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【数学】コラッツ予想を解きたい!09

2022/09/19に公開

前回のまとめ

Thm:ループ巡回列に対する正規性

A \subset \mathbb{Q}

A = \{ \frac{m}{n} \ |\ m \in \mathbb{Z},\ n は奇数 \ \}

によって定義する。
任意の p \in A について、

p = \frac{m}{n} \qquad ( m,\ n は互いに素な整数で n>0)

と表した時、

m は偶数 \ \Leftrightarrow \ p \in E

によって、E \subset A を定める。(ただし p が整数のときは、n=1 とする)
また、A 上でツリー T=\mathrm{Tree}(t) を次のように定義する:

t(x) := \left\{ \begin{align*} x/2 \quad & (x \in E) \\ \frac{3x+1}{2} \quad & (x \in A \setminus E) \end{align*} \right.

このとき、ツリー T はループする巡回列をちょうど1つずつ持つ。

これについて、ループしない巡回列を持つかどうかが分からなかったのが嫌なところでした。
そこで持つかどうかを知るために、すべての巡回列をちょうど1つずつ持つような拡張が欲しいという風な発想になりました。ただし、無理やり有理数や無理数に拡張する必要はない、という感覚も得られました。

どこから手を付けるか?

ゴールは、

x \in \mathbb{Z} に対し、

t(x) := \left\{ \begin{align*} x/2 \quad & (x : 偶数) \\ \frac{x+1}{2} \quad & (x : 奇数) \end{align*} \right.

という簡易ツリーに対し、すべての巡回列をちょうど1つずつ持つように拡張したいというところです。

こっからどうするか。
無限個のツリーを考えるというのはぱっと考えられそうですが、やり方は難しいようです。

無限個のツリーを考える

ループ巡回列をちょうど1つずつ持つ場合は、次のように可算個のツリーを考えました:

x \in \mathbb{Z} と奇数 m に対し、

t_m(x) := \left\{ \begin{align*} x/2 \quad & (x : 偶数) \\ \frac{x+m}{2} \quad & (x : 奇数) \end{align*} \right.

となると、何かしらの不可算個のツリーを考えたくなります。
例えば、

x \in \mathbb{Z} と奇数から偶数への写像 \phi に対し、

t_\phi(x) := \left\{ \begin{align*} x/2 \quad & (x : 偶数) \\ \frac{\phi(x)}{2} \quad & (x : 奇数) \end{align*} \right.

奇数から偶数への写像のすべてを考えれば、これは不可算個のツリーになります。
また、これがすべての巡回列を持つことも明らかでしょうか...意外と明らかとは言い切れないかもしれません。

一応やっておきます。

すべての巡回列を持つ

例えば、a を起点とする t_\phi の巡回列 0,\ 1,\ 0,\ 1,\ 1,\ 0,\ 0,\ 1,\ 1,\ 0,\ ... を考えます。

まず、最初が 0 なので、a は奇数。
例えば、a=1 としてみます。
次の 0 になるまでに、1 が1つあるので、\phi(a) / 22 で一回だけ割れる必要があります。例えば、 \phi(a) = 4 としてみます。
すると、

\begin{align*} t(a) &= \phi(1) / 2 = 4 / 2 = 2 \\ t^2(a) &= 2 / 2 = 1 \end{align*}

となります。1 に戻ってきてしまいました。すると \phi(1) は既に決めてしまっているので、以降の巡回列に対応できません。
なので、\phi(a) / 22 で一回だけ割れる必要があると同時に、1 * 2 であってはいけません。なので、例えば、\phi(a) = 12 としてみると、

\begin{align*} t(a) &= \phi(1) / 2 = 12 / 2 = 6 \\ t^2(a) &= 6 / 2 = 3 \end{align*}

となります。以下、同様にやってみると、巡回列 0,\ 1,\ 0,\ 1,\ 1,\ 0,\ 0,\ 1,\ 1,\ 0,\ ... に対応できます:

\begin{align*} t(a) &= \phi(1) / 2 = 12 / 2 = 6 \\ t^2(a) &= 6 / 2 = 3 \\ t^3(a) &= \phi(3) / 2 = 40 / 2 = 20 \\ t^4(a) &= 20 / 2 = 10 \\ t^5(a) &= 10 / 2 = 5 \\ t^6(a) &= \phi(5) / 2 = 14 / 2 = 7 \\ t^7(a) &= \phi(7) / 2 = 72 / 2 = 36 \\ t^8(a) &= 36 / 2 = 18 \\ t^9(a) &= 18 / 2 = 9 \\ \end{align*}

