LLMを用いてブログ記事の文法間違い・誤字脱字検出を自動化する
こんにちは。サイボウズ株式会社、生産性向上チームの平木場です。今回は、LLM を使ったブログのレビューを GitHub 上で行う方法について紹介します。
モチベーション
僕たちのチームでは、毎週開発者の生産性を高めるネタをワイワイ話す会(Productivity Weekly)を社内で開催しており、そこで出たネタをほぼ毎週ブログとして社外発信しています。記事はチームメンバーの有志で共同執筆していますが、歴史的経緯から僕がリポジトリの管理と他者執筆部分のレビューをしています。
レビュー自体は基本的に誤字や明らかに間違っていることを書いてないかを中心に見ていますが、やはり人間が読む以上、どうしても日本語的におかしい記述や誤字脱字を見逃してしまうことがあります。
そんな中、NTT コミュニケーションズさんが自社ブログに LLM 校正 CI を組み込む記事を出しているのを発見しました。
上記記事では、ブログ記事のプルリクエスト(PR)に対して、GitHub Actions と Azure OpenAI API を用いて誤字や文法誤りを発見させ、PR にコメントする仕組みを説明しています。プロンプトも載っており、完成する前の試行錯誤の様子も載せてくれています。
レビューを楽にするために、上記記事を参考に Productivity Weekly にも導入してみました。
できたもの
https://github.com/korosuke613/zenn-articles/pull/784 より。
PR 上で /ai-review
とコメントすると
レビュー結果が複数個返ってくる。採用(Commit Suggestion
)するかどうかはあなた次第
さらに何ドル使ったか教えてくれる。レビューログへのリンクも
レビューログ
https://github.com/korosuke613/zenn-articles/actions/runs/10281126089#summary-28449969363 より。
ログの保持期間が切れている場合は gist を参照ください。
要件
Productivity Weekly に導入するにあたり、どんな機能や制約が求められるかを考えます。
Productivity Weekly の特徴は次の通りです。
- 記事は Markdown で書かれ、GitHub リポジトリで管理されている
- リポジトリの可視性はパブリックである
- リポジトリオーナーは平木場(korosuke613)である
- 単一の記事を複数人で執筆する
- 平木場以外の執筆者はリポジトリをフォークし、記事のベースとなる PR に対して PR を出す形で執筆する
- レビューは平木場が行う
ざっくり特徴を書きました。特徴を踏まえて、今回の追加する機能の要件をざっくり整理します。
-
共同執筆者の任意のタイミングのコメントで LLM レビュー機能をキックする
- LLM によるレビューの精度は常に高いとは限らない、かつ、人によってレビューへの好みは分かれるため、あくまでオプショナルな機能として提供したい
- プルリクエストの「完成」がいつであるかを機械的に判断するのは難しく、執筆者が使いたいタイミングで使えるようにしたい
-
レビュー内容は suggested changes としてコメントする
- 修正を楽にしたい
- 提案を受け入れるかどうかを執筆者が判断できるようにしたい
- フォーク先からの PR に対応させる
-
オーナーが許可した人物のみ LLM レビュー機能をキックできる
- パブリックリポジトリであるため、世界中の誰でもコメントできるため、LLM レビュー機能を実行できてしまう。オーナーが許可した人物のみ実行できるようにしたい
-
オーナーのみがシステムプロンプトおよびソースコードを変更できる
- 共同執筆者がいたずらで LLM を悪用することを防ぎたい[1]
-
LLM は文法誤り、誤字脱字のみを対象にレビューする
- 妥当性の判断についてはまだ LLM を信用できてないので人間がレビューするようにしたい
構成
冒頭で触れた NTT コミュニケーションズさんの記事を参考に構成を考えます。
シンプルな流れ
- ユーザが PR にコメントを書く
- GitHub Actions が
on.issue_comment
イベントをトリガーにレビューワークフローを開始する - レビューワークフローが OpenAI に API リクエストを送信する
- OpenAI がレビュー結果を返す
- レビューワークフローがレビュー結果をコメントする
詳細の流れ
全ての処理を GitHub Actions のステップ(シェルスクリプト)で行うのは大変なので、一部の処理は TypeScript で行います。分け方としては、シェルスクリプトで簡単にできる処理はシェルスクリプト、それ以外の処理は TypeScript という感じです。
- GitHub Actions ワークフロー
- TypeScript コード
※ ① 〜 ⑥ はシーケンス図内の番号に対応しています。
実装: TypeScript コード
先に TypeScript コードから説明します。GitHub Actions ワークフロー部分は後述します。
