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【数学】コラッツ予想を解きたい!12

2022/10/09に公開

前回のまとめ

巡回列空間上でコラッツ予想のツリーを考えると、すべての巡回列のパターンをちょうど1つずつ持つということを証明しました。

Thm:巡回列空間上でコラッツツリーはすべての巡回列をちょうど1つずつ持つ

巡回列空間 \mathbb{J} 上において、奇数集合を O、偶数集合を E とする。関数 t:\mathbb{J} \rightarrow \mathbb{J}

t(x) := \left\{ \begin{align*} x/2 \quad & (x \in E) \\ \frac{3x-1}{2} \quad & (x \in O) \end{align*} \right.

と定義する。ただし、1 \in \mathbb{J} は乗法の単位元であり、2,\ 3 \in \mathbb{J} は自然に定義されるものとする。
このとき、a \in \mathbb{J} を起点とする t による巡回列 j_t(a) \in \mathbb{J} は次のように定義される:

\forall i \in \mathbb{N},\ (j_t(a))_i = \chi_O (t^{i-1}(a))

ただし、\chi_OO の定義関数である:

\chi_O(x) = \left\{ \begin{array}{ll} 1 & (x \in O) \\ 0 & (x \in E) \end{array} \right.

このとき、t による巡回列全体の集合はすべての巡回列をちょうど一つずつ持つ。つまり、

  • すべての巡回列を持つ
\forall a \in \mathbb{J},\ \exists b \in \mathbb{J}, \quad j_t(b) = a
  • 一意性
\forall a,\ b \in \mathbb{J}, \quad j_t(a) = j_t(b)\ \Rightarrow \ a=b

を満たす。

目標は何か

次に何をやりたいかというと、ループする巡回列に区切っても、全単射性が維持されるということです。これが分かればコラッツ予想において、発散する列はなく、すべての要素がループするということが言えるので、これをやっていきたいですね。

目標を詳しく書くと、

ループする巡回列全体の集合 L \subset \mathbb{J} について、
コラッツツリーによる巡回列生成関数 j_t:\mathbb{J} \rightarrow \mathbb{J} を用いて、

j_t(L)=L

を満たす。

ということです。
ちなみに、

L \subset j_t(L)

は簡単です。
任意の t_o, t_e の並びの t^n について、

t^n(x) = x

となる x \in \mathbb{J} が存在するからです。

この目標を示すためにどうするか?
逆を示したいなら、逆関数を作りたいというイメージを持つのは普通だと思います。

前回の議論の一般化について

あと目標とか関係なく、「筋」としてやっておきたいのは、前回の議論の一般化を考えるということです。
前回は、

t(x) := \left\{ \begin{align*} x/2 \quad & (x \in E) \\ \frac{3x-1}{2} \quad & (x \in O) \end{align*} \right.

のような t について議論を行ったわけですが、これをどこまで一般化できるかというところは興味があります。

そして...とんでもない話ですが、条件としては、全単射の2つの関数

t_o:O \rightarrow \mathbb{J} \\ t_e:E \rightarrow \mathbb{J}

を用いて、

t(x) := \left\{ \begin{align*} t_e(x) \quad & (x \in E) \\ t_o(x) \quad & (x \in O) \end{align*} \right.

と表せる任意関数 t について成り立つんじゃないか? という話があります。
なんとなくイメージ的に、例えば、1,\ 1,\ 1,\ 1,\ ... みたいな巡回列だったら、

O\ \rightarrow \ \mathbb{J} \supset O\ \rightarrow \ \mathbb{J} \supset O\ \rightarrow \ \mathbb{J} \supset O\ \rightarrow \ ...

みたいな感じで、ありそうという感じがします。
0,\ 1,\ 0,\ 1,\ ... みたいな巡回列だったら、

E\ \rightarrow \ \mathbb{J} \supset O\ \rightarrow \ \mathbb{J} \supset E\ \rightarrow \ \mathbb{J} \supset O\ \rightarrow \ ...

って感じです。
ただ、なんというか、今の議論はちょっとふわふわしてるので、ちゃんとビジッとした議論にしたいところです。

前回の議論の流れとしては、

  • 単射性の証明
  • 全射性の証明
    • ループするすべての巡回列が存在する
    • すべての巡回列が存在する

であり、このときに1つの補題を使いました:

補題:n項まで一致する2数の巡回列はn項まで一致する

n0 以上の整数とする。
a,\ b \in \mathbb{J} に対し、n 項目まで一致し、n+1 項目は不一致とする。つまり、

\forall i \leq n, \quad a_i=b_i
a_{n+1} \neq b_{n+1}

とする。このとき、j_t(a),\ j_t(b) \in \mathbb{J} に対し、n 項目まで一致し、n+1 項目は不一致となる。つまり、

\forall i \leq n, \quad j_t(a)_i=j_t(b)_i
j_t(a)_{n+1} \neq j_t(b)_{n+1}

が成立する。

前回と同様の議論ができるか?
少し考えてみると...

