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ビジネスの複雑性を捉えるためのDDDアプローチ

2024/09/23に公開

はじめに

ソフトウェア開発において、ビジネスの複雑性を正確に捉え、効果的なシステムを構築することは重要な課題です。ドメイン駆動設計(DDD)は、その解決策として注目されており、ビジネスの本質をモデル化し、開発プロセスに反映させるためのアプローチです。本記事では、ビジネスの複雑性を捉えるためのDDDアプローチの全体的な流れについてまとめます。個々のトピックに関しての詳細は割愛します。

1. 事業分析から始める

DDDの最初のステップは、事業分析です。ビジネスの目的や課題を深く理解し、解決すべき問題領域(ドメイン)を明確にします。この段階では、ビジネスの専門家(ドメインエキスパート)と密接に協力し、共通の理解を築くことが重要です。

2. ドメインの分割とサブドメインの分類

ドメインを理解したら、次にそれをサブドメインに分割します。サブドメインは、ドメイン内の特定の機能や領域を表します。サブドメインは以下の3つに分類されます:

コアサブドメイン

ビジネスの競争優位性を生み出す最も重要な部分です。参入障壁を高くして競合他社が模倣しにくい独自の仕組みを作る必要があるため、必然的に複雑な業務ルールやアルゴリズムが含まれます。

汎用サブドメイン

多くのシステムで共通して必要となる一般的な機能で、競争優位性を直接生み出すものではありません。この領域のソフトウェアは複雑になることが多く簡単には作れないため、独自で開発するのではなく、実績のある外部のパッケージ製品やクラウドサービスなどを用いるのが効果的です。

支援サブドメイン

事業活動を支える上で必要なサブドメインですが、単純で競争優位性を生み出さない領域になります。業務ロジックは単純なCRUD機能が中心となることが多いです。この領域は競争優位性には繋がらないため、参入障壁を作る必要はありません。

3. 「境界づけられた文脈」の定義

サブドメインを明確にした後、システムを「境界づけられた文脈」に分割します。境界づけられた文脈は、特定のモデルと言語(ユビキタス言語)が適用される範囲を定義します。これは、チーム間のコミュニケーションを円滑にし、モデルの一貫性を保つために重要です。なお、境界づけられた文脈はシステムの設計であり、サブドメインと必ずしも1対1で対応するわけではありません。

4. アーキテクチャと実装戦略の選択

各サブドメインの特性に応じて、適切なアーキテクチャと業務ロジックの実装方法を選択します。

コアサブドメイン

コアサブドメインは、ビジネスの中核を成し、競合他社との差別化要因となる領域です。この部分でのソフトウェアの品質や柔軟性は、ビジネスの成功に直結します。

業務ロジックの実装

以下の理由からコアサブドメインの業務ロジックにはドメインモデルを用いることが必要不可欠です。

  • ビジネスロジックの複雑性の表現:コアサブドメインには複雑なビジネスルールやプロセスが含まれるため、これらを正確にモデル化するためにはドメインモデルが最適です。オブジェクト指向の特性を活かし、エンティティ、値オブジェクト、集約などの概念を用いてビジネスロジックを表現します。
  • 柔軟性と拡張性:ビジネス要件は時間とともに変化します。ドメインモデルを用いることで、モデルがビジネスの変化に追随しやすくなり、保守性が向上します。
  • ユビキタス言語の適用:ドメインモデルは、ビジネスエキスパートと開発者が共有するユビキタス言語を反映します。これにより、コミュニケーションギャップを減らし、ビジネス要件の正確な実装が可能となります。

アーキテクチャ

クリーンアーキテクチャ(=ヘキサゴナルアーキテクチャ、ポートとアダプター)を採用し、ビジネスロジックを中心に据えた設計を行います。クリーンアーキテクチャでは、依存関係の方向を制御してビジネスロジックをシステムの中心に置くアーキテクチャです。依存関係の方向を内側(ビジネスロジック)に向けることで、外部の技術的要素(データベース、UI、フレームワーク)に影響されない設計が可能になります。

その他のサブドメイン

支援サブドメインや、外部サービスを利用している汎用サブドメインとの連携部分などでは、よりシンプルな実装方法を利用できます。

業務ロジックの実装

データ構造がシンプルな場合は、トランザクションスクリプトパターンを利用します。単純な手続き的なコードでビジネスロジックを実装し、シンプルさを重視します。
データ構造が複雑な場合は、アクティブレコードパターンを利用します。アクティブレコードはデータ構造に加えてCRUD操作を含んだオブジェクトで、データ構造のマッピングをカプセル化します。

アーキテクチャ

レイヤードアーキテクチャを用いて実装します。

5. テスト戦略の策定

業務ロジックの実装方法に応じて、テスト戦略も変化します。

ドメインモデル

エンティティや値オブジェクト、集約などのドメインオブジェクトに対する単体テストが効果的です。そのため、これらのオブジェクトに対する単体テストを重視したピラミッド型のテスト戦略を採用します。

アクティブレコード

サービス層とデータアクセス層にまたがる統合テストを重視します。これにより、業務ロジックを効果的に検証できます。

トランザクションスクリプト

ビジネスロジックが単純であるため、エンドツーエンドのテストを中心に据えたアプローチが有効です。

6. チーム体制と責任範囲

バウンデッドコンテキストごとにチームの責任範囲を明確にすることが推奨されます。これにより、チーム間の依存関係を最小化し、効率的な開発が可能になります。ただし、組織の規模やリソースに応じて柔軟に対応することも重要です。

7. まとめ

ドメイン駆動設計を効果的に活用するためには、事業分析から始まり、サブドメインの適切な分類、境界づけられた文脈の定義、そしてそれぞれに適したアーキテクチャと実装戦略の選択が不可欠です。特に、コアサブドメインにおけるドメインモデルの採用は、ビジネスの複雑性を正確にモデル化し、競争優位性を維持・強化するために重要な要素です。また、テスト戦略やチーム体制も、システムの品質と開発効率に大きな影響を与えます。

参考文献

『ドメイン駆動設計をはじめよう ―ソフトウェアの実装と事業戦略を結びつける実践技法』

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