“ディスカバリーがイケてる時代”にこそ語りたい、PdMの本質はどこにあるのか
※この記事は「COUNTER WORKS Advent Calendar 2025」の3日目の記事です。
はじめまして
株式会社カウンターワークスでCPOをしている寺山です。
採用面接やカジュアル面談を通して、多くのプロダクトマネージャーと話してきました。
その中で、ひとつ気になっていることがあります。
ディスカバリー(何をつくるか)が、少し“イケてる側”として扱われすぎているのでは?
未来の話はスマートに聞こえます。
戦略やロードマップの議論は華やかで、聞いていて気持ちがいい。
でも、
「じゃあそれ、どう形になりました?」
と尋ねると、急にトーンが曖昧になる場面が増えました。
ディスカバリーが大切なのは当然です。
ただ、「ディスカバリーすることがPdMっぽい」という空気には、ずっと違和感がありました。
そこで今回は、PdMの2つの基礎となる
デリバリー(届ける) と ディスカバリー(探す)
の関係をあらためて整理してみます。
ディスカバリーとデリバリーとは?
ディスカバリー
「何をつくれば価値が出るか」を探すパート。
ユーザー理解、課題の深掘り、価値の見極め。
プロダクトの“方向性”を形づくる仕事です。
デリバリー
「決めたものを現実に届ける」ためのパート。
- 要求要件定義
- プロジェクト管理
- 不具合対応
- ステークホルダー調整
- 営業・CSとの連携
- 仕様の落としどころ探し
- リリース判断
- 運用フェーズのサポート
派手ではありませんが、プロダクトを確実に前へ進めるのはこの領域です。
ディスカバリーが“映えてしまう”時代の空気
最近、ディスカバリーが過剰に評価されやすい土壌が整っています。
- フレームワークや手法が増えた
- 抽象的で語りやすい
- 図や資料にすると映える
- 未来の話は前向きで響きやすい
こうした背景が重なり、ディスカバリーは“扱いやすい・魅せやすい”活動になりました。
しかし忘れてはいけません。
ディスカバリーは、デリバリーされて初めて価値になる。
どれだけ良い戦略やロードマップでも、実際にそれを動かすのは“人”です。
- チームごとに背景がある
- メンバーにはそれぞれ事情がある
- 組織には力学があり、温度差がある
- そして、人には感情がある
紙の上では美しくても、現実にはこうした「人のリアル」が存在します。
デリバリーの経験があるPdMの戦略が実効性を持つのは、
このリアルを知っているからです。
強いデリバリーは、強いディスカバリーをつくる
デリバリーに深く向き合ってきたPdMのディスカバリーは、自然と精度が高くなります。
- 技術的制約
- チームのスピード感
- 運用でのつまづきポイント
- 組織の力学
- 人の感情の動き
こうした“現場の手触り”が、仮説の質を底上げしてくれるからです。
逆に、デリバリーの経験が薄いままディスカバリーを頑張ると、どうしても“中に浮いた企画”になりやすい。
つまり、
ディスカバリーは、デリバリーに根を張ったときに強くなる。
これは多くのPdMが肌で感じていることだと思います。
ただ、現場には“もうひとつの現実”もある
デリバリーが重要なのは間違いありませんが、
デリバリーだけに偏ってしまうPdMも一定数います。
これは若手だけに限りませんが、特にジュニアPdMは自然とそうなりやすい構造があります。
理由はとても人間的です。
- タスクが明確で取り組みやすい
- 結果が短いスパンで見える
- 「助かった」「ありがとう」が返ってきやすい
- つまり 承認欲求を満たしやすい
人は、フィードバックが早く、「わかっている」仕事に寄りやすい。
これは責めるべきことではなく、ごく自然な反応です。
ただ、この状態が続くと、ディスカバリーの領域に踏み出すきっかけを失いやすくなります。
だからこそ、
少しずつディスカバリーの経験を広げていくことが大切です。
バランスをゆっくり取り戻していくイメージで十分です。
AI時代、PdMの仕事はどこが変わりどこが残るのか
AIの進化により、PdMの仕事の一部は明確に変わっています。
- 調査
- 競合比較のたたき台
- 仮説の候補出し
- インタビュー要約
- プロトタイプ生成
こうした“ディスカバリーの下準備”は、AIがとても得意になってきました。
一方でデリバリーには、AIがまだ踏み込めない領域が色濃く残っています。
- ステークホルダーの温度感
- 組織間の期待値調整
- チームのコンディション
- トラブル発生時の判断
- 人の背景や感情を踏まえた優先度付け
人の文脈と感情が絡む部分は、AIが置き換えにくい。
むしろAIが進化したことで、
“人にしかできないデリバリー”の価値は際立ってきています。
キャリアフェーズごとの“デリバリー / ディスカバリー比率”
| フェーズ | デリバリー | ディスカバリー | 特徴 |
|---|---|---|---|
| ジュニア | 7〜8 | 2〜3 | 自然とデリバリー中心。まずは基礎体力をつける時期。ここから徐々にディスカバリー領域を広げる。 |
| ミドル | 5〜6 | 4〜5 | ディスカバリー比率が増え、方向性にも関わる時期。 |
| シニア | 3〜4 | 6〜7 | 方向性づくり中心。ただし要所のデリバリーも押さえる。 |
ディスカバリーは、水風呂くらいの位置づけでちょうどいい
ディスカバリーという活動は、必要以上に特別扱いする必要はありません。
デリバリーでしっかり汗をかいたあとに取り組むと、
驚くほど思考がクリアになり、仮説の精度が上がっていきます。
サウナで温まり、水風呂に入ったときのあの感じに近い。
水風呂単体が目的ではなく、
温まったからこそ冷たさが効く。
ディスカバリーも、そのくらいのデザート感がちょうどいいのだと個人的に思います。
まとめ
- ディスカバリーは“映えやすい環境”が整い、注目が偏りやすい
- しかし、ディスカバリーはデリバリーがあってこその価値
- 現実を動かすのは人であり、感情と背景がある
- 強いデリバリーは、強いディスカバリーを生む
- デリバリー偏重は自然な現象。承認欲求を満たしやすい構造がある
- 少しずつディスカバリー領域を広げていけばいい
- AIが進んでも、デリバリーは人の仕事として残る
- ディスカバリーは、水風呂くらいの距離感がちょうどいい
PdMの仕事は、この2つを行き来しながら、
プロダクトを着実に前へ進めていくことだと思っています。
ポップアップストアや催事イベント向けの商業スペースを簡単に予約できる「SHOPCOUNTER」と商業施設向けリーシングDXシステム「SHOPCOUNTER Enterprise」を運営しています。エンジニア採用強化中ですので、興味ある方はお気軽にご連絡ください! counterworks.co.jp/
Discussion