今回シェルスクリプトで書くのが面倒な処理は TypeScript で作成しました。TypeScript を採用した理由は自分が慣れている言語だからです。ランタイムについては Deno を採用しています。こちらの理由は TypeScript をネイティブでサポートしており、TypeScript 利用の準備が簡単だからです[2]。
全てのコードを説明するのは非常に大変なので、要所要所を抜粋して説明します。
フルのコードは、以下を参照ください。
入出力
TypeScript コードの前提条件、入出力は次のように決めました。
- 前提条件
- プルリクエストの差分ファイルが存在する
- プルリクエストの対象のマークダウンファイルが存在する、かつ、プルリクエストの内容となっている
- 入力
- プルリクエストの差分ファイルへのパス
- レビュー材料とするため
- プルリクエストの対象のマークダウンファイルへのパス[3]
- レビュー結果を PR へコメントするために行番号を取得するため
- プルリクエストの差分ファイルへのパス
- 出力
- ReviewDog の rdjson 形式のレビュー結果ファイル
入力例
次の PR の場合の入力例を示します。
PR のマークダウンの差分
gh pr diff 777
で取得した差分ファイルの例です。
diff --git a/articles/productivity-weekly-20240724.md b/articles/productivity-weekly-20240724.md
index 18599cec..82b8df1e 100644
--- a/articles/productivity-weekly-20240724.md
+++ b/articles/productivity-weekly-20240724.md
@@ -36,7 +36,7 @@ user_defined:
今週の共同著者は次の方です。
- [@korosuke613](https://zenn.dev/korosuke613)
<!-- - [@defaultcf](https://zenn.dev/defaultcf) -->
-<!-- - [@Kesin11](https://zenn.dev/kesin11) -->
+- [@Kesin11](https://zenn.dev/kesin11)
<!-- - [@r4mimu](https://zenn.dev/r4mimu) -->
<!-- - [@uta8a](https://zenn.dev/uta8a) -->
@@ -73,6 +73,26 @@ https://sreake.com/blog/shellscript-good-practices/
## 完全ペアプロは「やりすぎ」だった。失敗を経て辿り着いた、ペアプロ×開発組織の最適解【Tebiki渋谷】 - レバテックラボ(レバテックLAB)
https://levtech.jp/media/article/interview/detail_485/
+Tebiki 社のペアプロ導入の経緯からその後の方針転換と、ペアプロ導入を成功させるためのポイントが紹介されている記事です。
+
+レビュー作業に時間がかかっているという課題を解決するため、全てのコーディングをペアプロに切り替えてから1年間は順調に進んでいたようです。しかし、一部のメンバーからペアプロでの作業が合わないという声が上がってきたことで、現在ではペアプロか従来のソロプロか好きな方を自由に選ぶという方向に転換されたようです。
+
+記事の後半ではペアプロ導入を成功させるための 4 つのポイントが紹介されているので、チーム開発においてペアプロ導入を考えている方は参考になると思います。
+
+----
+
+実は自分たち生産性向上チームでは基本的に毎日 13:30 - 17:00 の間はモブプロ[^mob_programming]で作業しているため、この記事は非常に共感できる内容でした。生産性向上チームのモブプロは数年前から続いており、その間にチームから離れたり、逆に中途や新卒入社で新しく加わる人など、メンバーは常に入れ替わってきました。現在では昔よりもメンバーが増えたことで、さすがに全員でのモブプロは効率が悪すぎるため最大でも 4 人のチームごとにモブプロを行うスタイルに変更されているものの、モブプロのスタイル自体は現在でも継続されています。
+
+こちらの記事を読んだ後に自分たちのモブプロの方法を振り返ってみると、紹介されていた 4 つのポイントのうち特に「休憩のルールを作ること」と「開発中の意思決定をペアの中に閉じること」の 2 点をかなり意識したモブプロを行っていると気が付きました。
+自分たちのモブプロは 25 分作業・5 分休憩のポモドーロテクニックをベースにしているので、休憩時間が自然と確保されています。また、5 分の休憩明けにモブ外のメンバーに相談するための時間を設けていることで、非同期の質問に対して回答を待つという無駄な時間が発生しにくいと感じています。
+
+ペアプロ・モブプロが上手くいくかどうかはチームの体制やメンバーの状況にもよるので一概には言えませんが、自分たちのチームのモブプロがこの記事で紹介されているポイントと一致していることを確認できたのは興味深かったです。
+
+[^mob_programming]: 2 人のペアプロに対して、3 人以上でプログラミングを行う場合は一般的にモブプロと呼ばれる
+
+
+_本項の執筆者: [@Kesin11](https://zenn.dev/kesin11)_
