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SRE(サイト信頼性エンジニアリング)の概念を学んでみる

2025/02/26に公開

はじめに

仕事でSREチームに参画する可能性が出てきたのをきっかけに
事前学習として入門書籍やWEB記事をいくつか読んでみました。
学んだSRE(サイト信頼性エンジニアリング)の概念を整理してまとめてみます。

SRE (サイト信頼性エンジニアリング) とは?

ソフトウェアエンジニアリングの原則をIT運用に適用することで、
大規模で複雑なシステムを信頼性高く、効率的に運用するためのアプローチです。
Googleによって提唱され、現在では多くの企業で採用されています。
SREは単なる役割やチーム名ではなく、組織文化、実践方法、そして技術的な専門知識を含む包括的な概念です。

SREの核となる考え方

SREの中核にあるのは、「運用業務はソフトウェアエンジニアリングの問題である」という考え方です。
伝統的なIT運用チームが行ってきた手作業中心の運用を、自動化、システム化、そしてエンジニアリングの原則を用いて改善し、より信頼性の高いシステム運用を目指します。

具体的には、SREは以下の4つの目標を追求します。

1.信頼性の向上 (Reliability

システムが期待どおりに動作し、ユーザーに価値を提供し続けることを最優先します。可用性、パフォーマンス、耐久性など、信頼性を構成する様々な要素を包括的に管理します。

2.効率性の向上 (Efficiency)

運用業務を自動化し、エンジニアがより価値の高い業務に集中できるようにします。これにより、開発スピードと運用効率の両立を目指します。

3.学習と改善 (Learning & Improvement)

インシデントや障害を単なるトラブルとしてではなく、システムと運用の改善機会と捉えます。ポストモーテム(事後分析)などを通じて、継続的な学習と改善サイクルを確立します。

4.チームワークの促進 (Teamwork)

開発チームと運用チームの壁を取り払い、共通の目標に向かって協力する文化を醸成します。DevOpsの原則を体現し、組織全体のパフォーマンス向上を目指します。

SREとDevOpsの関係

SREはDevOpsの原則を具体的な実践に落とし込んだものと捉えることができます。
DevOpsが「開発と運用の連携」という文化的な変革を提唱するのに対し、
SREはその実現方法、特に大規模システムにおける信頼性確保に焦点を当てた実践的なフレームワークを提供します。

DevOpsの理念をSREによって具現化することで、組織はより迅速に、そしてより安全にソフトウェアをデプロイし、運用することが可能になります。

SREの主要な原則

SREを実践する上で重要な原則は多岐にわたりますが、代表的なものを以下に挙げます。

SLA・SLO・SLIの定義

SREの概念を理解する上で、SLA(サービスレベル指標)、
SLO (サービスレベル目標) および SLI (サービスレベル指標) は密接に関連しています。
これらの関係性を理解することが重要です。
SLAについては主にビジネスサイドの担当者が判断・決定するケースが多く、
SRE担当者はSLO・SLIの策定を主に担当します。
SLO/SLIを定義することで、サービスの信頼性目標を明確にし、測定可能な形で管理することが可能になります。また、SLO違反が発生した場合のアラートや対応の基準となります。

  • SLI (サービスレベル指標 - Service Level Indicator)

    • サービスレベルを測定するための具体的な指標です。例えば、可用性(成功したリクエストの割合)、レイテンシ(リクエストの処理時間)、エラー率などがSLIとして使用されます。
    • SLIは、サービスの実際のパフォーマンスを客観的に数値化するために用いられます。
  • SLO (サービスレベル目標 - Service Level Objective)

    • SLIに基づいて、達成したいサービスレベルの目標値です。例えば、「可用性 SLI を 99.99% 以上にする」といった形で定義されます。
    • SLOは、SREチームが内部的に目指す信頼性の目標であり、日々の運用や改善活動の指針となります。
    • SLOは、ビジネス上の要求や顧客の期待に基づいて設定され、SLAを達成するための中間目標としての役割を果たします。
  • SLA (サービスレベルアグリーメント - Service Level Agreement)

