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【数学】コラッツ予想を解きたい!04

2022/08/14に公開

前回のまとめ

偶奇性を含めるべきなんじゃないかということで、新しい「構造」を定義しました。

Def:ツリーの構造

集合 A 上に2つのツリー \mathrm{Tree}(t_1),\ \mathrm{Tree}(t_2) がある。また E \subset A とする。
このとき、ある2つの全単射写像 \sigma_e:E \rightarrow E,\ \sigma_o:A \setminus E \rightarrow A \setminus Eが存在して、

\begin{align*} & \sigma(x) := \left\{ \begin{array}{ll} \sigma_e(x) & (x \in E) \\ \sigma_o(x) & (x \in A \setminus E) \end{array} \right. \\ \\ & \sigma \circ t_1=t_2 \circ \sigma \end{align*}

が成り立つとき、T_1T_2E から見た構造は等しいという。

そして全単射性を抜いて、一般の関数が成り立つ条件を考えている途中まででした。

現在の話題
\begin{align*} & f(x) := \left\{ \begin{array}{ll} f_e(x) & (x \in E) \\ f_o(x) & (x \in A \setminus E) \end{array} \right. \\ \\ & f \circ t_1=t_2 \circ f \end{align*}

となるような一般の関数 f_e:E \rightarrow E,\ f_o:A \setminus E \rightarrow A \setminus E が存在する条件を考えたい

また、前回の最後に「巡回列」という概念を導入しました:

Def:巡回列

集合 A 上にツリー \mathrm{Tree}(t) がある。また E \subset Aとその定義関数を

\chi_E(x) = \left\{ \begin{array}{ll} 1 & (x \in E) \\ 0 & (x \in A \setminus E) \end{array} \right.

とする。このとき、a \in A に対し、次の数列

\chi_E(a),\ \chi_E(t(a)),\ \chi_E(t^2(a)),\ \chi_E(t^3(a)),\ ...

a を起点とする E についての巡回列という。

巡回列

巡回列という概念を使っても、Thmは綺麗に書けないんですよね...
ただ、僕がなぜこの概念を導入したかというと、次のような感じが成り立ったら良くない? って思ったからです:

理想のThm

集合 A 上に2つのツリー \mathrm{Tree}(t_1),\ \mathrm{Tree}(t_2) がある。また、 E \subset A とする。
このとき、次の (\mathrm{i}), \ (\mathrm{ii})は同値である:

\begin{align*} & (\mathrm{i}) \qquad \forall a_1 \in A, \ \exists a_2 \in A, \\ & \qquad a_1 を起点とする t_1 の巡回列と a_2 を起点とする t_2 の巡回列は一致 \\ \\ & (\mathrm{ii}) \qquad \exists f_e:E \rightarrow E,\ f_o:A \setminus E \rightarrow A \setminus E, \\ & \qquad f(x) := \left\{ \begin{array}{ll} f_e(x) & (x \in E) \\ f_o(x) & (x \in A \setminus E) \end{array} \right. , \qquad f \circ t_1=t_2 \circ f \quad \end{align*}

これが成り立ったらいいなぁって感じです、(具体的にどう使っていくのかは分かりませんが、綺麗に書けてるので満足でしょう)
ただ実際には成り立たないので、どうしていくか。いろいろ考えてみましたが、(\mathrm{i}) をすっきり書くのは難しそうなので、A の方を制限してみるのはどうでしょうか。
つまり、 E については現状特に制限はないですが、ある程度、「妥当な」E というものを考えましょう。

Eの条件とは

E \subset A について、条件を探してみます。
そもそも上記、理想のThmが成り立たない例としては、E=\emptyset なら明らかですし、そうでなかったとしても、以下のようなものもあります:

T_1

T_2

これは今までと同様に約数になっていないとダメという問題です。
また別パターンもあります:

T_1

T_2

これは解なしです

ソースコード
python
e1 = 0
e2 = 1
e3 = 2
o1 = 3
o2 = 4
o3 = 5
A_name = ['e1', 'e2', 'e3', 'o1', 'o2', 'o3']
A = [e1, e2, e3, o1, o2, o3]
t1 = [o1, e1, e1, o1, e1, e1]
t2 = [o1, o3, e2, o1, e1, o3]

def check(f):
    for i in range(6):
        if(f[t1[i]] - t2[f[i]]):
            return 0
    return 1

for ie1 in range(3):
    for ie2 in range(3):
        for ie3 in range(3):
            for io1 in range(3, 6):
                for io2 in range(3, 6):
                    for io3 in range(3,6):
                        if(check([ie1, ie2, ie3, io1, io2, io3])):
                            print(A_name[ie1], A_name[ie2], A_name[ie3], A_name[io1], A_name[io2], A_name[io3])

なぜでしょうか? 次のパターンと比較してみましょう。

T_1

T_2

f= \begin{pmatrix} e_1 & e_2 & e_3 & o_1 & o_2 & o_3 \\ e_1 & e_3 & e_3 & o_1 & o_2 & o_2 \end{pmatrix} \