t_o:O \rightarrow \mathbb{J} \\ t_e:E \rightarrow \mathbb{J}

が全単射というだけでは、単射も補題も証明できなさそうな気がします。
そこで、うまくいくように、何か条件を強くしたいのですが、ぱっと見えるのは、この補題を満たすように条件を強くするということです。(条件を強くしすぎという可能性はありますが、とりあえずやってみましょう)

ツリーの条件

補題を満たすために必要な t の条件は、
任意の n \in \mathbb{N} に対し、

\begin{align*} & a-b\ は \ 2^n\ の倍数\\ \Leftrightarrow \quad & t_e(a)-t_e(b)\ は \ 2^{n-1}\ の倍数 または t_o(a)-t_o(b)\ は \ 2^{n-1}\ の倍数 \end{align*}

が成り立つこと...なんですかね?
必要条件かはわかりませんが、十分条件にはなってますね。
とりあえず、これを採用してみます。

thm:n 項まで一致する2数の巡回列は n 項まで一致する

n0 以上の整数とする。
a,\ b \in \mathbb{J} に対し、n 項目まで一致し、n+1 項目は不一致とする。
このとき、j_t(a),\ j_t(b) \in \mathbb{J} に対し、n 項目まで一致し、n+1 項目は不一致となる。

なお、t の条件設定についてはもう一度書いておきます。

ツリーの条件

全単射の2つの関数

t_o:O \rightarrow \mathbb{J} \\ t_e:E \rightarrow \mathbb{J}

を用いて、

t(x) := \left\{ \begin{align*} t_e(x) \quad & (x \in E) \\ t_o(x) \quad & (x \in O) \end{align*} \right.

と表せるとする。
さらに、任意の n \in \mathbb{N} に対し、

\begin{align*} & a-b\ は \ 2^n\ の倍数\\ \Leftrightarrow \quad & t_e(a)-t_e(b)\ は \ 2^{n-1}\ の倍数 または t_o(a)-t_o(b)\ は \ 2^{n-1}\ の倍数 \end{align*}

が成り立つとする。

proof.)

任意の n \in \mathbb{N} に対し、

\begin{align*} & a-b\ は \ 2^n\ の倍数 \\ \Leftrightarrow \quad & t(a)-t(b)\ は \ 2^{n-1}\ の倍数 \\ \Leftrightarrow \quad & t^2(a)-t^2(b)\ は \ 2^{n-2}\ の倍数 \\ \Leftrightarrow \quad & ... \\ \Leftrightarrow \quad & t^n(a)-t^n(b)\ は \ 2^{0}\ の倍数 \\ \end{align*}

が成り立つ。よって、a,\ b \in \mathbb{J}n 項目まで一致するならば、その巡回列も n 項目まで一致する。
また、これは同値関係だから、巡回列の n+1 項目が一致するならば、a,\ b \in \mathbb{J}n+1 項目まで一致する。(証明終)

一般化:すべての巡回列を1つずつ持つ

Thm:巡回列空間上で一般ツリーはすべての巡回列をちょうど1つずつ持つ

巡回列空間 \mathbb{J} 上において、奇数集合を O、偶数集合を E とする。関数 t:\mathbb{J} \rightarrow \mathbb{J} を2つの全単射関数

t_o:O \rightarrow \mathbb{J} \\ t_e:E \rightarrow \mathbb{J}

を用いて、

t(x) := \left\{ \begin{align*} t_e(x) \quad & (x \in E) \\ t_o(x) \quad & (x \in O) \end{align*} \right.

と表せるとする。
さらに、任意の n \in \mathbb{N} に対し、

\begin{align*} & a-b\ は \ 2^n\ の倍数\\ \Leftrightarrow \quad & t_e(a)-t_e(b)\ は \ 2^{n-1}\ の倍数 または t_o(a)-t_o(b)\ は \ 2^{n-1}\ の倍数 \end{align*}

が成り立つとする。
このとき、a \in \mathbb{J} を起点とする t による巡回列 j_t(a) \in \mathbb{J} は次のように定義される:

\forall i \in \mathbb{N},\ (j_t(a))_i = \chi_O (t^{i-1}(a))

ただし、\chi_OO の定義関数である:

\chi_O(x) = \left\{ \begin{array}{ll} 1 & (x \in O) \\ 0 & (x \in E) \end{array} \right.