これが一般に成り立つことは明らかでしょう。
また、この証明から \phi を全単射に制限してもよさそうです。

具体的にはどうするか

上の証明からも明らかですが、同じ巡回列を他のたくさんのツリーも持っているという状況であり、ツリーの『合体』ができないのが問題です。
とりあえず、\phi が不可算でなくてはならないというところから、いろいろ候補を考えてみます。

\phi : 奇数 \rightarrow \{ 0,\ 2 \}

例えば、このような関数全体も、不可算にはなります。ただ、これでは面白みがないと言いますか、考えられる巡回列のパターンがほとんどありません。

ループする巡回列全体への拡張をした時のようなイメージを持つと、

\phi : 奇数 x \mapsto x+1,\ x+3

こんな風に考えるのは自然かもしれません。
ただ一次関数を考えるだけでは、あんまりうまくいかないようです

となるとどうするのがよいのか?
逆転の発想として、まず巡回列をちょうど一つずつ持つような空間を先に作り、それが持つべき性質というのを考えるというのはどうでしょうか。これは特殊な発想ではなく、スタートから考えてみて上手くいかないときは、ゴールから考えるという普通の発想です。

巡回列全体の集合

巡回列全体の集合とは、言い換えると、巡回列をちょうど1つずつ持つような集合です。

具体的に書くと、0,\ 1 からなる数列全体の集合になります。
これ上での分割 E は数列の最初の数値によって定めればよい。

巡回列に和を定義できるか?

巡回列全体の集合上において、和を定義できるかを考えてみましょう。

簡易ツリーにおいて、

\begin{align*} 1/3 を起点とする巡回列は、 &0,\ 1,\ 0,\ 1,\ 0,\ 1,\ 0,\ 1,\ 0,\ ... \\ 1/7 を起点とする巡回列は、 &0,\ 1,\ 1,\ 0,\ 1,\ 1,\ 0,\ 1,\ 1,\ ... \\ 1/3+1/7=10/21 を起点とする巡回列は、 &1,\ 0,\ 0,\ 0,\ 0,\ 1,\ 1,\ 0,\ 0,\ ... \\ \end{align*}

となるので、巡回列 0,\ 1,\ 0,\ 1,\ 0,\ 1,\ 0,\ 1,\ 0,\ ... と 巡回列 0,\ 1,\ 1,\ 0,\ 1,\ 1,\ 0,\ 1,\ 1,\ ... の和は、巡回列 1,\ 0,\ 0,\ 0,\ 0,\ 1,\ 1,\ 0,\ 0,\ ... になってほしいところです。

これはどのような法則によって、巡回列の足し算を行っているのでしょうか。
ぱっと見、2進数的な感じでいけそうにも見えるのですが、実は少し違うようです。

いくつか具体例を見てみましょう。

(\mathrm{i})

a が奇数で、\frac{a+1}{2} は偶数。
b が偶数で、b/2 は偶数とする。

このとき、a+b は奇数であり、

\frac{(a+b)+1}{2} = \frac{a+1}{2}+\frac{b}{2}

となるから、\frac{(a+b)+1}{2} は偶数である。

(\mathrm{ii})

a が奇数で、\frac{a+1}{2} は偶数。
b が奇数で、\frac{b+1}{2} は偶数の場合は、

a+b は偶数であり、

\frac{a+b}{2} + 1 = \frac{a+1}{2}+\frac{b+1}{2}

だから、\frac{a+b}{2} は奇数。

(\mathrm{iii})

巡回列 0,\ 1,\ 0,\ ...
巡回列 0,\ 1,\ 1,\ ... の和は、
それぞれを a,\ b とすると、a + b は偶数。

\frac{a+b}{2}+1 = \frac{a+1}{2}+\frac{b+1}{2}

\frac{a+b}{2} は奇数。

\frac{\frac{a+b}{2}+1}{2} = \frac{\frac{a+1}{2}}{2}+\frac{\frac{b+1}{2}}{2}

これは奇数+偶数なので、奇数である。
よって、a + b1,\ 0,\ 0,\ ... となる。

法則が分かってきたでしょうか?

とりあえず、巡回列の定義を変更します...

Def:巡回列(再定義)

集合 A 上にツリー \mathrm{Tree}(t) がある。また分割を E \subset Aとし、A \setminus E の定義関数を

\chi_{A \setminus E}(x) = \left\{ \begin{array}{ll} 0 & (x \in E) \\ 1 & (x \in A \setminus E) \end{array} \right.

