ダイレクトリクルーティング(スカウト)について
前提: 競争が激しく一定の難易度があるポジションにおける観点を示します。ターゲットが十分に大きいポジションは別です。
ダイレクトリクルーティング(スカウト)について
いわゆるスカウトを送る媒体経由の採用手法を呼ぶ。
まずはいくつかの観点で活動を切り分けてみる。なぜそう分けるのかも後述。
軸1: 即時連絡ができるか否か
軸2: 成果(入社)報酬があるか否か
軸3: 人材紹介企業が利用できるか否か
軸1: 即時連絡ができるか否か(しやすいか否か)
つまり「転職活動フラグ」の機能がユーザーの転職活動開始のアラート通知として存在しているかどうかで分けてみる。通知に限定しているのは運用として実質的に可能かどうかという観点。
(通知がないと候補者ページを確認し続けなければならないので現実的な運用ではないという意味)
活動開始アラートの観点は「結局活動してない時期にいくらスカウトを受け取っても、良くて眺めているだけ、最悪開いてすらいない」の仮説の下で後述の説明をするために用いる。
軸2: 成果(入社)報酬があるか否か
これはわかりやすい軸なので説明は省くが、結論から言うと成果報酬がある媒体は他チャネルと比較した時、コスト面での優位性を出しづらくなるので、それ以外の理由でしか使うべきでないと言う意味。
軸3: 人材紹介企業が利用できるか否か
これは軸1とも関連していて、公式な比較数値を得るのが難しいが、人材紹介企業が利用できる媒体だと既読・返信率が明らかに低い体感がある。
表にまとめる
※記憶で書いてる部分もあるので違ったら教えてください!
媒体名 | 即時連絡の可否 | 成果報酬の有無 | 人材紹介企業の利用有無 |
---|---|---|---|
Bizreach | × | ◯ | ◯ |
×(だったはず) | × | ◯ | |
YOUTRUST | ◯ | × | × |
Findy | ◯ ※1 | ◯ | × |
Green | × | ◯ | × |
転職ドラフト | × ※2 | ◯ | × |
LAPRAS | ◯ | × | × |
AMBI | × | ◯ | × |
※1: いいねを送信→返信というステップを踏むため、いいねの返信 = 活動タイミングということがわかる
※2: 特定期間に参加するという流れのため、その期間に参加=活動タイミングではあるが、活動開始時点を通知するものではないので一応バツにした
検索→スカウトの流れダメになってない?
上記の観点をまとめるとダイレクトリクルーティングなかなか厳しい感じが数字で見えてくる。
特にエージェント企業さんがスカウトできる媒体(LinkedIn, Bizreach, etc)は競争の激しく、タイミングを掴む勝負になっている様子。気合い入れてるエージェント企業さんだと履歴データの更新から数時間以内に連絡して、返信があったら架電までするという徹底ぶり。この体制に予算を張っている。
その即時アクションが体制/予算的に難しい場合、事業会社側の強みはスカウトに魂込めて打ち込むことだけになるが、そもそも検索→ロングリスト作成→スカウトの運用だと開封率が50%とかの世界になっちゃってるわけで、2人に1人は見ていない。いくつかの表現をしてみると「1時間スカウトしてても、30分は読まれないものに時間を割いてる」、「実質 通数単価は媒体案内の2倍になっている」など。
これって事業会社が時間かけてやったらROI本当にいいんですかね?
