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【追記あり】キーボードが一枚も売れなかった

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タイトルの通りです。
去年のキーフリ・今年のキーケットでめちゃくちゃ売れていたChildhood's Endを含め、キーフリにキーボードを11枚持ち込んで1枚も売れませんでした。

※当日追記 本記事の最後にキーボードの販売情報を追記しています。販売するのは以下の3種です。
それぞれキット(基板・プレート2枚と最低限のパーツ)と組み立て済み(スイッチとキーキャップ以外のパーツを実装した状態。LEDについてはオプションとなります)を在庫しています。

Childhood's End 幼年期の終り V2.1
Childhood's End:日本語配列、片側のみ傾斜配列の世界唯一のキーボード

Constant Moderato Beta
Constant Modearto:日本語配列、普通のキーボードに近いストレートな配列で安定して使える白いキーボード

IMPULSE77 Beta
IMPULSE77:日本語配列、各種エルゴノミックキーボードの要素を強く受け継ぐ戦闘機型の黒いキーボード

質問・購入希望などあれば私のTwitter(https://x.com/on_8va_bassa)のDMにお願いします。
mond(https://mond.how/ja/on_8va_bassa)を使用すれば匿名質問も可能です。

※当日追記2 かなり記事が伸びている印象があり、自作キーボード界隈の方以外にもリーチしているような雰囲気なので、イベントの背景などについても追記を行いました。

キーフリについて

キーボードマーケット(キーケット)という年1回の同人ハードウェア専門即売会があり、キーケットの運営会がより自由に中古品などを取引できるようにと開催している年一回の小規模フリーマーケットがキーボードフリーマーケット(キーフリ)です。

キーケットでは自分で設計したハードウェアや自分が手を動かすサービスしか売ってはいけない(自分で使った中古品を販売するのは基本的に禁止されている)という規定がある一方、キーフリでは中古品(有名企業によるキーボードを自分で使ったものなど)や使いさしの消耗品(途中まで使った吸音シールなど)などを頒布してもいい、という区別があります。また、単純なイベント規模で言うと20倍ぐらい違うと思います。

今回は2回目の開催であり、私はキーフリ・キーケット合わせて3回目の参加になるのですが、過去の実績から半分~1/3は売れるだろうと見込んで発注したものの1つも売れなかった、という事情があります。

自作キーボード界隈の歴史

2018年ごろから電子工作界隈の中でキーボードを自作・設計するというムーブメントが発生していました。元はアメリカや韓国で企業製の高級キーボードをカスタマイズすることが流行しており、それが日本に入ってきて設計・自作の方が強く根付いたものと考えられます。
(日本のみで自作が優勢となった理由については考察されることが多いですが、どれも決定的とは言い難いです。「部屋や机が狭かったので小さいものを作ろうとして基板を自作した」説は韓国も同様の事情があるはずですし、「日本語配列が特殊すぎて海外の基板が使いづらかった」説は自作キーボード黎明期は英語配列のものが多かったことから説得力に欠けます。)

時は流れ、コロナ禍によってリモートワークが多くなると必然的に自宅のPC環境を整えるという需要が発生しました。この時に注目されたのがHHKBをはじめとする高級キーボードと、左右分割型のキーボードです。当時は(現在も)左右分割の企業製キーボードは少なく、自作の方が選択肢が多かったため、これを求める人が多く、一時的に自作キーボードの勢力が拡大します。

しかし、キーボードパーツはほとんどが海外製のものであったために物流の停滞と円安の影響をモロに受け、値段は高騰しました。(例えば、基板類やICチップは中国の工場で、スイッチはドイツや韓国、国内メーカーのものはネジとスペーサーぐらいでしょうか。)

現在ではある程度物流も安定し、また技適を取得した合法の無線ユニットなどが売られ始めたことなどから技術的なブレイクスルーが発生しつつある状態です。しかし、Bluetoothのライセンスやリチウムイオンバッテリーの安全性などの問題でまだまだ一般化は難しいような状態です。

