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【数学】コラッツ予想を解きたい!07

2022/08/27に公開

前回のまとめ

前回は、いろいろ仮説を書き出しました。
あと最後にコラッツ予想を簡易化したツリーを書いたりもしました。

仮説6:自然な有理数上の偶奇性

任意の p \in \mathbb{Q} について、

p = \frac{m}{n} \qquad ( m,\ n は互いに素な整数で n>0)

と表した時、

m は偶数 \ \Leftrightarrow \ p \in E

によって、E \subset \mathbb{Q} を定める。
このとき、コラッツ木 T はすべてのループする巡回列を持つか?

ツリーの例:R上の簡易ツリー

\mathbb{R} 上でツリー T=\mathrm{Tree}(t) を、E \subset \mathbb{R} を用いて、次のように定義する:

t(x) := \left\{ \begin{array}{ll} x/2 & (x \in E) \\ x+1 & (x \in \mathbb{R} \setminus E) \end{array} \right.

今回は

偶奇性(分割)の議論をしたい...とは思っていたのですが、なかなかどっから手を付けていいかが難しいようです。

では、どうするか?
いきなり抽象化が難しい時にやることは、1つしかないですよね。
具体例を考えればいいです。

運が良いことに、現状でも考えられる具体例が目の前に置いてあったのでそれを使ってみます。
上記仮説と簡易ツリーをそのまま使ったものです:

仮説:簡易ツリーのループ完全性

任意の p \in \mathbb{Q} について、

p = \frac{m}{n} \qquad ( m,\ n は互いに素な整数で n>0)

と表した時、

m は偶数 \ \Leftrightarrow \ p \in E

によって、E \subset \mathbb{Q} を定める。
\mathbb{Q} 上でツリー T=\mathrm{Tree}(t) を次のように定義する:

t(x) := \left\{ \begin{array}{ll} x/2 & (x \in E) \\ x+1 & (x \in \mathbb{Q} \setminus E) \end{array} \right.

このとき、ツリー T はすべての(最終的に)ループする巡回列を持つか?

こんなものを考えてみます。
これは結構難しいかと思っていましたが、案外そんなことはないようですね。

なお、「最終的にループする巡回列」という部分の言葉の意味ですが、次のようなものを満たす要素 a \in A を起点とする巡回列のことです:

\exists n, m \in \mathbb{N},\qquad t^m(a)=t^{m+n}(a)

すべての今ループしている巡回列を持つか

まずは、最終的にループするものではなく、今ループしている巡回列を考えます。
「今ループしている巡回列」の言葉の意味は、次のようなものを満たす要素 a \in A を起点とする巡回列のことです:

\exists n \in \mathbb{N},\qquad a=t^n(a)

例えば、次のような今ループしている巡回列を持つでしょうか。

0,\ 1,\ 1,\ 0,\ 1,\ 1,\ ...

これは、

a=t_e(t_e(t_o(a)))

を満たすと仮定すれば、

a = \frac{a+1}{2^2}

より、a=1/3 となる。このとき、

\begin{align*} & 1/3 \in \mathbb{Q} \setminus E \\ & 2/3 \in E \\ & 4/3 \in E \end{align*}

が成り立つから、
a=1/3

が成立する。
他の例として、

0,\ 1,\ 0,\ 1,\ 1,\ 0,\ 1,\ 0,\ 1,\ 1,\ ...

