ビジネス小説執筆Tips for Claude AI
なぜビジネス小説を作ったのか?
新規事業のビジョンを伝えるのに、パワポのスライドを使うというのは(事業内容にもよりますが)、難しい事があります。
特に、ビジョンが抽象的だったり、広範な内容だったりする場合、具体性を欠いたり、説明のために膨大なスライドが必要になったりします。
そのため、ビジョンを伝えるために、ビジネス小説を作成することにしました。
なんかできそうだからやってみたビジネス小説では、ストーリーを通じてビジョンを伝えることができるため、より具体的で、感情に訴え、共感を得やすそうだと考えたからです。
当然ですが、絶対的なボリュームは多くなってしまい、深夜のノリで作り終わってから「意味はあったのだろうか」とは思いましたが、面白かったのでヨシとして、作った時に工夫した点や、結果について、ここに共有することにします。
どんなビジネス小説を作ったのか?
ボリュームはおおよそ24万字/500ページ。ストーリーパートと解説パートの割合が3:2くらいだと思います。
これを、後述する方法で、Claudeのプロジェクトモードで作成しました。3日に分けて、合計で10時間くらいかかったと思います。
SIer 2.0: 開発エージェントが変革するシステム開発
https://www.amazon.co.jp/dp/B0F4X2YYT7
手順(企画~執筆)
- Claudeでプロジェクトを新規作成。以降プロジェクト内で作業します。プロジェクトの目的は以下のような感じで書きます。
xxxxによってxxxxxのようになると、私は予想しています。 このビジョンをxxxxxにプレゼンするため、 xxxxxのイメージを共有できるような小説を執筆するのが、 このプロジェクトの目的です。
- 新しいチャットで、そのテーマの世界観について説明していきます。
最初に、イメージをある程度詳細にアシスタント(あなた)と共有したい。 xxxxxの大枠を私が説明するので、細かいところを補足してほしい。想像がつかない場合は、いつでも質問してほしい。 OK? ※特に質問・新しい視点・提案がなかったら、OKとだけ返答してください。
- 他の議論系のチャットでも同様ですが、同意の場合はOKとだけ返事するように言っておくと、トークン消費を抑えることができます。LLMが復唱するのに時間とトークンを浪費しちゃうのに困っている人は試してみてください。
- 膨らましたいところ、壁打ちしたいところは
OK?(意見や検討すべき視点があれば教えて)
のように書くと色々書いてくれるので、これは無視するよ、とか、これはこうだよ、とか入れていきます。 - ひとしきり議論できたら、
ここまでの内容をいったん、アーティファクトにまとめてください。
とすると、1つの文書としてまとめてくれます。 (重要) この文書は今後の執筆作業のベースになるので、文書ビュー右上の「コピー」ボタン横の∨
の中にある「プロジェクトにコピー」をクリックします。これで、いつでもプロジェクト内でAIがこの文書を参照できるようになります。
- 視点を変えてテーマを深堀したい場合は、その都度新しいチャットで、上記2のステップを繰り返します。
- 例えば
SIer 2.0
では、「変革後のSIer業務のあり方」と「変革後の開発プロセス」の2つを作成しました。
- 例えば
- 小説全体としてまとまりを出すために、全体の構成を検討していきます。新しいチャットを開始して、以下のようにプロンプトします。
いよいよ小説のプロットを考えようと思います。 プロットに関する私のアイディアは、以下のとおりです。 プロジェクトのドキュメントに記載された変革ポイントを、いくつかの登場人物ごとの視点・ストーリーに分割して、描写する。 TLは2~3人、PMが1人、プロダクトオーナー的な人物が1人。 合計4~5編のストーリーで説明できると思う。 OK? ※特に新しい意見や視点の提示がない場合は、単にOKと返答してください。
- 小説というからには結構な長さになるので、ストーリー全体が破綻しないように、何らかの形で全体を分割する方法を指示する必要があります。思いつかない場合は、チャットの中でざっくばらんに相談・壁打ちすると、色々なアイディアを出してくれます。
- 分割の方向性が決まったら、いったん上のように書いて、方針だけを理解してもらいます。
- その後、まずは各チャプターの大枠を決めていきます。以下のようにプロンプトします。
これらを、便宜上、chapter 1 ~ 4 と呼ぶことにします。 chapter1~4(または5を加えて)の主人公の人物像の案を書いてください。
- 出てきた内容について必要があれば修正してもらったり、ここはもうちょっと良いアイディアない?とか言って、納得がいくまで議論します。「良いな」と思っても「もうちょっと面白くならない?」とか雑に無茶ぶりするだけで良くなったりするので、試してみてください。追加要求の結果が微妙だった場合は、その発言を
