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Dockerビルドを分離してデプロイを高速化した話

2020/12/07に公開

10月からジョインした新しいプロジェクトについてデプロイ処理がなかなかに遅く、リリース開始すると他に集中できない半端な時間が発生したり、動作確認のためのステージングデプロイから反映されるまでに時間を潰す必要があったりと、開発のスピードを阻害する要因になっていました。

チームの中で自分が比較的インフラやDockerビルドなどに詳しいということ、また幸い今のチームには一週間のうち一日を事業KPIなどに紐付かない業務改善・負債返済に当てるToDoDay/HackDayと呼ばれる取り組みがあるため、この時間を使って問題の解決を試みました。

TL;DR

Railsセットアップ・webpackフロントエンドビルド・アセットのS3アップロードの全タスクが単独のDockerfileで実行されていたところからフロントエンドを分離し、バックエンドのみの変更に対するデプロイではフロントエンドビルドが実行されないようにした。

条件付きとはいえデプロイ時間の8割近くを占めていたビルド処理がスキップされるようになり、開発体験の向上に寄与した。

もともとどうなっていたか

まず、改善前時点での対象アプリケーションの構成やデプロイフローをざっと確認します。

アプリケーションとデプロイの構成

Railsバックエンド+Reactフロントエンドで、ほぼAPI+ブラウザ側アプリケーションの構成[1]です。
フロントエンドはRailsとは分離したwebpackプロジェクトになっていますが、古いページに一部Railsのアセット管理に乗ったjs/cssが存在しています。

RailsアプリケーションはDockerコンテナとしてAmazon ECS上で動作し、js/cssなどアセット類(webpackビルド成果物 + Railsアセットビルド成果物)はS3にアップロードされCloudfront経由でwebアクセスされます。

これらの構成より、デプロイで実施されるべきタスクは

  1. Railsコンテナのイメージビルド(bundle install, ソースコード配置)
  2. アセットビルド (webpack, Rails assets)
  3. アセットのS3へのアップロード
  4. RailsコンテナイメージのECRへのプッシュ & ECS上のコンテナ入れ替え

となります。

もともとのデプロイ処理

前述のタスクのうち、1,2,3が単独のDockerビルドフローで実施されていました。

概略を伝えるため、簡略化した疑似Dockerfileを示します:

baseイメージ
FROM ruby
RUN apt-get install -y nodejs some-other-packages ...
RUN npm install -g yarn

COPY Gemfile Gemfile.lock
RUN bundle install
COPY . /app
デプロイ用イメージ
FROM base

RUN yarn && yarn run build \
  && bundle exec rails assets:precompile \
  && bundle exec rails assets:sync \
  && find /app/public/packs -type f ! -name "manifest.json" -exec rm {} \;

※baseイメージはローカル環境でも使われる汎用イメージ、デプロイ用はデプロイ時にビルドされプロダクション環境で実際に動くもの
rails assets:syncアセット類をS3にアップロードするgemのタスク。フロントエンドのアセットもまとめてアップロードされる

デプロイ時にはbaseのビルド -> デプロイ用のビルドと直列に実行されますが、baseビルドの最後、つまりデプロイビルドの手前で全ソースコードが追加されます。
そのため、デプロイ毎に(フロントエンドの更新有無に依らず)baseイメージの最後のレイヤが更新されることとなり、yarnyarn run buildなどが毎回実行されてしまいます。

なおwebpackでのビルド時にManifestPluginを使ってmanifest.jsonを生成しており、そのファイルはRailsから参照できる必要があるため、アップロード済ファイルの削除時にそれだけを残すようにしています。

じゃあどうするか

フロントエンドビルドがバックエンドのコードに依存しないように分離する方針を採ります。
assets:syncを実行する際にその実行コンテキストにyarn run buildassets:precompileの成果物がありさえすればよいため、ビルド自体は別々に実行できるはずです。

またフロントエンドビルドはソースに変更があった場合のみ実行するようにします。

実際に改善する

上記方針に沿って、全体フローや各ビルド要素の処理を整理していきました。

フロントエンドビルド

まずは分離したフロントエンドのビルド用Dockerfileです。

FROM node:12.18.4

RUN mkdir -p /app/frontend /app/public
WORKDIR /app/frontend

COPY package.json yarn.lock ./
RUN yarn

COPY . .
RUN yarn build

リポジトリの構造の都合でディレクトリの切り方が少し変わっていますが、基本的にいわゆる普通のフロントエンドビルドのDockerfileな感じになっています。

ここでの改善でのポイントは、一般的にはDockerイメージには実行環境だけを用意してビルドやジョブ実行などはdocker runするところを敢えてdocker buildの中でyarn run buildしている点です。

このプロジェクトではビルド・デプロイがJenkinsサーバ上で実行されており、Dockerイメージ・レイヤキャッシュに低コストでアクセスできるという背景があり、「ソースに変更が無い場合にビルドしない」を実現する手段としてDockerレイヤキャッシュを活用するのが手っ取り早いという判断です。
こうすることで、ビルド実行フローではソースの変更有無を気にせずdocker buildするだけでいい感じにビルド処理が実行されたりスキップされたりを実現できました。