自作キーボードキットの内容物について

今回の頒布品は、以下のような内容物になっています。

  • キーボードキット
    • 基板・プレート2種・スペーサー・ネジを同梱したもの
  • 組み立て済みキーボード
    • 基板にダイオードやソケット、スタビライザーを取り付け、プレート2種・スペーサー・ネジを組み付けたもの
  • 実装済みキーボード
    • 基板にダイオードやソケットを取り付けたもの、プレート2種・スペーサー・ネジを同梱したもの

自作キーボードのキットは、初期の頃から「よほどの理由がない限り、スイッチやキーキャップ、スタビライザーを同梱しない」のが原則です。スイッチは押したときの感触や音の好みが非常に分かれますし、キーキャップはキーボード自体の見た目を大きく変えてしまうほか、形状や材質の幅が広く一概に選定するのが難しいパーツです。スタビライザーはスペースバーやエンターキー、左シフト等に入っているパーツで、これもわずかながら音や感触に影響するため、構造が異なるものを選びたい場合があるためです。

これらの事情から、設計者は基板と最低限の部材を提供し、購入者がそれ以外のパーツを選定して組み立てるという流れが一般的になっています。
また、外装品ではない部分、例えば信号検知に使うダイオードや、スイッチとの接点になるソケット、ICチップを搭載したコントローラー部分まで購入者に委ねられることも多くあります。
ダイオードは実装の方法が2種類存在するし、ソケットもカラフルなものがあるためです。ICチップに関しては無線機能を搭載するかどうか、使用するケーブルはどんな種類か、などで違いがあります。

ちなみに、逆に理由があってスイッチやキーキャップを同梱、あるいは実装して頒布されるキーボードキットもあります。その例の一つが狭ピッチ(せまぴっちと読みます)のキーボードで、小さいものになると一つのキーが15mm四方、つまり通常の8割程度の幅・奥行しかありません。
これらについては対応するキーキャップがあまりにも少ないため、対策として3Dプリンターなどで作ったキーキャップが同梱されることがあります。
また、立体的な形状を取るキーボードの場合は空中配線を行うことがあり、これらも難易度が高すぎるためスイッチを実装した上で頒布することがあります。

頒布物の種類について

上記の自作キーボードキット、自作キーボード組み立て済み以外にも頒布されるものがあります。

今回私のブースで委託していた方が頒布していた頒布物の中で、基板のみ、というのは電子工作界隈には馴染み深い頒布方法でしょうか。パーツ類は何もつけず、基板1枚いくらで頒布する手法です。残りは説明書を読んだり、公開されているデータを元になんとかします。

もう一つの頒布物はアルチザン(職人)キーキャップと呼ばれるもので、実際の機能よりも見た目を重視して作られるキーキャップです。材質は透明なレジンや木材、金属などさまざまで、キーボードのアクセントとして使用頻度の少ないキーに使うとか、あるいは飾っておくとかいう用途に頒布されています。(企業製のものもあります。)

また、自作キーボード界隈の独特な文化と思われる、お苦しみ袋というものがあります。(頒布者によって名前は変わりますが、ネガティブな意味の言葉+袋と言われたら大体お苦しみ袋です。時々ポジティブな意味の言葉の袋もあります。)
これはブラインド商品のようなもので、普通に販売できないもの、例えばパーツ欠品とか、汚れありとか、そういうものを詰めて販売する頒布物です。
購入者にある程度の技術がある前提で購入してもらうもので、当然ながらクレームも返品交換も受け付けません。

キーフリはかなり自由なので、自分が使わなかったICチップ付き基板販売一律100円とか、キーキャップつかみ取り1回500円などといった普通は考えられないような形態のサークルが色々とあります。

理由は何か

オープンな場所でのマーケティングを怠っていた。これに尽きると思います。

noteで解説記事を書いていたり、天キーで展示を行ったりして、お品書きも記載して、それを展開して…………ということをしたつもりになっていて、結局それらが自作キーボードを(潜在的に・明示的に問わず)求めている層にリーチしていなかったのが大きいでしょう。

https://posfie.com/@yimamura/p/a1hjedi
yimamuraさんがキーフリ後にタグ付きツイートのまとめを作ってくださっていて、それを確認すると、タグ付けを行ったり、キーボードの名前や写真を出してオープンな場所に公開していなかったことに気づいたのです。
また、そのような状態に加えて金額的にも安くない価格帯にあったというのも問題でしょう。