    • 顧客との間で合意する、サービスレベルに関する契約です。SLOをベースにして、さらにビジネス上の制約やペナルティなどを加味して作成されます。
    • SLAは、SLOよりも外部顧客との約束としての性質が強く、法的拘束力を持つ場合もあります。
    • SLAは、サービスが約束されたレベルを下回った場合に、サービス提供者が顧客に対して何らかの補償(サービス利用料の減額、サービス期間の延長など)を行うことを定めている場合があります。

エラーバジェット (Error Budget) の活用

  • エラーバジェットを活用することで、リスクを取ってイノベーションを推進する余地と、信頼性を維持するためのバランスを取ることができます。エラーバジェットが残っている間は、新機能のリリースや大胆な変更を積極的に行うことができますが、エラーバジェットを使い果たしてしまうと、信頼性改善に注力する必要があります。

エラーバジェット (Error Budget) とは?

SREのプラクティスにおいて非常に重要な概念であり、
サービスやシステムが許容できる「エラーの量」を数値化したもので、許容されるエラー量の予算を表します。
これは、サービスレベル目標 (SLO) を基準として、
SLO を下回るパフォーマンス(エラー、ダウンタイムなど)がどれくらい許容されるかを具体的に示します。

エラーバジェットは、単に障害の許容範囲を示すだけでなく、
信頼性とイノベーションのバランスを取るための重要なツールとして機能します。
エラーバジェットを活用することで、SRE チームは、サービスの信頼性を維持しながら、
より迅速な機能開発やリスクの高い変更をデータに基づき判断できるようになります。

エラーバジェットの目的

エラーバジェットの主な目的は、以下の通りです。

  • 信頼性とイノベーションのバランス
    • サービスを完全に信頼性高くすること(100% 可用性など)は、現実的ではなく、またビジネス上のコストも非常に高くなります。エラーバジェットは、「完璧な信頼性」ではなく、「顧客にとって十分な信頼性」 を目指す考え方に基づいています。許容範囲のエラーを設け、その範囲内でイノベーションを推進することを可能にします。
  • データに基づいた意思決定
    • エラーバジェットは数値化された指標であるため、客観的なデータに基づいて、信頼性への投資と機能開発への投資のバランスを判断できます。「今、エラーバジェットを消費しても良い状況か?」「エラーバジェットが少ないから、今は信頼性向上に注力すべきか?」といった意思決定をデータドリブンに行うことができます。
  • 開発チームと運用チームの連携強化
    • エラーバジェットは、開発チームと運用チームが共通の目標に向かって協力するための共通言語となります。エラーバジェットの状況を共有することで、両チームはサービスの信頼性に対する共通認識を持ち、協力して問題解決や改善に取り組むことができます。
  • リスクテイクの促進
    • エラーバジェットがあることで、開発チームは新しい機能や変更をより積極的にリリースできます。エラーバジェットの範囲内であれば、一時的にサービスレベルが低下しても許容されるため、リスクを恐れずにイノベーションを推進できます。
  • SLO 違反時の明確なアクション
    • エラーバジェットを使い果たした場合(つまり、SLO 違反が頻発している状態)、SRE チームは明確なアクションを取る必要があります。例えば、新機能の開発を一時停止し、信頼性改善に集中するといった対策を講じることができます。これは、SLO 違反に対するエスカレーションポリシーとしても機能します。

エラーバジェットと SLO・SLI の関係

エラーバジェットは、サービスレベル目標 (SLO) とサービスレベル指標 (SLI) を基に算出されます。
エラーバジェットは、SLOを達成するために許容されるSLIの変動幅と言えます。
SLOが厳格であればあるほど、エラーバジェットは小さくなり、信頼性を高く維持する必要性が高まります。
逆に、SLOが緩やかであれば、エラーバジェットは大きくなり、より多くのエラーやダウンタイムが許容されます。