編集
して無かったことにすると、以降の処理で無視できます。 - 各チャプターの大枠が決まったら、以下のような形で纏めてもらいます。
では、2つの資料から、ポイントを、chapter1~5に振り分けてください。 箇条書きでかまいません。
- 振り分け漏れとかがあったら勿体ないので、以下のように指示して見直ししてもらいます。
ありがとう。 振り分けできていないポイントや、見落としがないか確認してください。
- 漏れが無ければヨシ、漏れがあれば、さきほどのリストを修正してドキュメントの形に清書してもらいます。
上記を追加・統合したリストを、「各チャプターのコンセプト」というタイトルのmdファイルに記述してください。
- できたファイルを確認して、「プロジェクトにコピー」します。1つのチャットでずっとやりとりしていると、あっという間に容量オーバーになるので、このように、議論して資料にまとめる、その資料をベースにさらに議論して、資料を作成する、という流れを繰り返すことで、決定事項だけをプロジェクト内の次のチャットで使えるようにしていくのがポイントです。
-
SIer 2.0
の場合は「各チャプターのコンセプト」の中に、「各キャラクターの人物像」や「ストーリー中で実施される架空のプロジェクトの内容」なども含めるようにしました。
- 上記ステップで、ストーリー全体の流れが決まったので、ここからは、各チャプターごとに1つのチャットを作成して、ストーリーを書いてもらいます。
- 大枠がきまっているとはいえ、チャプターの中身のストーリーラインはまだ決まっていないので、いきなり書き始めると滅茶苦茶になります。まずはそのチャプターのプロット(物語の構想や展開を整理した設計図のようなもの)を書いてもらいます。
チャプターXのストーリーを、小節ごとに分解して組み立て、chapterX_プロット.mdとして記述してください。 ※内容は日本語で書いてください。
-
小節ごとに分解して
と指示することで、階層構造のmdファイルを作成してもらいます。SIer 2.0
の場合は、各チャプターがおおよそ6小節 x 2シーン
くらいになりました。 - このプロットのファイルも、次以降の章で参照する必要があるので、「プロジェクトにコピー」しておきます。
- 必要に応じて修正してもらい、プロットのファイルを完成させます。
- プロット作成のやり直しが長くなった場合は、原稿執筆は別のチャットで始めたほうが良いです。特に書き直しがなければ、そのまま続けていきます。
いよいよ、原稿の執筆をお願いします! chapter2_section1_scene1.md を書いてください。複数シーンをまとめて書かずに、1シーンずつ書いてください。
- 先ほど作ってもらったプロットの区切り方(チャプター、節、シーン)の一番小さい区切り(シーン)単位に、原稿を執筆してもらいます。
- 読んでみて良かったら、今度は「プロジェクトにコピー」 ではなく
Markdown形式でダウンロード
してローカルに保存します。小節全体の長さにもよりますが、原稿そのものをプロジェクトにコピーしてしまうと、以降の新規チャットでかなりのトークンを消費するようになりそうなので、ストーリーラインが壊れないようにするのに使うのはプロットファイルまでにしました(※弊害もあるので、文末の課題の項も参照してください) - 原稿の内容が気に入らない、具体的なアイディアが沸いた場合は、そのチャットを捨てて、新しいチャットで、そのアイディアをプロンプトに含めて原稿を書き始めてもらうと良いです。
- 特に何も指示しないと、連続で複数シーンのファイルを書き始めることがありますが、途中で停止して「続けて」と入力しないと動かなくなります。「続けて」で再開させると、ファイルの編集がうまくいかず原稿ファイルが壊れることがあったので1シーンずつ書かせた方が無難です。
- 1シーンの原稿が出来たら、以下のように指示して、次のシーンを作成してもらいます。
ありがとう!次のシーンをお願いします! xxxxxxxxxxxxxxxxxxxxx(何かポジティブな感想)
- 気のせいかもしれませんが、感想を書くと、"筆がのって"くるのか、続きが面白くなる気がしました。
- 淡々と続きを書かせて面白くならなかった場合は、試しに「期待コメント」や「褒めコメント」を挟んでみてください。
- チャットを新しく作るごと、つまり、チャプターごとに「プロジェクトにコピー」した以外の内容は忘れてくれるので、ポジティブな感想ボキャブラリを作っておくと、(最初のほうとか褒めポイントを見つけられない場合などに)使いまわせます。参考までに以下に私が使っていたのを幾つか上げておきます(本当にそう思ったやつを含みます)
ちょっとドキドキしますね! 進めてください!