このとき、t による巡回列全体の集合はすべての巡回列をちょうど一つずつ持つ。つまり、

  • すべての巡回列を持つ
\forall a \in \mathbb{J},\ \exists b \in \mathbb{J}, \quad j_t(b) = a
  • 一意性
\forall a,\ b \in \mathbb{J}, \quad j_t(a) = j_t(b)\ \Rightarrow \ a=b

を満たす。

proof.) 一意性(単射性)

a,\ b \in \mathbb{J}j_t(a)=j_t(b) を満たすとする。
任意の n \in \mathbb{N} に対し、

\begin{align*} & t^n(a)-t^n(b)\ は \ 2^{0}\ の倍数 \\ \Leftrightarrow \quad & t^{n-1}(a)-t^{n-1}(b)\ は \ 2^1\ の倍数 \\ \Leftrightarrow \quad & ... \\ \Leftrightarrow \quad & t(a)-t(b)\ は \ 2^{n-1}\ の倍数 \\ \Leftrightarrow \quad & a-b\ は \ 2^n\ の倍数 \\ \end{align*}

が成り立つ。
よって、任意のn \in \mathbb{N}$ に対し、a-b2^n の倍数となる。
つまり、a-b=0 となる。(証明終)

proof.) 全射性:ループする巡回列について

ループする巡回列をすべて持つことを示す。
任意にループする巡回列 \alpha \in \mathbb{J} を取る。

ある n \in \mathbb{N} が存在して、任意の i \in \mathbb{N} に対し、

\alpha_i = \alpha_{n+i}

このとき、\alpha に対応した f=t^n を考える。つまり関数

t_i = \left\{ \begin{align*} t_e \quad & (\alpha_i = 0) \\ t_o \quad & (\alpha_i = 1) \end{align*} \right.

の合成によって

f:= \prod_{i=1}^n t_i

と定義する。このとき t_e,\ t_o の全単射性から、f

f: f^{-1}(\mathbb{J}) \rightarrow \mathbb{J}

上の全単射となる。
よって、

f(a) = a

となる a \in \mathbb{J} が...

となると、ループする巡回列が存在することは言えないのでしょうか。
ただ、そもそもループする巡回列の存在を証明する必要があるわけではないという話はあります。

proof.) 全射性

任意に \alpha \in \mathbb{J} をとる。
このとき、\alpha と任意の自然数 n \in \mathbb{N} に対応した f=t^n を考える。つまり関数

t_i = \left\{ \begin{align*} t_e \quad & (\alpha_i = 0) \\ t_o \quad & (\alpha_i = 1) \end{align*} \right.

の合成によって

f:= \prod_{i=1}^n t_i

と定義する。このとき f^{-1}(\mathbb{J}) 内のある要素 b について、

j_t(b)_1,\ j_t(b)_2,\ ...\ ,\ j_t(b)_n

はどの b を選択するかに因らない。このような写像 (n,\ i)\ \mapsto j_t(b)_ig(n,\ i) とおく。
ここで、a \in \mathbb{J} を、各 n \in \mathbb{N} に対し、

a_n=g(n,\ n)

によって定める。
このとき、j_t(a)=\alpha を示す。

まず、

\forall n \in \mathbb{N},\ \forall i \leq n, \quad g(n,\ i) = g(i,\ i)

が成り立つのは明らか。
よって、任意の n \in \mathbb{N} に対して、a \in f^{-1}(\mathbb{J}) が成り立つ。
これより、j_t(a)\alpha が第 n 項まで一致する。

n は任意だったから、

j_t(a)=\alpha

となる。
よって、\alpha \mapsto a はすべての巡回列に対する j_t の逆関数になる。
これは、j_t による像が \mathbb{J} であるということであり、t による巡回列全体の集合が \mathbb{J} と一致するということである。(証明終)

逆は成り立つか?

今の議論の続きとしてやってみたいこととして、逆を考えられるか? という話があります。

仮説:巡回列空間上の全単射は、ツリーによって構成できるか

巡回列空間 \mathbb{J} 上において、奇数集合を O、偶数集合を E とする。
全単射 \phi:\mathbb{J} \rightarrow \mathbb{J} について、

\begin{align*} & a-b\ は \ 2^n\ の倍数\\ \Leftrightarrow \quad & \phi(a)-\phi(b)\ は \ 2^n\ の倍数 \end{align*}

を満たすとする。
このとき、以下の条件を満たす関数 t:\mathbb{J} \rightarrow \mathbb{J} が存在するか?

  • 2つの全単射関数
t_o:O \rightarrow \mathbb{J} \\ t_e:E \rightarrow \mathbb{J}

を用いて、

t(x) := \left\{ \begin{align*} t_e(x) \quad & (x \in E) \\ t_o(x) \quad & (x \in O) \end{align*} \right.