エラーバジェットの計算方法

エラーバジェットは、一般的に以下の手順で計算されます。

  1. SLO を決定する
    • まず、サービスの SLO を定義します。例えば、可用性 SLO を 99.99% とします。
  2. 期間を設定する
    • エラーバジェットを計算する期間を設定します。例えば、1ヶ月間とします。
  3. 許容されるエラー時間を計算する
    • 設定した期間における、SLO を満たさない許容時間を計算します。

例:可用性 SLO 99.99% (月間) の場合

  • 1ヶ月の時間 (分): 30日 * 24時間 * 60分 = 43,200分
  • 許容されるダウンタイム (エラーバジェット): 43,200分 * (100% - 99.99%) = 43,200分 * 0.0001 = 4.32分

この例では、1ヶ月あたり 4.32分 がエラーバジェット、つまり許容されるダウンタイムとなります。
言い換えれば、1ヶ月のうち 4.32分を超えてダウンタイムが発生すると、SLOを下回ることになります。

エラーバジェットの使い方

エラーバジェットは、SRE チームが日々の運用や意思決定を行う上で、以下のように活用されます。

  • エラーバジェットのモニタリング
    • SRE チームは、常にエラーバジェットの残量をモニタリングします。ダッシュボードなどを活用し、現在のエラーバジェット消費状況を可視化します。
  • エラーバジェットの消費
    • サービスで問題が発生し、SLI が SLO を下回る状況(ダウンタイム、エラー増加など)が発生した場合、エラーバジェットが消費されます。
  • エラーバジェットの消費速度
    • エラーバジェットがどのくらいの速度で消費されているかを確認します。消費速度が速い場合は、早急に原因を特定し、対策を講じる必要があります。
  • エラーバジェット残量に応じたアクション
    • エラーバジェットが十分に残っている場合
      • 開発チームは、新機能の開発やリスクの高い変更を積極的に行うことができます。
    • エラーバジェットが少なくなってきた場合
      • SRE チームは、サービスの信頼性向上に注力します。開発チームは、リスクの高い変更を控え、信頼性に関わる修正や改善を優先的に行う必要があります。
    • エラーバジェットを使い果たした場合 (SLO 違反)
      • SRE チームは、緊急事態として対応します。新機能の開発を停止し、全リソースを投入して信頼性問題を解決する必要があります。ポストモーテムを実施し、再発防止策を徹底します。場合によっては、顧客への状況説明や補償も検討する必要があります。

エラーバジェットのメリット

エラーバジェットを導入することで、多くのメリットが得られます。

  • イノベーションの加速
    • エラーバジェットがあることで、開発チームはリスクを取って新しい技術や機能を試すことができます。これにより、サービス全体のイノベーションが加速します。
  • 意思決定の迅速化と効率化
    • エラーバジェットという客観的な指標があることで、信頼性に関する議論がスムーズになり、迅速な意思決定が可能になります。「主観的な意見」ではなく、「データ」に基づいた判断ができるようになります。
  • チーム間の協力促進
    • エラーバジェットを共通の目標とすることで、開発チームと運用チームが協力しやすくなります。共通のダッシュボードを見て、共通の認識を持って議論し、協力して問題解決に取り組む文化が醸成されます。
  • 優先順位の明確化
    • エラーバジェットの状況に応じて、開発タスクと信頼性タスクの優先順位を明確にできます。エラーバジェットが少なければ信頼性、多ければ機能開発、というように、状況に応じたリソース配分が可能になります。
  • リスク管理の向上
    • エラーバジェットは、サービスのリスクを可視化し、管理するためのツールとして機能します。リスクの高い変更を行う前に、エラーバジェットの残量を考慮することで、事前にリスクを評価し、適切な対策を講じることができます。