関数で比較してみよう
下記の設定でモデル化してみると、
返信率 5%
通過率 10%
一人獲得まで(通) 200
スカウト単価 ¥2,500
スカウト総費用 ¥500,000
スカウト担当者の年収 ¥7,000,000
時給 ¥3,646
1通の所要時間(分) 10
スカウト人件費 ¥121,528
決定者の年収 ¥7,000,000
成果報酬 ¥1,050,000
Agent fee(35%) ¥2,450,000
こうなる。
前提/想定として、
所要時間は検索〜経歴確認〜テキスト作成〜送付までを含めて考えている。決定者の年収は仮置き。
人件費は人事担当者であればもう少しかもしれないが、エンジニアやデザイナーが経歴を確認するオペレーションは珍しくないと思われるので700万で置いた。
踏まえると
- トライしたが返信が来なかったポジションの数値も足し合わせてトータルの返信率が3%を切る運用になった瞬間、エージェント経由で採用した方がコスト面では安くなる
- 成果報酬がある媒体はどんだけ頑張っても大して安くならない(10%→15%に改善してもコストが10万程度しか下がらない)
- 潜在的な人件費はこの関数よりも増加する(候補者との報酬面のすり合わせ、アトラクトの調整、etcに時間がかかるため)
- 便利のために返信率で記述しているが、副業希望や時期見送りなど、実質短期的な採用に直結しない返答が多い場合、総費用の関数はより上に吊り上がる
(1)の観点が軸1に関連し、(2)の観点が軸2に対応する。特に(4)の観点を考えると実際はもう少し高い返信率をコンスタントに全体で出し続けないといけない。
また、最近は「ユーザーに対して複数回の連絡をすべきである」と言う運用は、短期的なリマインドに関しては経験上は心理的な効果を狙った側面以上の効果は感じられない。
気合いの入ったケースだと返信が来なくても5-6回連絡して返信を獲得している企業の話を聞いたことがあって、中長期的に繰り返し連絡をすることで前述の効果自体も大きくする可能性はあるだろうが、やはり「即時連絡ができない」と言う媒体の特徴に対し、擬似的に活動開始の瞬間を捉えたことによる反応の獲得が大きそうに見える。
ちなみに決定者の年収が1200万になるとこうなる。これはエージェント費用の増額幅が大きいため。
求められるスカウト返信率はより緩和される。
こう考えると成果報酬ありの媒体の場合、
採用人数の少ないハイクラスは魂込めたスカウトを引き続き送ってもROIは悪くなさそうだが、
採用人数が一定多いメンバークラスの採用だと、返信率がコンスタントに高い、筋の良い状態で運用し続けられないと、「エージェント企業から紹介が得られない」ケースを除いて有効でなくなってしまうのでは?
肌感覚としてデータベース検索→スカウトでコンスタントに返信を得るのはかなり難しい。
スカウトどうするのがいいのか?
相性の問題があるのでこれだと言うのは表現が難しいけれど、概念的には下記の筋なんじゃないかと思う。
- 即時連絡ができる媒体(意向が高い状態なので開封率が高い) ←これが一番優先度高い
- ユーザー態度が副業メインでない媒体(見かけ上の返信率が高くてもしょうがない)
- 事業会社しか使えない性質の媒体(流通している通数が少ないので返信率が高い)
意向状況が不明だったり、事業会社以外が使えたり、返信は来るけど「副業探してます」が多い媒体だと、実質返信率は容易に5%を切る印象。
もちろん副業で入ってもらって…と言う方法はあるので、この経路が十分作れる体制であれば副業スタートは実質返信に入れて良さそう。
そんな媒体あるのか?
...。
いや〜難しいですよね
本記事の結論としては、長期的な採用を目指す上で副業から受け入れたり、全社での採用活動を行う文化を醸成する手段としては全く有効だと考えている一方で、
短期的な採用を目指す上でのダイレクトリクルーティングは、やはり状況的な限界から来る消去法の域を出ない選択肢のように思える。
また、前提として「コストはいいから兎に角、早く大人数を採用しなければならない」状況にある場合は、蛇口を全開にする意味でダイレクトリクルーティング"にも"採用コストをかけるという意思決定を否定するものではない。
この記事のメッセージとして、「採用しなければならない → スカウトをする」と言う図式に対して検討を深めてほしいと言うことで締める。(この世の拡大すべき事業を持つ意義ある組織が、右ならえでダイレクトリクルーティングを開始してほしくないと言う気持ち)
それでも俺たちは採用しないといけないのだが?
色んな観点と方法があるので、追って記事にします。
また、これはもう採用の話ではなくなってしまうのだけど、「採用ができるかもしれない」で事業計画を作るのではなく、できない前提で別の方法を設計に含めた計画にするとか...。
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