🌈

Palette3による多色印刷(4) 〜P2PP初期設定編〜

2022/11/28に公開約9,800字

P2PP(Palette 2 Post Processor)とは、Palette3をPrusaSlicerで使えるようにする後処理アプリです。Palette2時代に開発されPalette3にも対応しています。Mosaic社が開発したものではなくPaletteユーザーのコミュニティにより作り出されました。WindowsでもMacでも機能しますが、本記事ではWindows版を紹介します[1]。なおMac版の補足も添えておきました。

初期設定は思いの外手順が多いので、実際のプリント手順は次回に回します。

動作環境など

動作環境

項目 バージョンなど
PCのOS Windows 10 Pro 22H1
スライサー PrusaSlicer-2.5.0+win64
P2PP バージョン:8.00.49
プリンター Prusa MK3S+(MK3SからMK3S+へのアップグレード品)
Palette Palette3 Pro、ファームウェア:22.08.11.0

読んでおいて欲しい記事

ここに至るまでの多色印刷記事をある程度目を通したものとして説明を簡略化した箇所があります。多色印刷に関しては手動でもPalette3でも共通の注意点がありますので、できるだけ目を通しておいてください。

1.概略

P2PPの資料

資料やP2PP本体はこちらから閲覧及びダウンロードできます。
https://github.com/tomvandeneede/p2pp/wiki

資料に相当するものは多々ありますが、新旧混在しているのでPDF書類のP3 Setup Manualが一番確実と思います。

P2PP利用手順概略

インストールと初期設定が済んだ後の手順は、以下のようになります。スライスまではすべてPrusaSlicerで実施します。

  • 専用のプリント設定、フィラメント設定、プリンター設定に切り替える
  • STL読み込み
  • 色の選択
  • パージ量の設定
  • スライス
  • 「Gコードのエクスポート」によりP2PPが起動し、処理後のデータをPalette3に送信
  • Palette3を操作してプリント開始

P2PPのやっていることを簡単に言えば、PrusaSlicerが生成したGコードをPalette3用に手直しすることになります。

専用のプリント設定などに切り替える以外は、特別な手順はありません。特別じゃないところにメリットがあります。そのかわり、初期設定は割と複雑です。

2.P2PPのダウンロードと起動確認

P2PPのダウンロードと解凍

「1.概略」で紹介したWikiページにダウンロード元が記載されています。


インストールは不要で解凍しておくだけでOKです。ただしルートからのファイルパスに日本語やスペースを含んだフォルダがあると、誤動作の危険があります。海外製のアプリではよくあることなので、フォルダ名は英数字だけにしておくのが確実です。

P2PP起動テスト

P2PPは通常はPrusaSlicerから起動しますが、直接起動すると起動確認ができます。
P2PPフォルダ内の「p2pp.exe」をダブルクリックしてみてください。以下のような表示になればOKです。

この中の赤字で示されたファイルパスは、PrusaSlicerの設定の中で利用します。

Macの場合は?

Macでは実行許可を与える必要がある

P2PPはアプリケーションフォルダに配置します。最初に起動確認するとMac OSから警告が出ますので一旦キャンセルします。

「システム環境設定」から「セキュリティとプライバシー」で、P2PPに対し「そのまま開く」を選択して実行許可を与えます。

今度は「開く」が出てきたのでクリックします。

起動確認できました。表示内の赤字の行を後で使います。

なおバージョンアップした際も、同じ手順で実行許可を与える必要があります。

3.PrusaSlicerの設定

PrusaSlicerを起動したら、画面右上の「高度」を選択し、設定項目をすべて表示するモードにしておきます。

各設定項目には依存性がありますので、以下の順に設定します。

プリンター設定

「全般」

以下の項目を設定します。

  • エクストルーダー:8個
  • シングルエクストルーダー・マルチマテリアル:チェックON
  • Gコードのサムネイル:640×480

設定すると画面左側のペインのエクストルーダーが8個になります。壮観です。なお、サムネイルの解像度は、Palette3内でのサムネイル表示に合わせてあります。

「シングルエクストルーダーのMM設定」

「単一エクストルーダーのマルチマテリアルパラメーター」をすべて0(ゼロ)にします。

「エクストルーダー1」

「非アクティブなツールのフィラメントを〜」「長さ」を0(ゼロ)にします[2]。8個あるエクストルーダー全てに実施します。

ここまで設定したらプリンター設定を一旦保存しておきます。画面上のフロッピーマークをクリックし、名称を変更して「OK」で保存します。末尾に「- Palette3Pro」を付加しました。今後の一連の設定でも同様の命名則とします。

