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【数学】コラッツ予想を解きたい!05

2022/08/20に公開

前回のまとめ

部分集合 E \in A について、正規分割という概念を導入しました、そして、正規分割という概念を用いたThmを証明しました。

Def:正規分割E

集合 A 上にツリー T=\mathrm{Tree}(t) に対して、E \subset AT の正規分割であるとは、次が成り立つことである:

a を起点とする巡回列と b を起点とする巡回列が一致するならば、 a=b
Thm:fの存在

集合 A 上に2つのツリー T_1=\mathrm{Tree}(t_1),\ T_2=\mathrm{Tree}(t_2) がある。また、 E \subset AT_2 の正規分割とする。
このとき、次の (\mathrm{i}), \ (\mathrm{ii})は同値である:

\begin{align*} & (\mathrm{i}) \qquad \forall a_1 \in A, \ \exists a_2 \in A, \\ & \qquad a_1 を起点とする t_1 の巡回列と a_2 を起点とする t_2 の巡回列は一致 \\ \\ & (\mathrm{ii}) \qquad \exists f_e:E \rightarrow E,\ f_o:A \setminus E \rightarrow A \setminus E, \\ & \qquad f(x) := \left\{ \begin{array}{ll} f_e(x) & (x \in E) \\ f_o(x) & (x \in A \setminus E) \end{array} \right. , \qquad f \circ t_1=t_2 \circ f \quad \end{align*}

自然に議論を発展させていこう

こっからどうするか? これは常に悩ましいですが、ただ今回は希望も多いように思います。強い概念を考えるということは、発展性という面からすればプラスなのかもしれません。

ということで、こっからどうしていくか、例えば↓のようなものも考えましたが、微妙でしょうか。

正規分割となるツリー全体

とりあえず、E が正規分割になってくれるようなツリー全体の集合を考えるのは自然でしょうか:

\mathbb{S}(E)= \{ \ ツリーT \ | \ E は T の正規分割 \ \}

ツリーを要素と捉えるというのは、抽象度を上げる方法としては自然です。そして、このツリーからなる集合上でツリーを考えるとかもやりたくはなりますが、具体的にどうしていくのかは見えないところです。

結局どうするのかというと、さらに概念を強くするようですが、次のような話題を考えるのが本筋だと筆者は見ました:

仮説Thm

集合 A 上に2つのツリー T_1=\mathrm{Tree}(t_1),\ T_2=\mathrm{Tree}(t_2) がある。また、E \subset A とする。
このとき、次の (\mathrm{i}), \ (\mathrm{ii})は同値である:

\begin{align*} & (\mathrm{i}) \qquad T_1 と T_2 の E 構造は一致 \\ \\ & (\mathrm{ii}) \qquad \exists 全単射 \sigma:A \rightarrow A, \ \forall a \in A, \\ & \qquad a を起点とする t_1 の巡回列と \sigma(a) を起点とする t_2 の巡回列は一致 \end{align*}

巡回列がすべて一致するのなら、E 構造が一致するか、という話題ですね。
実はこれはほとんど成立します。ほとんどというのは、正確にはギリギリ成立していないという意味です。条件に追加が必要で、E が正規分割である必要もあるようです。

Thm:構造一致の別表現

集合 A 上に2つのツリー T_1=\mathrm{Tree}(t_1),\ T_2=\mathrm{Tree}(t_2) がある。また、E \subset AT_2の正規分割とする。
このとき、次の (\mathrm{i}), \ (\mathrm{ii})は同値である:

\begin{align*} & (\mathrm{i}) \qquad T_1 と T_2 の E 構造は一致 \\ \\ & (\mathrm{ii}) \qquad \exists 全単射 \sigma:A \rightarrow A, \ \forall a \in A, \\ & \qquad a を起点とする t_1 の巡回列と \sigma(a) を起点とする t_2 の巡回列は一致 \end{align*}

proof.)