となれば、同じ電子的文具工房で(私が主宰するサークルで委託品を扱っていました)蓮乃 紫さんやhalf_islandさんが売っていたものの方が売れていたのも当然です。

紫さんが制作していたアルチザンキーキャップは進捗含め大量の写真がTwitterに投稿されていました。チタンに酸化被膜を載せて藍色や水色に発色させ、鏡面に磨き上げたものであるので、一見していいものとわかるというのも大きいでしょう。これを目当てに電子的文具工房を訪れる人は多数いました。
(逆に、紫さんとしては一番磨きの手間がかかると言っていたチタン無垢・無着色のEkam Kumariが全く捌けなかったのが意外だったとも言っていました。幾何学模様の入ったEkam VahiniやEkam Trishnaと比較すると地味に見えてしまうというのがやはり大きいのでしょうか、ここら辺が確認できるのもイベントのいいところでもあります)

また、half_islandさんが出品していたものはよりフリマらしく、原価を考えると格安で値段で購入できるものが大半でした。
スイッチの小袋は合計300円~500円以上のスイッチが入って100円でしたし、特殊な配列の基板も500円という価格設定により(これは基板の価格だけ考えると原価相当だと思いますが)安価に入手できました。

このような事情により、事前のマーケティングをほとんど行わず、競合相手が自作キーボードのキットになってしまう私の頒布物が売れなかったのは必然と言えるでしょう。
会場の規模が小さかった、というのはほとんど影響がないと思います。なぜなら、他の出展者の方は2万円を超えるようなキットであってもしっかり売れているものが見受けられたからです。

特定のキットを目的に来場する人がいた中で、その特定のキットや、大量の小さいアイテムを購入する資金に割り込む価格帯であったことが敗因の一つであるといえ、また、こちらは推測ですが、「たくさんの自作キーボードの中から自分に合うものを見つける」ということを目的に来場する人が少なかったのも大きな敗因になったと考えていいでしょう。

自作キーボードにあるからと言って文章に興味があるわけではない

キーボードはあくまで身体の延長線上にあるインターフェース(道具)であり、その使用者が必ず文章に興味を持っているわけではない、というのが忘れていたポイントに当たると思います。

いくら文章でキーボードを語っても、最終的に手に取るときはその見た目と手触りが重要であり、それに訴えかけることができるのはどちらかというと写真や動画でした。

さらに言えば、キーボードのサンプルはサークルスペースの中央に配置するのが正解であり、端にあると隣サークルを見に来た人で隠れてしまうことがあったり、単純に触りづらいという問題もありました(配置にもよるので、運ですが)。

みんな案外キーボードを気にしていない

ハードウェアを設計するテック系の界隈や毎日パソコンを触るオタク界隈にいると忘れがちなことですが、キーボードを気にするのはキーボードに興味がある人だけです。そして、一番キーボードに興味がある人は、設計者です。

いわゆるキーボードに興味がない人(パソコンを持っているが毎日キーボードを触るわけではない人・タブレットで文字入力をするなどで稀にキーボードを使う人)がノートパソコンやタブレットに内蔵・付属のキーボード以外を使うとして、それは百均の500円コーナーにあるやつや家電量販店の企業製キーボードだったりします。
前者はJISの配列とは齟齬があることが多く、後者は安いものだとだいたいメンブレンキーボードなので、記号のズレや打鍵感の悪さも気にしていないことも容易に想像できます。

界隈におけるカジュアル層とも異なる、一般層とでも呼ぶべきユーザーに対して、一般層が知らない価値を説きたいのであれば、相当のコスト、そして徹底的な(一般企業レベルの)アフターサービスが必要になるでしょう。
それらを厭うか投資と捉えて歓迎するかは設計者によると思いますが…………ブルーオーシャンに見えつつも、実際はレッドに近い可能性が高いでしょう。競合相手は企業ですから。

