コードレビューの基本 その3:レビューガイドラインのすすめ
コードレビューを人が行なっている以上、どうしても “ムラ” が生じてしまいます。それは担当者ごとの指摘基準の違いもあれば、同じ人であっても時間帯やレビューへの集中度によっても変わります。また、レビュー経験によっても、指摘内容は変わってきます。はじめたばかりの人は、つい細かな部分にまで目を配りがちですが、経験を積むと、徐々に全体の構造やロジックに目が行くようになります。
このようなムラをなくすために、レビューガイドラインを作成することが有効です。ガイドラインをチームで共有することで、レビューの質を一定に保てるようになります。本記事では、レビューガイドラインの必要性とその内容、浸透方法について解説します。
なぜガイドラインが必要なのか
まず最初に、なぜレビューガイドラインが必要なのかを考えましょう。多くの開発チームにおいて、コードレビューで以下のような課題を抱えています。
- レビューの目的が不明確
- レビューの質が人によって異なる
- レビューの時間がかかりすぎる
- レビューの内容が偏る
- レビューのフィードバックが不明瞭
こうした課題を解決できるのが、レビューガイドラインになります。レビューガイドラインとは、コードレビューを行う際の指針やルールをまとめたものです。これにより、レビューの質を一定に保ち、チーム全体での共通理解を促進します。
レビューガイドラインが各課題に対してどのように効果を発揮するのか、以下に詳しく説明します。
レビューの目的が不明確
開発チームのメンバーによっては、そもそもなぜレビューを行うのか、目的を把握していない場合があります。また、メンバーによってレビューの目的が異なっているケースも多いです。こうした認識のズレは、レビューの質低下につながるので注意が必要です。
ガイドラインでは、最初にレビューの目的を明確に定義しましょう。例えば、コードの品質向上、バグの早期発見、要件との整合性確認などです。これにより、チーム全体でレビューの目的を共有し、認識のズレを防止できます。
レビューの質が人によって異なる
レビューの質が異なってしまう問題は、レビュアーが異なる視点や経験を持っているために起こります。これは、レビュアーが異なる以上、ある程度は避けられません。しかし、レビュアーによって指摘事項が大きく異なったり、コンフリクトしたりすると、開発者は混乱してしまいます。
ガイドラインは、レビュアーが共通の基準に基づいてレビューを行う指針になります。これにより、レビュアー間のムラを減らし、開発者が受けるフィードバックの一貫性を保つことができます。
レビューの時間がかかりすぎる
レビュー時にどういった視点で見ればいいかが明確になっていないと、レビュアーは網羅的にチェックしようとして、時間がかかりすぎることがあります。特に、経験の浅いレビュアーは、どこに注目すればよいのか分からず、細部にまで目を配ってしまう傾向があります。結果としてレビュー待ちのPRが増え、開発のスピードが落ちてしまいます。
ガイドラインはレビュアーのスコープを明確にし、どの部分に注目すればいいかを明確にします。これにより、レビュアーは効率的にレビューを行うことができ、レビュー時間を短縮できます。
もう一つの視点として、レビューを受ける際に用意する情報(PRの目的や変更点の説明など)をガイドラインに含めることで、レビュアーが理解しやすくなり、レビュー時間の短縮につながります。
レビューの内容が偏る
レビューは、レビュアーの経験や専門性に依存する部分が大きいです。そのため、特定の担当者ばかりレビューを行なっていると、特定の観点に偏ったレビューが続いてしまいます。これにより、コードの品質が一部の観点でのみ高くなり、他の重要な部分が見落とされる可能性があります。例えば、コードについてはレビューされつつ、セキュリティやパフォーマンスに関するレビューが不足してしまうといったケースです。
ガイドラインでセキュリティやパフォーマンスなど、複数の観点でのレビューを促すのは、偏りを減らす効果が期待できます。また、ガイドラインに基づいてレビュアーをローテーションすることで、異なる視点からのレビューが行われるようになります。
レビューのフィードバックが不明瞭
レビューのフィードバックが不明瞭な場合、開発者は何を修正すればよいのか分からず、結果としてコードの品質が向上しません。特に、抽象的なコメントや指摘は、開発者にとって理解しづらく、改善点が明確になりません。