については、

a=t_e(t_e(t_o(t_e(t_o(a)))))

を満たすと仮定すれば、

a = \frac{\frac{a+1}{2}+1}{2^2}

より、a=3/7 となる。このとき、

\begin{align*} 3/7 & \in \mathbb{Q} \setminus E \\ 10/7 & \in E \\ 5/7 & \in \mathbb{Q} \setminus E \\ 12/7 & \in E \\ 6/7 & \in E \end{align*}

が成り立つから、
a=3/7

このように今ループしている要素が、ピッタリと、僕たちが定義した E とハマるのが分かると思います。これは一般的に成り立つことかどうかを見ていきます。

一般化

a がループしている要素だとすれば、

a=\frac{a+m}{2^n}

と書ける。ただし、0,\ 0,\ 0,\ ...1,\ 1,\ 1,\ ... という巡回列は除く。

そして、上記のような方程式(m,\ n \in \mathbb{N})で表されるのなら、a はただ一つの解を持つ。また、0,\ 0 という並びがなければ、( t_o(t_o(x))=x+2 のようなものは考えないとすると)

\begin{align*} a \in \mathbb{Q} \setminus E \ \Rightarrow & \quad m は奇数 \\ a \in E \ \Rightarrow & \quad m は偶数 \\ \end{align*}

が成り立つから、

\begin{align*} a \in \mathbb{Q} \setminus E \ \Rightarrow & \quad a=\frac{奇数}{奇数} \\ a \in E \ \Rightarrow & \quad a=\frac{偶数}{奇数} \\ \end{align*}

となって、整合性が取れている。

以上より、すべての今ループしている巡回列が存在することが示された。(0,\ 0,\ 0,\ ...1,\ 1,\ 1,\ ...0,\ 0 という連続した 0 を含む巡回列は除く)

すべての最終的にループする巡回列を持つか

a=2/3 に接続するノード:

こんな感じで、今ループしている要素から、逆順を辿って拡張していくことを考えます。

\left\{ \begin{array}{ll} t_e^{-1}(x) = 2x \\ t_o^{-1}(x) = x-1 \end{array} \right.

すると、

a=\frac{偶数}{奇数}

については、

\left\{ \begin{array}{ll} t_e^{-1}(a) = 偶 / 奇 \\ t_o^{-1}(a) = 奇 / 奇 \end{array} \right.

よって、a \in E については、t_e^{-1},\ t_o^{-1} 両方の逆順を辿れる。
一般に、

a=\frac{偶数}{奇数} \Rightarrow \left\{ \begin{array}{ll} t_e^{-1}(a) = 偶 / 奇 \\ t_o^{-1}(a) = 奇 / 奇 \end{array} \right. \\
a=\frac{奇数}{奇数} \Rightarrow \left\{ \begin{array}{ll} t_e^{-1}(a) = 偶 / 奇 \\ t_o^{-1}(a) = 偶 / 奇 \end{array} \right.

だから、a \in \mathbb{Q} \setminus Et_o^{-1} 以外についてはいい感じに成立してくれます。おしい、本当に惜しいと思いませんか? a \in \mathbb{Q} \setminus Et_o^{-1} だけなんだけどなぁ...と思います。

ちょっと考えてみましょう。
これはつまりどういうことかというと、巡回列において、0,\ 0 という連続した 0 が不可ということです。

どうしたらいいでしょうか?
0,\ 1 という並びをひとかたまりとして見るべきだという発想が浮かんできましたでしょうか。 つまり、こうするということです:

t(x) := \left\{ \begin{align*} x/2 \quad & (x \in E) \\ \frac{x+1}{2} \quad & (x \in \mathbb{Q} \setminus E) \end{align*} \right.

このように修正すれば、いろいろな障害が消えて、すべての最終的にループする巡回列を持つと言える状態になりました!(ただし 1,\ 1,\ 1,\ ... 系統は除く)

また、1,\ 1,\ 1,\ ... 系統については、

0=\frac{0}{1}

を対応させれば、今までの議論が成り立つ。
以上より、以下の定理が示されました:

Thm:簡易ツリーのループ完全性

任意の p \in \mathbb{Q} について、

p = \frac{m}{n} \qquad ( m,\ n は互いに素な整数で n>0)

と表した時、

m は偶数 \ \Leftrightarrow \ p \in E

によって、E \subset \mathbb{Q} を定める。(ただし p が整数のときは、n=1 とする)
また、\mathbb{Q} 上でツリー T=\mathrm{Tree}(t) を次のように定義する:

t(x) := \left\{ \begin{align*} x/2 \quad & (x \in E) \\ \frac{x+1}{2} \quad & (x \in \mathbb{Q} \setminus E) \end{align*} \right.

