データインクレシオで評価する BI レポートの「見やすさ」
はじめに
サイボウズ株式会社のデータエンジニア/アナリストチームに所属している高田です。
先月から、デザイナーでないサイボウズ社員でもみんなでデザインを創り上げられるよう支援する
「みんなのデザイン室」に兼務で関わらせていただくことになりました。
兼務にあたりデザインについて勉強していく中で、
主務であるデータエンジニア/アナリストの業務にも関連しそうな
データビジュアライゼーションという分野に出会いました。
データビジュアライゼーションとは
情報を視覚的に正しく、わかりやすく伝えるための技術(あるいは学術領域)です。
その起源は18世紀に遡ると言われ[1]、ビッグデータの時代である現在はより重要性を増しています。
この分野の研究成果の恩恵を受けているビジネスツールのひとつがBI レポートです。
BI レポートを作成・共有する場面で、こんなフィードバックを受けた経験はないでしょうか?
または BI レポートを利用・レビューする場面で、こんなフィードバックをした経験はないでしょうか?
- レポートのどこを見ればいいかわからない
- 数字は出ているけれど、肝心なポイントが伝わってこない
あるいは、
自分でレポートを見返したときに「なんだか見にくいな」と感じることもあるかもしれません。
しかし、具体的にどの部分を改善すべきか、上記のレビューだけで判断できるでしょうか?
または具体的にどの部分を改善してほしいか、レビューできるでしょうか?
レポートの「見やすさ」は主観に左右されやすく、人によって基準が異なります。
そのため、客観的な指標が求められます。
本記事ではデータインクレシオ(Data-Ink Ratio) という
データビジュアライゼーション分野におけるひとつの概念を紹介し、
BI レポートの「見やすさ」を定量的に計測することを提案します。
想定読者
- レポートのデザインの善し悪しの判断に悩んでいる人
データインクレシオとは
簡単に言えば、
グラフやレポートの中で 「データを伝える部分」に使われているインク量の割合を示します。
- データインク: 表したいデータそのものに使われるインクの量
- ノン・データインク: 装飾や不要な目盛り・背景に使われるインクの量
- データインクレシオ:
データインクレシオが高いほど「データそのものに視覚を集中できる」デザインになります。
実際に目で見た方がわかりやすいと思うので、実例を紹介します。
(画像はこちらの記事からの引用です)
どちらの方がデータインクレシオが高く、視覚的に情報が得やすいグラフかは一目瞭然かと思います。
BI レポートでは「データが正しく伝わること」が最優先です。
装飾を削りデータそのものに視線を集めることは、
ユーザーが迷わず意思決定に必要なポイントを掴む助けになります。
実際のレポートで比較してみる
前項で「どちらの方がデータインクレシオが高いグラフかは一目瞭然」と書きました。
当然この「一目瞭然である」というのも主観に過ぎず、感覚的な評価の域を出ていません。
データインクレシオは視覚的に(感覚的に)理解できるため概念として受け入れられやすい一方で、
定量的に測定する方法が確立されていないことが課題だと個人的に感じています。
そこで今回は、
同じデータをソースとしたA・Bの2つのレポートを用意し、定量的に比較する方法を検討します。
ここでは UI 生成ツール v0 を利用して簡易的なレポートのスクリーンショットを作成しました。
レポートA
レポートB
測定方法のアイデア
レポートの「見やすさ」を定量的に評価する測定方法として、
ここでは「AI による自動評価」を提案します。
方法はシンプルで、
レポートのスクリーンショットをAI(chatGPT や Copilot など)に入力し、
「データインク」と「ノン・データインク」の割合を推定させるというものです。
例えば以下のようなプロンプトを用いて、上記2つのレポートを評価させてみます。
あなたはデータビジュアライゼーションの専門家です。
添付した画像はBIレポートのスクリーンショットです。
この画像の「データインクレシオ」を算出し、データの見やすさを定量的に評価してください。
- 「データインク」とは、グラフの棒・折れ線・プロット点など、データを直接表す部分を指します。
- 「ノン・データインク」とは、背景、余分な装飾、不要な目盛り・枠線を指します。
- 「データインクレシオ」は (データインク) / (データインク + ノン・データインク) で算出される評価指標です。この比率が高いほど、グラフや図表はデータを効果的に伝えることができます。
ここでは Copilot に上記プロンプトを入力し、結果を出力してみます。
比較結果をまとめてもらったところ以下の通りでした。
項目 | レポートA | レポートB |
---|---|---|
データインクレシオ | 約0.40 | 約0.65 |
