自動化とツール活用:その1「Lintとレビューの住み分け。自動化で人の手間を減らす」
コードレビューにおいて、レビュアーを疲弊させるのは形式的な指摘です。たとえば、インデントのズレや未使用の変数、コーディングスタイルの違反など、ツールで自動化できる部分を人間が手作業でチェックすることは、非常に非効率です。そして、毎度同じような指摘を行うのは、レビュアーにとってストレスになります。
こうした指摘は、本来Lintなどの静的解析ツールで自動化できるものです。人が関わるレビューはもっと意味のある判断、たとえば実装の正しさや可読性、設計の意図などに集中すべきです。
本記事では、Lintを活用してコードレビューの効率を上げる方法と、レビューとLintの役割分担について解説します。
Lintで自動化できること
Lintとは、ソースコードを静的に解析し、構文やスタイル上の問題点を指摘するツールの総称です。言語ごとにさまざまなLintツールが存在し、代表的なものとしては次のようなものがあります。
- JavaScript/TypeScript:ESLint
- Python:flake8、pylint
- Go:golangci-lint
- C#:StyleCop、Roslyn analyzers
- HTML/CSS:stylelint、htmlhint
これらのツールは、以下のような形式的なチェックに強みを発揮します。
- コードスタイルの統一(インデント、改行、セミコロン、波括弧の位置など)
- 未使用変数/未使用importの検出
- 型チェックや構文エラーの補完
- 簡単なアンチパターンの検出(例:常にtrueになる条件式)
こうした指摘については、Lintを用いてレビュー前に自動チェックし、修正が可能です。こうした些細な問題があると、レビュアーの集中力を削ぎ、重要な指摘漏れが起きやすくなります。Lintを導入することで、こうした形式的な指摘を自動化し、レビュアーの負担を軽減できます。
Lintの導入スタイル
Lintの導入には、以下の2つのスタイルがあります。
- 個人のIDEやエディタに設定して、ローカルでチェック
- CI(継続的インテグレーション)で自動チェック
devcontainerのような共通環境を使っている場合には、Lintがあらかじめ組み込まれている場合もあります。そうでない場合は、各自のIDEやプログラミングエディタに合わせてインストール、設定が必要です。
CIの場合は、PR(プルリクエスト)作成時に自動でLintチェックを実行し、Failすればレビューのリクエストを出せないようにするのが一般的です。これにより、レビュー前に最低限の品質を担保できます。CIでのチェックはローカル環境に依存しないので、チーム全体で一貫した品質基準を保つのに有効です。
ただし、CIでのLintはエラーが一気に出るため、修正工数が大きくなる傾向があります。ローカルでのLintチェックはその場で修正が行えて、同じようなミスを未然に防止できるようになります。
もちろん、ローカルとCIの設定は統一されていなければなりません。そうすることで、基本的にはローカルのチェックで解決しつつ、万一の漏れをCIでカバーする形になります。
Lintでできないこと
一方で、Lintには苦手な領域があります。次のような項目は、ツールではチェックしきれない、もしくは誤検出が多く実用に耐えないケースが多いです。
- 命名の妥当性の判断(
data1
やflag
が何を意味するか、など) - メソッドやクラスの責務の分離が適切かどうか
- ビジネスロジックが要件を満たしているかどうか
- 可読性や設計の意図が明確かどうか
たとえば、 calculate()
というメソッドがあり、その中で5つの異なる処理をしていたとします。Lintではこの関数の長さを指摘することはできても、この責務は分割すべきという判断はできません。機械的に関数の行数を判断し、注意文を出すのみです。あるいは、エラー処理の方法が業務要件に則っているかどうかなど、文脈の理解が求められるレビューは人間にしかできません。
また、Lintは設定ファイルの内容に従って、1ファイル毎にチェックを行います。そのため、複数ファイルにまたがる設計の整合性や、プロジェクト全体のアーキテクチャに関する判断はできません。たとえば、あるクラスが他のクラスと適切に連携しているかどうか、全体のフォルダ構成が論理的かどうかなどは、Lintでは判断できません。
そのため、Lintはあくまでも形式的なチェックを機械的に行うツールであり、より高度な判断や設計意図の確認は人間のレビューに委ねる必要があります。
境界線をどう引くか:Lintとレビューの役割分担
Lintと人間のレビューの住み分けを設計する際、次のような観点が重要になります。
- Lintでできる部分は自動化する
- Lintツール通過を必須にする
- 人間のレビューは設計意図やビジネスロジックの確認に集中する
1. Lintできる部分は自動化する
まず、LintはCI/CDパイプラインに組み込むのが基本です。PR作成時やpush時に自動的にLintチェックを実行し、Failすればマージできないようにします。これでレビュー前に最低限の品質は担保され、レビュアーの負担を大幅に減らせます。
プログラマーはローカルにLintツールを導入し、自動修正を活用しましょう。そうすることで、ダブルクォートからシングルクォートなどの煩わしい修正から開放されます。
2. Lintツール通過を必須にする
Lintツールを導入した際には、そのチェックを通過しないとレビュー依頼を出せないようにしましょう。強制的ではありますが、これでレビュー前の品質を担保できます。
なお、ルールをいきなり厳しくするのは悪手です。おそらく、既存のコードに対するLintエラーが頻発し、PRを送れなくなります。新規プロジェクトでない場合は、まずは「警告レベルのチェック」から始め、徐々にルールを厳しくしていくのが良いでしょう。
3. 人間のレビューは設計意図やビジネスロジックの確認に集中する
Lintツールの利用を必須にすれば、PRが最低限の品質が確保された状態になります。レビュアーのタスクが一つ減り、ロジックや設計の意図などに集中してレビューできます。
レビュアーについては、コーディング規約上の指摘はしないルールを徹底しましょう。当初はLintツールの設定がゆるいため、そうした問題が頻発するかも知れません。しかし、レビュアーはあくまで「設計や意図の確認」に集中し、形式的な指摘はLintに任せる文化を育てていくことが重要です。
Lintがレビュー体験を変える
Lintの導入は効率化の文脈で語られることが多いですが、実はそれ以上に心理的安全性やチーム内のレビュー体験にも良い影響を与えます。
- レビュイーが何を指摘されるか不安という状態が減る
- レビュアーが何を見ればいいか分からない状態を防げる
- 同じことを指摘されたという不満の蓄積を防止できる
- 同じことを何度も指摘しなければならないというストレスが減る
Lintが担うのは、いわばレビューの前処理です。レビューとは本来、設計や目的の理解、可読性やメンテナンス性の確認など、より高次なディスカッションを行う場であるべきです。Lintを活用し、本来あるべきレビューの工数を確保しましょう。
まとめ
コードレビューを効率的かつ有意義にするためには、Lintをうまく活用して、人間がやるべき部分とツールで自動化すべき部分の境界線を明確に引く必要があります。形式的な指摘をLintで自動化し、その出力をCIに統合して、レビューの品質を底上げしましょう。
そのうえで、人によるレビューを設計意図や実装判断といった文脈を読み解く作業に集中することで、より価値のある対話へと進化させられます。
おまけ:CodeRabbitの活用
CodeRabbitはAIコードレビューサービスで、GitHubやGitLabと連携してPRに対して自動的にレビューを実行します。AIを用いることで、Lintツール以上に深いインサイトを持ったレビューが可能です。
最近リリースされたCodeRabbit for VSCodeを利用することで、ローカルでのレビューも「無料で」可能になりました。
ぜひ、CodeRabbitを活用して、コードレビューの効率化と品質向上を図ってください。
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