エラーバジェット運用の注意点

エラーバジェットを効果的に運用するためには、いくつかの注意点があります。

  • 正確なモニタリング
    • エラーバジェットを正確に管理するためには、SLI を正確に測定し、リアルタイムでモニタリングできる体制が必要です。モニタリング基盤が不十分だと、エラーバジェットの状況を正しく把握できず、誤った判断につながる可能性があります。
  • 文化的な変革
    • エラーバジェットを導入するには、組織文化の変革が不可欠です。特に、「失敗を許容する文化」「データに基づいた意思決定を重視する文化」「チーム間の協力を重視する文化」などを醸成する必要があります。
  • 適切なSLO設定
    • エラーバジェットは SLO に依存するため、適切な SLO を設定することが非常に重要です。ビジネス目標、顧客の期待、システムの特性などを考慮し、現実的かつ意味のある SLO を設定する必要があります。SLO が過度に厳しすぎると、エラーバジェットが常にゼロに近く、イノベーションが阻害される可能性があります。逆に、 SLO が緩すぎると、エラーバジェットが大きくなりすぎ、顧客体験を損なう可能性があります。
  • 定期的な見直し
    • ビジネス環境や技術の変化に合わせて、SLO やエラーバジェットの計算方法、運用ルールなどを定期的に見直す必要があります。状況変化に対応できるように、柔軟性を持った運用体制を構築することが重要です。
  • コミュニケーションの徹底
    • エラーバジェットの状況や運用ルールについて、関係者全員(開発チーム、運用チーム、ビジネス部門など)に周知徹底する必要があります。エラーバジェットに関する理解が不足していると、誤解や混乱が生じる可能性があります。

自動化の徹底

  • 反復的で手作業による運用タスクを自動化することで、人的ミスを減らし、効率性を向上させます。
  • 構成管理、デプロイ、監視、インシデント対応など、運用業務のあらゆる側面で自動化を推進します。
  • 自動化によって、エンジニアはより戦略的で創造的な業務に集中できるようになり、組織全体のイノベーションを加速させます。

モニタリングとオブザーバビリティの強化

  • システムの状態をリアルタイムで把握するために、高度なモニタリング体制を構築します。
  • 単にメトリクスを収集するだけでなく、ログ、トレースなどを活用して、システムの内部状態を可視化するオブザーバビリティ(可観測性)を重視します。
  • 異常検知、根本原因分析、将来予測など、モニタリングデータを活用して、システムの信頼性向上に役立てます。

インシデント対応の改善・ポストモーテム

  • インシデント発生時の対応プロセスを標準化し、迅速かつ効果的な復旧を目指します。
  • インシデント発生を未然に防ぐための予防策を講じるとともに、インシデント発生後のポストモーテム(事後分析)を通じて、再発防止と運用改善に繋げます。
  • インシデント対応を訓練として捉え、定期的なゲームデイ(シミュレーション訓練)などを実施することで、チームの対応能力を向上させます。

ポストモーテム (Postmortem) とは?

SREにおけるポストモーテムとは、サービス運用中に発生したインシデントや障害について、
その原因、影響、対応、そして再発防止策などを徹底的に調査・分析し、文書化するプロセスのことです。
日本語では「事後分析」「事後検証」「原因究明レポート」などとも呼ばれます。

ポストモーテムは、単に「障害報告書」や「反省会」ではありません。
SRE文化において、ポストモーテムは学習と改善のための非常に重要な儀式と位置づけられています。
インシデントを「失敗」として捉えるのではなく、システムや運用プロセスにおける改善点を見つけ出すための貴重な機会と捉え、積極的に活用します。

