Datadog×Sentryで実現するエラートラッキング
こんにちは、カバー株式会社でSREをしているIです。
この記事は カバー株式会社 Advent Calendar 2024 24日目の記事です。
前回の記事は@lain_xrによるUnityでアフィン変換をプリミティブに実装してみるでした。こちらの記事もぜひご覧ください。
はじめに
昨今システムの複雑化が進む中で、エラーの一元管理を行うことはシステムの健全な運用において必要不可欠です。
この記事ではクライアントおよびサーバーサイドのエラーを一元的に管理し、効果的にエラートラッキングを行うための設計や便利なツール群を紹介します。
エラートラッキングの重要性
現代のシステム開発では、マルチクラウドや分散システムの普及によって、システムの構成や表現方法が多様化しています。結果として、Web、モバイルアプリ、PCアプリケーションなど、複数のユーザーインターフェースを通じたやり取りが増加している中で、システムの健全な運用のために効果的なエラートラッキングが必要不可欠です。
- エラー発生時に迅速に適切な対応チームへ通知
- ユーザーの報告を待たずに問題を検知し修正
- クライアント・サーバー双方で統一的なエラー監視を行い、運用コストを最適化
クライアントにおけるエラートラッキングツールについて
クライアントにおけるエラートラッキングは、主にユーザーの端末、OS、操作といったユーザーごとのデータと、その環境で発生したエラーを関連付けることができます。これにより、障害の早期検知や機能改善に役立てることが可能です。
Unityでは、モバイル版(Android/iOS)とデスクトップ版(Windows/Mac/Linux)でビルドが異なるため、単に「Unity対応」とされるSDKであっても、モバイル版のUnityでは利用できる一方で、デスクトップ版のUnityでは利用できない場合があります。特に、プラットフォームごとに異なる特性を考慮する必要があります。
Webフロントエンドでは、各種フレームワークやサーバーサイドのスクリプトの実行、デプロイ先のランタイムに依存する場合があるため、各種フレームワークに対応したSDKが開発されていることなどを考慮する必要があります。
各ツールごとにトレース、セッションリプレイ、エラートラッキングなどカバーされている範囲は似ているため、現状使用しているツールや組織の規模感に応じて選定してください。
Backtrace
Backtrace は、Unityにおける代表的なエラートラッキングツールの一つです。
- モバイル版(Android/iOS)とデスクトップ版(Windows/Mac/Linux)の両方のUnityで利用可能
- 自動エラーレポートやグルーピング機能により、きめ細やかなエラー管理が可能
- ユーザーあたりのライセンス課金モデルのため、大規模なアプリケーションではコストが高くなる場合があります。
利用事例については、以下をご参照ください。
Datadog/New Relic
サーバーサイドでは定番の Datadog や New Relic ですが、どちらもモバイル版(Android/iOS)のUnityには対応している一方、デスクトップ版(Windows/Mac/Linux)のUnityには対応していません。
どちらもモバイル版のUnityであればエージェントを導入し、メトリクスやトレースの収集が可能です。
また、Webに関してもSDKが対応しているため、トレース、セッションリプレイ、エラートラッキングなどの機能を一通り扱うことができます。
-
New Relic
モバイル版Unity向けのSDKを提供しており、リアルタイムでアプリのパフォーマンスを監視可能です。
ブラウザであれば、ブラウザモニタリングを使用して、エラートラッキングやCore Web Vitalsの指標を収集することが可能です。
-
Datadog
モバイル版Unity向けのRUMを提供しています。ただし、デスクトップ版やコンソール、Web向けのUnityビルドには対応していません。
Datadog does not support Desktop (Windows, Mac, or Linux), console, or web deployments from Unity. If you have a game or application and want to use Datadog RUM to monitor its performance, create a ticket with Datadog support.