プリント設定

今度は「プリント設定」を変更します。システムプリセットをもとに変更を加えますので、あらかじめ対象となるプリント設定を選択しておきます。ここでは「0.2mm QUALITY」を選択しました。

「複数のエクストルーダー」

「ワイプタワーのブリム幅」を0(ゼロ)に設定します。Canvas編でも実施しましたが、これは必須ではありませんのでお好みでどうぞ。

「出力オプション」

「プリント設定」で重要なのはこちらの設定です。
「出力ファイル名の形式」は、Palette3に送信するファイル名の命名則です。拡張子を.gcodeから.mcfxに変更するのは必須です。それ以外はオリジナルのままでかまいませんが、ちょっと長いので最初の{input_filename_base}だけとしました。

さらに「ポストプロセス・スクリプト」で、P2PPの実行ファイルをフルパスで指定します。最後の「;」(セミコロン)は、勝手に付加されますので入力時は不要です。ちなみにこのパスは、P2PPの起動確認時に赤字で表示された1行です。

Macの場合は?

P2PPをアプリケーションフォルダに保存してあれば、「ポストプロセス・スクリプト」は以下のようになります。
open -W -a P2PP.app --args
これも起動画面に赤表示された1行です。

設定が終了したら名前をつけて保存します。

他のプリント設定が必要なら(例えば「0.10mm QUALITY」など)、同じ手順で設定し名前を付けて保存しておきます。

フィラメント設定

フィラメント設定もP2PP向けの設定変更が必要です。今までと同様にシステムプリセットをもとに変更を加えたいところですが、「default」しかなく「フィラメントの追加/削除」も想定通りに機能しません[3]

そこで裏技ですが、MMU2S付きのPrusa MK3Sを追加/削除することでMMU2S対応のシステムプリセットを追加できます。

画面右の「プリンター」のプルダウンメニューから「プリンターの追加/削除」「プリセットの追加/削除」を実行します。

「Original Orusa i3 MK3S & MKS3+ MMU2S」の「0.4mmノズル」を選択し「終了」をクリックするとプリンター設定のプリセットが追加されます。同じ手順で今度はチェックOFFし「終了」します。

これにより「@MMU2」のついたフィラメント設定のシステムプリセットが多数追加されますので、そのうちの一つ「Generic PLA @MMU2」を選択し、これをもとに手を加えていきます。

最初に「上級者向け」内の以下の項目をすべて0(ゼロ)にします。

  • ワイプタワーのパラメータ
  • 単一エクストルーダーMMプリンターのツールチェンジパラメーター

さらに「ラミング設定...」をクリックし、「トータルラミング時間」を0(ゼロ)にしてラミングなしに設定します。

以上でフィラメント設定の基本部分は終了ですが、温度など変更したければここで設定しておきます。設定後、今までと同様に名前を付けて保存しておきます。

4.カスタムGコード

今までの設定は、複数エクストルーダーの仕組みを利用しつつMMU2Sの機能を抑制しているものが主でした。しかしこれからの設定は、Palette3の動作に直接関わるものであり、P2PP初期設定の肝と言えます。

再度「プリンター設定」を開き、「カスタムGコード」のペインを開いておきます。

「レイヤーチェンジ後のGコード」

以下のように変更します。大文字小文字の区別がありますので正確に入力してください。

修正前
;AFTER_LAYER_CHANGE
;[layer_z]
修正後
;AFTER_LAYER_CHANGE 
;LAYER [layer_num]  
;LAYERHEIGHT [layer_z]

Gコードのコメント行なのでプリンターには作用しませんが、P2PPが読み込んで後処理に利用します。

「Gコードの最初」

最後の行の後に、後述のGコードを追加します。以下は追加前です。

追加後は以下のようになります。いずれも「P2PP」で始まり、Palette3の挙動に作用する重要な設定値です。

末尾に以下を追加
;P2PP PALETTE3_PRO
;P2PP PRINTERPROFILE=0123456789abcdef0123456789abcdef
;P2PP SPLICEOFFSET=40
;P2PP MINSTARTSPLICE=130
;P2PP MINSPLICE=90
;P2PP EXTRAENDFILAMENT=100

;P2PP MATERIAL_DEFAULT_2_2_2
;P2PP MATERIAL_PLA_PLA_4_4_4
;P2PP MATERIAL_PET_PET_4_4_4

;P2PP P3_PROCESSPREHEAT
;P2PP ABSOLUTEEXTRUDER
;P2PP CHECKVERSION

;P2PP P3_HOSTNAME=<Palette3シリアル番号>.local
;P2PP P3_UPLOADFILE

なお下から2行目の「P3_HOSTNAME」には、ネット上のPalette3のホスト名もしくはIPアドレスを指定します。シリアル番号はPalette3操作パネルの「Settings」「About」で確認でき、アルファベット4文字+「-P3P」で構成された文字列です。以下に例を示します。