+
## 開発生産性を上げる"改善"は儲かるのか?──その問いに答えられるようにするには
https://codezine.jp/article/detail/19739
PR のマークダウン
OpenAI API へのリクエスト ④
プロンプト構成
プロンプトは次のようにしています。
システムプロンプト
あなたは日本語文章を校正するアシスタントです。
与えられたマークダウン形式の文章で、誤字・脱字、および、文法誤りのある行を抜き出し、修正した行を出力してください。
その際、確実に修正すべき誤りのみを出力してください。
また、以下のルールに従って修正を行ってください。
- 句読点の追加や削除はしない
- 英単語のキャピタライゼーションはしない
- 半角・全角の違いは修正しない
- 見出しの誤字脱字は修正しない
- 伸ばし棒の有無は修正しない
- スペースの有無は修正しない
- リストのインデントは修正しない
- 箇条書きの場合、文の終わりに句読点は不要
- 文体の統一は指摘しないで良い
- 読点の修正はしない
出力は、5個以下とし、より優先的に修正すべきものを出力してください。
また、markdown形式ではなく、以下のようなJSON形式で出力してください。reason には修正の理由を記述してください。
{
review: [ {"error_line": "...", "revised_line": "...", "reason": "..."} ]
}
ユーザープロンプト
ユーザープロンプトには、プルリクエストの差分を渡すのですが、追加した行のみを渡すようにしています。削除された行に対する文法誤り・誤字脱字修正は必要ないという考えからです。
次のような処理で、追加行のみの diff を作成し、ユーザープロンプトとして渡します。
// git diff のヘッダー(先頭 5 行)を削除
const removedHeader = diff.split("\n").slice(5);
// git diff の追加行のみを抽出
const filteredAddedLines = removedHeader.filter((line) =>
line.startsWith("+")
);
// git diff の追加行に含まれる先頭の + を削除
const removedPlus = filteredAddedLines.map((line) => line.slice(1)).join(
"\n",
);
// 空行を削除
const removedSpaceLines = removedPlus.split("\n").filter((line) => line !== "").join(
"\n"
);
API リクエスト
API リクエストは OpenAI 公式 SDK である openai/openai-node を利用します。
const input: ChatCompletionCreateParamsNonStreaming = {
model: "gpt-4o",
messages: [
{
"role": "system",
"content": AiReviewer.SYSTEM_PROMPT, // 上記システムプロンプト
},
{
"role": "user",
"content": markdown, // 上記ユーザープロンプト
},
],
response_format: { type: "json_object" }, // レスポンス形式を JSON に強制できる。これをやらないと JSON にならない場合がある
max_tokens: 1024, // 最大トークン数はお好みで良いが、自分は 1024 としている
// 残りの設定はお好みで
};
const openai = new OpenAI({ apiKey: "<APIキー>" });
// 次のプロンプトで指定した形式の JSON が得られる
// {review: [ {"error_line": "...", "revised_line": "...", "reason": "..."} ]}
const response = await openai.chat.completions.create(
input,
).choices[0].message.content;
レビュー結果の JSON 例
{
"review": [
{
"error_line": "実は自分たち生産性向上チームでは基本的に毎日 13:30 - 17:00 の間はモブプロ[^mob_programming]で作業しているため、この記事は非常に共感できる内容でした。",
"revised_line": "実は自分たち生産性向上チームでは基本的に毎日 13:30 - 17:00 の間はモブプロ[^mob_programming]で作業しているため、この記事に非常に共感できる内容でした。",
"reason": "「この記事は非常に共感できる内容でした」を「この記事に非常に共感できる内容でした」に修正することで意味が通りやすくなります。"
},
{
"error_line": "生産性向上チームのモブプロは数年前から続いており、その間にチームから離れたり、逆に中途や新卒入社で新しく加わる人などでメンバーは常に入れ替わってきました。",
