属人化を防ぐ!コードレビューの負担をチームで分散する方法
序章:なぜ、コードレビューは属人化するのか?
コードレビューはチーム開発を支える重要なプロセスですが、しばしば特定のエンジニアに負担が集中してしまうことが課題として挙げられます。こうした、いわゆる属人化は、レビューの質や速度に悪影響を及ぼすだけでなく、チーム全体の生産性を低下させる要因となります。
そこで大事になるのがコードレビューを「チームの仕事」として捉え、負担を分散させることです。本記事では、コードレビューの属人化を防ぎ、チーム全体で負担を分散するための具体的な方法について解説します。
属人化のサインとその背景
まず最初に、よくある属人化のパターンを挙げていきます。思い当たる節があるチームも多いのではないでしょうか。
- レビュー担当が毎回同じ
- レビュー対象者がレビューし返さない
- 経験年数でレビューの質が大きく異なる
レビュー担当が毎回同じ
コードレビューを行うには、十分な開発経験が必要です。そのため、コードレビューを行えるエンジニアはチーム内でも限られてしまう傾向があります。しかし、その結果として、毎回同じエンジニアがコードレビューを担当し、特定のエンジニアに負担が集中してしまいます。
このような状況は、特定のエンジニアに対する依存度を高め、他のメンバーがレビューを行う機会を奪ってしまいます。結果として、チーム全体のスキル向上やナレッジ共有が阻害されることになります。
レビュー対象者からレスポンスがない
コードレビューは、レビューを受ける側も重要な役割を果たします。しかし、レビュー対象者がレビューし返さない場合、レビュアーの負担が増大し、レビューの質が低下する可能性があります。たとえば、レビュー対象者がレビューを受けた後にフィードバックを行わない場合、レビュアーは自分の意見が正しいのかどうか不安になり、次回以降のレビューに対するモチベーションが低下してしまいます。
こうした一方的なコミュニケーションが続くと、レビュアーは「レビューをすることが無駄だ」と感じてしまい、レビューを行うこと自体が負担になってしまいます。そして、特定のエンジニア(エンジニアリーダーなど)のやらざるを得ない人だけがレビューを担当するようになります。
経験年数でレビューの質が大きく異なる
コードレビューは、経験豊富なエンジニアが行うことで質が高まります。逆に、経験年数が少ないエンジニアがレビューを行う場合、フィードバックの質が低下する可能性があります。特に、経験豊富なエンジニアのコードをレビューする場合、レビュアーとレビュー対象者の間で意見の食い違いが生じることがあります。その際、優先されるのは経験豊富なエンジニアの意見です。これにより、経験年数が少ないエンジニアは自分の意見を言いづらくなり、レビューを行うこと自体が負担になってしまいます。
コードレビューで求められるのは、第三者の視点です。経験年数が少ないエンジニアでも、他のエンジニアと同じようにレビューを行うことができるようにするためには、レビューの質を均一化する必要があります。そのためには、レビューガイドラインを整備し、レビューの観点をテンプレート化すると良いでしょう。
どれだけ経験豊富なエンジニアであっても、常に完璧なコードを書ける訳ではありません。むしろ、経験豊富だからこそ他者の目を通したチェックを求めるものです。
属人化の原因
属人化の原因として挙げられるのは「コードレビューは経験豊富なエンジニアでなければできない」という思い込みです。確かに、経験豊富なエンジニアであれば、コードを一目見ただけで得られる情報は多いでしょう。しかし、仕様上の問題点や、実装上の問題点は、経験豊富なエンジニアであっても、担当していなければ見逃してしまうことは多々あります。コードの専門と、ビジネスの専門は異なるため、コードレビューを行う際には、ビジネスロジックの観点からもレビューが必要です。これはコーディングの経験以外の知識が必要な部分です。
また、時間不足もよく挙がります。エンジニアはみんな、自分の作業にかかりきりになるので、他のメンバーのコードレビューに割く時間が不足します。その結果、できればコードレビューを避けたいという思いが強くなり、責任を特定のエンジニアに押しつけてしまうのです。自身の経験不足を盾にして、レビューを避けるのはチームとしては良くありません。
負担分散のために見直したい3つのポイント
コードレビューを属人化させず、チーム全体の課題にするためにも、以下の3つのポイントを見直すことが重要です。
1. レビュー体制の整備
チーム全体でレビューを行うために、レビュー体制を整備しましょう。具体的には、以下のような取り組みが考えられます。
- レビュー担当者をローテーションする
特定の人に負担が集中しないよう、レビュー担当者をローテーションさせましょう。曜日で分けたり、スプリントごとに担当を変えたりすることで、全員がレビューを行う機会を持てるようになります。 - プルリクエストにレビュアーを自動でアサインする
強制的になりますが、レビュアーを自動アサインする仕組みにすることで、負担を分散できます。もちろん、レビュー品質が悪化しないように、以下に示すレビューガイドラインの整備が必須です。 - レビューの時間を確保する
レビューはなるべく早い方が良いものの、個人の作業状況によって左右されてしまいます。そこで、決まった時間をレビューに充てられるように確保しましょう。たとえば、昼前と夕方にレビュー時間を確保するなど、レビューに集中できる時間を設けるといった具合です。
2. レビューガイドラインの作成
チーム内で使えるレビューガイドラインを作成しましょう。有名なところではコードレビューの基準 | google-eng-practices-jaがあります。これは、Googleが公開しているコードレビューの基準を日本語訳したものです。これを参考にしつつ、チーム内で使えるようにカスタマイズしている企業は多いです。
