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ビジネスデータを手軽に可視化!AWSのBIサービス「Amazon QuickSight」を徹底解説

2025/04/06に公開

はじめに

デジタルトランスフォーメーションが進む現代、ビジネスにおけるデータ活用の重要性はますます高まっています。ビッグデータ、AI、クラウドといった技術の進化により、かつては扱い切れなかった膨大なデータを収集・分析し、顧客行動の分析や業務効率化に繋げ、新たなビジネスチャンスを掴む企業が増えています。

しかし、「データはあるけれど、どう分析すればいいのか分からない」「どのデータが本当に重要なのか見極められない」といった課題に直面することも少なくありません。

そこで注目を集めているのが、専門知識がなくても直感的な操作でデータを分析・可視化できるBI(ビジネスインテリジェンス)ツールです。

この記事では、数あるBIツールの中でもAWSが提供するクラウドネイティブなBIサービス「Amazon QuickSight」に焦点を当て、その特徴、主要な機能、そして他の代表的なBIツールとの比較を分かりやすく解説します。

Amazon QuickSightとは?

Amazon QuickSightは、AWS上で提供されるフルマネージド型のBIサービスです。最大の特徴はサーバーレスアーキテクチャを採用している点です。これにより、ユーザーはサーバーの構築や運用管理といったインフラの心配をすることなく、データソースを接続するだけですぐに高度なデータ分析環境を利用開始できます。

データの収集から分析、可視化、そしてインサイトの共有まで、データに基づいた意思決定を迅速に行うためのプロセス全体を効率化する強力なツールとして、多くの企業で導入が進んでいます。

AmazonQuickSight

https://www.youtube.com/watch?v=CFBlREfSItc

Amazon QuickSightの5つの魅力的な特徴

QuickSightが多くのユーザーに選ばれる理由となる、主な特徴を見ていきましょう。

1. 多種多様なデータソースに接続可能

QuickSightは、AWS内のサービスはもちろん、オンプレミスのデータベースやSaaSアプリケーション、さらにはファイル形式まで、非常に幅広いデータソースに対応しています。

  • AWSサービス: Amazon S3, Amazon RDS (Aurora, MySQL, PostgreSQLなど), Amazon Redshift, Amazon Athena など
  • データベース: MySQL, Oracle, PostgreSQL, SQL Server など
  • SaaS: Salesforce, ServiceNow, GitHub, Slack など
  • ファイル形式: Excel (xlsx), CSV, TSV, JSON など

社内に散在する様々なデータをQuickSightに集約することで、目的ごとに異なるBIツールを導入・運用する手間やコストを削減し、データガバナンスの向上にも繋がります。

データソース選択画面

2. 迅速な導入と簡単なスケーリング

AWSアカウントがあれば、QuickSightは数クリックで利用を開始できます。データソースを選択し接続するだけで、分析の準備は完了です。サーバーレスであるため、インフラのプロビジョニングやキャパシティプランニングは不要。利用ユーザー数やデータ量が増加した場合でも、AWSが自動でスケールしてくれるため、パフォーマンスの心配なく利用規模を柔軟に拡大できます。

3. 超高速インメモリエンジン「SPICE」による高速処理

QuickSightは「SPICE (Super-fast, Parallel, In-memory Calculation Engine)」と呼ばれる独自の高速インメモリ計算エンジンを採用しています。データをディスク上ではなくメモリ上に保持して計算処理を行うため、大量のデータに対してもインタラクティブかつ高速な分析レスポンスを実現します。複雑な集計や分析もストレスなく実行可能です。

4. 専門知識不要!直感的な操作性

QuickSightのインターフェースは直感的で分かりやすく、SQLクエリの記述や複雑なデータ操作の知識がなくても、GUIベースで簡単に分析を進められます。
特筆すべきは「AutoGraph」機能です。選択したデータフィールドに基づいて、QuickSightが自動的に最適なグラフタイプを提案・描画してくれるため、データ可視化の専門家でなくても、効果的なグラフやダッシュボードを容易に作成できます。

