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いかにしてココナラはCursor Businessを導入したのか? 〜生成AIツール導入のための社内調整術〜

2025/02/10に公開

はじめに

こんにちは!!

株式会社ココナラのエージェント開発部で Web エンジニアをしている、もちさんです。
ココナラテックというフリーランス向けのエージェント事業サービスの開発をしています。

この記事では、ココナラが生成 AI ツール Cursor のビジネスプランである「Cursor Business」を導入するまでの実践的なプロセスと具体的な成功事例、そして社内調整のためのノウハウを時系列とともに詳しくご紹介します。

昨今、生成 AI ツールを活用した業務効率の向上は IT エンジニアにとって、もはや開発現場で避けて通れないテーマとなっています。

しかし、「どのように上司を説得するか」「どのように社内承認を通すか?」という壁にぶつかり、導入への一歩を踏み出せずにいる方も少なくありません。

この記事が、皆さんの開発組織で生成 AI ツールを導入する際の有益な指針となったら嬉しいです。

自分が感じた生成 AI に対する危機感と市場の動向

近年、生成 AI の登場により、ソフトウェア開発は大きな変革期を迎えています。

多くの企業が生成 AI ツールを積極的に導入し、その成功事例が報告されています。こうした市場動向に対し、導入をやみくもに遅らせる組織は将来的なソフトウェア開発において大きな遅れを取るといった危機感を個人的に感じていました。

筆者も趣味の個人開発において初めて Cursor を触ったとき「これはプログラミングのあり方を変えるツールになり得る!!」と感動を覚えたこともあり、高いモチベーションを持って今回の導入を進めました。

組織による生成 AI ツールの導入のハードル

ココナラでは生成 AI 活用によって生産性向上を狙っており、それは開発組織も例外ではありません。
自社プロダクトであるココナラAIスタジオなどでも生成 AI を活用したサービス展開をしており、社内でも生成 AI の導入を積極的に進めています。

エンジニアの「新しいツールを入れてみよう!!」という気持ちは大事ですが、会社である以上、好きなツールを好きな予算だけ使って良いということにはなりません(研究開発などの場合はある程度許容されるかもしれません)

営利企業でもありビジネスでもある以上、同時に「導入することでどのくらい開発生産性向上に効果があるのか?」という点を明確に社内の意思決定者に示すことが重要です。

なぜ Cursor Business を選んだのか

生成 AI ツール選定にあたり、既に社内で GitHub Copilot も導入していましたが、更なるコーディングの効率化を追求するために今回、生産性向上とセキュリティを両立させる Cursor Business を選択しました。

Cursor Business の優れた特徴

Cursor Business(月額$40/ユーザー)を選ぶ決め手となったポイントは、以下の 6 つに集約されます:

  1. エンタープライズグレードのセキュリティと管理機能

    • SOC 2 Type II 認証取得済みで、企業の安全基準を満たす
    • プライバシーモードの組織全体での強制適用が可能
    • SAML/OIDC SSO による認証統合
    • 管理者ダッシュボードによる使用状況の可視化と分析
  2. 高度な AI モデルへの無制限アクセス

    • GPT-4、Claude 3.5 Sonnet などのプレミアムモデルを月 500 回の高速リクエストで利用可能
    • 低速リクエストは無制限に利用可能
    • カスタムモデルによる強力な Cursor Tab の補完機能
  3. 大規模コードベースへの対応

    • 数十万ファイルの大規模プロジェクトでも効率的に動作
    • スマートインデックス機能によるコンテキスト理解
    • プロジェクト全体を考慮したコード生成と編集
  4. チーム開発に最適化された機能

    • 一括請求による簡単な経費管理
    • チーム全体での設定・ポリシー管理
    • コーディングスタイルの一貫性維持
  5. プライバシーとコード所有権の保証

