ベルリンで開催された Fluttercon 2025 EU に参加してきました
年に 1 回ベルリンで開催される世界最大規模の Flutter カンファレンスの Fluttercon 2025 EU にスピーカーとして参加してきました。
Fluttercon EU は参加者数約 1,000 人、セッション数 75、5 部屋同時進行(オープンなスペースでのプログラムも含めたら最大 6 コマ同時進行)、3 日間開催、しかも毎日飲み会がある、というデカさの毎年行われているイベントです。これに加え、参加者数がさらに多い Droidcon も同時開催しています。
飲み会などでは「このイベントどうだった?」という質問から会話が始まることが多かったのですが、とにかく規模の大きさに驚いた話ばかりしていた記憶です。
さて、この「このイベントどうだった?」という質問についてさらに回答を追加すると、日本のカンファレンス(少なくとも自分が参加してきた Flutter 関連のカンファレンス)からは想像もしていなかった経験がいくつもできました。
Humpday Q&A などで有名な Simon Lightfoot さんとなぜかイタリアンなレストランで晩ご飯をご一緒することになったり、liquid_glass_renderer や heroine パッケージで有名な Tim さんからお気に入りのプレッツェルとパンをお土産にもらったり(この記事はそれを食べながら書いてます)、Majid さんと再会したり、flutter_deck の Mangirdas さんと自分の国のお菓子を交換したり。
「会いたかった人に会えた」以外ではハンズオンセッションで周りの人とわいわいコーディングしたり、Simon さんに自分のパッケージの悩んでいる部分を相談したり、スポンサーブースの企画で他の参加者と一緒に盛り上がったり、お昼の会場でバドミントンやフットサルを楽しんでる人たちを眺めたり、「朝ごはん」として用意されていたクッキーや野菜&果物をかじってみたりと、セッションを聞く以外でもできることはなるべく体験しておこうの精神でいろいろやってみました。
他のスピーカーのプレゼンもすごい方がたくさんいらっしゃって、自分のスキル不足(言語の問題とは別のところで)を実感するとともに、このすごさを分析して自分に取り入れて、次の登壇では確実にもっとうまくできるはずという謎の自信も湧いてきました。
というわけで、この記事ではそれぞれの体験について少しずつ書いてみたいと思います。
いろんな人に直接お会いできた話
まずはイベント期間を通して、実際にベルリンまで来たからこそできたいろんな方とのごあいさつについて書いていこうと思います。
Simon さん
Simon さんは海外の Flutter イベントの映像を見ていれば必ず一度は目にしている有名な方なのではないかと思います。
特に毎週 Youtube Live で開催されている Humpday Q&A では Flutter フレームワークに対する広く深い知識で視聴者の質問に回答したり、その説明をライブコーディングでわかりやすく解説したりするすごい人です。
普段 Flutter の内部実装の記事を書いたり話したりしている私にとってはとても親近感を覚える方でありつつ、同時に自分をレベル 100 にした完全上位互換のような方でもあるので前々から一度お会いして話してみたいと思っていた方でした。
今回は Simon さんのライブコーディングセッションで自分の animated_to
の課題になっている箇所を質問してみたことがきっかけで Flutter ブースでじっくり相談に乗ってくれ、その解決の糸口になりそうな過去のサンプルコードも見せてくれ、さらに部屋からブースへの移動中もいろんな雑談をしてくれました。
と、それだけでも満足と思いながらホテルに戻ってみると、なんとホテル前に Simon さんが、、!「これからパーティまで少し時間があるからちょっとご飯でも食べるんだけど一緒にくる?」と誘っていただけたので、「これは断る選択肢はない!」ということで一緒に参加していた すぎー さんや他の方も含めて 5 人ほどでオススメのイタリアンで晩ごはんしてしまいました。
そちらでは終始雑談という感じで漫画やアニメの話ばっかりしていた記憶ですが、その合間に日本からはるばるやってきた話や来年もぜひ参加したい話などもできてとても良い時間でした。
「自分も内部実装読んだりするの好きなんです」って話は残念ながらできなかったので、それはまた来年に。
Tim さん
Tim さんは liquid_glass_renderer や heroine などのパッケージを作っている方と言えば分かりやすいのではないかと思います。
自分の animated_to パッケージも内部的には Tim さんの作った springster パッケージに依存して Spring アニメーションを実装している縁もあって、前々から X ではちょくちょく会話していた感じの関係性でした。
スピーカー同士ということでこのイベントで会えることを期待しつつ、2 日目に Tim さんのセッションがあったので当然最前列で参加、終わった後にあいさつに向かいました。ちなみにそのセッションがすばらしかったので後述します。
さて、そのタイミングでは一言二言会話した程度で質問の列もあり終わってしまったのですが、その後会場をフラフラしていた Tim さんに日本のお菓子をお土産に渡し、さらに次の日は「お返しに」とベルリン住みの Tim さんオススメのお店のプレッツェルとパンをいただいてしまい、さらには事前にメモしてくれていたオススメのお店もたくさん教えていただき、とても仲良くなれた 3 日間でした。(ちなみにもらったそのパンはパーティ前に食べようと思っていたのですが、先述の Simon さんの晩ご飯について行ってしまったためパーティ後の夜食になりました。とてもおいしかった。)
イベント後に 1 日オフがあったので、その日はひたすらベルリンを歩き回りながら Tim さんおすすめのお店を回ったり楽しめました。
Majid さん
相変わらずパワフルな方でした!