バックエンドコンテナ

続いてバックエンドコンテナです。baseイメージは変わっていませんが再掲しています。

baseイメージ
FROM ruby
RUN apt-get install -y nodejs some-other-packages ...
RUN npm install -g yarn

COPY Gemfile Gemfile.lock
RUN bundle install
COPY . /app
デプロイ用イメージ
FROM c-navi_base:latest

RUN bundle exec rails assets:precompile

RUN mkdir -p /app/public/packs
COPY ./public/packs/manifest.json /app/public/packs/

改善後のデプロイ用イメージではフロントエンド系の処理は何もせず、Railsのassets:precompileの実行およびフロントエンドビルド生成物のmanifest.jsonの取り込みを行っています。
manifest.jsonがどこからくるのかについては後述

これでは全ビルド毎にassets:precompileは実行されてしまうのですが、現行プロジェクトではRailsのassetsを使っている部分は非常に少なく時間がかからないこと・こちらのmanifest.json[2]も別途取り込む必要があることから、Dockerビルド内部で実行するのが楽と判断しました。

アセットのビルド&アップロード

最後にこれまでの二種類のDockerビルドを含めたビルド全体のスクリプトです。
dockerコマンドをゴチャゴチャと取り回しているため、ブロックごとにコメントを入れています。

deploy.sh
ECR_REPO=xxxxxxxxxxxx.dkr.ecr.ap-northeast-1.amazonaws.com
APP_IMAGE=project/app:$COMMIT_HASH

# frontend build & assets取り出し
docker build -t app_frontend frontend
FE_CONTAINER=$(docker create app_frontend)
docker cp $FE_CONTAINER:/app/public/packs ./public/
docker rm $FE_CONTAINER

# app build
docker build -t base .  # baseイメージのビルド
docker build -t $APP_IMAGE -f containers/with_asset/Dockerfile .  # デプロイ用イメージのビルド
docker tag $APP_IMAGE $ECR_REPO/$APP_IMAGE

# assets sync & clean
docker run --rm -i -v "$PWD/public/packs:/app/public/packs" $APP_IMAGE \
  env RAILS_MASTER_KEY=$RAILS_MASTER_KEY bundle exec rails assets:sync RAILS_ENV=$RAILS_ENV AWS_ENV=$AWS_ENV
rm -r ./public/packs

frontend build & assets取り出し

「フロントエンドのDocker buildを実行し、そのイメージから成果物をローカルに取り出す」という処理をしています。
docker createにより内部のプロセスを開始せずにコンテナが生成され、そのコンテナからdocker cpでファイルをローカル(ビルドマシンのストレージ)に取り出し、docker rmで用が済んだコンテナを片付けています。

ビルドコンテキストをfrontendディレクトリに指定しているため、ここ以外のファイルが変更されたデプロイではDockerレイヤキャッシュが効き、重いビルド処理がスキップされます。

app build

これは単純にbaseイメージとデプロイ用イメージをそれぞれdocker buildしています。
直前のフロントエンドビルドにてローカルの./public/packsに成果物を展開しているため、デプロイ用イメージのCOPY ./public/packs/manifest.json /app/public/packs/にて正しく最新のmanifest.jsonを取り込めます。

assets sync & clean

最後にビルドされたアセットファイル一式をassets:syncでS3にアップロードしています。
-vオプションでローカルにあるフロントエンド成果物をコンテナ内にマウントしており、またassets:precompile成果物はイメージ内にあるため、このassets:syncの実行によってこれらがまとめてS3にアップロードされます。

この流れにより、アプリケーションのDockerイメージがビルドされ、かつフロントエンドビルドは必要に応じてスキップされつつ、必要なファイルをS3にアップロードするという流れが実現されます。

結果

以前は変更の種類に関わらずデプロイ全体で16~18分ほど要していたものが、バックエンドのみの変更であれば5分程度で完了するようになりました。
フロントエンド変更がある場合は14~15分程度となっています[3]

フロントエンドについても、yarnが毎回実行されなくなったことや、その他ビルドフローの整備により従来あった無駄な処理が減ったことにより、デプロイ全体で1~2分の短縮になりました。

まとめ

バックエンドのみの変更という条件下ではありますが、ビルドフローの整備によりデプロイの所要時間が大きく改善できました。

これにより、ちょっとした動作修正などをステージング環境で確認する際などに非常にカジュアルにデプロイすることができるようになり、開発体験だけでなく検証頻度が上がることによるリリース品質の向上も見込まれます。

フロントエンドビルドの改善は別途課題となっています[4]が、今後も様々な面で改善を続けていきたいと思います。

脚注
  1. ページごとにフロントエンドのエントリポイントが分離していることや、サーバ側でjsonをrenderしている部分があるなど、API+SPAとは言えない構成ですが本記事では関係ないため割愛します ↩︎

  2. rails assetのmanifestです。フロントエンドのものとは別 ↩︎

  3. なおどの種類のデプロイであっても時間全体のうち3分~3分半ほどはECSのBlueGreenデプロイの完了待ちが占めています ↩︎

  4. これは後日に別途実施しましたが、その紹介はまた機会があれば ↩︎

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