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生成AIでシナリオを書いた話

に公開

はじめに

この文章はシナリオ・センターhttps://www.scenario.co.jp/が主催する「20枚シナリオコンクール」への応募作を生成AIに執筆させた手順をメモしたものです。
個人的には、生成AIが威力を発揮するのは物語創作の分野だと思うのですが、その手の話はやってはいけない雰囲気を感じることもあります。でもきっと、いろんな人がやっている気もします。
実際に生成AIはシナリオを書けるのか?書いたら何が起こるのか?
試してみました。

アイデアの壁打ち

最初におこなったのは「アイデアの壁打ち」という作業。2025年の「20枚シナリオコンクール」はテーマが”バトン”と決められていました。そこで以下のプロンプトを生成AIに投げてみました。

あなたはプロの脚本家です。"バトン"をモチーフにして脚本のアイデアを出してください。

生成AIの主な回答は以下のとおり。

案1:『ラスト・リレー 』

  • ジャンル: SF青春ドラマ
  • ログライン: 宇宙開拓時代、資源が枯渇しつつある地球からの最後の移住船団。その船団の命運は、選ばれた若者たちによる「星間リレー」に託された。彼らは、人類の希望という重いバトンを、未知の星系まで繋ぐことができるのか。

案2:『受け継がれる調べ』

  • ジャンル: ヒューマンドラマ
  • ログライン: かつて世界的に名を馳せたが、ある事件をきっかけに表舞台から姿を消した老指揮者。彼の元に、才能はあるが荒削りな若き指揮者が現れる。老指揮者は、自身の情熱と音楽の魂を、形見の指揮棒(バトン)を通じて若者に託そうとするが…。

案3:『バトンタッチ・マーダー』

  • ジャンル: ミステリー・サスペンス
  • ログライン: 大企業の社長が、社運を賭けた新プロジェクトの発表直前に殺害された。現場に残されたのは、リレーで使われるバトンのような謎の筒。それは、連続殺人事件の始まりを告げるものだった。刑事は、被害者たちが繋いできた「見えざるバトン」の正体を追う。

案4:『伝承のバトン 』

  • ジャンル: ファンタジー・ヒューマンドラマ
  • ログライン: 古い蔵で見つかった一本の不思議なバトン。それは、触れた者の最も大切な「想い」を未来へ、あるいは過去へと繋ぐ力を持っていた。異なる時代を生きる人々が、時を超えたバトンリレーによって、それぞれの運命と向き合い、奇跡を起こしていく。

実際には何度も創案作業をやっています。ログラインというのは。3行ストーリーとも言われる概要説明文です。こちらが出力を指示はしていないのですが。。

プロットの作成

次にプロットを作ります。プロットというのはシナリオの設計図のようなもの。構成案とかハコ書きという言い方もします。案の中から以下の指示を出しました。

『伝承のバトン』に興味があります。このプロットを起承転結の順に作成してください。

生成AIの回答は以下のとおり。

【基本設定】

  • バトンの特性:

    • 強い「想い」に反応し、その想いを乗せて過去や未来の「縁ある人物」の元へ時を超える。
    • 受け取った者は、バトンに込められた想いや送り主の時代の光景を断片的に感じ取ることができる。
    • 直接的な歴史改変の力は持たないが、受け取った者の心に影響を与え、行動を促すことで間接的に未来を変える可能性を秘める。
    • 「アンカー」となる人物が最後の想いを託すと、その役目を終える(あるいは新たな旅に出る)。
  • 主要キャラクター

    • 未来(みく): 現代の女子高生。陸上部でリレー選手だったが怪我で挫折し、無気力な日々を送る。
    • 大和(やまと): 戦時中(昭和20年頃)の少年。絵を描くことが好きで、優しい心を持つ。出征を間近に控えている。
    • 時音(しおん): 22世紀の未来都市で暮らす歴史学者。高度に発展したが、人々の繋がりが希薄になった社会に憂いを抱いている。

【起:出会いと最初のバトンパス】

   1. 現代・未来(みく)の日常とバトンの発見
   2. 戦時中・大和(やまと)の想い
   3. バトンの覚醒と最初のメッセージ
   4. バトンへの興味と探求

【承:交差する想いとバトンの軌跡】

   5. 大和の願いと未来の葛藤
   6. バトンの過去の旅路(示唆)
   7. 未来都市・時音(しおん)の登場とバトンの探求
   8. 時音の接触と未来の困惑

【転:歪む歴史と託された約束の危機】

   9. 時音の介入と歴史の微細な変化
   10. バトンの悲鳴と大和の願いの歪み
   11. 「約束のアンカー」の意味の発見
   12. 未来の決断と時音への呼びかけ

【結:約束のアンカーと繋がる未来】

   13. 時空を超えた対話と和解
   14. バトンの真の力と最後のバトンパス
   15. それぞれの時代の新たな一歩
   16. エピローグ:繋がる想い、未来への希望

シナリオの出力

ここまで出来たところで以下の依頼をしました。シナリオは「柱」「セリフ」「ト書き」から出来ていますので、その書き方の指示を加えます。

このプロットを踏まえて、3500文字程度の脚本を作成してください。シーンを示す「柱」は文頭に〇を記述、セリフは文頭に話す人の名前、ト書きは6em字下げして記述してください。