界隈の流行に乗らないなら覚悟が必要である

現在流行している自作キーボードは、小型・軽量・無線です。私のキーボードはその対極を進んでいます。
流行の品物であれば売れるのは当然で、流行が収まったら売れなくなるので、ニッチ製品よりも引き際を見極める能力が必要になる面はあるものの、カジュアルに頒布したいのであればこっちが多分良いのでしょう。

しかし私は簡単な道を進むつもりはなく、面倒は最初から承知でハードウェアを設計しています。

私のキーボードを目当てに来ていただける方が増えるように、今後も努力したいところです。

宣伝

以下の要領で今回売れ残ったキーボードを販売します。
Childhood's End、Constant Moderato、IMPULSE77が対象です。

  • キーボードキットとなるため、基板やプレートと一部パーツのみが同梱され、写真にあるキーキャップやキースイッチは付属しません

  • 個人が制作・頒布するハードウェアであり、内部システムはオープンソースです。組立作業についてある程度のサポートは可能ですが、企業並みの対応や組み立て後の保証は不可能ですのでご了承ください

    • 組み立て済み販売については、梱包前にすべてのキーについて入力確認を行っています
    • キットは、1ロットにつき1セットを組み立てて機能の確認を行い、残りについては大きな傷や汚れがなければよしとして梱包を行っています
    • ねじやスペーサーなどすべてのパーツをカウントしてから梱包していますが、万一足りないなどの事故があれば遠慮なくご連絡ください
      • なくした際も連絡いただければ発送します(が、数が多い場合は手数料を頂く場合があります)
  • キーボードが非常に大きいため、Boothやメルカリ等を経由せずクリックポストなど非匿名で十分なサイズのある配送方法を使用します

  • この場合、ゆうちょ銀行への振り込みやことら送金が利用可能です

配送方法

Childhood's End:クリックポスト
Constant Moderato:クリックポスト
IMPULSE77:60サイズ(配送会社は住所により変わる可能性があります)
2個以上購入する場合はクリックポストで分けて発送するか、80サイズ程度にまとめて発送します。

  • 時間と日程の調整は必要ですが、平日夕方の都心(JR新橋駅~JR上野駅)周辺で直接取引が可能です

    • 一応JR横浜駅からJR日暮里駅まで大丈夫です
    • この場合は現金でお願いします
  • それぞれキーフリでの値下げ時の売価で頒布します

    • Childhood's Endのキットは7000円、 実装済みは9000円
    • IMPULSE77のキットは9000円 、実装済みは11000円
    • Constant Moderatoのキットは9000円、実装済みは12000円
    • すべて送料込み
  • 在庫や仕様などの詳細についてはTwitterのDMに問い合わせをお願いします

  • 実装済み在庫がなくなった場合、こちらで実装と組み立て、動作確認を行うため発送まで1~2週間頂きます

  • 一部キーボードの在庫が払底しそうです。ありがとうございます。

    • 購入を希望する方が多ければ再発注も検討します

Discussion

yujayuja

現在流行している自作キーボード

残念ながら、下火です。自キ最盛期は2018年頃、游舎工房・TALPの台頭、ほぼ週刊キーボードニュース・Selfmadeディスコード鯖など登場し、瀬戸浩司氏が取り上げるなど、一巡しました。2022頃には、ネタも出尽くした感があり、すでに下火です。

ちぃなちぃな

真向から否定するようで申し訳ないですが、今日のTKEの様子を見るにその主張は無理があるでしょう。そもそも現在アクティブなDiscordのサーバーもSMKiJだけに留まりませんし、ZMKを利用したXiao Seeed nRF52840での無線化の試みもここ数年のことです。

ちぃなちぃな

ついでに言うとキーケットは去年が初、私の設計した違い棚配列の初出も同時期です。4月にはおさかなキーボードが販売開始しました。7月にはKeeb-On!の公開、年末にはDressthing、年を越してAuto-KDKとDressthingが頒布されています。