まず (\mathrm{i}) \ \Rightarrow \ (\mathrm{ii}) を示す。
E構造の定義より、ある2つの全単射写像 \sigma_e:E \rightarrow E,\ \sigma_o:A \setminus E \rightarrow A \setminus Eが存在して、

\begin{align*} & \sigma(x) := \left\{ \begin{array}{ll} \sigma_e(x) & (x \in E) \\ \sigma_o(x) & (x \in A \setminus E) \end{array} \right. \\ \\ & \sigma \circ t_1=t_2 \circ \sigma \end{align*}

が成り立つ。
よって、任意の a \in Ai \geq 0 に対し、

\chi_E(t_1^i(a))=\chi_E(\sigma(t_1^i(a)))=\chi_E(t_2^i(\sigma(a)))

が成立する。

次に (\mathrm{i}) \ \Leftarrow \ (\mathrm{ii}) を示す。
仮定は、任意の a \in A に対し、次の2つの数列に \chi_E を作用させたものは一致することである:

\begin{matrix} a, & t_1(a), & t_1^2(a), & t_1^3(a), & ... \\ \\ \sigma(a), & t_2(\sigma(a)), & t_2^2(\sigma(a)), & t_2^3(\sigma(a)), & ... \end{matrix} \

最初の要素に着目すれば、任意の a \in A に対し、

\chi_E(a)=\chi_E(\sigma(a))

が成り立つから、\sigmaE,\ A \setminus E それぞれで定義できる。
また、at_1(a) に置き換えれば、次の2つの数列に \chi_E を作用させたものは一致する:

\begin{matrix} t_1(a), & t_1^2(a), & t_1^3(a), & t_1^4(a), & ... \\ \\ \sigma(t_1(a)), & t_2(\sigma(t_1(a))), & t_2^2(\sigma(t_1(a))), & t_2^3(\sigma(t_1(a))), & ... \end{matrix} \

ここで数列の一致性を見比べると、次の2つの数列に \chi_E を作用させたものは一致することが分かる:

\begin{matrix} t_2(\sigma(a)), & t_2^2(\sigma(a)), & t_2^3(\sigma(a)), & t_2^4(\sigma(a)), & ... \\ \\ \sigma(t_1(a)), & t_2(\sigma(t_1(a))), & t_2^2(\sigma(t_1(a))), & t_2^3(\sigma(t_1(a))), & ... \end{matrix} \

よって、t_2(\sigma(a)) を起点とする t_2の巡回列と \sigma(t_1(a)) を起点とする t_2の巡回列は一致する。ここで ET_2 正規分割だから、

t_2(\sigma(a))=\sigma(t_1(a))

が成り立つ。これは任意の a \in A に対して成り立つ。(証明終)

後半の証明は前回のproof.)で出てきたやり方と同じですね。
それとこの証明では、ET_2 もしくは T_1 の正規分割である必要があるようです。

Thmから分かること

このThmの主張は、ツリーの E 構造は巡回列だけで十分に説明可能だという風にも捉えられます。

T

T
o1: 0───1───0───1───0───1───...
e1: 1───0───1───0───1───0───...
o2: 0───1───1───1───0───1───...
e2: 1───1───0───1───0───1───...
o3: 0───1───1───0───1───0───...
e3: 1───1───1───0───1───0───...