    • 生成されたコードの完全な所有権がユーザーに帰属
    • プライバシーモードでのコード非保存オプション
    • データ収集ゼロのポリシーで機密コードを保護
  6. エンタープライズサポート

    • 専門的な技術サポート体制
    • セキュリティドキュメントの提供
    • 導入・運用のサポート

これらの機能は、Fortune 1000 企業の 53%が採用し、月間 1 億行以上のエンタープライズコードが書かれている実績に裏付けられています。

参考:
Enterprise | Cursor - The AI Code Editor

GitHub Copilot との比較

実際の開発現場で行ったデモでは、「なぜ GitHub Copilot ではなく Cursor も導入するのか?」という点を以下のポイントで説明しました。

  • コード全体の理解と最適な提案
  • Tab キー機能による強力なコード補完
  • ファイル間の依存関係を考慮したリファクタリングが可能
  • 月額$20 の追加コストに対する優位性
    • プロジェクト全体のコンテキスト理解による的確な提案が可能
    • .cursorrulesによりチーム開発に最適化されたカスタマイズが行える
    • ビジネスグレードのセキュリティと管理機能

これにより、Cursor の対話的な開発支援機能が、単なるコード補完ツールではなく、現場の即戦力となることが実証され、大きな賛同を得る要因となりました。

導入までの道のりと具体的なプロセス

導入プロセスは、次の 3 つのフェーズに分かれており、各フェーズで以下の具体的なアクションを実施しました。

Phase 1: 内部での理解促進と協力者の獲得

  1. テックトークでのライブデモ

    • 毎週開催される社内のテックトークという有志が集まる定例のミーティングで最近の技術を紹介する機会がありました
    • その中で筆者は Cursor デモを実施しました
    • 簡単な SNS アプリのプロトタイプをリアルタイムで開発する様子を参加者に見せました
    • 参加者からは実際のコーディングデモを見て「効率化が実感できる」と好評でした
  2. Cursor の Slack チャンネル開設とアーリーアダプターの巻き込み

    • テックトークでの発表を見て社内で上司が Cursor の Slack チャンネルを開設してくれました
    • 新しい技術に敏感なエンジニアを中心に有志を募り、Slack のメンバーに追加しました
    • チャンネル内で積極的な意見交換が実施されました
  3. 小規模導入検証チームの形成

    • 各チームから少人数のメンバーを募り導入検証期間を設定しました
    • 週 1 回のミーティングで便利な使い方、成功事例、課題を共有し、Cursor の効果を最大限に引き出すようにしました
    • こうして集めたフィードバックが後の全社展開の指針となりました

Phase 1.5: 事前調査と説得材料の充実

生成 AIツール の進化は半年単位で劇的に変化しゲームチェンジャーが現れるため、スピーディな導入を重視しました。

  1. 社内申請プロセスの確認と資料整備

    • 情報システム部門やセキュリティ部門との連携強化
    • 必要な書類、セキュリティ審査の要件、過去事例の調査
    • 申請から導入までのリードタイムを最短化するため、社内のセキュリティ部門と調整し、必要書類を準備
  2. 外部事例の収集とデータの分析

    • Cursor を導入した外部有識者とコンタクトを取り、大手企業の導入事例を調査しました
    • 月間 1,400 行以上の コード補完の 実績データの提示
    • エンジニアの時給ベースで考えると月にわずかでも作業時間を削減できれば投資回収可能だという試算を提示

Phase 2: 効果の可視化と数値データの提示

実際の効果を明確にするため、以下の項目を定量的に測定し、報告書にまとめました。

  • コーディング補完回数やリクエスト回数によるコーディング時間の短縮
    → 定量的な数値と定性的な弊社エンジニアの体験談をもとに説明しました
  • 投資対効果(ROI)
    → 月額 $40 のコストは人数分を出すと大きく見えますが、エンジニアの時給で換算するとわずかな時間短縮の効果で回収可能なことを明示しました

