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いいプロダクトの作り方

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こんにちは、ChillStack で PdM(プロダクトマネージャー)をしている音賀です。
私は普段、Stena Expenseという多種多様なコスト関連データをまるっとお客様からいただき、財務経理業務の効率化や高度化を実現するプロダクトに携わっています。

Stena Expense は現場で扱う最小粒度のデータを精緻に解析し、経営戦略を真に高度化する「戦略財務経理への変革」をビジョンとして掲げ、日々様々な取り組みをしています。

いいプロダクトとは一体何でしょうか?

PdM として、あるいはプロダクト開発に携わるエンジニアとして、みなさんは日々、この問いと真摯に向き合っているでしょう。

市場のニーズを捉えること、 そして、それがビジネスとして持続可能な形で成功すること、 機能の多さや最新技術の導入に追われるあまり、本来の顧客課題が見えにくくなっていませんか?あるいは、ビジネスチームと開発チームの間に隔たりからプロダクト開発に不安を感じていませんか?
私たち ChillStack はこのような課題と向き合う中で「いいプロダクトを作るために大切にすべきこと」が見えてきました。

まず 何よりも顧客の根源的な課題解決に徹底的にこだわり、そしてその課題解決に向けた道筋を 開発チームとビジネスチームが一体となり、企画から開発、リリースまで一気通貫して考え抜くこと です。

一見すると単にジョブ理論的な話だと感じるかもしれませんが、実際のプロダクト開発においてどうやってこれらを実現していくのか確かなイメージを持つのは難しいのではないでしょうか?

今回、私たちは「戦略財務経理への変革」という Stena Expense が掲げるビジョンをさらに推し進めるため、新しい分析機能をリリースしました。この分析機能の企画からリリースに至るまでの舞台裏を PdM 視点で紹介します。
みなさんにとっての、いいプロダクト開発に新たな視点が見つかれば幸いです。

なぜ「分析機能」を開発することになったのか

戦略的財務経理とは単なる経費や支払いの管理にとどまらず、財務データを活用して経営判断を支援したり、必要な材料を提供したりする財務経理のあり方と考えています。
私たちのプロダクトは不正検知とレポート機能によって、財務経理の日常業務を効率化するだけでなく、「戦略的財務経理へと変革」してもらうことを目指してきました。

しかし、導入後の実際の状況について詳細まで把握できているわけではありませんが、想定ほどこのような変化を起せていないという懸念がありました。
現状の機能は、

  • 経費の異常高騰を検知でき、原因となる取引も把握できるが、「なぜ起きたのか」や「どう改善すべきか」といった判断に直結する示唆までは提供できない
  • データを集計できるが、経営判断に必要な深い洞察や可視化には欠けている

たとえば、特定の部署の経費が急に増えた場合、どの取引が原因かは分かるものの、経営判断に活かすには追加の分析や考察が必要、という状況です。

日常業務の効率化は進んでいる一方で、経営判断の支援にはまだ十分に寄与できていません。
このような状況を改善することが新しい分析機能開発のきっかけとなりました。

最初にやったこと

分析機能のニーズが漠然としていたため、私たちが最初に着手したのは 課題の深掘り です。
実際に行ったのは、とある企業の経理部門で実際に経費分析業務を担当されている方への N1 ヒアリング(一人のユーザーに対する徹底的な深掘り)です。

この N1 ヒアリングは、PdM である私だけでなく、初期段階から開発チームのメンバーやビジネスサイドの担当者も同席する機会を設け、ユーザーの生の声に触れることで、プロダクトに関わる全員が共通の「顧客体験」と「課題感」を肌で感じられるようにしました。

私たちは、ユーザーの日々の業務フロー、どんなデータを見て、どんな課題に直面し、どんなツールを使い、どんな判断を下しているのかを、文字通り根掘り葉掘り聞きました。
ユーザーがエクセルでどんな集計をして、どんな仮説検証を行っているのか、その背景にある「なぜ」についても、ビジネスと技術の両視点から深く掘り下げていきました。

ここで注意したいのは、このN1ヒアリングは「このお客様に買っていただけるプロダクトを作る」ためではありません。あくまで、一人のユーザーの具体的な困りごとから潜在的なユーザー全体の課題の解像度を チーム全体で 高めるためのインサイトを得ることを目的としており、ここからより多くの企業が抱える共通の課題を考えていきました。

N1 ヒアリングで得られたインサイトを元に、私たちは MVP(Minimum Viable Product)を考えました。 「少なくとも、ユーザーの定義する経費分析業務を代替できるツールとして必要な機能は何か?」 「売り物として、どのような価値を提供できれば、お客様が導入を決断してくれるのか?」 これらの問いをチームで議論し、MVP として必要な機能の絵を描いていきました。
この段階で、私たちは MVP のデザインを制作しています。実際に動くものではない、UI デザインだけが完成した状態です。そして、このデザインだけを持って、数社のお客様にヒアリングに行ってみました。

「もし、こんな機能があったら、こういった課題が解決できますよね?」 「このデザインを見て、どんな感想を持ちますか?」「もっとこうだったら嬉しい、という点はありますか?」