Majid さんとは以前に FlutterNinjas の最後の居酒屋で同席して話した程度でしたが、今回 Majid さんのセッションにルーカスさんとすぎーさんと最前列で座っていたらセッションが終わるなりこちらに駆け寄ってくれて、久しぶりの握手(というかほぼハイタッチ)をしてくれました。
FlutterNinjas の後の飲み会で自分が相談していた内容も覚えていてくれて、「ついに Fluttercon にスピーカーとして参加できました!」という話もでき、一瞬ではありましたがとても有意義な会話ができたと思います。
Mangirdas さん
Mangirdas さんは flutter_deck を作っている方です。
私も最近の登壇ではほぼすべてのスライドに flutter_deck を使っていて、さらに最近は自分の animated_to パッケージと組み合わせると簡単に資料にアニメーションを加えられる親和性もあり、かねがね X や GitHub 上でやりとりをさせていただいたいました。
Mangirdas さんともお菓子の交換をしようという話にぽろっと X でなっていたのでスーパーでいろいろとお土産を買って行ったのですが、なんとお会いできた 1 日目にそれをホテルに忘れてしまい、さらには 2, 3 日目にはなんだかんだお会いできず、結局渡さず仕舞いで終わってしまいました。。
逆に Mangirdas さんからはいろんなお菓子をもらってしまったので、自分からはまた来年参加して今度こそ渡そうと思います。
他にも Jasper の Kilian さんや FlutterNinjas でおなじみの Adam さんや Sasha さん、Flutter モントリオールのオーガナイザーをしている Jhin Lee さんなど、他にもいろんな方に会って少しずつお話する機会がありましたが、キリがないのでいったんこのあたりで、プレゼンの話に進みます。
プレゼンがすごかった話
ここからはセッションの話になりますが、この記事では「プレゼン自体がすごかった」ことにフォーカスを当てて書きたいと思います。ひとつひとつのセッションの内容や様子については後日アーカイブが公開されると思いますので、そちらをご覧ください(自分も書けるほど理解していない & 覚えていないので)
全体的な感想
個別のセッションの前に全体的な話になりますが、後から録画を視聴するのと実際に会場でセッションに参加するのでは「観客の様子が見える」という点でが大きく異なるなと感じました。
真剣に聞いてリアクションもしてる人、手元でなにかいじりながら聞いてる人、途中で退出してしまう人、満席だからと床に座り込んだり寝転んだりして聞いてる人、いろんな方がきっといろんなことを考えながらセッションに参加してるんだろうなと思います。スピーカーのしゃべり方ひとつで会場の雰囲気も変わってくるのが伝わってきて、どんな発表が参加者にどのように影響するのかが肌で感じられる気がしました。
スピーカーの方々はというと、資料にもトークにもかなり準備と練習に時間を割いている様子が感じられました。発表の流れや資料の工夫、スムーズな喋りなど、どれをとっても自分はまだまだだったと感じることが多い 3 日間だった気がします。
ただしその練習の結果、本番で練習通りに読み上げる方もいれば、観客の様子に応じて話す内容を調整する方もいるなど、いろんなスタイルがあることに気づいたのも発見でした。[1]
事前に練習した通りにできれば予定した内容・時間で過不足なく参加者にセッションの内容を伝えられる一方で一度イレギュラーな事故が発生するとリカバリーが難しい、一方で本番でアドリブを入れながら話すと楽しく聞けるかもしれないし、結局何が伝えたいのかよくわからないプレゼンになるかもしれない。
このあたりは人それぞれのやりたいことにも寄るので、自分の目指すスタイルを見つけてよく分析するのが良いのかなと思っています。自分は Majid さんのような発表ができるようになりたい。(テンションが高いという意味ではなく参加者に話しかけるようなスタンスという意味で)
という前置きで、個別のセッションを見ていきたいと思います。
It's Not Just Liquid Glass: Building Physics-Driven Flutter Apps That Feel Real
先述の Tim さんのプレゼンです。
Tim さんのセッションはとにかく資料のクオリティが段違いでした。
きれいなデザインと flutter_deck
だからこそできる演出を効果的に使った説明で、「なんか自分の flutter_deck