"revised_line": "生産性向上チームのモブプロは数年前から続いており、その間にチームから離れたり、逆に中途や新卒入社で新しく加わる人など、メンバーは常に入れ替わってきました。",
"reason": "「その間にチームから離れたり、逆に中途や新卒入社で新しく加わる人などでメンバーは常に入れ替わってきました。」を「その間にチームから離れたり、逆に中途や新卒入社で新しく加わる人など、メンバーは常に入れ替わってきました。」に修正し、読点を加えて文を滑らかにします。"
},
{
"error_line": "自分たちのモブプロは 25 分作業・5 分休憩のポモドーロテクニックをベースにしているので休憩時間が自然と確保されています。",
"revised_line": "自分たちのモブプロは 25 分作業・5 分休憩のポモドーロテクニックをベースにしているので、休憩時間が自然と確保されています。",
"reason": "「なので、」の後に読点を加えて文を滑らかにします。"
}
]
}
レビュー結果の変換 ⑤
レビュー結果を GitHub の PR にコメントするために、今回は OSS である ReviewDog を利用します。理由としては suggested changes コメントを作りやすいからですが、コメントについてはそこまで方法を考えてなかったのでもっといい方法があったかもしれません。
ReviewDog を使った suggested changes コメントを作るために、レビュー結果を rdjson 形式に変換します。
rdjson 形式では、ざっくり次の内容を持っています。
- コメントに書くメッセージ
- suggest するファイルパスと行番号
- suggest の内容
これらを LLM から得られたレビュー結果より作成します。
rdjson 形式のレビュー結果例
{
"diagnostics": [
{
"message": "「この記事は非常に共感できる内容でした」を「この記事に非常に共感できる内容でした」に修正することで意味が通りやすくなります。\n※AI による自動修正提案です。修正を受け入れるかどうかはご自身で判断ください。",
"location": {
"path": "articles/productivity-weekly-20240724.md",
"range": {
"start": {
"line": 84
},
"end": {
"line": 84
}
}
},
"suggestions": [
{
"range": {
"start": {
"line": 84
},
"end": {
"line": 84
}
},
"text": "実は自分たち生産性向上チームでは基本的に毎日 13:30 - 17:00 の間はモブプロ[^mob_programming]で作業しているため、この記事に非常に共感できる内容でした。生産性向上チームのモブプロは数年前から続いており、その間にチームから離れたり、逆に中途や新卒入社で新しく加わる人などでメンバーは常に入れ替わってきました。現在では昔よりもメンバーが増えたことで、さすがに全員でのモブプロは効率が悪すぎるため最大でも 4 人のチームごとにモブプロを行うスタイルに変更されているものの、モブプロのスタイル自体は現在でも継続されています。"
}
]
},
{
"message": "「その間にチームから離れたり、逆に中途や新卒入社で新しく加わる人などでメンバーは常に入れ替わってきました。」を「その間にチームから離れたり、逆に中途や新卒入社で新しく加わる人など、メンバーは常に入れ替わってきました。」に修正し、読点を加えて文を滑らかにします。\n※AI による自動修正提案です。修正を受け入れるかどうかはご自身で判断ください。",
"location": {
"path": "articles/productivity-weekly-20240724.md",
"range": {
"start": {
"line": 84
},
"end": {
"line": 84
}
}
},
"suggestions": [
{
"range": {
"start": {
"line": 84
},
"end": {
"line": 84
}
},
"text": "実は自分たち生産性向上チームでは基本的に毎日 13:30 - 17:00 の間はモブプロ[^mob_programming]で作業しているため、この記事は非常に共感できる内容でした。生産性向上チームのモブプロは数年前から続いており、その間にチームから離れたり、逆に中途や新卒入社で新しく加わる人など、メンバーは常に入れ替わってきました。現在では昔よりもメンバーが増えたことで、さすがに全員でのモブプロは効率が悪すぎるため最大でも 4 人のチームごとにモブプロを行うスタイルに変更されているものの、モブプロのスタイル自体は現在でも継続されています。"
}
]
},
{
"message": "「なので、」の後に読点を加えて文を滑らかにします。\n※AI による自動修正提案です。修正を受け入れるかどうかはご自身で判断ください。",
"location": {
"path": "articles/productivity-weekly-20240724.md",
"range": {
"start": {
"line": 87
},
"end": {
"line": 87
}
}
},
"suggestions": [
{
"range": {
