【数学】コラッツ予想を解きたい!06
前回のまとめ
前回は次の定理を証明しました:
Thm:構造一致の別表現
集合
このとき、次の
またこの定理から着想を得て、次のような概念を定義しました:
Def:分割Eによるツリーの正規化
集合
a を起点とする巡回列と b を起点とする巡回列が一致するならば、 a \sim b
によって同値関係
このとき、
今回は
今回はついに、コラッツ予想を直接考えてみます。
とりあえず、次のようなツリーを定義しておきます:
\mathbb{R} 上のコラッツ予想を表すツリー
ツリーの例:
上でツリー \mathbb{R} を、 T=\mathrm{Tree}(t) を用いて、次のように定義する: E \subset \mathbb{R} t(x) := \left\{ \begin{array}{ll} x/2 & (x \in E) \\ 3x+1 & (x \in \mathbb{R} \setminus E) \end{array} \right.
分割
今までの流れで言うと、すべての巡回列のパターン(
この分割とはどのようなものでしょうか。
実数集合上の偶奇とは何か
分割とは、偶奇性の一般化だったので、このようなタイトルにしました。
では考えていきましょう。
例えば次のような場合は...
このような要素に対しては、
を考えると、
より、
そう「かもね」なんです。
この議論には穴があります。どこか分かるでしょうか?
考えてみましょう。
例えば、
としてみます。
すると、例えば、
これも
つまり、巡回列
1 \in \mathbb{R} \setminus E
thm: 上で定義した
が巡回列 T を持つとする。また、次のような完備性を備えているとする: 0,\ 1,\ 1,\ 0,\ 1,\ 1,\ ... 巡回列の一致性: a_1\ \sim \ a_2\ \sim \ a_3\ \sim ... \\ を満たす任意の数列 \{ a_i \}_i に対して、\\ もし \alpha に収束するなら、\alpha の巡回列も一致する。 このとき、
である。 1 \in \mathbb{R} \setminus E
proof.)
を起点とする巡回列が a \in \mathbb{R} になると仮定する。 0,\ 1,\ 1,\ 0,\ 1,\ 1,\ ... である。 a \in \mathbb{R} \setminus E
ならば題意は示されるから、 a = 1 とする。 a \neq 1
また、\begin{align*} & (\mathrm{I}) \qquad a_1 = a \\ & (\mathrm{II}) \qquad \forall i \in \mathbb{N}, \quad a_{i+1} = t_e(t_e(t_o(a_i))) \end{align*} によって数列
を定義する。このとき、任意の \{ a_i \} の巡回列は等しい。 a_i
また、とすると、 d_i := 1 - a_i \begin{align*} a_{i+1} &= \frac{3 \cdot a_i +1}{4} \\ \\ 1 &= \frac{3 \cdot 1 + 1}{4} \end{align*} より、両辺の差を取って、
d_{i+1} = \frac{3}{4} d_i となる。よって、数列
は \{ a_i \} に収束する。 1
仮定より、となる。(証明終) 1 \in \mathbb{R} \setminus E
完備性を追加すれば、
では次に、ループする前の要素に対してはどうなるでしょうか?
例えば、
より、
やってみましょう。
仮説:
上で定義した
が巡回列 T を持つとする。また、次のような完備性を備えているとする: 0,\ 0,\ 1,\ 1,\ 0,\ 1,\ 1,\ ... 巡回列の一致性: a_1\ \sim \ a_2\ \sim \ a_3\ \sim ... \\ を満たす任意の数列 \{ a_i \}_i に対して、\\ もし \alpha に収束するなら、\alpha の巡回列も一致する。 このとき、
である。 0 \in \mathbb{R} \setminus E
proof.)