と違うぞ、、?」というのがまず出てきた感想でした。特に、スライドの左半分で実際に物体を動かしたりアニメーションさせながら、同時に右半分ではその動き可視化する見せ方はいつまでも触って見ていたくなる発表資料で、自分もあれくらい flutter_deck
を効果的に使いたいと思わされました。
Flutter アプリならではの「触れる」資料が最大限活用され、かつ 1 ページ 1 ページのデザインもおしゃれで、スピーカーノートもデジタルではなくアナログな正方形の画用紙を何枚か握っている、という様子を見ていた結果、プレゼン終了後に本人に話しかけに行って出てきた言葉が「Tim さんってもしかしてデザイナーの経験もあるんですか?!」だったほどです。(ちなみに答えは "Yes" でした)
スピーカーノートもアナログな正方形の画用紙何枚かで用意していたのが印象的で、イケてるツールではなくお守りがわりのメモたちを握りしめながら喋っている感じがとてもオシャレでした。後で聞いたら実際にそのノートは使わなかったそうで「お守りがわりに持ってたけど、その場で言いたいことを言うんだ」というようなことをおっしゃっていました。
「その場で言いたいことを言う」、英語でもできるようになりたいものです。
とはいえ Tim さんほどのきれいなデザインの資料を作るのは一朝一夕でできることではないと思うので、次の機会では「flutter_deck
だからこそ表現できる効果的なスライド」をさらに追究するところから始めたいと思います。
Flutter Widgets Probably Haven’t Heard Of
先述の Majid さんのセッションです。
先ほどの Tim さんとは打って変わって「発表資料はないよ」というスタイルで、過去に書いた記事と Flutter の公式ドキュメント、さらには DartPad によるライブコーディングで話が進むスタイルのプレゼンでした。
Majid さんはとにかく聞き手の目線に立って言葉を選ぶのがうまく、たとえば画面に細かいコードが出てくれば「このコードは後で共有するから細かいところは気になくて良いよ!」と余計なことに脳のリソースがとられないように先手を打ち、Container
のようなよく使われる Widget が話題にあがれば「これ使ったことある人いる?もちろん全員手が挙がるよね?」と会場を巻き込み、、逆にマイナーだけど便利な Widget が出てくれば「こんなの知ってる人いないよね?自分も知らなかった。」と一緒に知見を共有している感を演出し、という感じで、とにかく「プレゼンを聞いている」というより「Majid さんと一緒に話している」ような気分にさせるセッションでした。
Powering offline-first forestry in Europe's wilds
こちらは「しっかり準備してその通りしゃべる」例として印象に残ったプレゼンでした。
話すスピードも一定でつっかえたりしないので聞きやすく、スライドをめくるタイミングもピッタリ話の流れに合っていて、かつ内容もあまり具体的に聞かないトピックで面白いという、「まずはこのしゃべり方を目指したい」のお手本と言えそうなプレゼンでした。
先述の通り「準備した通り」とは言っても棒読み感は全くなく話の緩急や抑揚も含めて練習通りという感じで、これだけ安定していると聞く側としては安心して内容に集中できるのだなと感じたプレゼンでした。
と書きながら振り返ると、プレゼンはそのやり方次第で「内容に集中して聞いていられる」「時間が経つのを忘れて楽しく参加できる」「質問が湧いてきやすい」などさまざまに異なる効果が得られることを実感できました。
人それぞれスタイルに正解はないですので、内容やイベントの趣旨、参加者の属性などに応じて適切なやり方を選べるととても効果的なトークができるのだろうなと思う一方で、そのどれにも共通するのは入念な準備とそのトピックに対する自身の深い理解であることは間違いないですので、次回はもっと内容の深掘りと練習に時間をかけたいところです。
イベントでいろんな体験ができた話
今までは技術カンファレンスというとセッションで技術的な知見をインプットするのを中心に、たまに少し抜け出してスポンサーブースなどを回るようなイメージがあったのですが、Fluttercon では全く違いました。そのあたりについて最後に少しまとめてみようと思います。
朝ごはん
まず驚いたのは、朝会場に着くと待っていたのはバスケットに入った果物と野菜、トレイにならんだクッキーなどのお菓子にクロワッサンなど、さらにはコーヒーなども無限に用意されていて、いつでも気軽につまみながらセッションに参加できる雰囲気でした。