ガイドラインでは、フィードバックの書き方や具体的な指摘方法を明確にしましょう。例えば、「このコードは可読性が低い」という指摘ではなく、「この変数名は意味が分かりづらいので、より具体的な名前に変更してください」といった具体的な指摘を促すことができます。これにより、開発者は何を修正すればよいのかが明確になり、コードの品質向上につながります。
ガイドラインに盛り込むべき内容
ガイドラインを作成する際には、以下のような内容を盛り込みましょう。
- レビューの目的
- レビューの対象
- レビューの頻度
- レビューの方法
- レビュー原則
- レビューのフィードバック方法
- NGレビュー例とその言い換え
レビューの目的
レビューの目的は一つではありません。開発チームによって、いくつかの目的が挙げられます。目的を一つに絞る必要はありませんが、数多いと、それだけぼやけてしまうので注意してください。
例えば、以下のような目的が挙げられます。
- コードベースの健全性維持および向上
- コードの品質向上
- バグの早期発見
- 要件との整合性確認
- セキュリティの確認
- パフォーマンスの確認
- ドキュメントの整備
- コーディング規約の遵守
- チーム内の知識共有
- 教育
レビューの対象
レビューの対象を明確化すると、レビュアーがどういった部分に注目してレビューを行えばいいか明確になります。また、抜け漏れの発生を防ぐ、チェックリストとしても役立ちます。
- コードのロジックおよびパフォーマンス
- コーディング規約の遵守
- 変数・関数・クラスなどの命名
- 可読性およびメンテナンス性
- テストコードの過不足
- ドキュメントの過不足
- セキュリティ観点
レビューの頻度
レビューはなるべきであれば、PRが送られたタイミングで迅速に行うのが理想です。しかし、必ずしも実施できるわけではないでしょう。そうした場合においても、レビューのタイミングを明記しておくことで、レビュアーの意識を高められるでしょう。また、待たされる開発者担当者のストレスも軽減できます。
基本は1営業日以内にレビューを行うのを基本とし、集中して作業している場合にはいつまで行うかをコメントするといったフローが望ましいです。
レビュー原則
例えばGoogleのレビューガイドラインでは、以下のような原則が挙げられています。
- 完璧よりも改善
コードが完璧でなくても、全体としてコードベースの健全性を向上させるものであれば承認すべき - 技術的事実を重視
意見や個人的な好みよりも、技術的な事実やデータに基づいて判断する - スタイルガイドの遵守
スタイルに関する問題は、スタイルガイドに従って解決する - 一貫性の維持
既存のコードベースとの一貫性を保つ
これは、組織における「何を重視するか」というポリシーを明確化するものです。こうした原則をガイドラインに盛り込むことで、レビュアーは何を重視してレビューを行うべきかが明確になります。
なお、こうしたポリシーは上から押し付けるのではなく、チームメンバーの合意形成を経て決定することが重要です。チーム全体での合意があれば、メンバーはポリシーに従いやすくなります。その上で運営し続ければ、ポリシーはチームの文化になり、新しいメンバーも自然とポリシーに従うようになります。
レビューのフィードバック方法
レビューでたびたび問題になるのが、レビュアーのトーンやマナーです。特に、指摘の仕方やフィードバックの方法は、開発者にとって受け入れやすいものである必要があります。
レビューが教育を目的としているのであれば、指摘の仕方は特に重要です。ガイドラインでは、以下のような点を明確にしましょう。
- フィードバックは建設的であること
- 批判ではなく提案を心がける
- 感情的な表現を避ける
- 質問形での指摘を推奨する
説明責任は開発担当者にありますが、レビュアーはその説明を受け入れる姿勢を持つことが重要です。ガイドラインでは、レビュアーがどのようにフィードバックを行うべきかを具体的に示すと良いでしょう。
NGレビュー例とその言い換え
ガイドラインの補足として、べからず集があると便利です。具体的なNGレビューの例とその言い換えを示すことで、レビュアーはどのような表現が適切でないかを理解しやすくなります。
例えば、以下のようなNGレビュー例とその言い換えが考えられます。
- このコードは読みにくい
→ この変数名はもう少し具体的にすると、可読性が向上します。例えば〜 - この関数は長すぎる
→ この関数は複数の責務を持っているようです。分割して、より小さな関数にすると良いでしょう - このコードはバグがある
→ この部分で特定の条件下でエラーが発生する可能性があります。例えば、〜のケースでは〜 - このコードはセキュリティ的に問題がある