  • シリアル番号:ABCD-P3P
  • ホスト名:ABCD-P3P.local

追加したコードの概略

パラメータ 設定値 概略
PALETTE3_PRO なし Palette機種名
PRINTERPROFILE 任意の32桁の16進数 Palette3に作成するプリンタープロファイルの識別コード
SPLICEOFFSET 長さ[mm] 最初のスプライスに追加する長さ
MINSTARTSPLICE 長さ[mm] 最初のスプライスの最小値
MINSPLICE 長さ[mm] 各スプライスの最小値
EXTRAENDFILAMENT 長さ[mm] 最後に追加するフィラメント長
MATERIAL_mat1_mat2_x_y_z 素材名と融着パラメータ フィラメント融着のパラメータを設定
P3_PROCESSPREHEAT なし 最初のスプライス作成中に前もって加熱しておく
ABSOLUTEEXTRUDER なし エクストルーダーの動作を相対ではなく絶対にする
CHECKVERSION なし 新バージョンの確認
P3_HOSTNAME ホスト名 Palette3のシリアル番号+「.local」、またはIPアドレス
P3_UPLOADFILE なし Palett3に後処理後データを送信

追加した主要コードの補足

追加したコードについて簡単に補足しておきます。詳細な説明やこれ以外の追加コードに関しては、次回以降の記事で説明する予定です。

なおP2PPから始まるパラメータに関しては、PDF書類「P3 Setup Manual」よりもこちらのページの方が正確と思われます。
https://github.com/tomvandeneede/p2pp/wiki/Reference-Configurations

PRINTERPROFILE
Palette3に作成するプリンタープロファイルに対応させるためのコードです。この値を変えることで、複数のプロファイルを持つことができます。ただしPalette3側で名称変更しないと、同じ名称のプロファイルが出来上がってしまい紛らわしいことになります。

SPLICEOFFSETなど
ここでは資料「P3 Setup Manual」記載の推奨値を使いました。唯一「EXTRAENDFILAMENT」は長すぎたので、この値にしました。

なおSPLICEとは継ぎ接ぎする細切れフィラメントの1つのことです。1つの色、もしくは1つの素材(マテリアル)とも言えます。かつて映画のフィルムや録音テープを切り貼りして編集したことになぞらえているのだと思います。

MATERIAL_mat1_mat2_x_y_z
Canvasでも行ったフィラメント融着におけるパラメータ調整値です。
mat1, mat2で素材名を指定します。これはPrusaSlicerの「フィラメント設定」での設定値に一致させます。

x, y, zがそれぞれ温度、圧力、冷却のパラメータです。先程の実施例ではPLA間、PETG間ともに(4, 4, 4)としています。DEFAULTで素材名が一致しない場合のデフォルト値を設定でき、先の例では(2, 2, 2)にしています。

なお、mat1とmat2の関係は以下となります[4]

  • mat1: 先行スプライスの素材名
  • mat2: 後続スプライスの素材名

以上で設定は終了です。次回では実際にプリントしてみます。

脚注
  1. 実は筆者が常用しているのはMac版。一連の記事を執筆するにあたり、手順再確認のため一から環境構築したかったので、あえてWindows版にした。裏の理由として安定動作しているMac環境を壊したくなかったというのもある。 ↩︎

  2. この設定は、より所としているPDF書類「P3 Setup Manual」には明示されていない。しかし同書類内の設定画面がこのようになっていたので、念のため実施した。
    想像するにGコードに挿入するMMU2S向けの指示と思われるが、Prusa本体をMMU2S向けにファームウェア変更していなければ、無視されるだけだと思う。(要は設定不要だったかも) ↩︎

  3. 「default」に対し、一から設定を追加することも可能だが量も多く入力ミスする可能性もある。よって既存設定から作成するのが得策。フィラメント設定はプリンター設定に紐付けられているようで、プリセットの正式なプロファイル名に付いている「@〜」がその証かもしれない。。 ↩︎

  4. この順番については各種P2PP資料を見るにこのように推測したが、Canvasではそれぞれ「ingoing(後続)」「outgoing(先行)」の順だったので、もしかすると逆かもしれない。本家と同じ用語「ingoing」「outgoing」を使って欲しかった。
    こういった資料において用語統一は非常に重要で、統一しないと経験が浅い方にとって混乱のもとになる。本記事を書く上で肝に銘じていることの一つではある。 ↩︎

Discussion

ログインするとコメントできます