。
重要なのは、誰が仕切るか。
- 改革したい事業分野があるなら、その分野のトップが旗を振るべき
- 複数の事業分野をまたぐなら、その上位層が統括しなければならない
- ピラミッド型の組織で課長クラスが仕切ろうとすると、育成や組織設計で壁に当たり、業務改革も進まない
もちろん、課長発信でも動ける組織ならそれでいい。
ただ、大きな変革を目指すなら、基本的にはトップダウンでの旗振りが欠かせない。
そして、そのトップはシステム部門長ではない。
でなければ、大抵は小改善の積み重ねで終わってしまう。
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