🔭

数理モデルのこころ

に公開

概要

この記事では、数理モデリングにおける重要なマインドをについて、あえて当たり前のことを言語化してみたいと思います。

具体的には、解析したい系をモデル化する際に何を考えていて、どのように現象を数式化するのかについてです。

物理学や化学、工学等の自然科学分野では自然界を記述するための言語として数学を使用しますが、往々にして式の煩雑さに嫌気がさしたことがある方が多いのではないでしょうか。

例えば、解析力学においてラグランジアンから運動方程式を導いたり、量子力学の摂動計算等がその代表例です。

理由はいろいろあると思いますが、これは自然現象の記述という目的を達成するために、数式という手段を用いて定式化するという一連の流れが見えなくなってしまうことが大きな要因としてあるのではないでしょうか。

著者も学生時代、解析力学や電磁気学等の授業において、非常に煩雑な計算に苦しんだ経験がありますが、当時のことを思い返すと、式の意味を理解することなく単に板書や教科書に書かれている数式を追いかけることが目的になっていたと今になって思います。

そこで今回、物理学の各種方程式を例に取って、数理モデルの見方・読み解きからについて、フォーカスしてみたいと思います。

本記事を通して、自然科学で取り扱う方程式たちがどのような構造をしているのかについて、初学者の学習の一助となれば幸いです。

左辺と右辺の意味について

まず始めに、本記事を通して最も主張したいことをここに示します。

  • 自然科学における方程式は、考えている対象の因果関係を表現している
  • 左辺が興味のある現象の結果を、右辺がその結果を引き起こす原因に対応する
    • (結果) = (原因1) + (原因2) +...

具体例をとって考えてみましょう。

例えば、熱力学第一法則を例に挙げます。
熱力学第一法則とは、系の内部エネルギーを\Delta U、系が外界から受け取る力学的仕事を\Delta W、外部環境から受け取る熱エネルギーを\Delta Qとすると、これらの間には次の等式が成立することを主張する法則でした。

\Delta U = \Delta W + \Delta Q

この等式において、左辺が結果、右辺が原因という見方を適応してみましょう
そうすると、上記の方程式は、「今、考えている系の内部エネルギーの変化という結果は、系が外界から受け取った仕事という原因1と外部から系に流入する熱エネルギーという原因2に起因する」という風に言語化することができます。

このように、因果関係を意識して方程式を眺めると、方程式を言葉に変換することが可能となります。

法則を数式化する行為を数理モデリング言いますが、数理モデリングにおいては、解明したい現象の因果関係を実験により洗い出し、それらを次元が整合するように数式に仕立て上げる必要があります。
この際にもいきなり数式の構築から入るのではなく、まずは因果関係を言語化するところからスタートすることが重要であると考えています。
その後、言語情報を数式に落とし込むことによって、対象形の数理モデルを得ることが可能となります。

先ほどは熱力学第一法則を例にとりましたが、他の例も同様に考えてみましょう。
例えば、真空中のMaxwell方程式。
真空中のMaxwell方程式は次の4つから構成されるのでした。

  • Gaussの法則
    • \nabla \cdot \bold{E} = \frac{\rho(\bold{r})}{\epsilon}
  • 単磁化に関する法則
    • \nabla \cdot \bold{B} = 0
  • ファラデーの法則
    • \nabla \times \bold{E} = -\frac{\partial \bold{B}}{\partial t}
  • アンペールの法則
    • \nabla \times \bold{B} = \mu_0 \bold{j}(\bold{r}) + \frac{1}{c^2}\frac{\partial \bold{E}}{\partial t}

方程式の因果関係を言語化すると、以下のように書き下せます。

  • Gaussの法則
    • 電場の湧きだしという結果は、空間に分布する電荷密度という原因によって引き起こされる。
  • 単磁化に関する法則
    • 磁束密度の湧きだしという結果を引き起こす原因は存在しない。
  • ファラデーの法則
    • 電場の回転という結果は、磁束密度の時間変化という原因によって引き起こされる。
  • アンペールの法則
    • 磁束密度の回転という結果は、電荷の運動という原因1と電場の時間変化という原因2によって引き起こされる。

このような解釈は上記の例のみならず、古典力学、電磁気学、熱力学、統計力学、量子力学等においても適応可能です。

他の例についても以下に記します。

  • 運動の第二法則
    • \frac{d^2}{dt^2}\bold{x}(t) = \bold{F}
      • 物体の加速度という結果は、その物体に作用する力という原因に起因する。
  • 熱力学的エントロピーと熱の関係
    • dS = \frac{dQ}{T}
      • 系のエントロピー変化という結果は、その系へ流入する熱エネルギーという原因によって引き起こされる。
  • Boltzmannの原理
    • S = k_B log W
      • 統計力学エントロピーという結果は、系の微視的状態の総数という原因によって生じる。
  • Hubbardモデルのハミルトニアン
    • \hat{H} = -t\sum_{<i,j>}(\hat{c}^{\dagger}_{i} \hat{c}_{j} + c.c) + \frac{U}{2}\sum_{i}\hat{n}_i
      • 強相関電子系のエネルギーは、電子のホッピングによる運動エネルギーという原因1と同一サイトに存在する電子間相互作用という原因2によって生じる。

まとめ

自然科学で取り扱う方程式は、単に数学記号の羅列ではなく、考えている対象系の物理量についての因果関係を示したものであり、左辺が興味のある現象の結果、右辺がその結果を引き起こしている原因に相当します。

私見ではありますが、数理モデリングにおいては、自分が今解いているまたは用いている数式は現実の何に対応しているのか、またその意味は何なのかを常に考えておくことが必要であると思います。

Discussion