"start": {
"line": 87
},
"end": {
"line": 87
}
},
"text": "自分たちのモブプロは 25 分作業・5 分休憩のポモドーロテクニックをベースにしているので、休憩時間が自然と確保されています。また、5 分の休憩明けにモブ外のメンバーに相談するための時間を設けていることで、非同期の質問に対して回答を待つという無駄な時間が発生しにくいと感じています。"
}
]
}
]
}
最終的に変換されたレビュー結果をファイルに保存し、プログラムは終了します。
保存されたファイルはワークフローの残りのステップで利用します。
実装: GitHub Actions ワークフロー部分
ワークフローについても全てのコードを説明するのは非常に大変なので、要所要所を抜粋して説明します。
フルのコードは以下を参照ください。
特定のコメントで GitHub Actions のワークフローを実行させる
コメントの操作でワークフローを実行させるためには、on.issue_comment
を設定します。これにより issue_comment
イベントがトリガーとなり、ワークフローが実行されます。
さらに、types: [created]
を設定することで、コメントの作成時のみをトリガーにできます。
on:
# コメントでトリガーする
issue_comment:
types: [created]
ただ、これだけでは Issue へのコメントでも、どのコメントでも誰のコメントでもワークフローが実行されてしまいます。それを防ぐために、コメントの内容やコメントを書いたユーザをチェックする必要があります。
jobs:
review:
if: github.event.issue.pull_request && github.event.comment.body == '/ai-review' && contains(fromJson('["korosuke613", "allowed_user1", "allowed_user2", ...]'), github.event.comment.user.login)
上記コードは次の全ての条件を満たした場合にジョブを実行します。
- PR に対するコメントである
- コメントの内容が
/ai-review
である - コメントを書いた GitHub ユーザが
korosuke613
またはallowed_user1
またはallowed_user2
のいずれかである
プルリクエスト差分の取得 ①
TypeScript コードで利用するために、プルリクエストの差分を取得、ファイルへ書き込みます。
Git の差分の取り方はいろいろありますが、今回は個人的に簡単な方法である GitHub CLI を使った方法を採用します。
gh pr diff <PR番号> > ${{ runner.temp }}/pr.diff
また、対象のマークダウンファイルパスも必要であるため、同じく GitHub CLI を使って取得、GITHUB_OUTPUT
に保存します。
echo "diff_markdown_path=$(gh pr diff ${{ github.event.issue.number }} --name-only | grep 'productivity-weekly-' | head -1)" >> "$GITHUB_OUTPUT"
プルリクエストのブランチへの切り替え ②
TypeScript コードでプルリクエスト上の対象のマークダウンを利用するため、プルリクエストのブランチに切り替えます。
これも GitHub CLI を使って楽に行えます。また、後程必要になる最新のコミット SHA を GITHUB_OUTPUT
に保存します。
gh pr checkout --branch <任意のブランチ名> ${{ github.event.issue.number }}
echo "latest_git_sha=$(git rev-parse HEAD)" >> "$GITHUB_OUTPUT" # reviewdog によるコメントを行う際に必要
TypeScript コードの上書き ③
デフォルトブランチの TypeScript コードをローカルに上書きします。
これはプルリクエスト作成者がコードを変更して任意の LLM 利用を防ぐためです。
(なお、on.issue_comment
による実行のため、ワークフロー自体はデフォルトブランチのものが使われます。よってワークフローファイルの変更は気にしなくて大丈夫です)
先の説明では省略しましたが、必ずデフォルトブランチのコードを利用するために、ブランチ切り替え前に一時的にコピーを作成し、ブランチ切り替え後にコピーを元の場所に戻すようにします。
# 常に main ブランチの tools を利用するために一時的に tools をコピー
mkdir -p ${{ runner.temp }}/ai-review
cp -r ./tools ./deno.lock ${{ runner.temp }}/ai-review
# PR のブランチに切り替える
<省略>
# PR のブランチに tools をコピー
cp -f ${{ runner.temp }}/ai-review/deno.lock .
cp -rf ${{ runner.temp }}/ai-review/tools .