と表せる。

  • 任意の n \in \mathbb{N} に対し、
\begin{align*} & a-b\ は \ 2^n\ の倍数\\ \Leftrightarrow \quad & t_e(a)-t_e(b)\ は \ 2^{n-1}\ の倍数 または t_o(a)-t_o(b)\ は \ 2^{n-1}\ の倍数 \end{align*}

が成り立つ。

  • j_t=\phi となる。
    ただし、j_t とは、a \in \mathbb{J} を起点とする t による巡回列 j_t(a) \in \mathbb{J} のことであり、次のように定義される:
\forall i \in \mathbb{N},\ (j_t(a))_i = \chi_O (t^{i-1}(a))

ただし、\chi_OO の定義関数である:

\chi_O(x) = \left\{ \begin{array}{ll} 1 & (x \in O) \\ 0 & (x \in E) \end{array} \right.

こういうことをやっていると、コラッツ予想を解くというより、巡回列空間の性質を考えているという感じですね。

この仮説を解くために、もう少しシンプルなものを考えてみましょう。
つまり、次のような仮説を考えるということです:

仮説2:任意の巡回列の構造に対し、対応するツリーがあるか?

巡回列空間 \mathbb{J} 上において、奇数集合を O、偶数集合を E とする。
2つの全単射関数

t_o:O \rightarrow \mathbb{J} \\ t_e:E \rightarrow \mathbb{J}

を用いて、

t(x) := \left\{ \begin{align*} t_e(x) \quad & (x \in E) \\ t_o(x) \quad & (x \in O) \end{align*} \right.

と表せる t 全体の集合を \mathbb{T} とする。

このとき、任意の全単射 \phi: \mathbb{J} \rightarrow \mathbb{J} に対し、ある t \in \mathbb{T} が存在し、

j_t=\phi

となるか?

ただ、

\begin{align*} & a-b\ は \ 2^n\ の倍数\\ \Leftrightarrow \quad & \phi(a)-\phi(b)\ は \ 2^n\ の倍数 \end{align*}

という条件を入れた方が簡単に証明できるかもしれないという話もあります。
ただ、コラッツ予想には関係ないかもしれませんが、数学的な興味として、

全単射の2つの関数

t_o:O \rightarrow \mathbb{J} \\ t_e:E \rightarrow \mathbb{J}

を用いて、

t(x) := \left\{ \begin{align*} t_e(x) \quad & (x \in E) \\ t_o(x) \quad & (x \in O) \end{align*} \right.

と表せる t について、j_t が全射になるかどうかというのは見ておきたい気もします。(さっきの証明では 2^n を使ってうまく回避したところの話題です)

で、この話題はなんとなく難しいかと思ってスルーしましたが、ちゃんと考えてみても面白いでしょう。

広い t についての全射性

仮説3:ツリーの全射性

全単射の2つの関数

t_o:O \rightarrow \mathbb{J} \\ t_e:E \rightarrow \mathbb{J}

を用いて、

t(x) := \left\{ \begin{align*} t_e(x) \quad & (x \in E) \\ t_o(x) \quad & (x \in O) \end{align*} \right.

と表せる t について、j_t: \mathbb{J} \rightarrow \mathbb{J} は全射となる。

proof.)

任意に \alpha \in \mathbb{J} を取る。

ここで、\alpha と任意の自然数 n \in \mathbb{N} に対応した f_n=t^n を考える。つまり関数

t_i = \left\{ \begin{align*} t_e \quad & (\alpha_i = 0) \\ t_o \quad & (\alpha_i = 1) \end{align*} \right.

の合成によって

f_n:= \prod_{i=1}^n t_i

と定義する。
ここで集合 J_n \subset \mathbb{J}J_n=f_n^{-1}(\mathbb{J}) と定義すると、

f_n: J_n \rightarrow \mathbb{J}

は全単射となる。
また、集合の列 \{ J_n \}_n は減小列である。

示したいことは、

\exists a \in \mathbb{J},\ \forall n \in \mathbb{N},\ \quad a \in J_n

である。これを見るために、背理法を用いる。
つまり、

\forall a \in \mathbb{J},\ \exists n \in \mathbb{N},\ \quad a \notin J_n

と仮定する。

例えば、n 以上の整数の集合を I_n とすると、
\{ I_n \}_n は空でない減少列ですが、

\forall n \in \mathbb{N},\ \exists i \in \mathbb{N},\ \quad n \notin I_i

となってしまいます。
つまり、問題は、J_n はこのような発散するパターンではないと言えるか? というところです。

う~ん、やっぱり簡単な話ではないですね。条件が足りないのか、条件は足りてるけど解けないのか...ちょっと分かりませんね。

なんか意外と文字数が増えていたので、今回はこの辺りで終わりにします。ではでは。

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