とする。このとき、a \in A に対し、次の数列

\chi_{A \setminus E}(a),\ \chi_{A \setminus E}(t(a)),\ \chi_{A \setminus E}(t^2(a)),\ \chi_{A \setminus E}(t^3(a)),\ ...

a を起点とする E についての巡回列という。

巡回列の 0,\ 1 の割り当てを逆にしておきました。
そして、この新しい定義を用いて、和を定義します。

Def:巡回列空間における和

巡回列 \{ a_i \}_{i \in \mathbb{N}}\{ b_i \}_{i \in \mathbb{N}} に対し、その和 \{ c_i \}_{i \in \mathbb{N}} を次のように定義する:

繰り上がり計算のため、数列 \{ d_i \}_{i \geq 0} を考えて、

\begin{align*} (\mathrm{I}) & \qquad d_0 = 0 \\ (\mathrm{II}) & \qquad 任意の i \in \mathbb{N} に対し、 a_i+b_i+d_{i-1} を 2 で割った商を d_i 、余りを c_i とする \end{align*}

このように定義した和が僕たちが望むようなものになっているかを確認しましょう。
具体例を見てみます。

1/3 を起点とする巡回列 1,\ 0,\ 1,\ 0,\ 1,\ 0,\ 1,\ 0,\ 1,\ ...
1/7 を起点とする巡回列 1,\ 0,\ 0,\ 1,\ 0,\ 0,\ 1,\ 0,\ 0,\ ... の和は、
後ろ向きに繰り上がり計算を行っていけばいいので、

\begin{align*} &1,\ 0,\ 1,\ 0,\ 1,\ 0,\ 1,\ 0,\ 1,\ ... \\ +) \quad &1,\ 0,\ 0,\ 1,\ 0,\ 0,\ 1,\ 0,\ 0,\ ... \\ ---&-------------\\ &0,\ 1,\ 1,\ 1,\ 1,\ 0,\ 0,\ 1,\ 1,\ ... \end{align*}

より、0,\ 1,\ 1,\ 1,\ 1,\ 0,\ 0,\ 1,\ 1,\ ... となる。これは、1/3+1/7=10/21 を起点とする巡回列と一致する。

他には、

\begin{align*} -1/5 を起点とする巡回列は、 &1,\ 0,\ 1,\ 1,\ 0,\ 0,\ 1,\ 1,\ 0,\ 0,\ 1,\ 1,\ 0,\ 0,\ 1,\ 1,\ 0,\ 0,\ 1,\ 1,\ ...\\ 3/7 を起点とする巡回列は、 &1,\ 1,\ 0,\ 1,\ 1,\ 0,\ 1,\ 1,\ 0,\ 1,\ 1,\ 0,\ 1,\ 1,\ 0,\ 1,\ 1,\ 0,\ 1,\ 1,\ ...\\ -1/5+3/7=8/35 を起点とする巡回列は、 &0,\ 0,\ 0,\ 1,\ 0,\ 1,\ 0,\ 1,\ 1,\ 1,\ 0,\ 0,\ 0,\ 0,\ 0,\ 1,\ 0,\ 1,\ 0,\ 1,\ ...\\ \end{align*}

も、正しく成立している。

こんな感じで具体例を見て終わりにします。証明はしてもいいですが、現状する必要はないので。
今、考えるべきは、次の2つの項目です。

和によって群となるか

まず考えたいのは、この定義した和が、次のような基本的な性質を満たすか(群構造となるか)というところです。

Thm:巡回列空間は和によって群となる

巡回列全体からなる集合を J とする。J は群である:

  • 結合法則
\forall a,\ b,\ c \in J, \qquad (a+b)+c=a+(b+c)
  • 単位元の存在
\exists 0 \in J,\ \forall a \in J, \qquad a+0=0+a=a
  • 逆元の存在
\forall a \in J,\ \exists -a \in J, \qquad a+(-a)=(-a)+a=0

proof.)

まず定義より明らかに可換である。

  1. 結合法則
    a,\ b,\ c,\ x を、\{ a_i \}_i,\ \{ b_i \}_i,\ \{ c_i \}_i,\ \{ x_i \}_i とする。
    また、x を次のように定める:
\begin{align*} (\mathrm{I}) & \qquad d_0 = 0 \\ (\mathrm{II}) & \qquad 任意の i \in \mathbb{N} に対し、 a_i+b_i+c_i+d_{i-1} を 2 で割った商を d_i 、余りを x_i とする \end{align*}

このとき、x=(a+b)+c,\ x=a+(b+c) が成り立つ。

  1. 単位元の存在
    0 \in J をすべてが 0 の巡回列 0,\ 0,\ 0,\ ... とする。このとき任意の a \in J に対し、a+0=0+a=a となる。

  2. 逆元の存在
    任意に a \in J を取る。ここで、ba0,\ 1を反転させたものとする。つまり、

\forall i \in \mathbb{N}, \qquad a_i \neq b_i

とする。このとき、a+b1,\ 1,\ 1,\ ... となる。
また、c \in J1,\ 0,\ 0,\ 0,\ ... と定義すると、

(a+b)+c=0

となる。よって、-a=b+c とすればよい。(証明終)

割る2と整合性

和を定義したときに、もう1つ考えたいことがあります。
それは、例えば、1,\ 0,\ 1,\ 0,\ 0,\ 1,\ 0,\ 0,\ ... という巡回列を a とすると、

\frac{a+1}{2} =\ 0,\ 1,\ 0,\ 0,\ 1,\ 0,\ 0,\ ...