TypeScript コードの実行
先で説明した TypeScript コードを実行し、レビュー結果をファイルに保存します。
ReviewDog でコメント ⑥
ReviewDog を使ってレビュー結果を PR にコメントします。
ReviewDog を GitHub Actions 上で実行する場合、自動で PR 番号や最新のコミットからコメント先を特定してくれて便利ですが、on.issue_comment
や on.workflow_dispatch
で実行する場合はコメント先を自動で特定してくれずエラーで落ちてしまいます。
そのため、コメント先に必要な情報を環境変数(CI_COMMIT
など)として渡し、かつ、GITHUB_ACTIONS
環境変数を空にしておく必要があります(参考)。
- name: Comment on PR with ReviewDog
env:
REVIEWDOG_GITHUB_API_TOKEN: ${{ secrets.GITHUB_TOKEN }} # PR にコメントするために `pull-requests: write` 権限のある GITHUB_TOKEN を渡す
CI_REPO_OWNER: ${{ github.repository_owner }}
CI_REPO_NAME: ${{ github.event.repository.name }}
CI_PULL_REQUEST: ${{ github.event.issue.number }}
CI_COMMIT: ${{ steps.setup_branches.outputs.latest_git_sha }}
run: |
GITHUB_ACTIONS='' reviewdog -f=rdjson -reporter=github-pr-review -name=kiba-ai <./tools/dist/rdjson.json
工夫
LLM レビューを試行錯誤・デバッグしやすくする
常にデフォルトブランチのワークフロー、TypeScript コードを使うようになっているため、今回の仕組みを変更したい際の動作確認が難しくなってしまっています。
したがって、オーナー(平木場)のみデフォルトブランチ以外のワークフロー、TypeScript コードを利用できるようにしました。
具体的には、on.issue_comment
によるワークフロー実行と on.workflow_dispatch
によるワークフロー実行を分け、on.workflow_dispatch
によるワークフロー実行の際にはデフォルトブランチ以外のワークフロー、TypeScript コードを利用できるようにしました。
そのために LLM レビューの処理を reusable なワークフローとして切り出し、2 つのワークフローから呼び出せるようにしています。
使いたいコードのあるブランチを指定して、コメントしたいプルリクエストを指定する感じ
レビューにかかった料金を計算してコメントする
冒頭より再掲
LLM を使うのにはお金がかかるのです。共同執筆者の皆様にいくらお金がかかったのか実感してほしいため、レビューにかかった料金を計算し、PR にコメントするようにしました。
ついでにワークフローのログへのリンクも載せています(正直こっちの方が嬉しい)。
単価は OpenAI の料金表から持ってきています。最新の料金への追従は人力で行わないといけないのがつらいところですね。
料金計算については、ChatCompletion API のレスポンスの中にある CompletionUsage から得られる情報を使って利用トークン数から料金を計算しています。
やってみて
自分が見つけられない文法間違い・誤字脱字を見つけてくれる
これまでほとんどの記事を僕一人でレビューしていましたが、僕が見つけられなかった誤りを LLM が見つけてくれるようになってレビューで考えることが減りました。
また、共同執筆者からも毎回 /ai-review
してくれる人がいて、使いたい人が使ってくれています。
提案は受け入れられたり受け入れられなかったりという感じなので、満足度向上のために受け入れ率を上げたいところです。
プロンプトの組み立てがむずい
文法間違いや誤字脱字はちょくちょく見つけてくれますが、必要ない修正の提案も決して少なくありません。
例えば、textlint でチェックしているルールと相反する提案(textlint では半角文字と全角文字の間にスペースを入れるようにしているが、それらのスペースを消す提案をするなど)や、箇条書きの文末に句点を入れる提案などです。そういった変更は提案しないルールをプロンプトに加えても提案してくることがあり、なかなか難しいです。
もっと上手くプロンプトを組み立てたいですね。
