政治から逃げるな - Matheus Lima
- この文章は、Matheus Lima氏のブログ・エントリStop Avoiding Politicsを日本語に翻訳した文章です
- 本人から翻訳の許可をいただき、翻訳を行いました
- 素晴らしい文章に出会えた幸運に、この場で感謝します
政治から逃げるな
エンジニアのほとんどは、「政治」[1]と聞くと、まるでレモンをかじったかのように顔をしかめる。「社内政治とは、ずる賢い出世主義者が繰り広げる汚いゲームであり、コードを書くのに集中するのが本物のエンジニアである。」我々エンジニアは皆、そう信じ込まされていた。
私も以前は同じように思っていた。エンジニアとして何年もの間、政治嫌いであることを勲章のように誇らしげに掲げていた。私は政治なんてくだらない戯言より上位に位置する存在であると思い込んでいた。ただ、開発を終わらせたかった。政治は自分以外の他の人たち、つまり技術的に実力がない人たちのためのものだと信じていた。
今は逆だと思っている。政治そのものは問題ではない。悪い政治が問題なのだ。そして、政治が存在しないかのように振る舞うことは、悪い政治を勝たせることにつながってしまう。
政治とは、人間が集団で協調するための手段に過ぎない。政治とは、あらゆる組織に存在する、目に見えない関係性、影響力、非公式な権力のネットワークだ。参加を拒否することはできるが、消え去るわけではない。あなたが政治に参加しないことは、あなた抜きで意思決定が行われることを意味する。
あなたの会社で、ひどい技術的な意思決定が強行された時のことを思い出してほしい。ひどい意思決定とは、複雑すぎるアーキテクチャの採用だったかもしれないし、誰もが間違っていると知っているベンダーの選択だったかもしれないし、実際にはうまくいっていたプロジェクトの打ち切りだったかもしれない。何が起こったのか掘り下げてみると、ひどい意思決定が行われたのは、意思決定者が愚かだったからではないことがわかるだろう。適切な情報を持っている人々が、意思決定が行われた場所にいなかったからだ。適切な情報を持っている人々は「政治をしなかった」のだ。
一方で、影響力の働き方を理解している誰かは、意思決定の場にいて、自分の主張をし、協力体制を築き、任された事前の宿題をこなしてきたことを示した。結果的に、彼らのアイデアは他のアイデアを打ち負かした。アイデアがより優れていたから勝利したのではない。他の人は政治をするには「純粋すぎた」のに対し、彼らは政治に参加したから勝利したのだ。
アイデアは語らない。人が語るのだ。そして、組織の力関係を理解し、関係を築くことができる人、つまり政治をする方法を知っている人々のアイデアが聞き入れられるのだ。
チームを越えて強固な関係を築き、さまざまな関係者の動機を理解し、合意形成の方法を知ることができれば、政治をしていることになる。技術的な意思決定を、技術者でない関係者にわかりやすい言葉で時間をかけて説明することも、政治だ。他のチームの人とコーヒーを飲み、お互いの課題について理解することも、政治なのだ。
良い政治とは、良い結果のために、人間関係と影響力を戦略的に利用することに過ぎない。
最高の技術リーダーは、信じられないほど政治的だ。我々が政治と呼ぶものを政治と呼ばないだけだ。「ステークホルダーマネジメント」とか「連携の構築」とか「組織の認識」と呼ぶ。しかし、実際に行なっているのは政治であり、最高の技術リーダーは政治が得意なのだ。
政治に関わることを拒否するエンジニアは、自分たちの会社がひどい技術的な意思決定をしたと不満を言うことがある。しかし、その意思決定に影響を与えるために必要なことをしようとはしない。彼らは、技術的なメリットだけで結果が決まる世界を望んでいる。そんな世界は存在しないし、存在したこともない。
私は陰険な裏切り者になれと言っているのではない。あなたの強みはあなたの弱みに書いたように、同じ特性でも、使い方によってポジティブな影響をもたらすこともできるし、ネガティブな影響をもたらすこともできる。政治も同じだ。政治的なスキルを使って人を操ったり、自分を宣伝したりできる一方で、良いアイデアを実行したり、悪い意思決定からチームを守ったりすることもできる。
実践における良い政治の例をあげよう:
- 実際に必要になる前から、関係性を構築しておく。何気なくデータチームの人とコーヒーを飲んでおけば、半年後に彼らはあなたのデータ・パイプラインプロジェクトにエンジニアリングリソースを確保する最大の支援者になってくれるだろう。
- 現実のインセンティブを理解する。VPは、あなたが丹精込めて構築した美しいマイクロサービスアーキテクチャには関心がない。VPが現実に気にかけているのは、機能をより早くリリースすることだ。技術的な提案は、人々が実際に気にかけていることに照らして組み立てると良いだろう。
- 上司への対応を効果的に行う。あなたの上司は、あなたには見えていない競合する優先事項を抱えている。重要なことを知らせ続け、問題点を潜在的な解決策とともに早期に伝え、上司が良い意思決定をするのを手伝おう。上司があなたに物事を任せられると信頼すれば、重要な時にあなたのために戦ってくれるだろう。
- Win-Winの関係を築く。リソースを奪い合うのではなく、必要なものを手に入れつつ他のチームを助ける方法を探す。ゼロサムゲームである必要はない。
- 目に見える存在であり続ける。素晴らしい仕事をしたとしても、誰にも知られなければ、それは本当に存在したことにならない。成功を共有し、オール・ハンズ[2]で発表し、後々皆が参照するようなデザイン・ドックス[3]を作成しよう。
良い政治の対極は、政治が存在しないことではない。悪い政治が自動的に勝ってしまうことだ。正しいことを知っている静かな人が発言しないために、間違っている声の大きい人が自分の思い通りにすることだ。誰も擁護しないために、優れたプロジェクトが頓挫することだ。組織の力関係を乗り越えられずに、有能な人材が去っていくことだ。
政治とは無縁なふりをするのをやめよう。あなたは政治と無縁ではない。政治と無縁な人などいない。政治力を身につけて上手く立ち回るか、それとも既に政治力を持っている人に負け続けるかが、あなたの選択である。
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