このとき、ツリー T はすべての(最終的に)ループする巡回列を持つ。

しかし、これ以外の巡回列を持つかどうかという部分については何も分かっていません。
循環小数と循環しない小数のようなイメージで言うと、今までやってきたのは循環小数の方。次に、循環しない小数つまりループしない巡回列についても議論するべきでしょう。

ループしない巡回列を持つか?

ということで、すべての要素を起点とする巡回列がループすることを示していきましょう。

任意の p \in \mathbb{Q} について、

p = \frac{m}{n} \qquad ( m,\ n は互いに素な整数で n>0)

と表した時、n の偶奇で場合分けをする。

(\mathrm{i})\ n が偶数のとき

p\ は \ \frac{奇数}{偶数}

であり、t_o を作用させても、

t_o(p)=\frac{p+1}{2}\ は \ \frac{奇数}{偶数}

である。よって、p を起点とする巡回列は 0,\ 0,\ 0,\ ... となり、ループする。

(\mathrm{ii})\ n が奇数のとき

p\ は \ \frac{整数}{n}

であり、t_e,\ t_o を作用させても、

\left\{ \begin{align*} t_e(p)=\frac{p}{2}\ & は \ \frac{整数}{n} \\ t_o(p)=\frac{p+1}{2}\ & は \ \frac{整数}{n} \end{align*} \right.

である。また |p|>1 ならば、

|p|>|t(p)|

となる。よって、整 / n の形で |p| \leq 1 である p の候補は有限だから、p を起点とする巡回列はループする。

とループしない巡回列を持たないことを示すこと自体は簡単です。
ただ、このような議論展開ではダメなのです。なぜかというと、コラッツ予想のツリーは、

t(x) := \left\{ \begin{align*} x/2 & (x \in E) \\ \frac{3x+1}{2} & (x \in \mathbb{R} \setminus E) \end{align*} \right.

であり、この関数に今の議論が適用できないからです。
ただ、一般的な方法というのも、現状では難しいところかもしれません。

あと気になるのは、もしループする巡回列しか持たないと言えた場合に、どんな良いことがあるかというところでしょうか。
ただ、こちらも、現状では厳しいです。

他には、全体集合 A\mathbb{Q} ではなく、次のようなものに修正したときに、メリットが生まれてくれるのかというところです。とりあえず、綺麗な感じのThmは書けるので、書いておきます:

Thm:簡易ツリーのループ完全性と正規性

A \subset \mathbb{Q}

A = \{ \frac{m}{n} \ |\ m \in \mathbb{Z},\ n は奇数 \ \}

によって定義する。
任意の p \in A について、

p = \frac{m}{n} \qquad ( m,\ n は互いに素な整数で n>0)

と表した時、

m は偶数 \ \Leftrightarrow \ p \in E

によって、E \subset A を定める。(ただし p が整数のときは、n=1 とする)
また、A 上でツリー T=\mathrm{Tree}(t) を次のように定義する:

t(x) := \left\{ \begin{align*} x/2 \quad & (x \in E) \\ \frac{x+1}{2} \quad & (x \in A \setminus E) \end{align*} \right.

このとき、ツリー T はループする巡回列をちょうど1つずつ持ち、ループしない巡回列は持たない。

これが成り立つことは、今までの議論より、ほとんど自明でしょう。

そんな感じで、今回は、偶奇性を自然に拡張した \mathbb{Q} とコラッツ予想を簡略化したツリーについていろいろ性質を調べられたので、具体例を調べるという最低限の部分はできたかと思います。

次回はどういう風に進めていくか...今回見た具体例からなんとか抽象化していきたい気はしますが、どうするんでしょう。う~ん...とりあえず、今回はここら辺で終了にします。ではでは。

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