ブラウザであればRUMを使用することでエラートラッキングやCore Web Vitalsの指標を収集することが可能です。
Embrace
Embrace は、モバイルクライアントのUnity向けにテレメトリデータを収集できるツールです。
OpenTelemetryをベースとしており、OTLPを扱える任意のバックエンドにテレメトリーデータを送信できます。
詳しくは以下の記事をご覧ください。
Sentry
Sentry は、一般的にエラー監視で非常によく使われているツールですが、ブラウザはもちろん、Unityの文脈ではモバイルおよびデスクトップのどちらのUnity SDKでもエラートラッキングに対応しています。
また、WebGLにも対応しているため、Webアプリ上でUnityのWebGLビルドを読み込んだ際のエラートラッキングも可能です。
Supports C# errors on multiple platforms, including: Android, iOS, macOS, Linux, Windows, and WebGL
https://docs.sentry.io/platforms/unity/
Webフロントエンドにおけるエラートラッキング
近年、Webフロントエンド開発では、Next.js(App Router)やRemix(Non SPAモード)など、SSRをサポートするフレームワークが主流となっています。これに伴い、エラートラッキングにおいても、クライアントサイドのJavaScriptエラー(Error Boundary)とサーバーサイドのJavaScriptエラーを透過的に扱えるツールが求められています。
例えば、Remixであればloader
やaction
のサーバーサイドで実行される機能の例外もキャッチしたいところです。SentryであればRemixのプラグインがサポートされています。
しかし、Cloudflareなどのエッジコンピューティングサービスを利用する場合、ランタイム等の制約により導入が難しくなる場合があります。
例えば、RemixのSSRをCloudflare Workers(Pages Functions)上で実行しようとすると、Sentryのインスタンスを正しく初期化できず、エラーをSentryに送信できない問題が報告されていました。
最近ではSentryのCloudflare Workers SDKのサポートが強化され、Cloudflare Pagesの場合はミドルウェアに処理を挟むだけで、Remixのクライアントおよびサーバーのエラーを統合的に扱えるようになりました。
具体的な実装例として以下のスライドが参考になります。
以上のような理由から、エラートラッキングを行うために使用できるツールにはさまざまな選択肢がありますが、昨今のユーザーインターフェースの多様化(Web/Mobile/Desktop)に対応しつつ、技術的な課題(Server Side JS/Unity WebGL)を克服するために、エラートラッキングではSentryの利用が個人的にはおすすめです。
SentryはTeam Plan以上であればユーザー招待も無制限なため、大規模な組織でも扱いやすいです。(もちろん各プランの無料枠を超えると追加料金が発生するので、導入する際には現状のエラー数やカバーする範囲から料金を見積もりましょう。)
サーバーサイドにおけるエラートラッキングツールについて
ここまででクライアントにおけるエラートラッキングを考察してきましたが、サーバーサイド側のエラートラッキングはどうでしょうか。
まずサーバーサイドにおけるオブザーバビリティでは、Datadog、New Relic、Grafanaなどの監視ツールを利用することが一般的です。特に近年では、OTLPベースのテレメトリデータに対応するベンダーが増えており、アプリケーションに計装を行うだけで比較的容易に分散トレーシングを実現できるようになっています。
これら収集したテレメトリデータからエラーを検知することで、バックエンドはエラートラッキングを実現できます。
Q. Sentryはテレメトリデータの収集に使えないのか
利用することは可能ですが、主にサーバーレスや小規模なアプリケーションに限定されるケースが多いと考えられます。
さらに、Sentryのトレーシング機能は現時点ではまだベータ版であるため、対応状況としては今後の改善に期待する段階と言えます。
またSentryはエージェント型でのテレメトリデータ収集方法を公式にはサポートしていません。特にKubernetesを使用している場合、インフラ属性のタグ付けやPod単位でのリソース使用量、細かなメトリクスを収集・可視化する際に困難になります。
ただし、Sentryもベータ版ながらOpenTelemetry(OTel)のサポートを開始しており、自前でOTel Collectorを設置すればこの制約を回避することは可能です。
一方、Datadogを利用する場合はDatadog Operatorを活用することで、各ノードにエージェントのPodを作成できます。これにより、ホストメトリクスの収集が容易になり、Datadog監視バックエンドとのシームレスな統合が可能です。
Datadogにおけるエラートラッキングについて
Datadogは、バックエンドサービスのエラートラッキングにおいて、主にAPMベースとログベースの2つのアプローチを提供しています。
Error Tracking for Backend Services
Error Tracking for Logs
ここではリクエスト単位でコンテキストが付与可能かつ、トレースやパフォーマンスメトリクスと連携しコードレベルで問題を特定可能なAPMベースでのエラートラッキングを調査します。
Goなどのアプリケーションであればトレーシング用のライブラリを使用し、スパンに対してエラーを記録するだけで各APIとAPI内部でのエラー箇所を紐づけることが可能になります。
ここでは、Goを使用して計装を行う例を示します。
Datadog AgentはOTLPベースのテレメトリデータの収集をサポートしているため、ddtrace/otel
のライブラリを使用するだけで、ビジネスロジックの計装に関してはOpenTelemetryベースのものを使用することが可能です。
import (
"go.opentelemetry.io/otel"
"go.opentelemetry.io/otel/propagation"
oteltrace "go.opentelemetry.io/otel/trace"
ddotel "gopkg.in/DataDog/dd-trace-go.v1/ddtrace/opentelemetry"
)
func setup(){
// Providerの定義
traceProvider := ddotel.NewTracerProvider(traceProviderOptions...)
otel.SetTracerProvider(traceProvider)
otel.SetTextMapPropagator(propagation.NewCompositeTextMapPropagator(propagation.TraceContext{}, propagation.Baggage{}))
}
// ビジネスロジックの計装
func fugaService(ctx context.Context) {
_, span := tracer.Start(ctx, "fugaService")
defer span.End()
// ...