お客様からのフィードバックは非常に貴重で、私たちの仮説が正しい部分もあれば、想定とは少しずれた課題が見つかることもありました。

この作業は実際にはヒアリングというより、お客様を開発プロセスの初期段階から巻き込み 「お客様と一緒に作りあげる」ことによってプロダクトの方向性をより明確にしていく感覚でした。

走りながらプロダクトの外形を決める

MVP のデザインが固まり、いくつかのヒアリングで手応えを感じた私たちは、いよいよ開発フェーズへと移行しました。

「最初の要件定義にこだわりすぎない。とにかく動く状態をつくり、改善し続ける。」

前章でMVPとして整理した機能はありましたが、それらはあくまで「たたき台」です。実際に動くものを作る中で、動作速度や使用感、そしてユーザーが本当に求める体験を考慮しながら、最終的に提供する仕様、即ち機能要件や非機能要件を確定していきます。
一度作成したデザインも、スプリントごとに活発な議論とフィードバックを経て、常に最適な形へと変化していきました。

このフェーズで私たちが最もこだわったのは、「とにかく動く状態を作る」ことです。細かい仕様や、どのように実装すべきかについては、エンジニア自身が考え、裁量を持って進めてもらいました。

これはかなり重要なポイントだと感じています。プロダクトの目的と MVP の範囲は PdM が提示、レビューしつつも、具体的な技術選定や実装方法、そして UI/UX における細部の落とし込みは、開発チームに大きな裁量を委ねました。エンジニア自身が「どうすれば最高のユーザー体験を提供できるか」を自律的に考え、実行できたことが、正しい課題解決に繋がったと確信しています。実際にどんなことを裁量として渡したのかは、また別の機会に弊社技術ブログにて詳しくお話しできればと思います。

リリースとその後──「使われるプロダクト」への歩み

チームの尽力によって分析機能を無事リリースすることができました。しかし、プロダクト開発はリリースがゴールではありません。ここからが「使われるプロダクト」へと成長させるための本当のスタートです。

リリース後、私たちはどうユーザーからフィードバックを得たか?それは、 実際の機能をお客様のところへ持っていって商談を進める という、最も直接的な方法でした。

プロダクトの完成度を問うよりも、「使ってもらうこと」に焦点を当てました。
お客様に実際に触れてもらいながら実際にかかえる課題の解決につながることを確認してもらい、その場で率直な感想や改善点、そして新たなニーズを引き出しました。
その結果として、既にお客様の獲得をしており、 私たちが目指した「ユーザー課題の解決」をビジネス的価値に繋げられています。

現在も、いただいたフィードバックをもとに「解決できる課題の拡大」のため、さらなる開発を続けています。初期の MVP は、「一定のスキルをもった特定の作業者単位の課題」を解決することに主眼を置いていました。しかし、今後は「あらゆる経理部門全体の業務単位の課題」を解決できるような、より包括的なプロダクトを目指します。

次回のリリースに向けて開発はすでに進行中であり、今秋リリースを目指しています。

PdMとして感じたこと

今回の新機能の開発を通じて PdM として改めて強く感じたことがあります。

業務を理解してこそ課題が見える

ChillStack における PdM は、特に「誰のどんな課題を解決するのか」について徹底的にこだわります。N1 分析のように、様々な方法でその課題の仮説をブラッシュアップする過程において、業務ドメインの理解は不可欠です。お客様の業務プロセスや、そこにある本質的なペインを深く理解することこそが、本当に価値あるプロダクトを生み出す源泉だと痛感しました。

プロダクトの価値をチームで一気通貫して考える

今回のリリースと、それに伴うプロダクトの質の高さは、開発チームの技術的な裁量だけでなく、ビジネスチームが示した顧客理解と優先順位付けがあって初めて実現したものだと考えています。実際のやり方は様々だと思いますが、プロダクトを作る上で重要なのは、プロダクトのCore(核となる価値) → Why(なぜ作るのか) → What(何を作るのか) → How(どう作るのか) を、開発・ビジネス両面の視点でチーム全体が一気通貫して考えられるようにすることです。

役割分担は、ともすれば「自分の担当領域だけ」という部分最適に陥りがちです。
しかし、プロダクト開発の本質は「プロダクトを通じて、ユーザーに最大の価値を届ける」ことであり、そのためにチーム全員が役割に固執することなく全体最適を目指して考え行動することが大切だと改めて感じました。

ビジョン実現へ向けて

業務の徹底的な理解と課題の明確化、そしてチーム一体でのプロダクト価値の追求という取り組みが新しい分析機能のリリースに繋りました。これにより、これまでの機能では提供できなかった深い示唆や、経営判断に活用できる洞察を提供できるようになり Stena Expense が掲げる「戦略財務経理への変革」というビジョンの実現へ向けた新たな一歩を踏みだせたと思っています。


おわりに

これからも ChillStack は新たな価値を提供し、お客様のビジネスをさらに加速させるための挑戦を続けていきます。私たちは単に作業者の工数を削減するだけでなく、戦略的にデータを利活用していただくことによって「企業が安心して進める社会」を形作っていきたいと考えています。

そんな私たちのミッションに共感し、一緒に未来を創っていく仲間を求めています。 ユーザーの課題解決にこだわりたい PdM の方、技術の力で社会に貢献したいエンジニアの方、ぜひ一度お話しませんか?

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