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なぜ大規模言語モデルは「幻覚(ハルシネーション)」を起こすのか?

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はじめに

ChatGPTをはじめとする大規模言語モデル(LLM)は、日常の情報収集や開発支援、業務効率化に大きく貢献しています。
しかし、こうしたモデルを使っていると、時折「もっともらしいけれど、実際は間違っている」回答を目にすることがあります。
これは、LLMが抱える代表的な課題である ハルシネーション(hallucination) と呼ばれる現象です。

この記事では、OpenAI公式の解説記事「Why Language Models Hallucinate」をベースに、ハルシネーションの仕組みや原因、そしてその対策について、簡潔にまとめてみます。
LLMを正しく使うための参考として、ぜひ最後まで読んでみてください。

ハルシネーションとは?

ハルシネーションとは、大規模言語モデルが事実と異なる、もしくは存在しない情報を、自然な言語でそれっぽく生成してしまう現象です。
たとえば、

  • 実在しないAPIや関数を紹介する
  • 存在しない論文を出典に使う
  • 歴史的事実を誤って説明する

これはモデルが意図的に嘘をついているわけではなく、「もっともらしい回答を生成する」ことに特化した設計になっているために起こります。

ハルシネーションの原因は?

OpenAIの記事では、ハルシネーションが発生する主な要因として以下の3つを挙げています。

1. 予測ベースのトレーニング目標

LLMは「次に来る単語を予測する」というシンプルなタスクをもとに学習されています。
そのため、「事実に基づいているか」よりも「文脈的に自然であるか」が優先されます。

# 例:Pythonで現在の時刻を取得するには?
import datetime
datetime.now()  # もっともらしいが、実際には datetime.datetime.now()

このように、モデルは「正しさ」を理解しているわけではなく、
学習データから推測した「もっともそれっぽい」回答をしているにすぎません。

2. 知識の限界と補完バイアス

LLMの知識はトレーニング時点で固定されており、リアルタイムで情報を取得しているわけではありません。
そのため、

  • 最新の情報が反映されない
  • ニッチな分野に弱い
  • わからないことを補完してしまう

という傾向があります。特に「わかりません」と答えるよりも、「それっぽく」答えてしまうことが多く、これがハルシネーションの一因になります。

3. ユーザー評価を意識した報酬設計

ChatGPTのようなモデルは、RLHF(人間のフィードバックによる強化学習)によって調整されています。
この際、「正確な情報」よりも「ユーザーに好まれる表現」が優先されることがあり、誤った情報を自信満々に伝えてしまうケースが生まれます。

ハルシネーションを抑える技術的アプローチ

現在、OpenAIを含む多くの研究機関がハルシネーションの軽減に取り組んでいます。代表的なアプローチを紹介します。

Retrieval-Augmented Generation(RAG)

外部の信頼できるデータソース(検索エンジン、データベースなど)を参照しながら回答を生成する手法です。モデルの静的な知識だけに頼らず、動的な情報を活用できる点が強みです。

ファクトチェッカーとの連携

生成された回答を、別のモデルやルールベースの仕組みで検証(fact-check)する方法です。
OpenAIでは"critic model"を使って、モデルの出力内容を検証する取り組みが進められています。

明示的なプロンプト設計

モデルに「知らないことは答えなくてよい」「事実のみを述べる」などの指示を与えることで、誤情報の生成を抑えることができます。

あなたは専門家です。知らないことは「わかりません」と答えてください。

こうした工夫は、プロンプトエンジニアリングの重要な要素の一つです。

ハルシネーションは完全には防げない

OpenAI自身も、ハルシネーションを完全に防ぐことは難しいと認めています。
現時点では、次のような改善が進められています。

  • モデルアーキテクチャの改良
  • マルチモーダルやハイブリッドなAIシステムの活用
  • 精度と信頼性を評価する新たな指標の開発

しかし、根本的な解決には時間がかかる見込みです。
そのため、現状ではユーザー自身が検証する視点を持つことが非常に重要です。

まとめ

大規模言語モデルがハルシネーションを起こす理由を理解することで、より安全かつ効果的にLLMを活用することができます。

要点

  • モデルは「事実」ではなく「もっともらしい回答」を生成するように設計されている
  • 知識は静的であり、補完による誤情報が発生する
  • ユーザー好みの応答を優先する報酬設計も影響している
  • RAGやファクトチェックなどの対策が進行中

今後の活用のために

  • モデルの限界を理解したうえで使いましょう
  • 生成内容を必ず検証しましょう
  • 可能であれば、RAGや外部データ連携の導入も検討しましょう

大規模言語モデルは強力なツールですが、正しく扱うためには私たち人間の理解と工夫が不可欠です。

合同会社カメレオンミーム Tech Blog

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