視認性 | やや低め(装飾多め) | 高め(簡潔) |
改善余地 | 背景・装飾の削減 | 色使いの最適化 |
レポートAの出力詳細
画像解析の結果に基づき、「データインクレシオ(Data-Ink Ratio)」を以下のように定量的に評価しました。
🔍 データインクとノン・データインクの分類
✅ データインク(情報を直接伝える要素)
- 折れ線グラフの2本の線(赤:実績データ、青:目標ライン)
- 軸ラベル(年月、売上金額)
- グラフのプロット点や目盛り
- 数値付きの3つのボックス(売上、増加率、達成率)
❌ ノン・データインク(装飾や背景など、情報伝達に不要な要素)
- グラフの背景色や枠線
- カラフルなボックスの装飾(アイコン、色の強調)
- タイトルやキャッチコピー(「素晴らしい成果です!!」など)
- 余白や装飾的なレイアウト
📐 データインクレシオの算出(概算)
画像全体の面積に対して、データインクとノン・データインクの面積比を以下のように推定します:
- データインク:約40%
- ノン・データインク:約60%
したがって、
✅ データインクレシオ ≒ 0.40
📊 評価と改善提案
- 評価:このレポートは視覚的に魅力的で、重要な数値が強調されていますが、データインクレシオはやや低めです。つまり、装飾や非データ要素が多く、純粋なデータの伝達効率は高くありません。
-
改善提案:
- 背景色や枠線を減らす
- アイコンや過剰な色使いを控える
- キャッチコピーを控えめにするか、補足情報として配置する
レポートBの出力詳細
🔍 データインクとノン・データインクの分類
✅ データインク(情報を直接伝える要素)
- 「220万円」「+10%」「110%」などの数値情報
- 「実績」「目標」などのラベル
- 「6月売上」「前月比」「目標達成率」などの補足テキスト
❌ ノン・データインク(装飾や背景など、情報伝達に不要な要素)
- 背景色や余白
- アイコンや強調色(赤・青など)
- タイトルや装飾的なレイアウト
📐 データインクレシオの算出(概算)
このレポートはグラフが省略され、数値情報が中心となっているため、装飾が少なく、情報密度が高い構成です。
- データインク:約65%
- ノン・データインク:約35%
したがって、
✅ データインクレシオ ≒ 0.65
📊 評価と改善提案
- 評価:このレポートはデータインクレシオが高く、情報の伝達効率が良好です。グラフを省略し、数値を直接提示することで、視認性が向上しています。
-
改善提案:
- 色使いをさらに抑えることで、よりミニマルな印象に
- 数値の配置を整えることで、視線の流れをスムーズに
データインクレシオという指標を AI に利用させることで、
感覚的に「こちらの方が見やすい/見づらい」ではなく、数値で比較できるようになりました。
プロンプトをチームや社内で共有して活用すれば、
レポートの見やすさ/見づらさを統一した基準で議論できるようになりそうです。
また上記の測定方法以外では、「スクリプトによる構造解析」というアプローチも考えられます。
例えば Power BI の場合、
ビジュアルの種類や配置が定義されているファイルをレポートからエクスポートできます。[2]
このファイルを解析することで
「データ要素」と「装飾要素」を分離して数値化することが考えられます。
現状ではファイルから得られる情報が限られていますが、
今後のフォーマット拡張や BI ツールの進化により、より正確な算出が可能になるかもしれません。
今回紹介した測定方法はアイデアベースではありますが、
こうした試みを重ねることでデータインクレシオを
「理論としての理解」から「実務で使用する定量的な指標」へと活用を進められると考えています。
まとめ
データインクレシオの測定結果は、レポート改善の出発点として有効です。
もちろん、この指標だけで「良いレポートかどうか」を断定することはできません。
場合によっては、あえて色や装飾を用いた方がデータへの理解が促進されることもあるでしょう。
つまり、データインクレシオはレポートの品質を保証する絶対的な基準ではなく、
客観的な評価指標のひとつとして使うのが現実的です。
実務での活用イメージは次の通りです。
-
社内レビューの補助
「ここはデータが中心か? 装飾に偏っていないか?」を議論する材料にできる。 -
自己チェック
公開前に AI 判定やスクリプトでデータインクレシオを算出し、バランスを見直す。 -
改善の方向性提示
値が低ければ「余計な要素を整理しよう」というように改善点を見つけやすくなる。
データインクレシオは万能ではありませんが、
主観に流されがちなレポート改善に客観的な物差しを提供してくれます。
「自分のレポートはどうだろう?」と気になった方は、ぜひ一度試してみてください!
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