会計士がperplexityで財務分析してみた
はじめに
connectome.designで財務・経理を担当しているYUTAKAです。
財務関連の仕事に関わったことがある方なら、同業他社や取引先について財務分析を行った経験があるかと思いますが、膨大な有価証券報告書や経営計画、プレスリリース等の情報を追うのはとても骨の折れる作業です。そんな作業を生成AIツールで効率化できないか試してみたいと思います。
今回はperplexityを活用して、私の好きなビールの国内2大巨頭、アサヒとキリンを財務分析で比較してみます。
perplexityとは
perplexity は、ウェブブラウザーやアプリで使用可能なAI検索エンジンで、アメリカのAIスタートアップが運営しています。質問を入力すると、インターネット上の最新情報を基にした精度の高い回答が自然言語で行われ、情報源が併せて表示される点にも特徴があります。直近では2024年6月にソフトバンクとの提携で話題になりました。
実際にやってみる
使い方は至ってシンプル。検索バーに質問を入力するだけです。
まずはざっくりとした質問を投げてみましょう。直近の年度決算を比較してみたいと思います。
早い!これだけでもアシスタントとしては優秀です。
事業セグメントと地域セグメントには、ビール・飲料を中心として海外展開するアサヒと、ビール・飲料以外にも医薬品など事業の多角化を行っているキリンという特徴がありそうです。
ただPLの概略は分かりましたが、この情報だけでは財務的な特徴はまだ見えてきません。BSについても聞いてみます。
視点を変えて質問してみる
BSから分析すると、だいぶ特徴が見えてきました。特に顕著なのは無形固定資産の割合ですね。アサヒは総資産約5.3兆円のうち、約3.3兆円が無形固定資産ということです。海外市場での戦略と分析されているので、海外M&Aの「のれん」(M&A時の買収金額と対象会社の純資産との差額)によるものでしょう。ここを深掘って聞いてみます。
気になるポイントを深掘りしてみる
おっ!これはかなり具体的に分析できました。BSの「のれん」がアサヒとキリンでは桁違いで、その裏にはアサヒが近年行ってきた大規模な海外M&A戦略があるようです。国内の人口減少や健康意識の面でも、将来的に国内のビール市場の伸びは期待しづらい中、海外展開に力を入れるアサヒの戦略がBSから見えてきます。漠然とした質問では見えづらかったアサヒとキリンの財務的特徴が、トピックを絞り込んでいくことで明確になりました。
実際の財務諸表を見てみる
アサヒグループホールディングス株式会社 2023年12月期 連結BS
キリンホールディングス株式会社 2023年12月期 連結BS
perplexityで分析した結果を踏まえ、BSの資産にあたりをつけて決算書を見てみます。アサヒとキリンを比べてみると、やはり総資産に占めるアサヒの「のれん」の金額が際立って大きいことが分かります。今回は、BSの「のれん」に注目しましたが、セグメント情報を深掘りしてグループ全体に占める「ビール」事業の割合に着目したり、世界全体での売上高に占める「日本国内市場」の割合に着目して深掘りしてみても、両社の違いが浮かんできそうです。
最後に
perplexityの特徴として、回答の情報源が明示されていてアクセスしやすいという点があります。今回は個人的な趣味で2社を分析しましたが、これを業務に活用するとなれば、その情報の確からしさが不明なまま使うわけにはいかず、やはりソースにあたるべきでしょう。
実際、今回分析した数値もやはり完全とはいきません。たとえば、キリンの地域別売上データは公開されていないと回答されていますが、実際には有価証券報告書のセグメント情報で入手可能です。また財務諸表数値も、実際に有価証券報告書を確認すると数値が不一致のものもあります。今回はソースを指定せずインターネット上で検索させていますが、ファイルをアップロードしてソースとして使用させることもできるので、対象の決算書を指定すればこのあたりは改善の余地がありそうです。
このようにAIツールに入れるだけで分析完了!とはいきませんが、ここで得た情報を足掛かりに決算書を読めば、イチから膨大なデータにあたるよりもずっと効率的に分析できます。生成AIの発展は、私のような非AI専門家のAI活用のハードルを下げてくれたと感じます。
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