→ このコードは特定のセキュリティリスクを抱えています。例えば、〜のような攻撃に対して脆弱です。対策としては、〜を検討してください
ガイドラインをチームに浸透させる方法
ガイドラインを作ったとしても、それがチームに浸透しなければ意味がありません。チーム内で共有し、メンバー全員がガイドラインを遵守してレビューを行なっていくことで、徐々にチーム内にレビュー文化が根付いていきます。
以下の方法で、ガイドラインをチームに浸透させていきましょう。
- ガイドラインをドキュメント化する
- チーム全体でレビューする
- 定期的に見直す
- 実例を文書に残す
- 新メンバーへの教育
ガイドラインをドキュメント化する
ごく小さなチームであれば、ガイドラインを口頭で説明して済んでしまうかもしれません。しかし、口頭では不足する部分も多いですし、認識齟齬が発生します。最初から立派なドキュメントを作成する必要はありません。まず、最低限の内容をまとめたドキュメントを作成し、チームで共有しましょう。
ドキュメントというと大事に聞こえてしまいますが、たとえばGitHubのリポジトリ内でREADME.mdにガイドラインを記載するだけでも十分です。重要なのは、チーム全体でアクセスできる場所にガイドラインを置くことです。
チーム全体でレビューする
ガイドラインを作成したら、チーム全体でその内容をレビューしましょう。立派なドキュメントであっても、メンバーに存在を知られていなければ意味がありません。また、メンバーがガイドラインの内容に納得していなければ、実際のレビューに活用されることはありません。必ず、チーム全体でガイドラインの内容を確認し、意見を出し合いましょう。
レビューを通して、メンバー全員がガイドラインの内容を理解し、合意形成が図ります。また、メンバーからのフィードバックを受けて、ガイドラインを改善するのも合意形成を促進する方法の一つです。
定期的に見直す
ガイドラインは一度作成したら終わりではありません。開発環境やチームの状況は常に変化します。そのため、定期的にガイドラインを見直し、必要に応じて更新することが重要です。
また、プロジェクトによってもレビューの観点や目的が異なる場合があります。プロジェクトごとにガイドラインをカスタマイズすることで、より効果的なレビューが可能になります。この場合、ベースになるガイドラインは共通のものを用意し、プロジェクトごとに必要な部分を追加・修正する形であれば導入が容易です。
実例を文書に残す
いいレビューの実例、NGの実例が出てきたら、それを参考として残しましょう。実際のレビューの例を文書化することで、ガイドラインの内容がより具体的になります。特に、NGレビューの例とその言い換えは、レビュアーがどのような表現を避けるべきかを理解するのに役立ちます。
新メンバーへのオンボーディング
新しいメンバーがチームに加わった際には、ガイドラインの内容をしっかりと教育しましょう。新メンバーは、既存のガイドラインを知らないため、最初から適切なレビューを実施するのは難しいです。ガイドラインの内容を説明し、実際のレビューでどのように活用するかを具体的に示すことで、新メンバーのスムーズなチームへの適応を促します。
PRレビューは組織やプロジェクトによって異なるため、他で経験していたとしても、必ずしもそのまま活用できるわけではありません。新メンバーには、自分たちのプロジェクトのガイドラインに基づいたレビューの進め方を理解してもらいましょう。
まとめ
今回はPRレビューにおけるガイドラインの重要性を解説しました。慣れた人たちの間では、なんとなくで進めてしまっているコードレビューであっても、ガイドラインの作成は大事です。ガイドラインは、レビューの質を一定に保ち、チーム全体での共通理解を促進するための重要なツールです。
コードレビューガイドラインは多くの組織で公開されています。ぜひそうしたガイドラインを参考に、自分たちのチームに合わせた形で作成してみてください。
おまけ:CodeRabbitの活用
CodeRabbitはAIコードレビューサービスで、GitHubやGitLabと連携してPRに対して自動的にレビューを実行します。開発者はCodeRabbitからの指摘を確認し、修正を行うことで、コードの品質を向上できます。最近リリースされたCodeRabbit for VSCodeを利用することで、ローカルでのレビューも「無料で」可能になりました。
ぜひ、CodeRabbitを活用して、コードレビューの効率化と品質向上を図ってください。
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