このイベントを通して感じたのはみなさん「気軽」にいろんなことするなということで、気軽に人参やりんごを齧りながらセッションに参加するし、席がなければ気軽にそのへんの地面に座り込んでプレゼンを聞くし(寝転がってる人もいました、、!)、もちろん気軽に話しかけるし、「こうしなければならない」という堅苦しさがいっさい無い点が自分にとっては初めての海外イベント(しかもデカい!)でもリラックスして参加できた理由なのではないかなと思っています。
お遊び
イベントに全く関係なさそうな遊びもたくさんありました。
ちょっとしたフットサルコートやバドミントンエリアがあったり、Switch2 のマリオカートが壁をスクリーンに遊べるようになっていたり、遊具のようなものが置かれていたり。
このあたりの設備からも人と人とのコミュニケーションにも重点が置かれていて、「セッションへの参加が最優先」ではない感じが伝わって来ました。
ワークショップ
3 日目には AI を使って自分のサイドキックを作ろう!というタイトルのワークショップがあり、自分はその内容よりも「ワークショップへの参加」そのものに興味があり参加してみました。
参加してみた雰囲気としては大学のちょっとしたひとコマのような感じで、前半はあらかじめ用意されたコードをコピペで動作確認し、後半は各自それを使って自由に何かアプリを作ってみよう、そして発表してみよう、という感じでした。
自分もコーディングしながら「うまくいってる?」「なんか動かないんだけど」みたいな雑談を隣の参加者としながら楽しく作りたいものを作っていたものの、最終的に動くところまでは作れなかったので発表もできずでした。残念。
なんだかんだそこで隣に座って少し話した人と最後の飲み会でもずっと一緒にいたりしたので、どこで出会った誰と仲良くなるかわからないのも面白いですね。
飲み会
イベント前日のスピーカーディナーも含めて、全部で 4 回(!)飲み会がありました。
とはいえ飲み会の感じは日本の打ち上げとそれほど変わりなく、ビールを片手にたまたま近くにいた人と話したり、話したかった人に話しかけに行ったり、「どこから来たんですか」とか「普段どんな開発してるんですか」とか「イベントどうでした?」みたいな当たり障りのない質問をきっかけに話が進む感じです。
場所がやたらオシャレだったり、ビールのグラスがやたら大きかったり、飲み物食べ物のゲットにだいぶ混乱が生じている以外は日本と同じ感じの飲み会を想像していただいて良いのではないかなと思います。後述しますが日本人というだけである程度話題に事欠かないので、そのおかげもあって楽しかったです。
4 日連続はキツイから 1 日くらい休ませてもらおうかな、、と最初は考えていましたが、結局全て参加して正解でした。とはいえ全員が全員参加しているわけでもなさそうでしたので、このあたりは個々人の体調等と相談しながら出られそうなやつだけ出る、のスタンスで問題なさそうです。(ルーカスさんなんかは「え、もちろん全部出るでしょ?」という前のめりでしたが)
まとめ
この記事では 3 つのセッションをピックアップしましたが、実際は誰のどのセッションをとっても自分のプレゼンに自信をなくしてしまうほど[2]クオリティが高く聞いていて面白いセッションばかりでした。
そういえば、3 日間を通して「日本」という国が結構認識されていることに少し驚きました。
合計 4 日間もあったパーティではいろんな方と「日本語って英語と全然違うから話すの大変でしょ?」とか「日本って FlutterNinjas やってたっけ?」とか、なんなら「日本このまえ旅行したよ!」という方もけっこういらっしゃいました。
一方で日本の Flutter 事情はほぼ知られていないようで、「日本で Flutter ってどんな感じなの?」みたいな話もたくさんした記憶です。Zenn も Qiita も知らない他の国の方からしたら確かに「Flutter やってる日本人を見る機会自体がない」状態なので、そりゃ盛り上がり具合も伝わらないだろうなと思ったりしました。
Fluttercon に日本から物理で参加するのは時間的にも金銭的にも体力的にも確かに大変ではありますが、この記事を読んでもし興味を持った方がいらっしゃいましたら強く参加をオススメしたいです。今回自分はスピーカーでの参加でしたが、「スピーカーとして参加すること」よりも物理で参加すること自体のメリットがとても大きいように感じました。立場に関わらず、一緒に「日本でも Flutter が流行っている」ことを広めに行ける人が増えたら嬉しいです。
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