いいですね。続きが読みたいです!
次をお願いします! 待ちきれない!(嘘です。すぐに書いてくれて凄いです)
読みながら、なんというか....ニヤニヤしてしまうというか、とにかく面白いです! 続きをお願いします!
- 以上のように各チャプターごとに別のチャットで原稿を作成します。ストーリーの連続性が失われないように、1つのチャプターを、1つのチャットで執筆しきってください。出来上がったものが気に入らない場合は、修正の指示をするのではなく、1つ前の指示を「あらかじめ方針を具体化した指示」に書き換えて、生成させるとトークン使用料と時間(会話を重ねるごとに応答が遅くなる傾向があります)の節約になります。
- チャプターごとのストーリーが出来たら、各チャプターに解説パートを付けると、ぐっとビジネス書っぽくなります。ストーリーでは詳細に説明しにくかったりする用語を、1つ1つ丁寧に解説するパートを入れることで、読者の理解度が深まります。
- 各チャプターごとに、新しいチャットを開始して、次のように指示します。
各章の解説セクションが欲しいです。 各章の解説セクションには、そのチャプターで登場する用語やキーワードの解説を、用語やキーワードごとに記載してほしいです。 キーワードや用語の内容は「xxxx」、「xxxxx」を参考にしてください。 今回は、mdファイルchapter1_termsを書いてください。
- 上記のように指示して解説パートを書いてもらい、気に入らなければ原稿のときと同様に、1つ前の指示を「あらかじめ方針を具体化した指示」に書き換えて再生成してもらいます。
- 解説パートが書けたら
Markdown形式でダウンロード
します。 - 「プロジェクトにコピー」もしておきます。後続の章で同じ用語が解説されることを防いだり、解説パートを前の章と同じ形式で書いてくれる効果があります。
あとがき
自己評価
ストーリーで何かを伝える、ということのパワーを実感しました。新規事業のビジョンを共有するための手段として、効率が良いとは言えませんが(読んでもらう量が多くなるし作るのに手間もかかる)、長いだけの効果はありそうです。
自分で作っておいてアレですが、疑念があったところを確信しそうになったり、それはないやろな、というところも「あるかも?」と思いそうになったりと、ちょっと怖いくらいでした。
また、全体を通して、やり始める前に想像していたよりも、自分自身が楽しんで読めたことに驚いています。
今回の試みは、ドキュメントを戦略的に積み上げていく事によって、より大きなものを破綻なく生成できるか?という実験でもありましたが、結果としては、ある程度の成功を収めたと思います。
まさに、小説の中で描かれていたような「LLMの特性とコンテキスト管理の有効性・重要性」を、改めて体感しました。
次項に書く課題についても、対策は可能そうなので、もし次に別の作品を作ることがあれば、さらに良いものが出来そうです。
課題.チャプターごとに作中イベントの詳細な状況等が"揺れ"る
複数のチャプターで登場する細かい設定(例えば、ストーリー中で繰り返し言及される、特定の不具合の詳細や、提案されるアーキテクチャ案の概要、会議の会話の台詞など)が、チャプター間で統一されず、微妙に異なる世界線のようになってしまう箇所が目立ちました。
これは、各チャプターごとに別のチャットで執筆した原稿を全体で共有しなかったため、後続のチャプタの執筆時に同じ設定を使いまわせず、各チャプター執筆時に設定を再創作していたためです。
この問題を解決するためには、各チャプター内で作られた設定を、別チャプターに共有する方法を考える必要があります。例えば、最初のチャプターで細かな設定や会話を作成したら、次以降のチャプター執筆時に参照できるよう、プロットファイルに追記させる、などです。
課題.登場人物の口調のバリエーションが乏しい
登場人物の口調に、特徴がなく(全員が同じ口調)、登場人物の人となりやビジュアルに関する描写も一切なかったので、人物をイメージしにくかったです。
ビジネス書なので、そのあたりはあまり気にしなくても良いのかもしれませんが、ストーリーを通じて、登場人物の口調やビジュアルを決めておいたり、それらを意識してもらうような指示を出すと、もう少し面白い読み物になったのかもしれません。
最後に
長文をお読みくださり、ありがとうございました。
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