ポストモーテムの目的

ポストモーテムの主な目的は、以下の通りです。

  • インシデントから学ぶ (Learning from Incidents)
    • インシデントを深く掘り下げて分析することで、表面的な現象だけでなく、根本的な原因やシステム全体の脆弱性を明らかにします。これにより、将来のインシデントを未然に防ぐための知識と経験を得ることができます。
  • 再発防止策の策定 (Preventing Recurrence)
    • インシデントの根本原因を特定したら、再発を防止するための具体的な対策を策定します。システム設計の改善、運用プロセスの見直し、自動化の強化、モニタリングの改善など、多岐にわたる対策が考えられます。
  • システムとプロセスの改善 (Improving Systems and Processes)
    • インシデント対応を通じて得られた知見を活かし、システム全体や運用プロセスを継続的に改善していきます。これにより、サービスの信頼性、安定性、効率性を向上させることができます。
  • チームの学習と成長 (Team Learning and Growth)
    • ポストモーテムは、チームメンバー全員がインシデントに関する情報を共有し、議論し、共に学ぶ機会を提供します。これにより、チーム全体の知識レベルと問題解決能力が向上し、より強固なチームへと成長することができます。
  • 透明性と説明責任の確保 (Transparency and Accountability)
    • ポストモーテムの結果をオープンに共有することで、組織全体の透明性を高めます。また、インシデントに関わった担当者の責任を明確にするのではなく、システム全体の責任として捉え、組織全体で改善に取り組む文化を醸成します。

SREポストモーテムの重要な原則

SREのポストモーテムを効果的に行うためには、いくつかの重要な原則を守る必要があります。

  • 責務追及ではなく、原因究明 (Blamelessness)
    • 最も重要な原則です。ポストモーテムは、誰かの責任を追及したり、個人を非難したりする場ではありません。個人のミスではなく、システムやプロセス、ツールの問題に焦点を当て、なぜそのようなミスが起こりやすかったのか、システム側の問題として捉え、改善策を検討します。心理的安全性の高い環境で、率直な意見交換を促すことが重要です。
  • 事実に基づいた分析 (Data-Driven Analysis)
    • ポストモーテムは、憶測や感情論ではなく、客観的なデータに基づいて進めます。ログ、メトリクス、アラート、タイムラインなど、インシデント発生時の様々なデータを収集・分析し、事実に基づいて議論を進めます。
  • タイムリーな実施 (Timeliness)
    • インシデント発生からあまり時間を空けずに、速やかにポストモーテムを実施します。時間が経つにつれて、記憶が薄れたり、関係者が異動したりする可能性があり、正確な分析が難しくなることがあります。理想的には、インシデント解決後、数日以内に実施することが望ましいです。
  • 文書化と共有 (Documentation and Sharing)
    • ポストモーテムの結果は、必ず文書化し、関係者全体に共有します。文書化されたポストモーテムレポートは、将来のインシデント発生時の参考資料や、新メンバーへの教育資料としても活用できます。
  • アクションアイテムの作成と追跡 (Action Items and Follow-up)
    • ポストモーテムでは、必ず具体的なアクションアイテム(改善策)を洗い出し、担当者と期日を明確にします。そして、アクションアイテムの進捗状況を定期的に追跡し、確実に実行に移していくことが重要です。ポストモーテムレポートは、アクションアイテムが完了するまで、そして効果が検証されるまで、継続的に参照されるべき生きたドキュメントです。
  • 継続的な改善 (Continuous Improvement)
    • ポストモーテムは、一度実施したら終わりではありません。ポストモーテムを通じて得られた教訓を活かし、継続的にシステムとプロセスを改善していくことが重要です。定期的にポストモーテムのプロセス自体を見直し、改善していくことも重要です。

ポストモーテムの実施プロセス (一般的な流れ)

ポストモーテムの実施プロセスは、組織やインシデントの規模によって異なりますが、一般的な流れは以下の通りです。

  1. インシデントの収束と情報収集

    • まず、インシデントを完全に収束させ、サービスを正常な状態に戻します。
    • インシデント発生時のログ、メトリクス、アラート、コミュニケーション記録、対応手順書など、分析に必要な情報を収集します。
    • タイムラインを作成し、インシデント発生から収束までの時間経過を整理します。
  2. ポストモーテム会議の招集