を起点とする巡回列が a \in \mathbb{R} になると仮定する。 0,\ 0,\ 1,\ 1,\ 0,\ 1,\ 1,\ ... である。 a \in \mathbb{R} \setminus E
ならば題意は示されるから、 a = 0 とする。 a \neq 1
を見るためには、 0 \in \mathbb{R} \setminus E に収束するような数列 0 を定義したい。 \{ a_i \} \begin{matrix} f(a) & \rightarrow \rightarrow \rightarrow & f^4(a) & \rightarrow \rightarrow \rightarrow & f^7(a) & \rightarrow \rightarrow \rightarrow & f^{10}(a) & \rightarrow \rightarrow \rightarrow & ... \\ \uparrow & & \uparrow & & \uparrow & & \uparrow & & \\ a & & a_2 & & a_3 & & a_4 & & ... \end{matrix} \ このようなイメージから、
\begin{align*} & (\mathrm{I}) \qquad a_1 = a \\ & (\mathrm{II}) \qquad \forall i \in \mathbb{N}, \quad a_{i+1} = t_o^{-1}(t_e(t_e(t_o(t_o(a_i))))) \end{align*} によって数列
を定義する。 \{ a_i \}
しかし、とは限らない... a_i \in \mathbb{R} \setminus E
というわけで、不成立ですね。
巡回列
そしてこのような発想をすると、いろいろ気になることが出てきます。
なお、今議論している
仮説いろいろ
仮説1:well-defined性
コラッツ木
がすべての巡回列のパターン( T からなる数列全体)を持つとする。 0, 1
このとき、そのような分割は存在するか? E
仮説2:巡回列の完備性
コラッツ木
がすべての巡回列のパターン( T からなる数列全体)を持つとする。このとき、 0, 1 は次のような完備性を備える: T 巡回列の一致性: a_1\ \sim \ a_2\ \sim \ a_3\ \sim ... \\ を満たす任意の数列 \{ a_i \}_i に対して、\\ もし \alpha に収束するなら、\alpha の巡回列も一致する。
巡回列
仮説3:有理数、無理数
コラッツ木
がすべての巡回列のパターン( T からなる数列全体の集合)を持つとする。 0, 1
正規化することを考えると、 T ・最終的にループするノードは、有理数を起点とする巡回列
・発散するノードは、無理数を起点とする巡回列となる。
前回(05)で最後に話題にした
仮説4:well-defined性と完備性(有理数)
有理数全体の集合
上のコラッツ木 \mathbb{Q} がすべてのループする巡回列( T からなる数列全体の内、最終的にループするもの)を持つとする。 0, 1
このとき、が存在し、次のような完備性を備える: T 巡回列の一致性: a_1\ \sim \ a_2\ \sim \ a_3\ \sim ... \\ を満たす任意の数列 \{ a_i \}_i に対して、\\ もし \alpha に収束するなら、\alpha の巡回列も一致する。
仮説5:範囲について
仮説1~3について、コラッツ木は
上という前提で考えてきた。 \mathbb{R}
次のように修正するべきか?・
に \mathbb{R} を追加する \infty
・を \mathbb{R} に変更する \mathbb{R}_{>0}
・に対してのみ、特別な扱いをする 0 \in \mathbb{R}
仮説1~5まで、いろいろ書きました。正しいんでしょうか? おそらく完璧に正しいものはないと思いますが、いくつかの修正で成立するものがあったらいいな、という感覚です。発想の方向性としてはこんなイメージで、という気持ちでやっています。
そして、ここに来てやっとなのですが、コラッツ予想というのはツリーうんぬんというよりも、偶奇性を実数全体に拡張できるか? というゲームのような気もしてきました。
偶奇性の拡張という発想を持つと、
仮説6:自然な有理数上の偶奇性
任意の
について、 p \in \mathbb{Q} p = \frac{m}{n} \qquad ( m,\ n は互いに素な整数で n>0) と表した時、
m は偶数 \ \Leftrightarrow \ p \in E によって、
を定める。 E \subset \mathbb{Q}
このとき、コラッツ木はすべてのループする巡回列を持つか? T
これはどうなんでしょうかね。
正直、全然分からないです...
今後の方針
さて、いろいろ仮説を書いたのはいいのですが、はっきり言って、これらの仮説を考えるためのツールがありません。
今までやったことの流れとしては、
ツリーについての議論をする
↓
偶奇性も入れた方がいいんじゃね
↓
巡回列って概念入れるべきだ
↓
巡回列中心に考えてみよう
↓
仮説がたくさん生まれた
こんな感じ。
仮説が生まれて、今までやったこと自体は悪くなかったと思います。
ただ、ツリーの理解度を上げるという方針でやってきましたが、これからはツリーの理解度を上げると言うよりも、偶奇性(分割)の話が主役なんじゃないかと思い始めました。
そして、直近の目標は、コラッツ木ではなく、それを簡単にした以下のツリーについて仮説が成り立つかです:
\mathbb{R} 上の簡易ツリー
ツリーの例:
上でツリー \mathbb{R} を、 T=\mathrm{Tree}(t) を用いて、次のように定義する: E \subset \mathbb{R} t(x) := \left\{ \begin{array}{ll} x/2 & (x \in E) \\ x+1 & (x \in \mathbb{R} \setminus E) \end{array} \right.
3倍をなくしただけのものです。
これでもかなり複雑ですが、これ以上の単純化もどうすればいいか分からないところです。
次回からは偶奇性(分割)についての議論を進める方針でいきたいと思います。では。
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