これらの数値を基に、意思決定者層にレポートを提出し、導入の効果を客観的に証明しました。
幸いなことに、意思決定者層は生成 AI による生産性向上の可能性を感じており、上記の資料をもとに導入を承認してくれました。

各ユーザーごとのCursorの利用状況
※ Tab Usageの1回ごとに一行分のコーディングの時間が短縮されるということを示します。

Phase 3: 予算申請と全社展開に向けた社内調整

最終段階では、次の戦略を実施しました:

  • 段階的な導入計画の策定
    • 一気に全社導入せず、チーム単位での段階的な展開を計画しました
    • 各フェーズでの知見蓄積と共有の期間を確保しました
    • 効果的な使用方法やベストプラクティスの確立を共有しました

このような部門横断的な取り組みが、最終的に予算申請を承認に導き、全社での導入が実現しました。

導入後の成果と実感した変化

Cursor Business 導入後、弊社では以下の定量的および定性的な効果が顕著に現れました。

定量的効果

  • ROI:月額 $40 の投資がコード補完によるエンジニアの生産性向上で十分に回収可能なことを実証

定性的効果

  • エンジニアの生成 AI ツールによる満足度向上と、仕事に対するモチベーションの大幅アップ
  • 新しい技術やツールを活用する文化の醸成
  • 部署間での活発な情報共有とノウハウの横展開

こうした成果は、単なる数字以上に、社内全体の生産性向上として実感され、組織全体での技術革新の原動力となりました。

導入のためのヒントと成功の秘訣

ココナラの経験から導き出した、生成 AI ツール導入における成功のポイントは下記の通りです。

  1. 段階的なアプローチの徹底

    • 初めは小規模なチームまたはプロジェクトで PoC を実施
    • アーリーアダプターによる成功体験の実績を積み上げることが鍵
  2. 定量・定性データの収集と共有

    • コード補完の回数やコード生成の時間短縮など定量的な数値データをしっかり取得
    • 成果をレポートにまとめ、社内で共有
  3. 部門横断的なコミュニケーションの促進

    • ミーティングやテックトークで得た知見を全社的に展開する体制を構築
    • 技術、セキュリティ、運用、さらには QA など、あらゆる部門と早期段階から連携
  4. 外部事例の積極的活用

    • OpenAI での導入事例に留まらずサイボウズさんUbieさん などの事例を参考にし、信頼性の高い説得材料として活用
    • 経営層へのプレゼンには、具体的な数字と実績の裏付けをもって挑む

これらの取り組みが、最終的には全体的な導入の成功に直結し、社内の改革を推進するエネルギーとなりました。

まとめ

生成 AI ツールの導入は、単なる技術投資ではなく、組織全体の働き方や文化を刷新する大きなチャンスです。

私たちが実践した一連のプロセスである

  1. 社内での小さな成功体験の積み重ね
  2. 定量的データと成功事例の共有
  3. 部門横断的な協力体制の構築
  4. 外部事例の徹底活用

これらが、導入プロセスを円滑に進め、結果として大きな成果をもたらしました。

皆さんも、まずは自社のチーム内や小規模プロジェクトで実験的にツールを試し、そこで得られた具体的な成果を基に、さらに広い範囲での展開を進めてみてください。
こうすることで、新たな技術の導入が単なる試みから、組織全体の持続的な変革へと変わるはずです。

おわりに

ココナラは、生成 AI ツールを活用し、開発現場の効率化とエンジニアの働きがい向上を積極的に推進しています。
生成 AI ツールを取り入れたモダンな開発環境でスキルを磨きたいエンジニアの方は、ぜひ弊社の採用サイトをご覧ください。
https://coconala.co.jp/recruit/engineer/

最後に、この記事が皆さんの組織における生成 AI ツール導入の成功に向けた具体的指針となり、さらなる効率向上と革新的な開発環境の実現につながることを心から願っています!

参考情報

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