つまり、上の図と下の表で表している E 構造は同じということですね。

少し違う表現をすれば、
「このツリーは、これとそれとあれの巡回列を持つ」
みたいな感じで、巡回列の集合だけでツリーを述べることができてしまうということです。

この発想は重要なことを教えてくれているのではないでしょうか。
それは、ツリーを知る上で重要なことは何かと聞かれたら、巡回列が重要だと答えたくなるという感覚です。ただし、巡回列が重要となってくれるためには正規分割ではなくてはなりません。
そして、「正規分割=同じ巡回列は1つしかない」とも言い換えることもできます。

じゃあ、巡回列が2つ以上あったらどうするか?
無理やり「同じ」としてしまえばいいじゃん! っていう発想も生まれてきます。

巡回列で同値類を考えてみよう

つまり、次のような同値関係を導入するということです:

Def:分割 E によるツリーの正規化

集合 A 上のツリー T と分割 E について、a,\ b \in A に対し、

a を起点とする巡回列と b を起点とする巡回列が一致するならば、 a \sim b

によって同値関係 \sim を定める。
このとき、T から新たなツリー T / \sim を生み出すことを、E による正規化、もしくは単に正規化と定義する。

T / \sim がツリーになるのは明らかである。よって、この定義はwell-definedである。

と一応、well-defined性も書いておきます。
というのも、感覚的にちょっと今までやってことと違っているからです。今までは巡回列はあくまで脇役のようなイメージだったのに、ここに来て急に世界の中心かのような振る舞いをし始めたからです。

どういうことか?
例えば次のツリーの正規化を考えてみましょう:

T

T
o1: 0───1───0───1───0───...
e1: 1───0───1───0───1───...
o2: 0───1───0───1───0───...
e2: 1───0───1───0───1───...
o3: 0───0───1───0───1───...
e3: 1───0───1───0───1───...
o4: 0───1───0───1───0───...
e4: 1───1───0───1───0───...

巡回列による同値関係を考えると、ツリーの要素は以下の4つになります:

\begin{align*} 010101... : & \quad o_1 \sim o_2 \sim o_4 \\ 101010... : & \quad e_1 \sim e_2 \sim e_3 \\ 001010... : & \quad o_3 \\ 110101... : & \quad e_4 \end{align*}

つまり T の正規化は図で書くと...

T / \sim

こんな風になりますね。


このように、正規化とは「要素を巡回列にする」操作とも言い換えられます。正規化されたツリー上では、巡回列こそが中心なのです。

となると、すべての巡回列のパターンを考えるというのも自然に思えてきます。
すべての巡回列のパターンとは、0, 1 からなる数列全体の集合を意味します。この集合の大きさ(濃度)は実数集合 \mathbb{R} と同じなので、簡単な例として次のようなツリーを考えてみるのも自然でしょう:

実数集合上のツリー

ツリーの例: t(x)=2x

\mathbb{R} 上でツリー T=\mathrm{Tree}(t) を次のように定義する:

t(x)=2x

ここで分割 E \subset \mathbb{R} を、

E = \sum_{i \in \mathbb{Z}}\ (2i-1,\ 2i \rbrack

とする。
このとき、E による T の正規化を考える。

例えば、1 については、

という感じになっていきます。
3 についても、

となります。
以下ずっと同じなので、13 の巡回列は同じです。つまり、T^{*} 上では 13 も同じと見なされるということです。
一般に、差が2の倍数となるような値の組に対して、t(x)=2x を何度作用させても、差は2の倍数だから、巡回列は一致する。よって、T の正規化は、$ (0,\ 2 \rbrack$ さえ考えればよい。

また、例えば、2 / 3 についてなら、

となっていきます。
ここで、2 / 3 の2進数表記を考えると、

2 / 3 = 0.101010...

となる。つまり、2 / 3 に巡回列 0,\ 1,\ 0,\ 1,\ 0,\ 1,\ ... を対応させることを考えてみる。
一般に、(0,\ 2 \rbrack に対し、このような対応を考えると、

0.\mathrm{xxxxxx} \notin E \\ 1.\mathrm{xxxxxx} \in E

より、巡回列と一致する。
よって T の正規化は、(0,\ 2 \rbrack 上と一対一対応と考えられる。


こんな感じで今回は終わりにしようと思います。
次回は、やっと...やっと...ついに、直接コラッツ予想を考えてみるつもりです。(まあ、まだ何もできないと思いますが...)

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