少し異なるだけですが、こちらには1つ解があります。この解は、o_3,\ e_2 を使ってないところも明記しておきます。
これをヒントに、次のような概念を定義してみます:

Def:正規分割E

集合 A 上にツリー T=\mathrm{Tree}(t) に対して、E \subset AT の正規分割であるとは、次が成り立つことである:

a を起点とする巡回列と b を起点とする巡回列が一致するならば、 a=b

この概念はかなり強いかもしれません。しかし、とりあえず、これを使ったThmを証明しましょう。

正規分割によるThm

Thm:fの存在

集合 A 上に2つのツリー T_1=\mathrm{Tree}(t_1),\ T_2=\mathrm{Tree}(t_2) がある。また、 E \subset AT_2 の正規分割とする。
このとき、次の (\mathrm{i}), \ (\mathrm{ii})は同値である:

\begin{align*} & (\mathrm{i}) \qquad \forall a_1 \in A, \ \exists a_2 \in A, \\ & \qquad a_1 を起点とする t_1 の巡回列と a_2 を起点とする t_2 の巡回列は一致 \\ \\ & (\mathrm{ii}) \qquad \exists f_e:E \rightarrow E,\ f_o:A \setminus E \rightarrow A \setminus E, \\ & \qquad f(x) := \left\{ \begin{array}{ll} f_e(x) & (x \in E) \\ f_o(x) & (x \in A \setminus E) \end{array} \right. , \qquad f \circ t_1=t_2 \circ f \quad \end{align*}

注意してほしいのは、正規分割の条件は T_2 のみにかかっているところです。

proof.)

まず (\mathrm{i}) \ \Leftarrow \ (\mathrm{ii}) を示す。
任意に a_1 \in A をとる。a_2 = f(a_1) とする。

f(t_1^i(a_1))=t_2(f(t_1^{i-1}(a_1)))=...=t_2^i(f(a_1))=t_2^i(a_2)

が成り立つから、i \geq 0 に対し、

\chi_E(t_1^i(a_1))=\chi_E(f(t_1^i(a_1)))=\chi_E(t_2^i(a_2))

が成立する。これは巡回列の一致を意味する。

次に (\mathrm{i}) \ \Rightarrow \ (\mathrm{ii}) を示す。

\begin{align*} & (\mathrm{i}) \qquad \forall a \in A, \ \exists f(a) \in A, \\ & \qquad a を起点とする t_1 の巡回列と f(a) を起点とする t_2 の巡回列は一致 \\ \end{align*}

によって、f を定義する。巡回列の一致性から、この fE,\ A \setminus E で別々に定義可能の関数である。
ここで、巡回列の一致性から、次の2つの数列に \chi_E を作用させたものは一致する:

\begin{matrix} a, & t_1(a), & t_1^2(a), & t_1^3(a), & ... \\ \\ f(a), & t_2(f(a)), & t_2^2(f(a)), & t_2^3(f(a)), & ... \end{matrix} \

またこれは、任意の a に対して成り立つから、t_1(a) に対しても成り立つ。よって、次の2つの数列に \chi_E を作用させたものは一致する:

\begin{matrix} t_1(a), & t_1^2(a), & t_1^3(a), & t_1^4(a), & ... \\ \\ f(t_1(a)), & t_2(f(t_1(a))), & t_2^2(f(t_1(a))), & t_2^3(f(t_1(a))), & ... \end{matrix} \

ここでこの2つの一致性を見比べると、次の2つの数列に \chi_E を作用させたものは一致することが分かる:

\begin{matrix} t_2(f(a)), & t_2^2(f(a)), & t_2^3(f(a)), & t_2^4(f(a)), & ... \\ \\ f(t_1(a)), & t_2(f(t_1(a))), & t_2^2(f(t_1(a))), & t_2^3(f(t_1(a))), & ... \end{matrix} \

よって、t_2(f(a)) を起点とする t_2の巡回列と f(t_1(a)) を起点とする t_2の巡回列は一致する。ここで ET_2 正規分割だから、

t_2(f(a))=f(t_1(a))

が成り立つ。これは任意の a \in A に対して成り立つ。(証明終)

綺麗に証明できました。ちょっと綺麗すぎる説はありますが... 定理はスッキリにするべきですが、証明はごちゃついてもいい(少しくらいはごちゃついた方がいい)と思うので...

次回に向けて

そしてこの後をどうするか? もっと正規分割の条件を弱めて、「弱い正規分割」を考えますか? 証明をする前はそうするつもりでしたが、意外とこの強い分割の条件でもいいのかもしれません。というのも、おそらくですが、僕たちが最終的に目標としているコラッツ予想の話題とするツリーというのは、強い正規分割の条件を満たしている(と思う)からです。
じゃあ、もしそうだとしたら、どうしていくか。それも謎ですが、今回は区切りが良いので、このくらいで終わりにします。ではでは。

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