}
また、エラー時にスパンにエラーを記録するようにしましょう。
import (
// ...
"go.opentelemetry.io/otel/codes"
// ...
)
// ...
result, err := operationThatCouldFail()
if err != nil {
span.SetStatus(codes.Error, "operationThatCouldFail failed")
span.RecordError(err)
}
上記のような可視化を行うことで、エラー時に特定のスパンのエラーとトレースとしてのエラーが可視化され、このエラー自体がDatadogのエラートラッキングモニターとして使用可能になります。
Trace
Error Tracking
クライアントサイド・サーバーサイドを統合したエラートラッキングについて
ここまででクライアントおよびサーバーサイドのエラートラッキングをそれぞれ行うことができました。しかし実際にはエラーを収集するだけではなく、一元管理しつつ効果的にアラートを行える仕組みを作る必要があります。
ここでは、SentryとDatadogを組み合わせて効率的にエラートラッキングのアラート通知の構成を実現する方法を考えます。
最終的なイメージは以下の通りです。
- サーバーサイド側はDatadog Agentでテレメトリデータ**を収集し、Error Tracking Monitorで通知
- クライアント側はSentryでエラーを収集し、Datadog Integrationを使用してDatadogにイベントとして転送、Event Monitorで通知
上記それぞれで収集したデータソースごとのモニターを作成し、指定の通知先(Slackなど)に流せるようにします。
1に関してはError Tracking用のモニターを使用します。
Error Tracking用のモニターは、アラートの条件でHigh Impact
とNew Issue
を指定可能です。
それぞれ、影響を受けたユーザー数や今まで起きたことのないエラー(スタックトレース等に基づいた)を元に通知することができます。そのため、単純にエラーが発生したらすべて通知するのではなく、未知のエラーや特定タイミングにおけるエラーを検知しやすくすることができます。(フィルタリングのルールもカスタムで定義可能です)
2では、DatadogのIntegrationとイベントモニターを使用します。
イベントモニターでは、前述のError Trackingモニターのようにエラー内容に基づいてDatadog側でエラーをグルーピングしてくれません。
そこで、あらかじめSentry側で通知するエラーをフィルタリングし、通知が必要なものだけをイベントとしてDatadogに流すことでエラー通知を実現します。
Sentryにもスタックトレース等でグルーピングを行い、新しいエラーのみをアラートしたり、頻度やユーザーへの影響度によってアラートをカスタマイズ可能です。
Sentry側でIssue Alertを作成したら、IntegrationでDatadogのWebhookエンドポイントを指定することで、条件にマッチしたIssueが検知された時だけDatadogにイベントとして転送されます。
正しく送信ができるとsource:sentry
のイベントを取得できるので、イベントモニターでアラートを送信できます。
エラーを扱いやすくするための工夫
ここまででDatadogにエラーを集約させ、モニターからクライアント・サーバーのエラーを通知することができました。
このモニターを扱う上で、モニター数が増えたりサービスチームが増えるとアラートの条件が複雑になりがちで適切なハンドリングが難しくなります。
そんな時に少し役立つかもしれないTipsを紹介します。
Datadog Teamの利用
Datadogにはチーム機能があります。
これはUI上でチームごとにダッシュボードやモニターをまとめることができたり、クエリに対して使用可能なので、チーム単位でアラート先を振り分けたい場合に非常に使いやすいです。
Sentry側でDatadogのタグを付与する
Integrationを使用してDatadogイベントとして取り込むと、デフォルトではDatadog側の予約済みタグ(例えばenv
やservice
)が付与されていません。
そのため、Sentry SDK側でタグを付与する必要があります。
例えば、JavaScriptであればSentry用のインスタンスに対してbeforeSend
メソッドがあり、この中でSentry送信前にイベントのタグを編集することが可能です(エラーのフィルタリング用途にも使えます)。
Sentry.init({
dsn: 'xxx',
beforeSend(event) {
event.tags = {
...event.tags,
env: "dev",
team: "dd-team",
service: "dd-service",
};
return event;
}
});
ダウンタイムの利用
ダウンタイムを使用して、深夜帯などの開発環境のモニターを停止します。
コスト削減などでインスタンス等の設定値を変更している場合、設定の変更に伴ってエラーが発生しアラートが飛んでしまうことを防ぐため、指定期間中は通知を行わないようにします。
その際に、モニタータグで大まかにチームを指定し、ダウンタイムスコープを利用してサービスや環境を指定してモニターを管理することで、アラート実行時に動的に必要なサービスや環境のグループで一致するアラートのみを無視することが可能になります(ダウンタイムのグループスコープは、モニター固有の対象の後にマッチするため)。
まとめ
この記事では、クライアントおよびサーバーサイドのエラートラッキングを一元管理し、効果的にエラートラッキングを行うための設計や便利なツール群を紹介しました。
Discussion