    • インシデントに関わった主要な関係者(オンコールエンジニア、開発者、プロダクトオーナー、場合によっては顧客サポートなど)を招集し、ポストモーテム会議の日程を調整します。
    • 会議の目的、アジェンダ、事前に準備しておくべき資料などを参加者に共有します。
    • 会議のファシリテーターを指名します。ファシリテーターは、会議が円滑に進むように進行役を務め、建設的な議論を促します。
  3. ポストモーテム会議の実施

    • インシデントの概要説明
      • ファシリテーターがインシデントの概要、タイムライン、影響範囲などを参加者に説明します。
    • 事実確認とデータ分析
      • 収集したデータに基づいて、インシデント発生時の状況を詳細に確認します。ログやグラフなどを共有しながら、何が起こったのかを客観的に把握します。
    • 根本原因分析 (Root Cause Analysis)
      • なぜインシデントが発生したのか、根本的な原因を深掘りしていきます。表面的な原因だけでなく、その背景にあるシステム設計、運用プロセス、組織文化などの問題点を探ります。5 Whys分析、フィッシュボーン図(特性要因図)などのフレームワークを活用することも有効です。
    • 影響範囲と影響度合いの評価
      • インシデントが顧客やビジネスにどのような影響を与えたのか、影響範囲と影響度合いを評価します。顧客への影響、収益への影響、ブランドイメージへの影響など、多角的に評価します。
    • 対応の評価と改善点の洗い出し
      • インシデント発生時の対応(検知、エスカレーション、診断、復旧、コミュニケーションなど)を評価し、改善点や反省点を洗い出します。
    • 再発防止策の検討
      • インシデントの根本原因と改善点を踏まえ、再発を防止するための具体的な対策を検討します。システム改修、運用プロセス変更、モニタリング強化、ドキュメント整備、トレーニング実施など、様々な対策を検討します。
    • アクションアイテムの作成
      • 検討した再発防止策を具体的なアクションアイテムとして落とし込みます。アクションアイテムには、担当者、期日、優先度などを明確に記載します。
  4. ポストモーテムレポートの作成と共有

    • ポストモーテム会議の内容をまとめ、ポストモーテムレポートを作成します。
    • レポートには、インシデント概要、タイムライン、根本原因、影響範囲、対応、改善点、再発防止策、アクションアイテムなどを記載します。
    • 作成したレポートは、チーム内、関係部署、場合によっては組織全体に共有します。Wiki、ドキュメント共有ツール、メーリングリストなどを活用して、広く情報共有を行います。
  5. アクションアイテムの実行と追跡

    • ポストモーテムレポートで定義されたアクションアイテムを実行に移します。
    • アクションアイテムの進捗状況を定期的に追跡し、遅延や問題が発生している場合は、必要に応じて対応します。
    • アクションアイテムが完了したら、その効果を検証し、ポストモーテムプロセス全体を振り返ります。

ポストモーテムから得られるメリット

ポストモーテムを適切に実施することで、組織は多くのメリットを享受できます。

  • システムの信頼性向上
    • 再発防止策の実施により、将来のインシデント発生リスクを低減し、システムの信頼性を向上させることができます。
  • 運用効率の向上
    • 運用プロセスの改善や自動化の推進により、運用効率を高め、人的ミスを減らすことができます。
  • チームのスキルアップ
    • ポストモーテムを通じて、チームメンバーの問題解決能力、分析力、コミュニケーション能力などが向上します。
  • 組織文化の醸成
    • 責務追及ではなく原因究明を重視する文化、継続的な学習と改善を重視する文化、心理的安全性の高いオープンなコミュニケーションを重視する文化などが醸成されます。
  • 顧客満足度の向上
    • システムの信頼性向上、運用効率の向上、組織文化の醸成は、最終的に顧客満足度の向上に繋がります。

