Next '25 速報 - DORA と AI を活用し、世界クラスの開発者体験を構築する
はじめに
現在ラスベガスで開催されている Google Cloud の旗艦イベント「Google Cloud NEXT'25(以下、Next'25)」に現地参加中の
Google Cloud NEXT'25 で発表された 最新情報 を現地からお届けしています。
この記事では、Google Cloud Next '25 で発表されたセッション「Build world-class developer experiences with DORA and AI」の参加レポートです。
このセッションでは、DevOps Research and Assessment (DORA) の知見と AI を活用し、開発チームの体験 (Developer Experience, DevEx) をいかに向上させるかに焦点が当てられました。
tl;dr
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DORA の 4 つのキーメトリクス: ソフトウェアデリバリーのパフォーマンスを測る指標であり、スループットと安定性はトレードオフではなく、両立可能であること。
- 変更リードタイム
- デプロイ頻度
- 変更失敗率
- サービス復元時間
- AI 活用の現状とギャップがある: AI はコード生成などで開発者の生産性を部分的に向上させているものの、現状ではソフトウェアデリバリー全体のスループットや安定性の向上には必ずしも繋がっていないというデータがあること。
- 開発者体験 (DevEx) 向上の鍵: 優れた DevEx を実現するには、コーディング速度だけでなく、ビルド、テスト、デプロイ、セキュリティ、コスト最適化といった開発ライフサイクル全体の「トイル(非効率で単調な作業)」を削減することが不可欠であること。
DORA: ソフトウェアデリバリーパフォーマンスの計測と改善
DORA は 10 年以上にわたる研究に基づき、高パフォーマンスな技術チームの特徴を明らかにしてきました。その中核となるのが、以下の 4 つのキーメトリクスです。
- 変更のリードタイム (Lead time for changes): コードがコミットされてから本番環境に正常にデプロイされるまでの時間。
- デプロイの頻度 (Deployment frequency): 本番環境へのデプロイの頻度。
- 変更失敗率 (Change failure rate): 本番環境へのデプロイが原因で障害が発生したり、修正が必要になったりする割合。(セッションでは「しまった!レート (oh expletive rate)」とも呼ばれていました)
- サービス復元時間 (Failed deployment recovery time): 本番環境で障害が発生してから、サービスを復旧させるまでにかかる時間。
多くのチームは、「速く動けば不安定になる」「安定性を求めれば遅くなる」というトレードオフを考えがちです。
しかし、DORA の研究データは、スループット(リードタイム、デプロイ頻度)と安定性(変更失敗率、復元時間)は連動する傾向があることを示しています。
つまり、「速くて安定している」か「遅くて不安定であるか」のどちらかになりやすいのです。
具体的な例としてセッションでは、「年に 2 回しか行わない作業」と「毎日行う作業」を比較し、頻度が高いほど習熟度が増し、失敗率が下がると説明されました。
頻繁なデプロイは、変更を小さく保ち、問題発生時の特定と修正を容易にするため、結果的に安定性向上に繋がります。
AI 活用の現状: 生産性向上とデリバリーパフォーマンスのギャップ
2024 年の DORA レポートでは、AI の活用状況が重点的に調査されました。
調査結果からは、以下のような傾向が見られました。
AI 利用の浸透
多くの組織が AI を優先事項として捉えており、70% 以上の開発者が日常業務で AI を利用・依存しています。
具体的な利用用途としては、コード作成、情報要約、コード説明、最適化、ドキュメンテーションなどが挙げられます。
生産性への認識
多くの開発者が AI 利用による生産性向上を実感しています。
コード品質への信頼度
生産性が向上している一方、AIへの信頼性の観点で、約40%の人はAIによって生成されたコードにほとんどまたはまったく信頼を置いていません。
グラフは、中央の破線を基準に、右に伸びるほどプラス、左に伸びるほどマイナスの変化を表しています。
フローや仕事満足度など、向上が期待される項目については改善が見込まれる一方で、燃え尽き症候群のように低下が懸念される項目は、減少に向かうことが望まれます。
文書化やコード品質など多くの面で生産性向上が期待される一方、価値ある仕事に費やす時間が減るなど留意点もあります。
興味深いことに、AI 導入によってドキュメンテーション品質、コード品質、コードレビュー速度などは改善する傾向が見られる一方で、ソフトウェアデリバリーのスループットと安定性は低下するというデータが示されました。
なぜこのようなギャップが生じるのでしょうか?
セッションでは明確な結論は示されませんでしたが、登壇者である Harness の Jyoti 氏は、AI によってコード生成が速くなっても、その後のビルド、テスト、セキュリティレビュー、デプロイといったプロセスがボトルネックになっている可能性を指摘しました。
考えられる要因としては、テスト自動化の遅れ、複雑なデプロイプロセス、手動のセキュリティレビューなどが挙げられます。
AI が生成するコード量が増えれば、既存のボトルネックはさらに顕在化する可能性があります。
まとめ
DORA メトリクス は、チームのソフトウェアデリバリー能力を客観的に評価し、改善点を発見するための強力なツールです。
スループットと安定性は両立可能であり、小さな変更を頻繁にリリースすることが鍵となります。
AI は開発者の生産性を向上させる大きな可能性を秘めていますが、その恩恵を最大限に引き出すには、コード生成だけでなく、ビルド、テスト、デプロイ、セキュリティ、運用といった開発ライフサイクル全体のプロセスを AI と自動化によって最適化し、ボトルネックを解消する必要があります。
トイルの削減を目指し、ツールとプロセスの改善を通じて文化を変革していくことが重要だと感じました。
参考リンク
- DORA 公式サイト
- 2024 State of DevOps Report (DORA Report) (セッションで言及されたレポート)
- Harness プラットフォーム
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