Autograph

5. 使った分だけ!柔軟な料金体系

QuickSightの料金体系は、従来のBIツールに多いユーザー単位の固定月額ライセンス料ではなく、主に閲覧者(Reader)のセッション単位での従量課金が中心です。(作成者(Author)や管理者(Admin)はユーザー単位の月額料金)。これにより、利用頻度が低いユーザーが多い場合や、一時的に利用が集中するような場合でも、コストを最適化できます。「使った分だけ支払う」というクラウドらしいコスト効率の良さが魅力です。

QuickSightの詳細な料金

QuickSightの料金は、ユーザーロールと選択する料金モデルによって以下のように構成されています。

  1. ユーザーベースの料金

    • Author(作成者)
      • 標準版: $24/ユーザー/月(年間契約の場合は$18/ユーザー/月)
      • Author Pro(Amazon Q機能付き): $50/ユーザー/月
    • Reader(閲覧者)
      • 標準版: $3/ユーザー/月
      • Reader Pro(Amazon Q機能付き): $20/ユーザー/月
    • Amazon Q有効化料金: Amazon Q機能を使用する場合、アカウントごとに$250/月の有効化料金が発生
  2. キャパシティベースの料金(大規模展開向け)

    • Reader Capacity: 500セッション/月あたり$250から
    • Amazon Q Questions Capacity: 500質問/月あたり$250から
  3. その他の料金

    • SPICE(インメモリデータストア): $0.38/GB/月
      • Author/Author Proライセンスには10GBのSPICE割り当てが含まれています
    • Pixel-perfect reports(高精細レポート)
      • 月額プラン: 500レポートユニット/月で$500(追加は$1.00/ユニット)
      • 年額プラン: 4,000レポートユニット/月で$24,000/年(追加は$0.50/ユニット)

Amazon QuickSightの主要機能

QuickSightが提供する主要な機能について、もう少し詳しく見ていきましょう。

1. モダンなダッシュボードとインタラクティブレポート

豊富なグラフやチャートのライブラリから最適なビジュアルを選択し、データを分かりやすく表現できます。フィルター、ドリルダウン、パラメータ制御などを組み込むことで、ユーザー自身が操作しながらデータを深掘りできるインタラクティブなダッシュボードを構築可能です。
さらに、「ピクセルパーフェクトレポート」機能を使えば、損益計算書、請求書、運用レポートといった定型的な帳票レイアウトのPDFレポートをダッシュボードからスケジュール配信することもできます。

ダッシュボードの例

2. 生成AIによるデータ分析支援「Amazon Q in QuickSight」

AWSの生成AIサービス「Amazon Q」がQuickSightに統合され、「Amazon Q in QuickSight」として提供されています。これにより、例えば「先月の製品カテゴリ別売上トップ5を教えて」といった自然言語(日本語にも対応)で質問を入力するだけで、QuickSightが関連データを分析し、適切なグラフやインサイトを自動生成してくれます。データ分析のハードルをさらに下げ、誰もがデータから価値を引き出せるよう支援します。

※Amazon Q in QuickSight(生成AI機能)は現在、東京リージョンでは利用できません。

Amazon Q in QuickSightが利用可能なリージョン(2025/04/09時点)

  • 米国東部(バージニア北部)(us-east-1)
  • 米国西部(オレゴン)(us-west-2)
  • アジアパシフィック(ムンバイ)(ap-south-1)
  • アジアパシフィック(シドニー)(ap-southeast-2)
  • カナダ(中部)(ca-central-1)
  • 欧州(フランクフルト)(eu-central-1)
  • 欧州(アイルランド)(eu-west-1)
  • 欧州(ロンドン)(eu-west-2)
  • 南米(サンパウロ)(sa-east-1)

生成AI連携

生成BI機能の概要紹介
https://www.youtube.com/watch?v=uBG7lFXV6II

3. 分析結果を効果的に伝える「データストーリー」

分析結果やそこから得られたインサイトを、単なるグラフの羅列ではなく、文脈を持った「ストーリー」として構成し、プレゼンテーション形式で伝えることができる機能です。データに基づいた意思決定を促す上で、分析結果を分かりやすく効果的に伝えることは非常に重要です。

住宅ローンデータを活用したデータストーリー作成デモ
https://www.youtube.com/watch?v=fwwh8TKhQm0

4. 堅牢なセキュリティとガバナンス

企業データを扱う上でセキュリティとガバナンスは不可欠です。QuickSightは、行レベル・列レベルでのアクセス制御や、ユーザーロールに基づいた権限管理(ポリシーベースガバナンス)を提供します。また、AWS IAM Identity Center(旧AWS SSO)との連携により、既存のIDプロバイダー(Okta, Azure ADなど)を利用したシングルサインオンや一元的なユーザー管理を実現し、セキュアなデータアクセス環境を構築できます。