ポストモーテム実施における注意点とよくある失敗

ポストモーテムを効果的に実施するためには、注意すべき点や陥りやすい失敗があります。

  • 責務追及に終始してしまう
    • ポストモーテムが個人攻撃や責任追及の場になってしまうと、参加者は率直な意見を言いにくくなり、真の原因究明や効果的な改善策の策定が難しくなります。ポストモーテムは、常に「責務追及ではなく原因究明」の原則を意識し、心理的安全性の高い環境を維持することが重要です。
  • 表面的な分析で終わってしまう
    • 根本原因を深く掘り下げずに、表面的な現象だけを分析して終わってしまうと、真の再発防止策を策定することができません。なぜそのような現象が起きたのか、さらにその背景には何があるのか、と「なぜなぜ分析」を繰り返すなど、根本原因に辿り着くまで深く掘り下げることが重要です。
  • アクションアイテムが曖昧
    • ポストモーテムで洗い出したアクションアイテムが具体的でなかったり、担当者や期日が不明確だったりすると、アクションアイテムが実行に移されず、改善に繋がらないことがあります。アクションアイテムは、具体的、測定可能、達成可能、関連性があり、時間制約がある(SMART)原則に基づいて作成することが望ましいです。
  • アクションアイテムの追跡を怠る
    • アクションアイテムを作成しただけで満足し、その後の進捗状況を追跡しないと、アクションアイテムが放置されたままになり、ポストモーテムの効果が薄れてしまいます。定期的にアクションアイテムの進捗状況を確認し、遅延や問題が発生している場合は、適切な対応を取る必要があります。
  • ポストモーテムレポートが共有されない
    • ポストモーテムレポートを作成しても、関係者間で共有されないと、ポストモーテムの知見が組織全体に浸透せず、有効活用されません。ポストモーテムレポートは、チーム内だけでなく、関係部署、場合によっては組織全体に広く共有し、ナレッジベースとして活用できるようにすることが重要です。
  • ポストモーテムを形骸化させてしまう
    • ポストモーテムを単なる形式的な手続きとして捉え、真剣に取り組まないと、形骸化してしまい、本来の目的を達成することができません。ポストモーテムは、組織文化として根付かせ、全員が真摯に取り組み、継続的に改善を追求していく姿勢が重要です。

キャパシティプランニング

  • 将来のトラフィック増加やシステム拡張に備えて、適切なリソース(CPU、メモリ、ストレージ、ネットワークなど)を計画的に準備します。
  • パフォーマンスデータやトラフィック予測に基づいて、システムのキャパシティを継続的に評価し、必要に応じて拡張計画を策定します。
  • キャパシティ不足によるシステム障害を未然に防ぎ、安定したサービス提供を維持します。

シンプルな設計とリリースエンジニアリング

  • システムの複雑性を低減するために、シンプルな設計を心がけます。マイクロサービス化、コンテナ化、サーバーレスアーキテクチャなどを活用し、システムのモジュール化と独立性を高めます。
  • ソフトウェアのリリースプロセスを自動化し、頻繁かつ安全なリリースを実現します。CI/CDパイプラインを構築し、テスト、デプロイ、ロールバックなどを自動化します。

文化

  • 心理的安全性
    • 失敗を責めるのではなく、学習の機会と捉える文化を醸成します。ポストモーテムでは、個人攻撃を避け、システムの問題点に焦点を当てて議論します。
  • 共有責任
    • 開発チームと運用チームがサービスの信頼性に対して共同責任を負うという意識を持ちます。
  • 顧客中心
    • 常に顧客の視点に立ち、顧客価値を最大化することを意識します。

SREの実践方法

SREを実践するためには、組織の文化、プロセス、技術を総合的に変革していく必要があります。具体的なステップとしては、以下のようなものが考えられます。

  1. SREチームの組成

    • 専任のSREチームを立ち上げ、SREの推進役を担わせます。
    • SREチームは、開発、運用、セキュリティなど、多様なスキルを持つメンバーで構成されることが望ましいです。
    • 組織規模やサービスの特性に応じて、SREチームの規模や役割を調整します。
  2. SLO/SLIの定義から開始