それ以外にも、企業やオープンソース・プロジェクトにおいてコードレビューガイドラインをまとめているところは多いです。
レビューの観点を共通化することで、何をチェックすべきかが明確になります。さらにLintツールなどと組み合わせることで、最低限のポイント(コードスタイルやセキュリティなど)はLintツールに任せ、チームとしてチェックすべきポイントだけレビューできるようになるでしょう。
3. 開発プロセスの見直し
ガイドラインの中でも指摘されていますが、開発プロセスを見直すことで、レビューの負担を軽減できます。良くあるのは、プルリクエストの粒度です。大きなプルリクエストは、それだけレビューに時間がかかり、レビュアーの負担が大きくなります。その割に不具合が紛れ込む余地が大きく、誰にとってもメリットがありません。
大きなプルリクエストが発生するのは、開発のタスクやIssueの粒度に問題があります。こうしたタスクやIssueを適切に分割することで、最終的なプルリクエストの粒度を小さくできます。さらに遡れば、チーム全体での設計・実装方針に課題があるということになるでしょう。これらを見直すことで、最終的なプルリクエストの改善につながります。
効果的なツール・仕組みの活用例
効率的なコードレビューのために、属人化を防ぐのに利用できるツールや仕組みを紹介します。
- GitHubのプルリクエストに自動でレビュアーをアサインする
- GitHubのコードオーナー設定を利用して、特定のファイルに対するレビュアーを自動でアサイン
- Lintを使った静的解析
- AIコードレビューを利用して、初期チェックを自動化する
GitHubのプルリクエストに自動でレビュアーをアサインする
GitHubのOrganizationにおけるコードレビュー設定で、レビュアーを自動アサインできます。この割り当ては、ラウンドロビンアルゴリズム(交互)またはロードバランスアルゴリズム(最近のレビューリクエスト合計数に基づいてレビュー担当者を選択)を選択できます。
Teamのコードレビュー設定の管理 - GitHub Docs
GitHubのコードオーナー設定を利用して、特定のファイルに対するレビュアーを自動でアサイン
GitHubのCODEOWNERSを利用することで、特定のファイルに対するレビュアーを自動でアサインできます。たとえば、特定のディレクトリに対して、特定のレビュアーを指定することができます。コンポーネントやモジュールごとに責任者を決めておくといった使い方ができます。
Lintを使った静的解析
Lintを使った静的解析は、コードレビューの負担を軽減するために非常に有効です。Lintツールを使うことで、コードスタイルやセキュリティ上の問題を自動で検出できます。レビュアーが度々そういった静的解析でも事足りる内容についてレビューを行っているようであれば、導入する価値があるでしょう。
ただし、Lintツールは設定を厳しくすると、開発生産性が下がる傾向があります。Lintツールの設定は、チーム全体で合意を得てから、ごく小規模な範囲から行うようにしましょう。
AIコードレビューを利用して、初期チェックを自動化する
AIコードレビューは、初期チェックを自動化するために非常に有効です。AIを使ったコードレビューは、特定のパターンやルールに基づいてコードを分析し、問題点を指摘します。これにより、レビュアーは初期チェックの負担を軽減でき、より重要な部分に集中できます。
Lintツール以上に高度なチェックが可能です。私たちの提供するCodeRabbitもAIコードレビューツールの一つであり、コードベースを踏まえたレビューが可能です。一次レビューとして運用すれば、レビュアーの負担を大きく軽減できます。
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チーム文化の育て方:レビューは「責任」ではなく「協力」
コードレビューは特定のエンジニアのタスクにすべきではなく、チーム全体で協力して行いましょう。コードレビューの目的を単にプロダクトの品質という面だけで見てしまうと、レビュアーの責任が重たくなり、負担増につながります。メンバーの書いたコードに対して、責任を負わされるのでは、誰もレビューをしたいと思わなくなるでしょう。
そうではなく、コードレビューはチーム全体のコード品質を高め、ビジネスロジックを学び、ナレッジを共有するための機会だと捉えましょう。レビュアーは、レビューを通じて他のメンバーのコードを学び、フィードバックを受けることで、自分自身のスキル向上にもつながります。
また、レビューを受ける側も、レビュアーからのフィードバックを受けて、自分のコードの改善点を学ぶ機会になります。こうした相互作用が、チーム全体のスキル向上につながるのです。
レビューを「責任」ではなく「協力」として捉えることで、チーム全体で協力し合い、負担を分散させる文化が育まれるでしょう。そのためにも、レビューの状況についてチームで定期的に振り返りを行いましょう。どういった課題があるかチーム全体で共有し、改善策を考えることで、チーム全体の意識が高まります。
まとめ
今回はコードレビューの中で問題になりやすい、属人化について取り上げました。特定個人の負担にならないよう、チーム全体で協力してレビューを行うためのポイントを解説しました。
属人化を防ぐためには、以下のポイントが重要です。
- レビュー体制の整備
- レビューガイドラインの作成
- 開発プロセスの見直し
- 効果的なツール・仕組みの活用
- チーム文化の育て方:レビューは「責任」ではなく「協力」
- 定期的な振り返り
属人化を防ぐ上でも、CodeRabbitはとても役立ちます。専任のコードレビューアーとして、CodeRabbitをぜひお試しください!
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