OpenAI API、クラウド破産への防衛策が標準搭載されていて嬉しい。あと安い
OpenAI API は無料ではありません。今回 API 利用のためにクレカ登録をしましたが、クラウドサービスを使う上で怖いのがクラウド破産です。
例えば某クラウドサービスでは、毎月設定した額を超えそうになったり超えたりした場合にメールでお知らせしてくれる機能がありますが、メールでお知らせしてくれるだけで API 利用を自動で止める機能はありません。
こういったソフトリミットを設ける機能は嬉しい反面、ユーザーの対処が必須でちょっと不安です。
OpenAI API の場合、上記ソフトリミットに加え、上限を超えると API 呼び出しを制限するハードリミットを設ける機能が標準で搭載されています[4]。
また、先払い方式であるためチャージした分の額を超えても API 呼び出しが制限されることとなります(もちろんオートチャージ可能です)。二重に安心ですね。
僕は月のハードリミットを $5 に設定しており、かつ、オートチャージを無効にしています。
これらの防衛策によってバカスカ僕のトークンで API を叩かれてもクラウド破産せずに済んでますが、実はまだハードリミットに到達したことがない上、最初にチャージした $10 の残高がまだまだ残っています。
5 月ごろよりこの仕組みを取り入れたのですが、月当たりにかかる料金は平均 $0.15 ほどであり、これまで $1 弱しか使っていません。さばいてるトークン量は I/O 合計で月 20000 トークン前後で、全く使っていないということでもないです。
もちろん大規模になると話は変わりますが、週 1 の記事レビュー程度の規模だと大変安いですね。
最近登場した GPT-4o mini はもっと安いのでさらなる安さを求められるかもしれませんが、今の所 GPT-4o の速度・料金に十分満足しています。
偉大なる先行研究
僕が見つけた先行研究一覧です。この記事を読んでいる方は下記も参考にすると良いと思います。
-
LLM校正CIを自社のブログに導入してみた - NTT Communications Engineers' Blog
- この記事を見て同じことやるかとなりました
- やってること自体はほぼこの記事のパクリです。僕のこのクソ長くなってしまった記事より断然読みやすいです
-
ChatGPTを活用したブログレビューシステム | QualiArtsエンジニアブログ
- この記事を書き始める直前に見つけました
- 似たようなことを行なっていますが、さらに LLM の選定理由や適していないケースなどのノウハウが書かれています
-
LLMによる技術ブログレビューを導入した話 - Speaker Deck
- このセクションを書いているときに見つけました
- AI によるダブルチェックをさせていて面白いです
さいごに
LLM によるブログレビュー、いざ作ってみると思ってたより考えることは多かったですが、楽に実装できてそれなりに効果もあって満足しています。
どうしても僕のリポジトリに最適化されているためせっかくなので汎用化して OSS なんかにできると面白そうですね。すでにありそうという感じもする。
さて、実はこの記事は CYBOZU SUMMER BLOG FES '24 (生産性向上セイサンシャインビーチ Stage) DAY 2 の記事でした。明日は @naotama さんの記事が飛び出ることでしょう。お楽しみに!
-
常にデフォルトブランチのワークフロー、ソースコードを使うようにできますが、共同執筆者が GitHub Actions のワークフローを実行できる以上、OpenAI API キーの奪取は阻止できません(Environments で承認を必須にすると奪取を阻止できるが、今回は共同執筆者が任意のタイミングで LLM レビュー機能を実行できるようにしたいため難しい)。Push rules 機能が使えたら
.github/workflows/*.yaml
を書き換えられないようにして奪取を防げますが、残念ながら GitHub Enterprise Cloud プランでのみ利用可能です。Productivity Weekly は平木場の個人リポジトリなので使えないのです...
↩︎ -
最近は似たようなものとして Bun も有名ですが、Bun は使ったことがないため今回は見送りました。 ↩︎
-
Productivity Weekly で共同執筆者から送られる PR は、原則 1 つの PR につき 1 つのマークダウンの変更しか含みません。 ↩︎
-
商用製品に組み込む場合などはハードリミットを設けるのは怖いですが、個人利用の場合はいきなり止まっても問題ないので安心感があります。 ↩︎
Discussion