5. アプリケーションへの埋め込み分析 (Embedded Analytics)

QuickSightで作成したダッシュボードやレポートを、自社開発のWebアプリケーションやポータルサイト、SaaSアプリケーションなどに直接埋め込むことができます(OEM Embedding)。これにより、ユーザーは普段利用しているアプリケーションの画面遷移なしに、必要なデータインサイトをその場で確認できるようになります。

他の主要BIツールとの比較

QuickSightを検討する上で、他の代表的なBIツールとの違いも気になるところでしょう。ここでは「Tableau」「Looker/Looker Studio」「Microsoft Power BI」との比較を、いくつかの観点から見てみます。

比較観点 Amazon QuickSight Tableau Looker / Looker Studio Microsoft Power BI
料金体系 セッション単位の従量課金が中心 (Reader) ユーザー単位の固定ライセンス料が基本 サブスクリプション型 (ユーザー数、機能による) ユーザー単位の固定月額料金が基本
導入・運用 サーバーレスでインフラ管理不要、AWS連携容易 高機能だが、導入・運用に知識が必要な場合あり LookMLの学習コスト、GCP/Googleサービス連携に強み Excelライクな操作感、Microsoft製品連携に強み
主な特徴 AWSエコシステムとの親和性、SPICE、Amazon Q連携 高度な分析・表現力、豊富なビジュアライゼーション LookMLによるデータモデリング、ガバナンス機能 Microsoft 365との連携、DAX言語による高度な計算
得意な環境 AWS中心の環境 オンプレミス、マルチクラウド GCP/Google中心の環境 Azure/Microsoft中心の環境

QuickSight vs Tableau:
QuickSightは従量課金でスモールスタートしやすく、サーバーレスで運用が容易な点がメリットです。Tableauはより高度な分析機能や表現力を持ちますが、ライセンス費用や運用負荷は高くなる傾向があります。

QuickSight vs Looker/Looker Studio:
QuickSightがAWSサービスとの連携に優れる一方、Looker/Looker StudioはGoogle CloudやGoogle Marketing Platformとの連携に強みがあります。LookerはLookMLという独自言語でのデータモデリングが特徴で、習熟が必要ですが、データガバナンスを効かせやすい側面もあります。Looker Studio (旧 Google Data Portal) は無料で利用開始できる点が魅力です。

QuickSight vs Power BI:
Power BIはMicrosoft 365やAzureとの親和性が非常に高く、Excelに慣れたユーザーにとっては学習コストが低い点がメリットです。QuickSightはAWS環境での利用や、サーバーレス運用を重視する場合に適しています。

どのツールが最適かは、既存のITインフラ、必要な分析レベル、予算、ユーザーのスキルセット、連携したいサービスなど、組織の状況によって異なります。

まとめ:Amazon QuickSightはどのような組織におすすめか?

今回は、AWSのBIサービス「Amazon QuickSight」について、その特徴、機能、他のツールとの比較を解説しました。

QuickSightの主な強みは以下の通りです。

  • サーバーレスでインフラ管理が不要
  • SPICEによる高速な分析パフォーマンス
  • 従量課金中心のコスト効率の良い料金体系
  • 直感的なインターフェースと**生成AI (Amazon Q)**による分析支援

これらの特徴から、Amazon QuickSightは特に以下のようなニーズを持つ組織やユーザーにおすすめです。

  • すでにAWSを積極的に活用している、または今後活用を強化したい
  • インフラの構築・運用管理**の手間をかけずにBIツールを導入したい
  • 利用頻度に応じてコストを最適化したい
  • データ分析の専門家でなくても、直感的に使えるツールを求めている
  • アプリケーションへのダッシュボード埋め込みを検討している

BIツールの選定は、自社の状況や目的に合わせて慎重に行うことが重要です。もしAWS環境をメインで利用されているのであれば、Amazon QuickSightは非常に有力な選択肢となるでしょう。ぜひ一度、その手軽さとパワフルな機能を試してみてはいかがでしょうか。

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