ここで生成AIにシナリオを出力させます。全体は長いので最初の2シーンだけ掲載します。

生成AIからの出力結果

〇未来の部屋・朝(現代)

   カーテンの隙間から朝日が差し込んでいるが、部屋は薄暗い。
   ベッドの上で、未来(17)が虚ろな目覚まし時計を見ている。
   部屋の隅には、立てかけられたスパイクと、埃をかぶったトロフィー。
   机の上には、白紙の進路希望調査票。
未来「…………」 ため息をつき、ゆっくりと起き上がる。 スマートフォンが鳴る。 祖母からだ。
未来「もしもし…うん、大丈夫、起きてる…うん、わかってる。今日行くよ、蔵の片付け…はいはい」
   面倒そうに電話を切る。 窓の外を見る。 かつて自分が走っていた陸上トラックが見える。
   小さく、生徒たちが朝練をしている。
未来「……馬鹿みたい」 呟き、重い足取りで部屋を出る。

〇祖母の家の蔵(現代)

   薄暗く、埃っぽい蔵の中。
   様々な古道具や箱が積み上げられている。
   マスクをした未来が、うんざりした様子で段ボール箱を運び出している。
未来「はぁ…いつになったら終わるのよ、これ…」
    一つの古い木箱に手が触れる。 南京錠はかかっていない。 興味本位で蓋を開ける。 中には、古びた一本の木のバトンが、絹布に包まれて納められていた。
手に取ると、ずしりとした重みと、不思議な温かさを感じる。
未来「リレーのバトン…?なんでこんなところに…」
   バトンを握りしめた瞬間。
   (フラッシュバック)
   ――激しい爆撃音。燃え盛る街。逃げ惑う人々。
   ――血に汚れた手。何かを叫ぶ少年の顔。悲痛な瞳。
未来「きゃっ!」 バトンを落としてしまう。 激しく動悸がする。
未来「な、何今の…夢?…いや、確かに…」
   恐る恐る、もう一度バトンを拾い上げる。 先程のような強烈なビジョンはないが、バトンはまだ温かい。 そして、微かに、誰かのすすり泣くような声が聞こえる気がした。
<以下略>

Wordへの流し込み

出力結果をWordに流し込みます。シナリオは日本の場合、一般的に縦書きです。ネットで検索するとシナリオのテンプレートがいくらでも見つかります。
今回はシナリオ・センター謹製のWordテンプレートに出力結果をコピペしました。
このテンプレートはWordのスタイルに”柱”、”セリフ”、”ト書き”を持っています。Wordでスタイル設定のマクロ(VBA)を実行させて縦書きシナリオの体裁を整えます。

校正・直し

シナリオのWord転記まで出来ましたが、これはまだシナリオになっていません。シナリオのお作法に沿っていないようです。以下のチェック項目に従ってシナリオの直しを人間が行いました。

プロットとの整合性チェック:

   シナリオ全体を通して、矛盾点や不自然な展開がないか確認する。
   必要に応じて、プロットを再構成する。

柱の修正:

   時間(朝)(夜)を加えたり、場所・中・外などを追記

ト書きの修正:

   文体の修正。特に終語を現在形に直す。
   映像化できない感情表現、情景描写などを削除、もしくは登場人物のセリフに入れ込む。

セリフの調整:

   キャラクターの個性を際立たせるために、セリフを調整する。
   不自然な言い回しや、時代に合わない言葉遣いを修正する。

特にト書きの中に映像化できない感情表現、情景描写が随所にでてきます。小説なら地の文となるのですが、シナリオのお作法に沿っていません。例えば、

未来「はぁ…いつになったら終わるのよ、これ…」
   一つの古い木箱に手が触れる。南京錠はかかっていない。
   興味本位で蓋を開ける。
   中には、古びた一本の木のバトンが、 絹布に包まれて納められていた。
   手に取ると、ずしりとした重みと、不思議な温かさを感じる。

特に ”ずしりとした重みと、不思議な温かさを感じる。” といった記述はシナリオ的にアウトです。登場人物のセリフに変換して以下のように書き直しました。

   古びた一本の木製のバトン。
   絹布に包まれて納められている。
   未来、手に取る
未来「リレーのバトン?木製だよね?なのに重い…あたたかい?なんで…」

というわけで直しはかなり大変でした。
そして最後にやったことは、生成されたシナリオが類似の物語が存在しないかを確認することです。最新版Wordのエディターメニューにある「オンラインソースの類似性をチェックします」ボタンを初めて押してみました。結果は類似文書なしとの結果がでました。

あとがき

  • 使用した生成AIは Gemini 2.5 proです。
  • 実際に書き終えた感想:
    • けっこう、まともな物語になっていてびっくり。世の中にある物語を検索して、継ぎ接ぎしてるんじゃない?という人もいますが、そうじゃない凄みを感じます。ハリウッドの脚本家たちがストライキを起こした気持ちがわかる気がします。
    • 完成はしたけれど、自分の作品のような気がしません… 校正まで終わると、達成感があるものですが、そんなものは微塵もありませんでした。

実際に知人からは、こんな事して何が楽しいの?とも言われました。ただ何事も最後までやってみないとわからない事が多いわけでして… たぶん今回の手法と自力創作の間くらいに生成AIとの協創の解があるんじゃないかと考えています。
次回、機会があれば、いまやっているObsidian & Cursorでの創作手順をアップできればと思います。

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