となって欲しいというところです。
この計算ができるためには、和の定義以外に、割る2の定義も必要です。

Def:割る2

関数 t_e: E \rightarrow J を次のように定める:

\{ a_i \}_{i \in \mathbb{N}} \mapsto \{ a_{i+1} \}_{i \in \mathbb{N}}

このとき、x/2:= t_e(x) と定義する。

当然の定義ですね。
このとき、t_o の整合性が取れていることを見ましょう。

整数空間で 1 を起点とする巡回列は、1,\ 1,\ 1,\ ... であり、

1,\ 0,\ 0,\ 0,\ ... + 1,\ 1,\ 1,\ 1,\ ... = 0

なので、t_e(x)=\frac{x+1}{2} は整合性が取れている。

以上より、巡回列空間に和が定義出来ました。

今後の方針

和を定義したら、積も定義したくなります。
ただ、その前に、今後の見通しを立てておきましょう。今は簡易ツリーに基づいた和の定義をしました。コラッツツリーの場合はどうするか?

1つぱっと考えられるのは、今の議論をそのままコラッツツリーに適用するという発想です。しかしこれはあまりうまくいかないようです。

コラッツツリーによる巡回列空間の和

例えば、コラッツツリーでは、

\begin{align*} 1 を起点とする巡回列は &1,\ 0,\ 1,\ 0,\ 1,\ 0,\ 1,\ 0,\ 1,\ ... \\ 2 を起点とする巡回列は &0,\ 1,\ 0,\ 1,\ 0,\ 1,\ 0,\ 1,\ 0,\ ... \\ 3 を起点とする巡回列は &1,\ 1,\ 0,\ 0,\ 0,\ 1,\ 0,\ 1,\ 0,\ ... \\ \end{align*}

より、1,\ 0,\ 1,\ 0,\ 1,\ 0,\ 1,\ 0,\ 1,\ ...0,\ 1,\ 0,\ 1,\ 0,\ 1,\ 0,\ 1,\ 0,\ ... の和は、$1,\ 1,\ 0,\ 0,\ 0,\ 1,\ 0,\ 1,\ 0,\ ... $ になって欲しいです...

一応、無理やり和を定義することはできるはできるようですが、簡易ツリーのようなスッキリとした定義はなさそうです。

もう1つは、簡易ツリーによって定義した巡回列空間上でいろいろ考えてみる、ということです。簡易ツリーによる巡回列空間上で、3倍や割る2、足す1を定義出来れば、その巡回列空間上でコラッツツリーを考えられるということです。
有理数拡張の時は、分割 E がそのまま使えました。なら、同じ巡回列空間を使って考えてもうまくいく可能性があるのではないか、という風に思うわけです。

巡回列に積を定義できるか?

ということで、積の定義をしましょう。最低限の目標としては、次のような方程式を巡回列空間上で考えることです:

a=\frac{3^m a+k}{2^n}

とりあえず、整数倍を定義しましょう:

Def:巡回列空間における積(整数倍)

\cdot を整数と巡回列との積とする: \mathbb{Z} \times J \rightarrow J
任意の a \in J に対し、次のように積を定義する:

\begin{align*} (\mathrm{I}) & \qquad 0 \cdot a = a \\ (\mathrm{II}) & \qquad \forall i \in \mathbb{N},\ \qquad i \cdot a = (i-1) \cdot a + a \end{align*}

また、-i については、

(-i) \cdot a = -(i \cdot a)

によって定義する。

できれば巡回列どうしで定義した方がいいとは思いますが、ぱっといい感じの定義が分からないので、とりあえず整数倍だけ定義します。

この定義がちゃんといい感じなのは、上で定義した x/22 \cdot x はちゃんと互いの逆関数になっていることを確認するだけで大丈夫でしょう。これはほとんど明らかですね。

次にやりたいのは、奇数で割ることです。
有理数でやってきた感覚で考えると、任意の a \in J と任意の奇数 m に対して、a/m が定義できるべきでしょう。

しかし、これはどうするのでしょうか...
いい感じの定義があるのでしょうか。

ちょっと止まってしまったので、今回はここらへんで終わりにします。
次回は、a/m を定義するところから。うまい定義が見つけられなかったら、別の方法を考えないといけませんが。次回はそんな感じで。ではでは。

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