    • まずは、最も重要なサービスからSLO/SLIの定義を開始します。
    • ビジネス目標と整合性の取れたSLOを設定し、関係者間で合意形成を図ります。
    • SLO/SLIを測定するためのモニタリング基盤を整備します。
  3. 段階的な自動化の推進

    • 優先順位の高い運用タスクから自動化を進めます。
    • まずは、単純で反復的なタスクから自動化し、徐々に複雑なタスクにも適用範囲を広げていきます。
    • 自動化ツールやスクリプトを積極的に活用し、効率的な自動化基盤を構築します。
  4. モニタリングとオブザーバビリティの強化

    • 既存のモニタリングシステムを評価し、改善点を見つけます。
    • 新しいモニタリングツールや技術を導入し、オブザーバビリティを高めます。
    • ダッシュボード、アラート、可視化ツールなどを活用し、システム状態を効果的に把握できるようにします。
  5. インシデント対応プロセスの整備と訓練

    • インシデント対応プロセスを文書化し、関係者間で共有します。
    • インシデント発生時の役割分担、コミュニケーション手順、エスカレーションパスなどを明確にします。
    • ゲームデイなどを定期的に実施し、インシデント対応能力を向上させます。
  6. ポストモーテムの実施と改善サイクルの確立

    • インシデント発生後には、必ずポストモーテムを実施します。
    • ポストモーテムでは、根本原因分析、影響範囲の特定、再発防止策の検討などを行います。
    • ポストモーテムの結果を運用改善に繋げ、継続的な改善サイクルを確立します。
  7. 文化変革の推進

    • SREの原則や価値観を組織全体に浸透させるための啓蒙活動を行います。
    • トレーニング、ワークショップ、勉強会などを開催し、SREに関する知識とスキルを向上させます。
    • 成功事例を共有し、SRE導入効果を可視化することで、組織全体のモチベーションを高めます。

SRE導入のメリット

SREを導入することで、企業は様々なメリットを享受できます。

  • 信頼性向上
    • システムの可用性、パフォーマンス、耐久性が向上し、顧客満足度とビジネス継続性を高めます。
  • 効率性向上
    • 運用業務の自動化により、エンジニアの負担を軽減し、より戦略的な業務に集中できるようになります。
  • 開発スピード向上
    • 信頼性を損なわずに、より迅速にソフトウェアをリリースできるようになり、ビジネスの俊敏性を高めます。
  • コスト削減
    • 手作業による運用コストを削減し、システム障害による損失を最小限に抑えます。
  • 組織文化の変革
    • 開発チームと運用チームの連携が強化され、組織全体のコラボレーションとイノベーションを促進します。

SREが向いている組織

SREは、特に以下のような組織に有効です。

  • 大規模で複雑なシステムを運用している組織
    • 大規模システムほど、手作業による運用は限界があり、自動化やシステム化が不可欠になります。
  • 高い信頼性を要求されるサービスを提供している組織
    • 金融、EC、メディア、SaaSなど、サービス停止がビジネスに大きな影響を与える業界では、SREによる信頼性向上が重要になります。
  • DevOpsを推進している組織
    • DevOpsの理念を具体的な実践に落とし込み、組織全体のDevOps成熟度を高めたい場合に、SREは有効な手段となります。
  • 変化を恐れず、新しい技術や手法に積極的に挑戦する文化を持つ組織
    • SREは継続的な学習と改善を重視するため、変化を歓迎する組織文化がSRE導入を成功させる鍵となります。

まとめ

SREは、単なる運用手法ではなく、組織文化、プロセス、技術を包括的に変革することで、
システムの信頼性を向上させ、ビジネス価値を最大化するための戦略的なアプローチです。
SREの原則を理解し、組織の状況に合わせて段階的に導入していくことで、より信頼性が高く、効率的なシステム運用を実現することができます。

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